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鬼畜王ランス アフターストーリー

台風娘の大騒動 その3

 承前

 ハァ、ハァ、ハァ
 メナドは荒い息をつきながら、目の前に立ちはだかるヘルマン装甲兵を睨みつけた。
 比較的温暖な気候のリーザスの騎士達が身に纏う鎧は、今メナドがつけているような、局部だけを保護するタイプの、どちらかといえば軽装の鎧が主流である。しかし、厳しい寒さに国土を支配されているヘルマンの騎士の鎧は、動きを犠牲にしても防御力を上げるという、全身をくまなく覆うタイプの鎧である。漆黒に塗られたその鎧は、相手に心理的な圧迫を加えるという効果もある。
 メナドは既に数人を倒してはいたが、自分もかすり傷とはいえ、数カ所から血を流していた。
 そして何より、体力的に限界に近づきつつあった。
「このっ!!」
 叫びながら、打ちかかるメナド。
 その剣が相手の鎧に激しく当たった。妙な手応えを残して、酷使に耐えかねた剣が折れる。
「しまった!」
 小さく叫びながら飛び退るメナド。その背中が、何か硬いものに当たる。
「!?」
 反射的に振りかえったメナドの目に移ったのは、装甲兵の巨体だった。
 ヘルメットのすき間から、彼の唇がにやりと笑う形に曲がるのが見える。
 ガスッ
 次の瞬間、その兵士の振り下ろした手刀を鳩尾に受けて、メナドの意識がふっと薄れていった。
(……ごめん、王様。ぼく……だめだった……)
 そのまま、メナドはその場に崩れ落ちた。

