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「千影?」
《続く》
「……ふふっ」
何故か笑うと、千影は春歌に視線を向けた。
「やぁ、春歌くん」
「……千影さん」
春歌の表情が何故か強ばっているのに、僕は気付いた。
「あなたでしたの? わたくし達を呼んだのは……」
「違う。……でも、ある意味から言えば……そうかも、しれない……けど……」
「……そうですか」
春歌は一つ呼吸を置いて、背中に背負っていた、布に包まれた棒を手にした。そして、右手でその布をぐいっとはぐ。
「兄君さまにあだなすならば、たとえ千影さんと言えど、容赦はしません。不肖、春歌。兄君さまの楯となり、矛となるため、日本に参ったのですから!」
あ、あれって、なぎなた……?
「……ふふ、勇ましいね。でも……」
千影は、春歌の背後から肩にぽんと手を乗せた。
「……っ!?」
素早く振り返ってなぎなたを振り下ろす春歌。
だけど、そこに千影の姿はなかった。
「私には勝てないよ。……すくなくとも、兄くんがそれを望まない限りはね……」
「くっ」
春歌は、なぎなたをぶんっと回して千影に向けた。
「気配を消すとは、さすが千影さん。なかなかの修練をお積みになられているんですね」
「君も、人間にしてはかなりのものだね」
千影はそう言うと、微笑んだ。
「まぁ、君なら、兄くんを任せられそうだ」
「……えっ?」
虚を突かれたように、春歌はきょとんとした。
千影は僕に視線を向けた。
「……それじゃ、また来世……」
「は、はぁ……」
そのまま歩き去っていく千影を、僕は唖然として見送った。
「……千影チャマ、なにしに来たチェキ?」
「さ、さぁ……」
四葉と可憐が顔を見合わせて首を傾げる。
春歌は、地面に落ちた布袋を拾い上げて、なぎなたをその中にしまうと、深々と僕に一礼した。
「はしたないところをお見せしてしまいました、兄君さま」
「ええっと、春歌は千影のことを知ってるのかい?」
「ええ、まぁ……」
口ごもると、春歌は僕から視線を逸らした。それから、ぽんと手を打つ。
「そうそう、兄君さま。今日からお世話にならせていただきますね」
「ああ……って、ええっ!?」
「春歌チャマ、何てこと言うデスか!」
「ええっ!? そ、そんなこと、可憐いけないことだと思うのっ!」
僕が口をぽかんと開けている間に、可憐と四葉が春歌に駆け寄った。
「第一、春歌ちゃんだって自分の家があるでしょっ!?」
「ありますけど……」
春歌は困ったように頬に手を当てた。
「ですが、わたくしの家はベルリンですから……」
「そ、そうじゃなくって……」
「あっ、それなら四葉のマイホームもロンドンデス! だから四葉も兄チャマの家に住むデス!」
素早くぴとっと僕にくっつく四葉。
「あっ、四葉ちゃんずるいっ!! それなら可憐もお兄ちゃんの家に住むもんっ!」
「はーいっ! ヒナもいっしょ!」
きょろきょろとみんなの顔を見ていたヒナが、四葉に続いて僕にぴたっとひっつく。
……ええっと、どうしたらいいんだろう?
「と、とにかく、学校に行かないといけないから、とりあえず離れなさい」
「やーデス!」
「ヒナもやー」
ううっ、離れてくれない。
僕は仕方なく、可憐に助けを求めることにした。
「……か、可憐〜」
「もうっ、2人とも。お兄ちゃんが困ってるから、どいてくれないかな?」
「兄君さまがお困りにっ!?」
ぶんっ
「チェキッ!!」
「わっ! 春歌、なぎなたはやめなさいっ!」
「わぁ〜ん、おにいたまぁ〜、怖いよぉ〜〜」
「ううっ、可憐どうしていいのかわかりません……」
と。
ぱんぱんっ
「はいはい、そこまでよ」
手を叩く音がしたので、そちらに視線を向けると、咲耶が呆れたように腰に手を当てていた。
「まったく……。みんなして私のお兄様を困らせるんじゃないの」
「だ、だって……」
「……なぁに、四葉ちゃん?」
「……なんでもないチェキ……」
「わぁん、可憐たまぁ〜。咲耶たまが怖いよぉ〜」
「大丈夫よ、雛子ちゃん。咲耶ちゃん怖くないから。ほら、よしよし」
四葉と雛子が僕から離れてくれたので、僕はほっと一息ついた。
「ありがと、咲耶……」
「ええ……。でも、ちょっとハートブレイク……」
可憐に泣きついている雛子を見て複雑な表情を浮かべる咲耶。
「……ふっ、しょせん、私のアダルトな魅力は、お子さま向きってことじゃないわけね。そうよ、私の魅力はお兄様専用ですもの。うふふっゥ」
なんだか、自分の中で折り合いを付けたらしく、咲耶は改めてくるっと辺りを見回して、春歌に視線を向けた。
「あ、そう言えば挨拶がまだだったわね。久しぶり、春歌ちゃん」
「あっ、こちらこそ失礼いたしました。それでは改めまして。こんにちわ、咲耶さん。ご無沙汰しておりました」
深々と頭を下げる春歌。
「あ、こちらこそ……じゃなくって!」
「咲耶ちゃん、それよりも時間が……」
可憐が口を挟んだ。……わぁっ、時間っ!!
