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しすたぁぷりんせす〜12人の姫君達〜 第2部
第2章 Target "H" その3

 というわけで、今度は一緒にいるメンバーを一新して、僕は公園にやってきた。
「兄や、何して遊ぶの? また、お馬さん?」
「……頼む、亞里亞。あれは勘弁してくれ」
「……くすん」
 涙ぐむ亞里亞の頭を、可憐が撫でる。
「亞里亞ちゃん、お兄ちゃんはいつも亞里亞ちゃんの言うこと聞いてくれるでしょう? だったら、今は我慢しなくちゃ、ね?」
「……うん」
 こくりと頷くと、亞里亞はにっこり笑った。
「亞里亞、我慢するの。だから兄や、また亞里亞と遊んでね
「もちろん、いいよ」
 僕も亞里亞の頭を撫でてあげた。それから訊ねる。
「ところで、可憐」
「なぁに、お兄ちゃん?」
「……いつからそこにいたの?」
「……最初からいたもん」
「……さて、それじゃ何をしようか?」
 明るく言う僕の腕をぐっと掴む可憐。
「お兄ちゃん、何か誤魔化そうとしてない?」
 う、可憐にしては、いつにない鋭い追求。
「そ、そんなことはないぞっ」
「……」
 う、そんな目で見られると、非常に心が痛む。
「あのさ、可憐……」
「知らないもん」
 おずおずと声を掛けると、ぷいっとそっぽを向いてしまう可憐。
 仕方ない。
 僕は、そっぽを向いたままの可憐の耳に囁いた。
 くるっと向き直る可憐。
「ほんと、お兄ちゃん?」
「ああ、約束だ」
「わぁい。お兄ちゃん、大好き
 一転して、笑顔で僕に抱きつくと、はっと我に返って、頬を赤く染めて慌てて離れる可憐。
 うんうん、可愛い可愛い。
「さて、それじゃ……」
 言いかけて、他の妹達の視線に気付く。
「兄チャマァ……」
「あにぃ……」
 じーーーっと四葉と衛に見つめられてしまう。
 僕は可憐に視線を向けた。
「可憐、いい?」
「可憐は、構わないです」
 にっこり笑って頷く可憐。
 僕も頷いた。
「判った。それじゃ、四葉、衛、明日の放課後、喫茶店に集合だ。いいな?」
「オッケイ!」
「チェキ!」
 2人は頷いた。
 僕は、心の中で、昨日仕送りされたばかりの諭吉さんに別れを告げながら、皆に尋ねた。
「さて、それじゃ今日は何をしようか?」
「鬼ごっこ!」
「チェキ!」
 同時に衛と四葉が声を上げた。そして、お互いににらみ合う。
「鬼ごっこだよっ!」
「チェキデス!」
 ……鬼ごっこはまだいいとして、チェキってなんだ?
「衛ちゃん、鬼ごっこだと衛ちゃんが強すぎるよ」
 可憐が言って、僕も頷いた。
「そうだなぁ」
 たまに衛と一緒にジョギングすることがあるので、衛の足の速さはよく知っている。衛に本気で逃げられたら、ちょっと僕でも捕まえる自信はない。
「それじゃぁ……」
 言いかけたとき、不意に声が聞こえた。
「やっぱりここにいたのね、お兄様」
「咲耶?」
 振り返ると、そこにいたのは咲耶ともう一人。
「……ご無沙汰しておりました、兄上さま」
 微笑んで頭を下げたのは、鞠絵だった。