 メナドが意識を失ったのを確認すると、装甲兵達はヘルメットを脱いで、彼女を見下ろした。
「ふぅ、手こずらせやがって。この小娘が」
「まったくだぜ」
「おい、あのカラーのガキの方はどうする?」
「今から追っても無理だろう。それに魔物使いの連中も動いてるしな。今回はあいつらに譲るさ。それよりも……」
「……へっへっへ」
 男たちは、意識を失って倒れているメナドをにやにやと笑いながら見下ろした。
「久しぶりに楽しもうか」
「そうだな。へへっ」
「あ、こら。俺が一番だ!」
 男たちは我先に重い鎧を脱ぎ捨てて、メナドに群がっていった。
 いや、いこうとした。
 ザシュ
「がはぁぁっ」
 一番後ろにいた男が、不意に目を剥いた。その胸から、剣の切っ先が突き出していた。
 その剣がするすると引き抜かれる。支えを失って、男はそのまま倒れた。心臓を一撃で貫かれて、既に絶命している。
「だ、誰だ!?」
「大勢で女を襲うとは、つまらん奴らだな。あまりにつまらな過ぎて、後ろから斬ってしまったではないか」
 メナドのものと良く似た、だが色の白い鎧を着た女騎士が、そこに立っていた。彼女は脱ぎ捨てられた鎧をチラッとみて吐き捨てる。
「ヘルマンの者か。だが、下劣な連中だ。そんなことだから、我らに負けるのだ」
「な、なんだと、てめぇ!!」
「さっさと鎧を着ろ。今のおまえ達と戦って勝ったところで、自慢にもならん」
「でも、それではあなたが無駄な傷を負うことにもなりかねませんよ」
 別の声がした。涼しげな男性の声。
 その声の主は、女騎士の後ろから姿を現した。銀色の髪と眼鏡が知的な印象を与える青年だ。女騎士と同じ白い鎧を着ている。
 女騎士は振りかえった。
「しかし、エクス将軍。騎士というものはですな……」
「死ねぇ!」
 その隙を突くように、装甲兵の一人が女騎士の背後から剣を振り上げた。
 シュシュシュッ
 微かな音がしたかと思うと、その男はその場に倒れた。何本もの矢がその体に突き刺さっている。
 男は、唖然とした他の男達に向かって、からかうような口ぶりで告げた。
「ああ、忠告しておきますけど、ここはもうカラーの戦闘部隊に包囲されてますよ。大人しく投降すれば、もしかしたら生き延びられるかもしれませんね」
 カラー族は魔法の腕だけでははなく、弓の腕でも知られている。しかも、ここは彼女たちの本拠地であり、さらに装甲兵達は、矢くらいなら弾き返すその鎧を今は脱ぎ捨ててしまっていた。
 剣を捨てて両手を上げる男達を横目に、銀髪の青年は倒れているメナドに歩み寄った。そして、その傍らに屈み込んで、手早く容態を調べる。
 木の間から現れたカラー達と共に装甲兵達を縛り上げていた女騎士は、それも一段落したところで、青年に尋ねた。
「将軍、メナドの様子は?」
「疲労で気を失ってるだけのようですね。それにしても無茶をする娘です」
 青年……、リーザス軍の中でも智謀を駆使して敵の弱点を突くことに長けている第4軍、通称白軍の将軍であるエクス・バンケットは苦笑した。
「たまたま、私たちが少し早めに交替に来ていたからよかったものの。ねぇ、ハウレーン」
「ええ」
 女騎士はうなずいた。彼女はハウレーン・プロヴァンス。リーザス軍総大将バレス・プロヴァンスの娘で、彼女自身も白軍の副将として、エクスの補佐をつとめている騎士だ。
 二人は、メナドの生命に別状がない事を確認して一息つくと、カラー達に引き立てられていく装甲兵達を見送った。
 ハウレーンがエクスに尋ねる。
「しかし、クリスタルの森にへルマン装甲兵がいるとは。これはどういうことなのでしょうか? まさか、ヘルマンが反乱を企てているのでしょうか?」
「……」
 エクスは少し考えこむと、眼鏡を直しながら首を振った。
「そうではないでしょう。確かに、ヘルマンがいつまでもリーザスの属国で満足しているとは、私も思いませんけれど……。でも今反乱を起こしても、十中八、九、失敗することくらい、ハンティやフリークなら判っているはずです」
 怪訝そうな表情のハウレーンを見て、エクスは苦笑した。幼いころから騎士として、名誉や誇りに生きるように教育されてきたハウレーンにとっては、征服されたへルマンが反乱を起こさない方が不思議な様子である。
(でもね、一般の市民たちにとっては、名誉や誇りよりも一切れのパンのほうが重要なんですよ)
 かつてのへルマン帝国では、北の厳しい気候のために食物が不足し、国民は常に飢えていた。その飢えがリーザスに対して何度となく侵攻が行われた原因だった。
 しかし今は、マリスの方針で、豊かなリーザスや自由都市からの食糧品が大量にへルマンに輸入されており、へルマン国民の食生活は大きく改善されたのだ。
 へルマンがリーザスに対して反乱し、独立するということは、その食糧品の輸送が止まることを意味している。それでは国民は納得するはずがない。
 今、首都ラング・バウでへルマンの政治を執っているパットン王子とその仲間達は、かつての旧へルマン帝国時代には、文字通り草を食い泥水をすするという辛酸をなめてきた。それだけにいわゆる「市民感覚」には敏感である。その彼らが国民を敵に回すようなことはしないだろう。
 これが、マリスのへルマンに対する反乱封じであることは言うまでもない。
 ただ、エクスはそこまでは説明せずに、ハウレーンに言った。
「あの連中は、おそらくは旧へルマン帝国の残存兵ではないかと思います」
「それでは、今のへルマン国とは関係ない連中だ、と?」
「ええ……」
「……う、うん……」
 エクスがうなずいたとき、メナドが微かに身じろぎしたかと思うと、ぱっと目を開けた。
「メナド、気がついたか?」
 ハウレーンが声をかける。メナドは体を起こして二人の姿を見ると、戸惑った表情を浮かべる。
「ハウレーン? それに、エクス将軍……。ぼくは……」
「ご心配なく。ヘルマン装甲兵なら、私たちが片付けておきましたよ」
 エクスが声をかける。メナドは首を振って、跳ね起きる。
「ぼくより、将軍、リセット様は?」
「大丈夫ですよ」
 エクスはメナドを安心させるように微笑んだ。
「私よりも信頼できる人が、向こうにはついてますから」

