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Pia☆キャロットへようこそ2014 
Sect.42-A



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「ま、1日4時間でいいんじゃねぇの? どうせ紙の上の話だし」
 七海がそう言うと、更紗ちゃんが頷いた。
「それでは、1日4時間のお勉強を、適当にスケジュールに入れればいいんですね?」
「そういうこと。細かいことは任せた」
 ひらひらと手を振る七海。
 志緒がぷーっと膨れた。
「もう、七海ちゃん、そんなことじゃいけないとボクは思いますっ」
「まぁまぁ、志緒ちゃんも、押さえて押さえて」
 俺が志緒ちゃんをなだめに入っていると、ドアが開いて、私服に着替えたかおるが入ってきた。
「お待たせ〜って、なんでみんなも?」
「あら〜、お邪魔でしたかしらおほほほほ」
「……七海ちゃん、キャラ変わってる」
「なんか志緒、あたいにやたらツッコミ入れてくるね〜」
 七海は腕組みして、じろりと志緒を睨んだ。志緒ちゃんは素早く俺の後ろに隠れる。
「恭一〜、七海たんがボクをいじめる〜」
「誰が七海たんだっ!」
「俺に迫るなっ!」
 大騒ぎする俺たちをよそに、更紗ちゃん、さくらちゃん、そして話を聞いたかおるの3人が、スケジュール表をちょいちょいと修正していく。
「えっと、これをこっちにずらして……」
「あ、なるほど。さすがかおるちゃん、やりくり上手ね〜」
「ほんとうですね〜」
「そ、そんなことないよ〜。えへへっ、もうやだなぁ、2人っともぉ〜」
 照れ照れとにやけるかおる。
 と、ドアをノックする音がして、涼子さんが顔を出した。
「みんな、いつまでおしゃべりしてるのかしら? そろそろ閉めるわよ」
「はぁ〜い」
「あ、涼子お姉さま、スケジュール表直しましたっ!」
 さくらちゃんがしゅたっと手を上げて言うと、テーブルの上に広げていた表を持って駆け寄る。
 ごたごたともめていた俺や七海も、その瞬間動きを止めていた。
 沈黙の中、さくらちゃんは涼子さんにスケジュール表を手渡す。
「あら、ご苦労様。どれどれ?」
 涼子さんはスケジュール表に視線を走らせて、一つ頷く。
「よろしい。それじゃ、ちょっとコピー取らせてもらうわね」
「はいっ、どうぞ」
 大きく頷いて、さくらちゃんは踵を返した涼子さんを見送った。それから振り返って、俺たちの視線に気づく。
「あ、あれ? みんな、どうしたの?」
 志緒ちゃんが、一つ息を吸い込んでから、尋ねる。
「さくら、今の……、涼子お姉さまって、いったい?」
「えっ?」
 さくらちゃんは、はっと口を押さえてから、あさってのほうに視線をそらす。
「えーっと、それじゃ私、そろそろ終電だから上がります〜。お先に失礼しま〜す! そそくさ」
 がしっ、とその肩を掴む志緒ちゃん。
「さくら〜、終電にはまだ1時間あるよ〜。それに、お兄ちゃんもまだここにいるから、帰りは気にしなくてもいいんだよ〜」
「えーと、えーと……」
「あれ? みんなどうしたんだい?」
 そこに、声が聞こえたのか、私服姿に着替えた店長さんが入ってきた。
 さくらちゃんが、素早く店長さんの後ろに隠れる。
「わぁん、お兄ちゃん、志緒ちゃんがいじめる〜」
「わわっ、ボクそんなことしてないよっ!」
 慌てる志緒ちゃん。
 と、そこに涼子さんが戻ってきた。
「みんな、お待たせ。……って、どうかしたの?」
「さぁ、僕にもさっぱり判らないんだが……」
 さくらちゃんを背中に貼り付けたまま、肩をすくめる店長さん。と、その視線を涼子さんの持っている紙に止めた。
「ああ、それがスケジュール表?」
「はい。あ、店長の分もコピーしておきましたから、どうぞ」
 涼子さんは、1枚を店長さんに渡した。
「ありがとう。それじゃこれは後で見させてもらうとして、さくら、志緒、そろそろ僕は帰るけど、乗っていくかい?」
「はーい」
 声をそろえて答える2人。さすが双子、息が合ってるなぁ。
「それでは、わたくしも失礼いたしますね」
 ぺこりと頭を下げると、更紗ちゃんは腰を上げた。
 七海が俺たちに言う。
「それじゃ、あたい達も帰るかな」
「そうね」
 かおるは頷いて、涼子さんに視線を向ける。
「涼子さんももう上がりですよね。一緒に帰りませんか?」
「ええ、いいわよ」
 涼子さんは頷いた。