「咲耶っ、とりあえずここは任せたっ!」
「あっ、お兄様……」
僕はそう言い残して、家の中に飛び込んだ。何しろ、まだ朝ご飯も食べていないのだから。
もぐもぐ……。
「あっ、それ四葉がチェキしてたデス!」
「えへへ〜。ヒナ食べちゃった〜」
「兄君さま! 日本人たる者、朝食はご飯にお味噌汁、それに焼き魚と決まっておりますわ! ああっ、なんたる堕落……」
「春歌ちゃん、それは偏見だって可憐は思うんだけどな……。あっ、雛子ちゃん、こぼしてるっ!」
「……ううっ、私、こんなアットホームな雰囲気には馴染まないのに……。ううん、ファイトよ咲耶! いつかお兄様と暖かい家庭を持つ日のためにっ」
……もぐもぐ。ごっくん。
「……ごちそうさま」
「あ、兄チャマそのパン食べないデスか? それじゃ四葉がもらうデス」
「あ〜〜っ!! 四葉ちゃんっ! お兄様のパンは私のパンよっ!!」
「咲耶ちゃんずるいっ! 可憐だって……、えっと、その……」
「……はぁ」
ため息をつく僕の頭を、雛子が撫でてくれた。
「おにいたま、泣いちゃだめなのよ。よちよち」
「ふふっ、ありがとう、雛子……」
とりあえず立ち直って、僕は顔を上げた。
「とにかく、学校に行くぞっ」
「ふぁふぁふぃふぁふぃふぁふぁ、ふぉふぃいふぁふぁ」
パンを、ほっぺたが膨らむほど頬張ったまま頷くと、咲耶は立ち上がりかけて、急に喉に手を押さえる。
「……ふぐっ」
「咲耶……?」
「咲耶ちゃんっ、はい、お水っ!」
慌てて可憐がコップを手渡した。咲耶はそのコップを一気に空けて、ぜいぜいと息をつく。
「はぁはぁはぁ、し、死ぬかと思った……」
「大丈夫か、咲耶?」
「もちろんよお兄様。お兄様とウェディングベルを鳴らすその時まで死ぬわけないでしょゥ」
ぱちっとウィンクしてみせる咲耶。
「さ、咲耶ちゃん、えっと、可憐も……。ぽっ」
「と、とにかく行くぞっ!」
僕は、これ以上話がややこしくなる前にと、立ち上がって宣言した。
「はぁーい」
みんな頷いてくれて、ほっと一息である。
制服に着替えて、鞄を手にして部屋から出ると、玄関に向かう。
既に他のみんなは、玄関で僕が出てくるのを待っていた。
……一人を除いて。
「兄君さま、行ってらっしゃいませ」
和服にたすきをかけた格好で、春歌は上がり間に正座した格好で、三つ指をついて頭を下げた。
「お帰りをお待ち申し上げておりますわ」
「……あの、春歌さん、その格好は……?」
「はい。兄君さまが学校に御出陣の間、この家は、不肖ながら、わたくし、春歌がしっかりとお守りしております。兄君さまは、心おきなく学業に励まれてくださいませね」
にっこりと笑う春歌。
僕は、隣にいた咲耶に小声で尋ねた。
「……咲耶、春歌はなんて言ってるの?」
「お兄様が帰るまでお留守番してますって」
「……」
ちょっと考えた。
確かに、こないだの四葉みたいに学校に着いて来られたら、それはそれでまた騒ぎになりそうだしなぁ。そう考えると、自分から留守番をかって出てくれたのは、春歌には悪いけど、ありがたいかもしれない。
僕は頷いた。
「うん、わかったよ、春歌。留守は任せるね」
「はいっ」
嬉しそうに頷く春歌。
「ああ、兄君さまに頼りにされるなんて、わたくし、幸せですわ……」
うっとりと明後日の方を見つめて呟く春歌。
「そ、そう? あはは……ってえっ!!」
いきなり左右から脇腹をぎゅっとつねられて、思わず飛び上がる僕。
「なっ、なんだよっ!?」
「お兄様なんて知りませんっ」
「お兄ちゃんのばかっ」
……いや、まぁ……。やれやれ……。
例によって、校門前でぐずる四葉を何とか説得して戻ってもらうのに、今日の分の気力を使い果たしてしまった僕は、教室にたどり着いて席に着いたところで、運悪くカズに捕まってしまい、聞かれるままに昨日までのことをしゃべってしまった。
さしものカズも、僕の言葉には目を丸くした。
「妹が11人になったぁ? お前の親って、子供でサッカーチームでも作る気だったのか?」
「……そんなこと知るもんか。はぁ……」
カズにそう答えて、僕は机に突っ伏した。
「で、どんな娘なんだよ? 今までのお前の妹の水準から考えて、やっぱり美少女だったりするんだろっ?」
「ご想像にお任せします」
「……」
俺の答えに、カズはしばらく中空を睨んでいたかと思うと、不意に俺の手を取った。
「シュン! やっぱりお義兄さんと呼ばせて……」
「呼ばせるかぁっ!!」
ばこっ
とりあえず正義の鉄拳を見舞ってから、僕は窓の外に視線を向けて、ため息をついた。
春歌がやってきて、とうとう妹の数が11人になってしまった。
いや、まぁそれはいいんだが。
今までの寂しいけど静かな暮らしは、もう二度と戻ってこないんだろうか?