「きゃぁ!」
 木の根につまづいて、リセットは地面に投げだされるように転がった。
「うひゃひゃひゃ」
 けたたましい哄い声を上げながら、醜い大男がリセットの足をつかもうとする。
 デカントと呼ばれる男性モンスターである。動きは鈍いが力は強く、人間を簡単に引き裂くほどである。
 あやうくその手をかわして、リセットは立ちあがると走り出そうとした。しかし、その足が止まる。
 既に正面にも数体のデカントが回りこんでいた。さらにその後ろに、人間の男が見える。魔物使いだ。
 ヘルマンでは、人間だけではなくこうしたモンスターも軍に組み込んでいた。無論、それらのモンスターは薬物などを使って、人間の命令に従うように訓練されている。そして、そのモンスターを操るのが魔物使いと呼ばれる連中なのだ。
 既にリセットがそのモンスターに追いまわされはじめて、結構時間がたつ。捕まえようと思えば、すぐに捕まえられるにもかかわらず、だ。
 魔物使いは、獲物をいたぶって遊んでいたのだった。
「けけけっ。楽しいなぁ」
 じりじりと迫るデカント。普通の女の子ならとうに恐怖で動けなくなっている。
 リセットも、あきらめたように立ち尽くしていた。魔物使いの男は肩をすくめた。
「ここまでか。まぁ、楽しめたからいいか。捕まえろ」
 最後の一言はデカントへの命令である。デカント達は、その言葉を聞くと、一斉にリセットを囲む輪を縮めた。その可憐な姿が、無骨なモンスターの影に隠れて見えなくなる。
 と。
「さわんないでよぉっ!!」
 叫ぶ声と同時に閃光が走った。
「うおっ!?」
 とっさに目を覆う魔物使い。それでも、白い光は彼の目を灼き、視力を奪った。
 物音がすべて消え、そして静寂が辺りを包む。
 やがて、徐々に視力が戻ってくる。おそるおそる目をあけて、魔物使いは一瞬絶句した。
 普通の人間には倒すことすら難しいデカントが2体倒れていた。残りのデカントも大なり小なり手傷を負っており、無傷のものはない。
 それらのデカントの間に、リセットの方も倒れている。見たところ無傷だが、どうやら意識を失っているようで、身動きひとつしない。
 魔物使いは首をひねりながらも、とりあえず命令を出した。
「おまえ達、その小娘を捕まえろ」
 生き残ったデカントの一体が、気を失ったリセットの足を掴んで持ち上げた。逆さまにぶら下げられるリセット。
 魔物使いは、そのリセットに近寄ると、じっくりと見たが、何がわかるわけでもない。
「ま、いいか。とりあえず、連れて帰って、ネロ様に報告するとするか。へへ、カラーだからなぁ。クリスタルもらえるかねぇ」
「それは、無理だな」
 その声と同時に、一番後ろにいたデカントの体に、つぅっと縦に真っ直ぐ朱線が走った。つぎの瞬間、そのデカントは真っ二つに裂け、血を吹き出しながら左右に割れて倒れる。
 その向こうに、一人の騎士が立っていた。赤い鎧、「忠」と書かれた白いヘルメット、そして右手には深紅の長い刀身を持つ剣。
 魔物使いは、その姿を見て竦み上がった。
「お、おまえは、まさか……」
 と、その隙を突くように、木の上から赤い影が飛び降りてきた。その勢いでリセットを掴んでいるデカントの腕に切りつける。
 悲鳴を上げ、デカントはリセットを取り落として腕を押さえた。赤い影は、落下しかかるリセットを抱きとめると、一気にジャンプして騎士の後ろに降り立つ。
 そんな軽業が出来るのは忍者のかなみだけである。かなみはリセットの様子を見て、声をかけた。
「リックさん、リセット様は無事みたいよ」
 軽くうなずき、騎士はヘルメットの下からデカント達を睨んだ。
 デカントはまだ6体いる。相手は騎士一人に忍者が一人。
 だが、この場合、余りに相手が悪すぎた。
 騎士は静かに言った。
「悪いが、さっさと終わらせてもらう」
「ほ、ほざけぇ! やれぇ!!」
 最後は悲鳴のような声を上げて、魔物使いは命令した。その声を受けて、6体のデカントが一斉に騎士に殺到する。
 その瞬間、赤い閃光が走った。

