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承前
《続く》
かなみとメナドは、フレイアに連れられて酒場に入っていた。
3人は、テーブルを囲んでのんびりとお喋りをしてた。いや、正確には、しゃべっているのはかなみとフレイアの2人だが。
「今日はいい天気だったわねぇ」
「そうね。リーザスの方じゃ、そろそろ収獲期じゃないかしら」
「いいわねぇ。ピクニックにはいい季節ってことじゃない」
「うん。まぁ、相手がいれば、だけどねぇ」
「あらぁ、言ってくれるじゃないの。この娘は」
のんびりと会話を楽しんでいるようにしか見えないかなみとフレイアの横で、メナドは一人じりじりしていた。
(なにやってるんだよ、かなみちゃんもフレイアさんも!)
もっとも、かなみもフレイアも、別に世間話をするためにこんな酒場に来たのではない。
二人は、一見雑談をしているようにみえて、指サインで全く別の会話をしていたのだ。
“大体状況はわかったわ。ここに来たのは、まずかったかもね”
“どういうこと?”
“実は、ここしばらく、このラボリの都市長の身辺を探ってたんだけどね”
“都市長の?”
5人の兵士達に囲まれるようにして、リセットは地下から階段を上がっていった。途中でいろいろと兵士に声をかけてみたが、ことごとく無視されたので、リセットはぷっと膨れていた。
(リセットのこと無視するなんて、あとであーしてこーしてやるんだからぁ)
階段を上がると、今度は廊下を歩いていき、奥まったところにあるドアの前まで来た。そこで、兵士達は直立不動になり、先頭の男がドアをノックして声をかける。
「連れて参りました!」
「入れ」
低い声がした。その声を聞いて、リセットは身震いした。
(な〜んか、やらしー声)
「はっ、失礼いたします」
兵士はドアを開け、リセットの背中をぐいっと押した。
「きゃん」
いきなり背中から押されて、リセットはつんのめるように部屋の中に入った。
「それでは、失礼いたします!」
そう言い残して、兵士達はドアを閉めた。
リセットは、くるっと部屋を見まわした。
やたらと調度品で飾られた広い部屋だった。その真ん中にこれまた豪華なソファがあり、その上に豚が寝そべっていた。
と、その豚がリセットに視線を向けて、しゃべった。
「ほほぉ、こいつがリセット・カラーですか」
「ええ。にっくきリーザスの、ランスの娘だ」
さらに部屋の奧から声がした。リセットがそっちに視線を向けると、窓を背にしてオレンジ色の髪の男がこっちを見ていた。
リセットは知る由もないが、旧ヘルマン帝国軍の将軍、ネロである。
豚は体を起こした。そこで初めてリセットは、それが実は豚ではなく、でっぷり太った人間であることに気づいた。
ネロは、ゆっくりと近づいてくる。
「こいつのせいで、我々が再起のために使おうと思っていた貴重なヘルマン騎士を失う羽目になったのだ」
「まったくでございます」
豚男(とリセットは呼ぶことにした)は、へらへらと笑った。
「それにしても、危のうございましたなぁ、ネロ様。私がお知らせしなければ、あのリーザスどもに……」
「やられるわけがない」
ネロはじろりと豚男を見た。慌てて平伏する豚男。
「も、申し訳ございません」
「しかし、苦況に立ったかもしれないな。貴様の今回の働き、認めてやっても良いぞ。そうだな、我がヘルマン帝国が再起した曉には、ローレングラードくらいはまかせてやってもよい」
「ははぁ〜」
さらに平伏する豚男。リセットは知る由もないが、この男がこのラボリの街の都市長で、名をグラスという。
“このグラスってのは、もともとこの街を牛耳ってた豪商でね、リーザスがここを占領した時にも賄賂を贈って財産の没収を免れたって話よ”
(そんなことが……)
かなみは少し眉を潜めた。ランスの「自分以外の男がいい気分でいるのは許せん」という一言のおかげで、旧へルマン帝国で栄華を誇っていた貴族や豪商達はほとんど財産を没収されて路頭に放り出されたのだが、命令が行き届かなかった所もあったのを初めて知ったのだ。
(あとでマリス様に報告しなくちゃ)
とりあえずそれは置いておいて、かなみはフレイアの指に注意を戻した。
“それで、こいつはこのラボリの街の都市長に納まってるんだけど、やっぱり昔の方が良かったらしくてね”
“もしかして?”