「鞠絵、久し振り!」
 思わず声を上げて駆け寄った僕に、鞠絵は「はい」と頷いた。
 確かに、ほとんど毎日のようにメールのやりとりはしていたけれど、実際に逢うのは、僕たちの秘密が明かされたあの日以来だった。
「兄上さまも、お元気そうで安心しました」
「鞠絵こそ。身体の方は?」
「はい、今日はお医者様に外出許可を頂いて、兄上さまにお逢いしようと思って……」
「でも、昨日のメールじゃそんなことは言ってなかったじゃない」
「ええ。実は……」
 鞠絵は、一つ呼吸を置いて、いたずらっぽく微笑んだ。
「こっそりと押し掛けて、兄上さまを驚かしてみたいな、って。でも、悪いことは出来ないものですね。兄上さまのお家に行ってみたけれど、誰もいないんですもの」
「私も驚いたわよ。お兄様のところに行ってみたら、玄関先で鞠絵ちゃんが途方に暮れてるんですもの」
 咲耶が口を挟んだ。
「でも、ひどいわお兄様ったら。私まで置いていくなんて」
「あ、いや、それはだなぁ……」
「ううん、いいの。わかってるわお兄様。これも愛の試練なのね
「……いや、あのね……」
「大丈夫。咲耶は耐えてみせます。そしていつかお兄様と大輪の薔薇を咲かせてみせるのよ
 ……だめだ、また咲耶が旅立ってしまった。
「……兄上さま、咲耶さんっていつもこうでしたかしら?」
「まぁ、大体おおむねこんなものだよ」
 鞠絵と僕は苦笑を交わした。
 それから、僕は振り返る。
「衛、悪いけど……」
「うん、鞠絵ちゃんに運動させるわけにはいかないもんね」
 こくこくと頷くと、衛は僕の腕にぶら下がるようにして、小声で囁いた。
「代わりに、次はボクに付き合ってね
「しょうがないな、衛は」
「えへへっ」
 笑って衛は僕から離れた。
「ごめんね、衛ちゃん」
「あ、ううん、いいよ」
 謝る鞠絵に、軽く手を振って答えると、衛は考え込んだ。
「でも、どうしよ?」
「ふっふっふ。衛ちゃん、悩むことなんてナッシングデス! この未来の名探偵、四葉ちゃんにお任せデス!」
 虫眼鏡をびしっと衛に突きつけて言い放つ四葉。
「へぇ、さすが四葉ちゃん」
 素直に感心する衛に、四葉は得意満面胸を張る。
 と、鞠絵が口を挟んだ。
「でも、事件が起こらないと探偵って何もすることが無いんじゃないですか?」
「チェキ!?」
 なるほど。
「それはもっともだな」
 僕も腕組みして頷くと、四葉は途端にしょげてしまった。恨めしげに僕を見上げる。
「うう、兄チャマ〜」
 そんな目で見られると、こっちが悪いことをしたような気になってしまう。
 僕は、四葉の頭をぽんと叩いた。
「四葉、事件は起こらないにこしたことはないだろ?」
「でもぉ……」
「兄上さまの言うとおりですよ、四葉さん。もしかしたら、本当の名探偵っていうのは、事件を起こさないものなのかもしれませんし」
 鞠絵が言うと、四葉はふむと頷いた。
「なるほど。事件を未然に防ぐ名探偵、デスか……。さすが鞠絵ちゃん。目からウロコデス」
「そんなことないですよ」
 にっこり笑う鞠絵。
 なんか、絵になるなぁ。
「……お兄様っ!」
「どうわぁっ! な、なんだよ咲耶?」
 後ろから大声を上げられて、思わず飛び上がってから、僕は振り返った。
「もう、お兄様ったら、私の言ったこと全然聞いてないんだからぁ」
「ええっと……、ごめん」
 聞いてなかったのは事実なので、素直に謝る僕に、咲耶はにこっと笑った。
「うん、でもいいの。お兄様だもの」
 ……それって理由になってないような気もするが、薮をつついてもつまらないので黙っておく。
 また旅立つかと思ったけど、咲耶は今回は別のことを言った。
「あ、そういえば、さっき春歌ちゃんを見かけたけど、あの子、今日は何か用事でもあるの?」
「……えっ?」
 僕は、咲耶に聞き返した。
「春歌を見たの?」
「ええ。ね、鞠絵ちゃん?」
「はい、わたくしも見ましたけど……」
「どこで?」
 僕の質問に、咲耶は答えた。
「お兄様の家で鞠絵ちゃんと一緒になって、それから2人でお兄様を捜そうってことになって、まず学校に行ってみたのよ」
「学校って、白並木?」
「はい。わたくしも、兄上さまの学校を見てみたかったものですから」
 鞠絵が言う。
「それで、学校を拝見していましたら、春歌さんが校庭を横切って行くのが見えたんです」
「校庭を? でも、今日は休みなのに、どうして……?」
「あ! 兄チャマ!」
 不意に、四葉が声を上げた。
「兄チャマが出かけた後で、誰かから春歌チャマに電話があったデス!」
「電話?」
「はいデス」
 頷く四葉。
「兄チャマからの電話かもって思ってチェキしてたデスけど、違うみたいだったから、四葉は兄チャマをチェキしに出かけちゃったデス。だから、その後は知らないデス」
「……もしかして、春歌ちゃん、誰かに呼び出されたのかな?」
 小首を傾げながら言う衛。
「誰かって、誰?」
「そんなのボクに判るわけないよ」
 明快に答える衛。いや、そんなに爽やかに言い切られても……。
「お兄様?」
「いや、実は……」
「あにぃ、話なら歩きながらでも出来るよっ!」
「そうデス! 事件は現場で起こってるんデス!」
 四葉と衛に両腕を掴まれて、そのまま引っ張られる僕。
「わっ、ちょっとっ!」
「ああっ、二人ともっ! 私のお兄様に何してるのよっ!!」
 咲耶が声を上げるが、2人は無視して僕を引っ張って駆け出した。
「うわわわっ、か、可憐、鞠絵、亞里亞と一緒に、ゆっくり来てくれっ」
「うん。お兄ちゃん、頑張ってね」
「はい、兄上さま」
 笑顔で手を振る可憐と鞠絵に、きょとんとしている亞里亞を残し、僕は2人に引っ張られて行くのだった。
「ちょっと、待ちなさいってば! それじゃ鞠絵ちゃん、可憐ちゃん、亞里亞ちゃん、先に行ってるわね。こらぁ、2人ともっ、私のお兄様に何をするのよっ!!」
 咲耶が声を上げながら、僕達の後を追いかけてきた。
「四葉ちゃん!」
「了解デス!」
 2人は顔を見合わせて、さらに僕を引っ張るスピードを上げた。
「わわわーーっ」