「バイ・ラ・ウェイ」

 瞬時に飛び散るデカントだったもの。すでにそれはモノを言わぬ肉塊と化していた。
 魔法の長剣バイロードからくり出されるこの技で倒せぬものは魔人だけと言われる。そして、この技を使える者は、この世界にただ一人。
「ひ、ひぃぃっ」
 腰を抜かして、手でいざって逃げようとする魔物使い。
「逃がすかぁっ!!」
 シュッ!
 かなみが投げつけた手裏剣が、その不幸な魔物使いの頸動脈を切断した。大量に血を吹き出しながら、魔物使いはその場に倒れ、息絶えた。
 ほっと一息つくと、かなみはリセットの様子を改めて調べ、怪我もないことを確認してから笑顔を浮かべた。
「間に合ってよかった」
「ええ」
 騎士はヘルメットを外した。その下からは、さっきの凄絶な剣技からは想像できない、優しげな顔をした童顔の青年が現れる。
 彼こそが、赤い稲妻の異名を持つ、リーザス第2軍の将軍リック・アディスンである。
 かなみは、森の中を見まわした。
「でも、メナドはどうしたのかな?」
「友達を心配するのはわかりますが、今はリセット様を安全な場所に運ぶ方が先です」
 リックが言い、かなみはうなずいた。
「わかってます」
「それに、エクス殿も来てくれていますから」
 そう言うと、リックはかなみが背負い直したリセットに顔を近づけた。
「この方がリセット様ですか……」
「ええ。あ、そっか。リックは初めて見るんだね」
 かなみは苦笑した。
「見た目は可愛いんだけどねぇ。すっごいお転婆だって話よ。ほんとに、父娘で迷惑かけてくれるんだから」
「ふふ。そういえば、どことなくランス王の面影があるようですね」
「やめてよ」
 げげーという顔で天を仰ぐと、かなみは歩きだした。
「とにかく、陣地まで急ぎましょ」
「はい」
 リックはヘルメットを被りなおすと、油断なく辺りに注意を払いながら、かなみの後について歩きだした。

 いずことも知れぬ場所。
 水晶玉に映しだされているリック達を見ていたその男はいまいましげにつぶやいた。
「さすがはランスの娘。強運がついているな。だが……」
 言葉を切ると、その男はにやりと笑った。
「ランス。貴様にも味あわせてやる。この私が味わった屈辱をな。くっくっく。はっはっはっはっは!」
 けたたましい笑いを上げる男。
 水晶玉には、かなみの背中ですやすやと眠っているリセットの顔が映しだされていた。

