トップページに戻る 目次に戻る 前回に戻る 末尾へ 次回へ続く
四葉の結婚式が行われる教会に着いた僕たち……僕、可憐、咲耶、春歌、鈴凛、白雪、衛の7人は、早速教会入り口の受付にいた人に、四葉に逢いたいと頼み込んだ。
《続く》
さすがに式の前に兄や姉妹に逢えないというのはいくら何でも怪しすぎだし、それで僕たちが騒いでも印象が悪いと考えたんだろう。割とすんなりと、教会の奥にある控え室に僕たちは通された。
受付からここまで案内してくれた人が、男に説明する。
「こちらは四葉さまの兄と姉妹です」
「確認は取れているか?」
「はい。招待状も確認しました」
「……ふむ。それは?」
男は鈴凛の持っている花束に視線を向けた。
「……見れば判るでしょ? 花束よ。四葉ちゃんにあげようと思って買ってきたんだけど、何か?」
鈴凛は、男の偉そうな態度にむっとしたらしく、機嫌悪そうに言い返した。
「一応調べさせてもらうぞ」
その言葉にドキッとした僕とは対照的に、鈴凛はにっと笑った。
「どうぞどうぞ」
男は鈴凛から花束を受け取ると、包んでいたセロファンを乱暴に外した。そしてもう1人の男にセロファンを手渡すと、一本一本バラバラにして眺めた。
「どう?」
「……ふん、普通の花のようだな。そっちはどうだ?」
「こっちも普通のセロファンだ」
もう1人の返事を聞いて、男は花束をまた乱暴にくくり直すと、鈴凛に渡した。それから、衛に視線を向ける。
「そっちのお前、そのサングラスは何だ?」
「何だって、サングラスだよ」
額に掛けているサングラスを守るように手でかばって、衛は言い返した。
「ちょっと、見せてみろ」
そう言って、男は衛からサングラスを取り上げた。
「わっ、なにすんだよっ! それはあにぃからもらった大切なっ!」
「衛、我慢して」
僕の言葉に、男につかみかかろうとしていた衛は、不承不承頷いた。
「う……。わかったよ、あにぃがそう言うんなら……」
男はサングラスをひっくり返してためつすがめつして見てから、衛に返した。ひったくるようにそれを取り返す衛。
「ううっ、ボクとあにぃの大切な想い出なのに……」
涙まで浮かべる衛の頭を撫でてやりながら、僕は男に視線を向けた。
「もういいですか?」
「……ふん、いいだろう」
男はそう言ってドアを開けた。
その向こうは、殺風景な窓もない部屋だった。壁にドレッサーが備え付けられており、その前にウェディングドレスをまとった四葉が、数人の女性に囲まれるようにして座っていた。
「……四葉」
「あっ、兄チャマ!」
僕の声に顔を上げた四葉が、ぱっと表情を明るくした。かと思うと、その表情が歪んだ。
「うっ、兄チャマ……」
「あかん。花嫁さんが泣いたらあかん」
「……お兄様、どうしてそこで芦屋雁之助なの?」
「咲耶ちゃんこそ、どうしてそんなこと知ってるの?」
可憐に突っ込まれて、慌てて明後日の方に視線をそらす咲耶。
「わ、私は、その、そんな趣味はないのよ、ええ……」
僕は振り返って男に言った。
「あの、すみませんが、僕たちだけにしてもらえませんか? 四葉と話したいこともありますし」
「それは……」
「お願い、おじさまゥ」
にっこり笑う咲耶。続いて春歌が口添えする。
「家族水入らずで話をしたいんです。どうかお願いします」
「……早く済ませるんだぞ。すぐに式が始まるからな」
男は頷いて、それから女の人たちに尋ねた。
「メイクは終わったのか?」
「ええ。それでは、私どもは失礼します」
男達を怪訝そうに見ながら、女の人たちは部屋を出て行った。
その仕草を見る限りだと、あの人達はただのメイク係で、今回のことにはあまり関係ないように見えた。
最後に男が部屋を出ると、ドアが閉まる。
僕は、花束を持った鈴凛に視線を向けた。鈴凛は頷いて、花束からバラを一輪抜き出し、部屋のあちこちに向けてから、OKサインを出す。
「鈴凛チャマ? 何を……」
「しーっ」
僕は唇に指を当ててから、可憐に頷いて見せる。
可憐も頷くと、ポーチからメモ帳とペンを出した。そして僕に手渡す。
僕は、メモ帳にペンを走らせながら言った。
「でも、綺麗だなぁ、四葉。僕も兄として鼻が高いよ」
「……兄チャマ、本当に……」
一転して悲しそうな顔をする四葉に、僕はメモ帳を見せた。
ぱっと、また表情を明るくする四葉。
「……あ、ありがとうデス。四葉も嬉しいデス」