“あたり。どうもこいつ、裏で旧帝国の残党と繋がってるみたいね。資金援助もしてるみたいだし。都市長からしてこれだから、このラボリの街は、反リーザスの旧帝国連中が集まるようになり始めてるのよ”
“そ、そんな……。それじゃ、リセット様は……”
フレイアは、口ではヘルマンのファッションの最新流行について話しながら、指を動かした。
“多分、その都市長のところに捕まってるんじゃないかな?”
フレイアの調べたとおり、グラスはヘルマン国内に潜伏していたネロのような旧帝国の残党と結びついていた。
今回も、クリスタルの森周辺に潜んでいた残党をリーザス軍が攻撃する、という情報をこの男がいち早くネロに届け、ネロは慌ててラボリの街に戻ってきた、というわけである。
一方、二人のやりとりに退屈したリセットは、大きく欠伸をしてから言った。
「ねぇ、用がないんなら帰してよぉ」
「そうはいかんな」
ネロは、リセットの前まで来ると、その両手をまとめて掴んで引き上げた。
「何するのよ! 痛い、痛いってば!」
なにしろ人間で言えば10歳くらいの少女である。長身のネロが引っ張り上げたために、半分宙吊りになってしまった。
「その程度の痛み、我が屈辱に較べれば何ほどのものか!」
「そんなの知らないよぉっ!」
じたばたともがきながら、リセットは叫んだ。
「離せ、馬鹿ぁっ!!」
「何だと!」
ネロは、目をつり上げた。
元々、彼は男尊女卑の思想の持ち主である。旧ヘルマン帝国軍の将軍だったとき、その思想のせいで、当時彼の副将だったクリームの意見をことごとく無視して、その結果リーザス軍に惨敗することになったのは有名な話である。
その彼にとって、年端もいかない女の子に侮辱されるのは我慢ならないことだった。
「貴様、私を愚弄するか!」
バシッ
彼はリセットに平手打ちをしてから、そのまま乱暴に床に放りだした。だが、リセットは悲鳴ひとつ上げずに、床からネロを睨み上げた。
「おのれ!」
ますます激昂したネロは、腰の剣に手をかけた。
慌てて、グラスがそれを止めにはいる。
「お待ちを! お怒りはごもっともでございますが、この小娘を殺してしまっては、何にもなりませぬぞ。生かして人質として使った方がよいと、愚考する次第でございます」
「……」
しばし、肩で息をしながらリセットを睨んでいたネロは、ふっと肩の力を抜いた。
「そうだな。しかし、この小娘には、少々“教育”が必要なようだ」
「左様で」
うなずくと、グラスはパンパンと手を打った。
それに答えるように入ってきたのは、にやにやと笑みを浮かべている若い男であった。その腰には、長い鞭を巻いてつけている。
この男は、旧帝国の頃、軍の拷問係をしていた。リーザス軍にこの街が占領された後も、グラスがこの男を保護してきたのは、その拷問の腕を知ってのことである。
「お呼びで?」
「その小娘を少しばかり教育してやるがいい」
グラスは、倒れたままネロの方を睨んでいるリセットを指した。若い男はリセットを見て、肩をすくめる。
「こんな小娘を、ですか?」
「そうだ。イヤとは言わぬだろうな?」
「まぁ、仕事ですからね」
そう言うと、男はリセットに歩み寄った。
「さて、教えてやるぜ。誰がご主人様なのかを、なぁ。けけっ」
今までじっと動かなかったリセットが、その瞬間床を蹴った。そのまま若い男が入ってきた時に開けたままになっていたドアに駆け寄る。
若い男は、余裕たっぷりに腰に付けていた鞭を外して、振り下ろした。
ピシッ
その鞭が、リセットの右脚に絡み付いて、彼女を引き倒した。
「あうっ」
床に体を打ちつけて、呻き声を漏らすリセット。
男はそのリセットの背中を踏みつけた。リセットの表情が苦しげに歪むのを見て、笑みをもらす。
「さて、じゃじゃ馬馴らしといきましょうかね。ここでやってもいいんですか?」
彼はグラスに尋ねた。グラスはネロをちらっとみて、うなずいた。
「そうだな」
「わかりました。それでは、イッツ・ショータイム!」
彼は鞭を振り上げた。
リセットは、思わず目を閉じていた。
(……パパぁ!)