 クリスタルの森の出口に作られているリーザス軍の陣地で一同が顔を合わせることが出来たのは、午後になってからだった。
「ご迷惑をおかけしまして、もうしわけありませんでしたっ!」
 まだ眠っているリセットを除く一同は、今後のことを協議するために部屋に集まった。その場で開口一番にメナドが立ちあがって頭を下げたのだった。
「ぼくがちゃんと報告していれば、リセット様を危険な目に合わせることも無かったんです。責任はぼくにあります!」
「確かにそうですね。リセット様の身に何かあった場合、リーザスとカラー族の関係は崩れます。それが世界に及ぼす影響を考えると……。今、あやういバランスの上に成り立っている平和が崩れ、世界はまた戦争になるかもしれません。それを考えると、メナドの振る舞いは著しく配慮を欠いた、と言われても仕方ないでしょう」
 静かな声で、エクスが言う。
「でも、それは……」
 メナドの親友でもあるかなみが、メナドを弁護しようと立ちあがるが、メナドは首を振った。
「かなみちゃん。エクス将軍の言う通りだよ」
「だけど……」
 エクスは、リックに視線を向けた。
「リック。メナドは赤軍の副将だから、当然赤軍の将軍である君が彼女に処分を下すことになる。どうするつもりだ?」
「……」
 リックは厳しい顔をして、黙ってメナドを見つめた。
 メナドは、微かに震える声で、それでもはっきり言った。
「どんな処分でも、受ける覚悟はできています」
「メナド!」
 思わず声を上げるかなみ。
 と。
「メナド、こんなところにいたぁ」
 唐突にドアを空けて、リセットが入ってきた。
「リセット様……?」
「もう。目が覚めたら誰もいないし。捜したんだぞぉ」
 そう言いながら、リセットはメナドに駆け寄ると、そのまま抱きつく。思わず聞き返すメナド。
「捜したんだぞって……」
「リセット様、部屋の外に見張りの兵士がいたはずですが……?」
 エクスが声をかけた。リセットは小首を傾げる。
「部屋の外? あ、そーいえば誰かいたかも」
「いたかもって……」
 そこにハウレーンが駆け込んでくる。
「失礼! エクスさま、大変です! リセット様がいなくなりました。見張りの者は魔法で眠らされており……。リセット様?」
「えへへ〜」
 にまぁっと笑うリセットに、エクスは末恐ろしいものを感じていた。
(この歳で魔法を……。さすがランス王のご息女と言うべきか……)
 と、不意にリセットはエクスに視線を向けた
「ところで、おじさんだれ?」
 ガガーン
 ショックの余り、文字通り白くなるエクス・バンケットであった。慌ててメナドが言う。
「リセット様。こちらはリーザス第4軍の指揮を取っていらっしゃるエクス将軍です。それからこちらが、第2軍のリック将軍」
「こんにちわ、リセット様。リック・アディスンです。以後、お見知りおきを」
 こちらは笑顔で頭を下げるリック。リセットは笑顔でこくこくとうなずいた。
「うんうん。知っててあげるね」
「光栄です」
 もう一度頭を下げると、リックは厳しい表情に戻してメナドを見る。
「メナド、赤軍の将軍として今回の件に対する処分を下す」
「はい」
 ぴしっと背筋を伸ばすメナド。リセットはきょときょとと二人を見比べていた。
 リックは、静かに告げた。
「メナド。君を赤軍副将から解任する」
「リック将軍!!」
 かなみが抗議の声を上げた。ハウレーンもうなずく。
「信賞必罰は騎士の習いとしても、それはいささか厳しすぎるのではありませんか?」
 リックは片手を上げた。
「最後まで聞け。メナド、君はこれからリセット様をお守りして、リーザス城までお連れするんだ」
「え? それは、そのつもりですけど……」
「赤軍の副将のままで、できることじゃないだろう? 君とかなみの報告を総合すると、どうやらクリスタルの森の周りに、旧へルマン帝国の残存兵がいるようだ。我々赤軍は白軍と協力してそいつらを掃討しなくちゃならない。そうなると、リーザス城に帰れるのはいつになるかわからないからな」
 そう言うと、リックは優しく微笑んだ。
「メナド、リセット様は頼んだぞ」
「リック将軍……。は、はい。ありがとうございます!」
 メナドはぺこりと一礼した。
 かなみは、なおもリックにくってかかる。
「でも、副将を解任するなんて……」
 そこに、「おじさん」発言からようやく立ちなおったらしいエクスが口を挟んだ。
「リック、それならメナドは白軍にくれないかな? これだけ有能な人材は、ぜひとも我が白軍の副将として取り立てたいんだが」
「残念ながら。これだけ有能な人材は、ぜひ赤軍の副将に戻ってもらわないと」
 涼しい顔で答えるリックに、「やっぱりな」という顔で笑うエクス。
 かなみはハウレーンと顔を見合わせて、苦笑した。
(手の込んだことするんだから、お二人とも……)
(まったくな……)

 こうして、クリスタルの森の周辺で大規模な旧へルマン帝国の残存兵の捜索と掃討をリーザス赤軍と白軍が協力して行うことになった。
 そして、メナド・シセイと見当かなみの二人は、その一団から別れて、リセットを連れてリーザス城に向かうことになった。
 だが、メナドもかなみも、そしてリセット本人も、まだその旅路で何が起こるのか、知る由もなかった……。

《続く》

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