キーンコーンカーンコーン
「お、チャイムだ」
復活したカズが、前に向き直る。それとほとんど同時に、担任が入ってきて、朝のホームルームが始まった。
昼休み。
「……はるか、ちゃん、ですの? 姫は知りませんでしたの」
「もぐもぐ……、ボクも、聞いたことないよ」
「可憐も、ちょっと咲耶ちゃんに聞いたことがあるだけなの」
白雪と衛の言葉に、可憐も頷いた。そして、きんぴらを一口食べて、ほうっとため息を漏らす。
「それにしても、白雪ちゃんってやっぱりお料理上手だね。可憐、うらやましいです」
「えっ? やだぁ、可憐ちゃんったら、そんなホントのこと言われると、姫照れちゃうですのぉゥ」
「もぐもぐ……。でも、ホントに美味しいよ、白雪」
「いやぁ〜〜ん、にいさままで〜〜ゥ」
白雪は、真っ赤になったほっぺたを両手で挟んでやんやんと首を振っている。例によってまたあっちの世界にすっ飛んでいってしまったようだ。
僕は、隣で一心不乱にご飯を掻き込んでいる衛に視線を向けた。
「でも、今日は衛まで一緒に来るとは思わなかったよ」
「むしゃむしゃ……。ごくん。うん、白雪ちゃんのお弁当って美味しいから」
返事になってるような、なってないような返事である。
僕は白雪に訊ねた。
「でも、いつもなら、白雪は弁当に他の人が手を付けると怒るのに、今日は特に何も言わないんだな」
「はい、衛ちゃんとは、それはちゃんと契約済ですのよ」
「契約?」
「うん。ボク運転手だから」
「運転手?」
可憐が箸を止めて訊ねた。
「そ。ほら、うちの学校と、ここって、少し離れてるでしょ? それで白雪ちゃんが、毎日ここまで走るのは大変だって話をしてて、それじゃボクのMTBで送ってあげるってことになったんだ」
「そういうことですの。ホントは鈴凛ちゃんの自転車借りようかとも思ったんですけど、ちょっと危険な香りがしたから、やめましたの」
鈴凛の自転車と言えば、確か前に見た、あの煙を吹き出しながら走っていたやつだよな。なるほど、さもありなん。
「で、ボクは白雪ちゃんを送り迎えする代わりに、お弁当を少しもらうってわけ」
「そっか。ご苦労さん、衛」
「えへへ〜ゥ」
僕がほめると、衛は嬉しそうに笑った。
「姫もほめて欲しいですの〜〜」
「もちろん、白雪のお弁当は最高だよっ。うん、世界中のシェフを集めたってこれ以上のお弁当は作れやしないさ」
「うふふっ、にいさまったらゥ 姫、恥ずかしいですの〜ゥ」
また明後日の世界に旅立っていく白雪を見送ってから、僕はふと、可憐に視線を向けた。
「……ところで可憐。いつからいたの?」
「あう……」
あとがき
私は一応社会人なので、昼間は仕事をしてます。
その仕事先が府中で、通勤路の途中にあれがあります。そう、京王バス府中営業所が。
というわけで、たま〜に、シスプリバス咲耶バージョンを見る機会があるんです。……っていうか、アレで初めてシスプリを知ったというか(笑)
でも、最近は見ないんですよね〜(苦笑)
ちなみに、ちよバスもよく見たものです。
……そういえば、シスプリアニメ、ビデオには取ってるけど3話以降見てなかったな。こみパなんて1回も見てないし。今度まとめて見ようかなぁ。
01/05/17 Up 01/05/18 Update