頷いて、メモ帳とペンを受け取ると、四葉はさらさらと書き込む。
つまり、いわゆる筆談である。
声に出して話せば、盗聴器でもあれば一発でばれるし、それ以前にドアの向こうで耳を澄ませば聞こえてしまうだろう。というわけで、四葉との打ち合わせはこの手段を使うことにしたわけだ。
ちなみにこの部屋に監視カメラがないのは、さっき鈴凛が花束……に見せかけた鈴凛特製の高性能センサー“探知くんマーク3”とやらで確かめている。
「ほら、泣かないの。それにしても、四葉も大きくなったなぁ。ねぇ、咲耶」
「ええ。立派な花嫁さんよ。姉として嬉しいわ。ううっ」
うーん、前々から思ってたけど咲耶は演技派だなぁ。
「もう、咲耶チャマったらぁ……。え?」
最後の「え?」は、僕の書いたメモの中身を見ての反応だった。
慌てて春歌が口を挟む。
「四葉さん、よろしいですか? 貴女も大和撫子として、他家に嫁に行くわけですから、色々と言って聞かせたいことがあるんですよ……」
10分後。
僕はドアを開けた。
多分、聞き耳を立てていたんだろう。ドアのすぐ前に立っていた男が僕に視線を向ける。
「もういいのかね?」
「ええ。ありがとうございました。それじゃ四葉、幸せにね」
ウェディングドレスをまとった“四葉”は、僕たちに背を向けてこくりと頷いた。
僕はそれ以上は何も言わずに、部屋を出た。それに続いてみんなもぞろぞろと出てくる。
と。
「おい、お前」
男は“衛”を呼び止めた。
「チェキ!?」
「わっ、ま、衛に何かっ!?」
慌てて僕が訊ねると、男は肩をすくめて床からサングラスを拾い上げた。
「落ちたぞ」
「す、すみません」
僕は慌ててそのサングラスを受け取ると、“衛”の額に乗せてあげた。それから、あははと笑いながらそのまま“衛”を連れて、その場を歩き去った。
まだ時間があるようなので、外の空気を吸ってくると言い訳して受付を突破した僕たちは、教会の外の通りに出て左右を見回した。
「おう、息子よ。ここだ、ここだ」
「お兄ちゃま! こっちだよっ」
親父と花穂の声に、そちらを見ると、1台の車が止まっていた。運転席に親父がいるのを確かめて、僕は“衛”の手を引いて駆け寄った。
と、音もなく後ろのドアが開く。そして千影が、すっと降り立った。
「兄くん、なかなか首尾良くいったようだね」
「ああ。だけど、まだ終わってない」
「その通りだね。ふふっ」
千影は微かに笑うと、“衛”に視線を向けた。
「早く乗りたまえ、衛くん」
「チェキ……、あ、こほん。うん、わかったよ、ボク」
わざとらしくそう言いながら、車に乗り込む“衛”。その後から千影が乗り込む。
僕は千影に声を掛けた。
「それじゃ、頼むよ。僕たちも後から行くから」
「兄くんのことだから、心配はしていないよ」
千影は微かに微笑んだ。僕も頷いて、ドアを閉めた。
「親父、やってくれ」
「うむ。俊一、さらばだ」
車は、走り去っていった。それと同時に、背後の教会の塔から、鐘の音が鳴り響いた。
「お兄様、式が始まりますわ」
「ああ……」
僕は時計を見た。
ちょうど、長い針と短い針が重なり合ったところだった。
「よし、行こう」
僕の言葉に、皆は頷いた。
聖堂内では、僕たちは花嫁の親族ということで最前列に案内された。
式が始まる直前というタイミングだったせいか、1人足りなくなっていることには気付かれなかったようで、言い訳を考えていた僕としては、ほっとしたような、がっかりしたような、複雑な気分だった。
僕たちが慌ただしく席に着くのに合わせるように、パイプオルガンの音色が鳴り響き、式が始まった。
「わぁ、やっぱりすごいなぁ……」
可憐がその音色にため息を付く。と、不意に息を呑んで僕の腕を引く。
「お兄ちゃん、あの神父さま……」
「え? あ……」
祭壇の前に立っている神父さんは、今日は白い法服を着ているけれど、間違いなく昨日ここを案内してくれたお爺さんだった。
「どうしよう。神父さまがあのお爺さんだったなんて……」
「お兄様、可憐ちゃん、どうしたの?」
僕たちの様子に気付いた咲耶が、小声で訊ねる。
僕は首を振った。
「なんでもないよ。それより、そろそろかい?」
「ええ」
咲耶は頷き、肩越しに聖堂の正面の扉に視線を向けた。
高らかに賛美歌の鳴り響く中、その扉がゆっくりと開き、花嫁と花婿が現れた。
そういえば、花婿は初めて見るんだよなぁ。どんな奴だったんだろ?