 4人で雑談をしながら、寮の前まで来たところで、不意に涼子さんが足を止めた。
「そういえば、恭一くん」
「あ、はい、なんですか?」
 俺も足を止めて、聞き返す。
「みんなで海に行くのはいいんだけど、恭一くんって泳げるようになったのかしら?」
「……そ、それにつきましてはですね、鋭意努力させて頂きます」
 冷や汗を後頭部に感じながら答える。と、不意に後ろから肩を叩かれた。
「大丈夫。あと2日あるもんね、恭一」
「かおるさん、まさかとは思うけど……」
「ここんとこ、ごちゃごちゃして忘れてたけど、明日から特訓再開よっ!」
 びしっと夜空を指さして言うかおる。
「恭一、あの星に誓って、泳げるようになりなさいねっ」
「どこに星がある、どこにっ!」
「えっと……、ほら、そっちの方にあるかも」
 解説しておくと、こんな都会の夜空では、晴れていたとしても、街が明るいのと空気が濁っているのとで、ほとんど星は見えない。
「というわけで、星空を見るべくプラネタリウムにデートに行かないかい、かおる?」
「えっ?」
 ぽっと赤くなると、つんつんと指をつつき合わせるかおる。
「そ、そんな急にそんなこと言われたってぇ……なんて誤魔化されると思ったかぁっ!!」
 うーん、流石に無理か。
 と、不意に七海が俺たちの肩をがしっと掴むと、小声でささやいた。
「お前ら、仲がいいのも結構だけどさ、涼子さんの目の前だぞ」
 しまった、そうだった。
 俺は慌てて一歩離れると、涼子さんに向き直った。
「えーとですね、そんなわけで不肖私はまだ泳げないので、明日から猛特訓する所存でありますっ」
「ふぅん、そうなの。とっても仲が良いのね、二人とも」
 うわ、なんだか怒ってらっしゃいますか?
 と、不意に救いの神の声が聞こえた。
「あらぁ? 道の真ん中で何やってるかと思ったら、みんなじゃないの?」
 そう言いながら、通りの向こう、コンビニの方から歩いてきたのは、Tシャツにジーンズ姿の葵さんだった。手に下げているコンビニのビニール袋の中に何が満載されているかは、推して知るべし。
「葵? 太刀川店の寮じゃないの?」
 涼子さんに尋ねられて、葵さんはけらけらと笑う。
「あたしは明日休みだからね〜。ちょっと様子を見にこっちに来たってわけ。あ〜、それともまさか、涼子、もうあたしの部屋は無いって言うの? よよ〜、人生紙吹雪ね〜」
「もう、そんなわけないでしょ?」
 最後は泣き真似する葵さんに、涼子さんは苦笑した。
「あ、先に言っておくけど、私は明日も仕事だからね」
「大丈夫大丈夫。そこそこで切り上げるから」
 ウィンクすると、鼻歌を歌いながら寮に入っていく葵さん。
 涼子さんは苦笑した。
「まったく、葵ったら。あ、それじゃみんな、お休みなさいね」
「はい、お休みなさい」
 俺たちは声を揃えて頭を下げた。

「それにしても、今頃下じゃ大変だろうなぁ」
「下って、葵さん達?」
 Tシャツを頭から抜きながら、かおるが聞き返す。
 俺は頷いた。
「そういうこと」
 かおるも、スカートのホックを外しながら、しみじみと頷く。
「そうね……。ま、あたし達にお呼びが掛からなかったのは助かったって言うべきかな」
「身代わりになってくれたあずささんには、感謝しないとな」
 あのままだと、俺やかおるも宴会にそのまま呼ばれかねない状況だったのだが、運良くそこで涼子さんが、あずささんが明日休みだったことを思い出し、俺たちはそのまま放免されたのだった。
「……ところで、ふと思ったんだけど、恭一」
「うん、どした?」
「あんた、なんであたしの部屋に平然と入ってきてるわけ?」
 そう言われてみれば、ここはかおるの部屋であった。
「なんでだろ? というか、お前も何を平然と着替えを始めてるんだよ?」
「わきゃっ!」
 下着姿になっていたかおるが、俺の指摘に慌ててベッドからシーツを剥がし、自分の身体に巻き付ける。
「えっち!」
「いや、俺は何も言ってなかったけど」
「何も言わないのが悪いのっ! そういうときはもっと早く言いなさいよっ」
「そんな無茶苦茶な……」
 俺は肩をすくめて、立ち上がった。
「ど、どこに行くのよ?」
「いや、自分の部屋に帰ろうかな、と……」
 そう言って背を向けた俺の手が、ついっと引っ張られた。
 振り返ると、ベッドから降りてきたかおるが、シーツの間から手を伸ばして、俺のシャツの裾を掴んでいた。
「かおる?」
「……うん」
 かおるは、真っ赤になってこくんと頷いた。
「いいよ、恭一……」
 こういうとき、すぐに気の利いたセリフが出てくるなら、どんなにいいだろうか。
 そう思いながらも、俺は振り返って、かおるを抱きしめていた。

 大きく深呼吸を繰り返しているうちに、激しかった動悸も収まってきたので、俺はそのままベッドに身体を預けた。
 隣から聞こえていたかおるの息づかいも、同じように収まってきている。
「で、少しはかおるも気持ちよくなってきた?」
 ようやくあっちの方は、まぁ少しは慣れてきたかな、と自分で思いながら尋ねてみると、案の定怒られた。
「馬鹿っ。もうちょっとデリカシーってモノを持ちなさいよね」
「いや、でも、いつまでも俺ばっかりっていうのも悪いし」
 ぽりぽりと頭を掻きながらそう言うと、かおるは赤い顔をしてシーツの中に潜り込んでしまった。
「……今日は、そんなに痛くなかったよ」
「え?」
 シーツの下からごにょごにょと言われたので、聞き取れなかった。
「もう言わない。お休みっ」
 まぁ、元気そうだから、いいか。
 そう判断して、俺も頷いた。
「お休み、かおる」
 と、かおるが俺の背中にそっと身体をすりつけてきた。
「2人で寝るには、狭いね、このベッド」
 もともと1人用のベッドなんだから、狭いのは当然なんだが。
「だから、ひっついててもいいよね」
 まぁ、かおるに言わせれば、乙女には言い訳が必要なのよ、というあたりだろう。
 それが判ったので、俺も小さく笑って言い返した。
「狭いんだから、しょうがないよな」
「うん」
 嬉しそうに、かおるは頷いた。


To be continued...

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あとがき

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