「はぁはぁはぁはぁはぁ」
 白並木学園の校門のところで、僕は精根尽き果てて息を付いていた。
 その隣で、衛と四葉がハイタッチをしている。
「やるねっ、四葉ちゃん!」
「当然デス! 兄チャマをチェキするためには、まず体力デス! でも、衛チャマもやるデス!」
「えへへ〜〜」
 2人が姉妹の友好を深めているところに、咲耶が走ってきた。
「はぁはぁはぁ、や、やっと追いついた、わ……」
 そう言って、肩で息をする咲耶。さすがにいつものようにどこかに旅立つ余裕もないようだ。
 かくゆう僕も似たような状態なのであった。

 僕と咲耶がようやく息を整えてから、僕は咲耶に尋ねた。
「で、春歌はどっちに行ったの?」
「うん、ちょうど私と鞠絵ちゃんはここから学校を見てたんだけど……」
 咲耶は校庭を指した。
「春歌ちゃんはそこから、こっちに向かって歩いていったのよ」
 そこから、こっちに、と大きく腕を振る咲耶。
 高等部の校舎の方から、グラウンドを突っ切って、運動部の部室棟のある方向に向かったようだ。
 運動部の部室棟?
 まさか、とは思うけど……。
 僕は、一瞬、カズに見せられたえっちな本を思い出して、慌てて頭を振ってそれを追い払った。
「どうしたの、あにぃ?」
「みんなはここで待っててくれ!」
 そう言い残して、僕は校門をくぐって、部室棟に向かって走り出した。

《続く》

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あとがき
 うう、相変わらず春歌さん出てきません(苦笑)
 ちなみに、最後の方に出てきたカズっていうのは、主人公こと俊一くんのクラスメイトで、まぁえっちな本を見せてもらうくらいの間柄です。最近出てきてないので忘れられてるだろうなと思ったので、念のため。

 さて、ベランダの子猫ですが、どうやら引っ越してしまったらしく、姿を見なくなってしまいました。
 残念だなぁ。

01/07/10 Up

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