「……はぁ、四葉ちゃんも可哀想ね。あんなのと一緒にされかけるなんて」
咲耶が小さくため息を付いた。
「咲耶ちゃん、それは言い過ぎだよ……」
「それじゃ可憐ちゃんはどう思うの?」
「えっ? 可憐は、その……、やっぱりお兄ちゃんが一番かなって……。えへっゥ」
「それなら、私と同じね。うふふっゥ」
そいつは、“四葉”と手を組んで、にやにやしながらバージンロードを進んできた。
いいやつそうなら、ちょっと気の毒かな、なんて思ってたけど、そのにやにや笑いを見た瞬間、僕の中では全然気の毒じゃなくなった。
あとは、タイミングを見計らうだけ、だな。
僕は、春歌に小声で囁いた。
「春歌、準備は?」
「心得ておりますわ、兄君さま」
笑顔で頷く春歌。その笑顔は、とても心強かった。
「よし。鈴凛は?」
「こっちも、いつでも行けるわよ」
鈴凛も、準備万端といった風に頷く。
その間にも、2人は神父さんの前まで進み出て、止まった。
……そろそろ、行くかな?
と、その時だった。
神父さんが、不意に新郎新婦を無視して、僕の方に視線を向けた。そして、静かに言った。
「さて、と。そろそろ茶番は終わりにしないかね?」
一瞬、僕は、息が止まったような気がした。
聖堂内にざわめきが走る。
「……お兄ちゃん」
隣の可憐が、僕の手をぎゅっと握った。
ただそれだけで、僕はなんとなく落ち着いていた。
「お兄様……」
「兄君さま、いかがなさいますか?」
咲耶と春歌が、小声で訊ねる。
僕は、可憐の手を軽く握り返してから、解いた。そして、一歩進み出て、頷いた。
「ええ。終わりにしましょう」
ざわっ
周囲がざわつく中、僕は大声で言った。
「……衛、もういいよ!」
「オッケー、あにぃ!」
花嫁は、ヴェールをかなぐり捨て、そのまま僕のところに駆け戻ってきた。そして、そのまま僕に飛びつく。
「えへへーっ」
「あーっ、衛ちゃん、ちょっとどさくさ紛れになんてうらやましいシチュエーションっ!」
咲耶が声を上げる。
「き、貴様っ、何のつもりだ!? 四葉を返してもらおうっ!」
花婿が真っ赤になって駆け寄ってくる。
僕は肩をすくめた。
「四葉がどこにいるです? ここにいるのは、四葉じゃない」
「なにっ!?」
いきり立った花婿が、衛に手を伸ばす。が、一瞬早く衛がその花婿に後ろ蹴りをかました。
「ボクに近寄るなっ!!」
げしっ
「ぐへぇっ」
蛙のつぶれたような声(って、本当に聞いたことはないんだけど、まぁそんな感じ)を上げて、花婿はその場に仰向けにひっくり返った。
衛はドレスの裾で手を拭きながら、べーっと舌を出した。
「ボクの手をべたべた触りまくった罰だよーっだ」
僕は神父さんに向き直って、頭を下げた。
「すみません」
「……全ては神の御心のままに」
神父さんは、笑顔で頷いた。そして手を扉に向けて指す。
「さぁ、行くが良い」
「はい。みんな、行くぞっ」
「おーっ!」
みんなは声を上げた。
「行かせるなっ!」
「捕まえろっ!」
女性客の悲鳴の中を、黒服の男達が出口を塞ぐように動く。
だが、僕はそっちには向かわなかった。
「みんな、こっちだ!」
「えっ? あ、お兄様っ、待って!」
「にいさま〜、姫を置いていっちゃ嫌ですの〜」
そのまま祭壇の方、つまり出口とは反対方向に向かって走り出す僕を、慌ててみんなが追いかけてくる。
僕は、神父さんとすれ違いざまに頭を下げた。
「いつか、また」