ガタン
かなみは立ち上がった。
「フレイアさん、あたし行きます!」
話がまったく見えないメナドが、目を白黒させる。
「ちょ、ちょっとかなみちゃん、いきなりどうしたの?」
「メナド、リセット様は……」
「その名前を言っちゃダメだって」
フレイアの肩に乗っている一つ目猫のノリマキが、呆れたように言った。フレイアが苦笑して、指サインを続ける。
“それに、もう遅いかもしれないわね”
「そんな!」
かなみは、テーブルを叩いた。
「そんなことって……」
「あらあら、勘違いしちゃ困るわねぇ」
フレイアは、テーブルに乗っていたワイングラスを取って、入っていた赤ワインを美味しそうに飲み干すと、立ち上がった。
「それじゃ、出よっか。あ、払いはそっち持ちでお願いね」
「そんな悠長なこと……」
と、そこに一人の男が飛び込んできた。
「大変だ! 都市長さまのお屋敷で騒ぎが起こったみたいだぞ!!」
「え?」
それを聞いて、かなみはフレイアに視線を向けた。彼女は苦笑した。
「ほら、遅かった」
ガシャァン
派手な音と同時に、窓ガラスが粉々に割れた。
「な……」
皆の注意がそっちに向けられた瞬間、なにか黄色い物体が、ものすごいスピードで拷問係の鞭にぶつかり、弾き飛ばした。
「うわぁっ」
手を押さえてうずくまる拷問係。
「な、なんだ?」
「さ、さぁ」
ネロとグラスが顔を見合わせたとき、不意に開きっぱなしになっていたドアから、一人の巨漢が現れた。黄色い物体は、その男の肩の上でその姿を止めた。そこで初めて、丸っこい体の黄色い鳥だったことがわかる。
「ご苦労、弥七」
ぴよーーーーーーーっ
男の言葉に、鳴き声で答える鳥。
リセットは、聞き覚えのある声に顔を上げた。
「あ、ちりめんのおじちゃん」
悠然と現れたのは、牢屋の中にいたあの男であった。
彼は、あっけに取られているネロとグラスを無視して、リセットに歩み寄った。そして、片膝をつくと、手を差し出した。
「リセット、立てるか?」
「うん、大丈夫だよ」
リセットは、彼の手に掴まって立ち上がった。そしてにこっと笑う。
「えへへ〜」
そこで、やっと我に返ったらしく、ネロが怒鳴りつけた。
「貴様、何者だ!?」
「お前は、地下牢からどうやって出てきた!?」
グラスが声を上げる。ネロは振り向いた。
「地下牢?」
「はい。こやつは、徴税を拒む酒場に税の取立てに行った者達の邪魔をしたので、捕らえた者です」
「さ、行くぞリセット。ここは狭い」
「うん、わかった」
ネロとグラスを無視して二人は部屋を出て行く。
「あ、こら、待て!!」
慌てて追いかけるネロをうるさげに振り返ると、彼は一喝した。
「たわけぇっ!!」
大音声に、部屋の調度品すべてがビリビリと震え、窓ガラスが数枚割れる。
「なっ!?」
一瞬度肝を抜かれたネロとグラスを残して、二人はすたすたと出て行った。
屋敷の中庭まで出たところで、その男は足を止めた。
「おじちゃん、どうしたの?」
訊ねるリセットには答えず、辺りを見まわすと、彼は大きくうなずいた。
「これくらいの広さならいいか」
「え?」
と、そこにネロ達が追いついてきた。その後ろから、兵士の団体が来るのも見える。
「待てぇ!!」
「逃げられはせんぞ!」
「逃げたのではない」
彼は振り返った。そして、腕を組んだ。
「グラス・タリムスト。お前はこのラボリの街の都市長という地位にありながら、旧へルマンの賊と組み、泰平の天下を揺るがさんとした。その罪は重い」
「なっ」
絶句するグラス。
男はかまわずにネロの方に視線を向ける。
「そして、ネロ・チャベット。時代の流れを知らず、過去の栄華を追い求める愚か者よ」
「なんだと!? 貴様なぞに、我が屈辱が判ってたまるかぁ!」
ネロは叫んだ。
「笑止。貴様が一人で夢を見るなら、止めはせぬ。しかし、そのために弱き者が虐げられるとあっては、許すわけにはいかぬな」
「う、うるさい! こいつらを捕らえろ!」