「楽しみにしておるよ」
僕は祭壇を回り込むと、その脇にある小さな扉を開けた。そしてみんなに声を掛けた。
「こっちへ!」
そこは、昨日、神父さんに案内してもらった隠し扉だった。
「お兄ちゃん!」
「みんな早くっ」
そう言って、みんなを先に通す。
最後に衛が、その扉に飛び込もうとした。
「あっ、あれっ?」
「どうしたんだ、衛?」
「な、なんか引っかかってるよ〜。えーいっ!」
ビリリッ
派手な音を立てて、扉に引っかかっていたウェディングドレスの裾が裂けた。そのまま衛は奥に転がり込んだ。
最後に僕が飛び込み、後から追いかけてきた男達の目の前で、間一髪扉を閉めた。そして向き直る。
「大丈夫か、衛?」
「うん。でも、これ破けちゃった」
派手に裂けた裾を持ち上げて、苦笑すると、衛はさらに裾を破く。
ビリリッ
「きゃあっ! ま、衛ちゃん、何してるのっ!」
咲耶が悲鳴を上げるが、衛はけろっとして答えた。
「だって、こんなひらひら、走りにくいんだもん」
「そ、それはそうかもしれないけど、でも、よりによってウェディングドレスをーっ」
「咲耶、今はそれよりも早く逃げないと」
僕の言葉に、咲耶はしぶしぶ頷いた。
「わかったわ、お兄様。衛ちゃんに、ウェディングドレスのなんたるかを教えるのは、日本に帰ってからにするわね」
「そうしてくれるとありがたい。さぁ、走るよっ!」
突き当たりのドアを開けると、そこは教会の裏手だった。
「あっ! あそこにいたぞっ!」
「待てっ!」
出入り口から教会の建物を回ってきたらしい男達が、僕たちを見つけて駆け寄ってくる。
それを見て、春歌がドレスの裾をたくし上げ、隠していた長刀を出して構えた。
「兄君さまには指一本触れさせはいたしませんわ」
その隣に、鈴凛が進み出る。その手には怪しげな機械。
「ここなら実験しても誰にも文句言われないわよね、アニキゥ」
確かに、このまま走って逃げたとしても、逃げ切ることは出来ないだろう。
「仕方ない。ここは二手に分かれよう。咲耶、可憐と白雪を連れて、先に空港に行っていてくれないか?」
「そんな! お兄様を置いてなんて……」
「咲耶、頼む」
僕は、咲耶の腕を掴んで言った。
「とにかく人通りの多いところに出るんだ。そうすればあいつらも手荒な真似は出来ないだろうからな」
「……わかったわ」
咲耶は頷いた。僕は男達の方に向き直る。
「あ、お兄様!」
急に咲耶が声を上げた。驚いて振り返った僕の唇に、柔らかなものが一瞬触れる。
「……え?」
「お兄様、ラブよゥ」
にこっと微笑んで、それから咲耶は可憐達に声を掛けた。
「ほら、2人とも、急ぐわよ」
「……とまぁ、そんな感じで、僕たちは二手に分かれてヒースロー空港まで逃げることになったんだ」
あれから1週間がたち、ようやく日本に帰ってこられた僕は、可憐と四葉を連れ、鞠絵の病室を訪れていた。
「んで、なんだかんだとまぁいろいろあったんだけど、僕と衛もやっと昨日日本に着いたってわけ」
「イエス! ちなみに四葉は、千影ちゃん達と一緒に、一つ前の飛行機で先に日本に帰って来てたんデス!」
四葉が笑顔で言うと、ベッドに上半身を起こして話を聞いていた鞠絵は、胸に手を当てて一つ深呼吸した。
「兄上さまも、衛ちゃんも、四葉ちゃんも、ほかのみんなも無事で何よりでした。でも、まさか本当に私のプランを使うとは思わなかったです」
鞠絵がメールで送ってきてくれたプランとは、四葉の替え玉を仕立てて、その替え玉が結婚式を挙げている間に、四葉を逃がしてしまうというものだった。後で鞠絵は、何かの小説で使っていた話だと教えてくれた。
「僕も、その前にブリジット先生が四葉と衛を間違えなかったら、多分、鞠絵のプランは使わなかったと思うんだ。でも、四葉を見慣れてるはずの先生が間違えたのを見て、これはいけるかもって思ってね。それに他に良い案を誰も思い付かなかったし」
「鞠絵ちゃんにはサンキューベリマッチデス! これでこれからも、四葉は兄チャマをチェキできるデス!」
どこから出したのか、虫眼鏡を片手にびしっと四葉は僕に指を突きつけた。
「これからも、兄チャマお覚悟デス!」
「あはは。いつでもどうぞ」
「あ、そういえば」
不意に、可憐が手を打った。
「……可憐は、四葉ちゃんに聞きたいことがあったんです」
「ホワット?」
「あ、うん。ほら、四葉ちゃんがイギリスに行く前に、行きたくないって、家を飛び出したじゃない」
「あ〜〜〜〜、えーっと、そんなこともあったデスネ〜〜〜」
今にして思えば恥ずかしいのか、病室の窓の外に視線を飛ばす四葉。
「そのとき、四葉ちゃん不思議なお手紙残していったでしょ? あれ、何だったのかなって……」
「そういえば、そうだね。あの時は鈴凛が四葉を探し出してくれたんで、それっきりになってたんだけど……」
「兄チャマ、四葉のメッセージを解読して追いかけてきてくれたじゃなかったデスか? はう〜〜、がっかり……」
かくんと肩を落とす四葉に、可憐が慌ててフォローを入れる。
「でも、お兄ちゃんは四葉ちゃんのことを随分心配してたんだよ」
「ホントデスか?」
「うん。……ちょっと可憐、うらやましかったな」
最後は小声で言う可憐。僕はそんな可憐の頭にぽんと手を乗せて、それから四葉に訊ねる。
「ごめんね。今回ばかりは僕も降参だ。だから、教えてくれないかな」
四葉は、えへんと胸を張った。
「オッケイ、それじゃ教えてあげるデス! あれは、えーっと……、えーっと……。あはは〜、ごめんなさいデス。忘れてしまいましたデス」
僕たちは顔を見合わせて、思わず笑い出していた。
トップページに戻る
目次に戻る
前回に戻る
先頭へ
次回へ続く
あとがき
鞠絵「ところで、その手紙、私にも見せてもらえませんか?」
俊一「いいけど。はい、これ」
可憐「お兄ちゃん、ずっとそれ持ってたの?」
俊一「細かいことは気にしない」
可憐「はい。可憐、気にしません」
鞠絵「……あ、なるほど。こうですか」
四葉「チェキ!? もしかして鞠絵チャマ、判ったデスか?」
鞠絵「ええ。多分。……まずは、この爪楊枝の跡を、別の紙に写し取って……」
俊一「ふむふむ」
鞠絵「それから、この写し取った紙を90度回して、元の紙に当てるんです。そうすると……」
可憐「あ、跡が付いている場所にちゃんと文字があるね」
鞠絵「はい。あとは、その文字を抜き出して、並べると……。はい、この通りです」
俊一「……gakkonouedesu 学校の上です、か」
四葉「むむ、なかなか手の込んだ暗号文デス!」
可憐「……四葉ちゃんが作ったんでしょう?」
四葉「あははっ。そうデシタ」
とりあえず四葉編はこの辺りで締めまして、次回から新章です。
しすたぁぷりんせす 2-4-10 02/3/12 Up
・第2部第4章終了記念特別アンケートです