ネロの声に兵士たちが、中庭の中央にいる2人を取り囲むように展開する。
それを見て、男は肩をすくめた。
「やむをえぬか。……スケさん」
「は」
一人の少女が、彼の背後に現れる。赤い髪をポニーテールにまとめて、学校の制服のような服に肩当てをつけた軽装の少女。その腰には剣がさげられている。
「カクさん」
「お側に」
和服姿の少女が姿を現す。長い黒髪を赤いリボンでまとめた、楚々とした雰囲気の少女である。
リセットは、目をぱちくりさせた。
「わぁ、どこから出てきたんだろ?」
男は、兵士たちを指した。
「彼らは、命令を受けてそれを実行することしかできぬ、言わばからくり人形のごとき存在だ。スケさん、カクさん、彼らに正義の何たるかをみせねばならん」
「はい」
「何をわけのわからぬ事をほざくか! ええい、さっさと捕まえろ!」
ネロの声に、兵士たちが一斉に飛びかかって行く。
しかし、2人の少女の動きはそれよりも早かった。
スケさんと呼ばれた少女が、腰の剣を引きぬきながら呪文を唱えた。
「火爆破!」
ドォン
爆煙が上がり、兵士たちがどよめく。
「こら、スケさん。殺してはならぬぞ」
「はぁい」
男の声にうなずくと、彼女は別の呪文を唱えた。と、剣の刀身にパシッと火花が走る。
そこに、兵士が一人斬りかかった。彼女はサッとかわしざまに、自分の剣をその兵士に軽く当てた。
バシィッ
「ぎゃぁ!」
電撃が走り、その兵士はもんどり打って倒れた。
一方、もう一人の少女のほうは、袖をたすき掛けにして身構えていた。
「さぁ、お相手いたしますわ」
電撃を発する剣を振りまわす少女よりは与し易そうに見えたせいか、兵士が数人飛びかかって行く。
しかし、彼らは自分の判断の甘さを呪う羽目になった。
「てやぁ!」
少女がかけ声を発すると同時に、彼らの体は空中を舞い、したたか地面に叩きつけられていた。
かなみ、メナド、フレイアの3人は、都市長の館に辿り着いた。
確かに、中でなにか騒ぎが起こっているのは確かだった。
物見高い市民たちが門の前に詰め掛け、門番が必死にそれを押し戻そうとしている。
そのまま野次馬をかきわけようとしたメナドを、かなみが止めた。
「待ってよ、メナド! あそこを突っ切ろうったって無理だってば」
「それじゃ、どうするの?」
その質問に、フレイアはにぃっと笑うと、肩に乗った一つ目猫ノリマキの頭をポンと叩いた。
「ノリマキ、出番よ」
「ったく、人使いが荒いぞ、お前」
「ブツブツ言ってないで、ほら、さっさとしなさい」
「わかったわかった。わかったから首を締めるなぁ!」
ノリマキの絶叫に、フレイアは彼の首を締めていた手を緩めた。そして、頭を掴んで門の方に向けると、2人に言った。
「はい、ちょっと目を閉じててね」
「う、うん」
メナドとかなみは目を閉じた。次の瞬間、閃光が辺りを満たした。
「うわぁっ!」
「ぎゃぁぁ!」
悲鳴があちこちからあがる。
「いいわよ、2人とも」
フレイアから言われて目を開けた2人は、唖然とした。
そこにいた野次馬も門番も、全員が目を押さえて呻いているのだ。
「それじゃ、今のうちにっと」
フレイアはすたすたと門番の横を通りぬけて館に入っていった。かなみ達もそれに続いた。
「な、なんということだ……」
ネロは絶句した。
ざっと50人はいた兵士たちが、今やほとんど倒れ伏している。
と、そこにさらに新しく兵士たちが飛び込んできた。ネロは喜色を浮かべ、命令する。
「おう、良いところに来た! あいつらを殺せ!」
「ネロさま、あいつらはともかく、リセットまで殺しては……」
「ええい、うるさい! 私に命令するな!!」
慌ててすがりつくように止めようとするグラスを蹴倒すと、ネロは叫んだ。
「殺せぇっ!!」
その声を聞いて、男は腕を組んだ。
「これまでか……。出来れば、明かしたくはなかったが……」
「この数では、さすがに殺さず、というのは難しいです」
スケさんが、荒い息をつきながら言った。カクさんもうなずく。
「申し訳ありません。私たちが未熟ゆえに……」
「いや、よくやったぞ」
男の言葉を聞いて、二人は微笑んだ。それから、スケさんが大声で叫んだ。
「静まれぇ!」
「お静かに願います」
カクさんはそう言うと、懐から小さな箱を出して、その中に入っていたものを高く掲げた。
それは、小さな水晶玉だった。その水晶玉には、複雑な文様が封じ込められている。
「これが目に入らないでしょうか?」
一同は怪訝そうに顔を見合わせる。その中で、ネロだけがはっとした。
「それは、ゼスの紋章……」
サッとスケさんは手を振った。
「こちらにおわすをどなたと心得る! ゼス国王、ラグナロックアーク・スーパー・ガンジー陛下なるぞ!」
「なにぃっ!?」
思わず全員が声を上げる中、男は悠然と腕を組んで立っていた。
リセットは、怪訝そうにその顔を見上げる。
「おじちゃん、王様だったの? パパといっしょの?」
「頭が高ぁい! 控えおろう!」
「控えてくださいましね」
スケさん……国王の傍に仕え、その身を守る警護役のウィチタ・スケートとカクさん……同じく警護役のカオル・クインシー・神楽の2人は、高らかに叫んだ。あわてて兵士たちが這いつくばる。
断っておくが、ヘルマン国の兵士たちがゼス国の国王に従ういわれは、本当はない。ただ、ガンジーについては様々な逸話が伝わっており、恐れられているのだ。ある意味、鬼畜王ランスと同じレベルで扱われている存在、それが彼、ガンジーなのだ。
ばたばたと恭順の意思を示していく兵士たちの後ろでおたおたしているグラスと、唖然としているネロを見て、ガンジーは重々しく言った。
「そなた達、武器を捨てて降伏すればよし、さもなくば……」
「う、うるさいっ!」
ネロは叫ぶと、剣を抜いた。そして兵士たちを踏み越えて、ガンジーに向かって駆け出す。
「私の野望が、こんなところで、こんな形で潰えるなど……、信じられるかぁっ!!」
「愚かな……。己の器も見えぬか」
ガンジーはそう呟くと、くわっと目を見開いた。
「ならば、その愚かさを持ったまま、あの世で悔いるがいい! 破邪覇王光!!」
カァッ
ガンジーの手から放たれた、膨大な光がネロを包み込んだ。
「おのれぇぇっ!」
「うわぁっ!!」
ネロは、たまたまその場にいた不幸な兵士を引きずり起こして盾にした。
「何ぃっ!?」
とっさにガンジーは魔法をそらした。光は天に上がって消える。
ネロはその瞬間、その兵士を放りだし、一気にガンジーに迫った。
「死ね!」
「むぅっ」
魔法を放った直後のガンジーには、それをかわすすべがない。
「ガンジー様!!」
「ガンジー様ぁ!!」
ウィチタとカオルが叫ぶが、2人とも離れたところにいて、何をするにしても間に合わない。
その刹那。
リセットがガンジーの前に立っていた。その手には、兵士が取り落としたものらしい剣がある。
ネロはそれに構わず、突っ込んでこようとした。
ちょうどその時、メナドたちが中庭に飛び込んできた。
すぐに、中庭の中央に仁王立ちになっているガンジーの巨体が見えた。そして、その前でおぼつかない手つきで剣を構えるリセットと、それにまさに打ちかかろうとしているネロ。
「リセット様!」
かなみが叫んだ。しかし、かなみにしてもどうしようもない。
それに気付いたのはメナドだった。
(あの構えは、まさか……!)
その瞬間、閃光が走った。そして、衝撃波が辺りを揺るがせる。
「ぎゃぁぁっ!」
そして、ネロが悲鳴を上げて吹っ飛ばされるのが見えた。
リセットが、剣を落として、自分もふらっと倒れ掛かる。
その肩を、優しくガンジーが抱きとめた。リセットは視線を上げる。
「おじちゃん……」
「立派だったぞ、リセット」
「……うん」
にこっと微笑んで、リセットは意識を失った。
「お、おのれ……」
よろよろと立ち上がろうとしたネロ。しかし、その時には既に5人の少女が取り囲んでいた。
ウィチタが、ガンジーに視線を向けた。ガンジーは重々しくうなずく。
「成敗!」