Pia☆キャロットへようこそ2014
Sect.40-A
俺とかおるが休憩室でまかないの夕食をとっていると、ドアをノックする音がして、更紗ちゃんが顔を出した。
「あら、恭一さん、かおるさん、お食事の最中でしたか」
「や。更紗ちゃんも?」
「はい。それでは、失礼いたしますね」
更紗ちゃんは、プレートを片手に、休憩室に入ってきた。それから、俺の隣に腰掛けると、プレートをテーブルに置きながら尋ねた。
「そうそう、お聞きしたいことがあるんですが」
「なに、更紗ちゃん?」
かおるが小首を傾げて聞き返す。
「はい。お盆休みのことなのですが……」
「お盆休みって、何かあったっけ?」
「えーっと……」
俺とかおるは腕組みして考え込んだ。そして、ほぼ同時にぽんと手を打つ。
「更紗ちゃんの別荘に行くって話かっ!」
「そうそうっ! それよそれっ! ここんところ忙しくて忘れてたっ!」
「憶えていて頂いてよかったです〜」
おっとりと笑う更紗ちゃん。
俺はかおるに尋ねた。
「別荘の話って、仕切ってたのは七海だろ?」
「うん。でも、今日七海ちゃんお休みだよね」
「ああ。更紗ちゃん、何か問題でも起こったの?」
「いえ、そういうわけじゃないですよ。ただ、そろそろ何人行くかはっきりさせないといけませんし……」
更紗ちゃんに言われて、かおるが指を折る。
「ええっと、あたしと恭一、七海ちゃん、翠さん、よーこさんが確定してるはずだけど……」
「木ノ下姉妹には、もう聞いたのかな?」
「ボクのこと呼んだ?」
ちょうどその時、ドアを開けて志緒ちゃんが入ってきた。
「あ、志緒ちゃん。さくらちゃんは?」
「うん、一応家にいたんだけど……」
志緒ちゃんは頬に指を当てた。
「なんだかちょっと様子が変だったみたい。何かあったのかな?」
「……あはは」
俺とかおるは、顔を見合わせて苦笑した。めざとくそれに気づいた志緒ちゃんが、俺たちに尋ねる。
「何か知ってるの?」
「まぁ、涼子さんにお説教されてたみたいだから、そのせいじゃないかな。あはは」
「そうそう。あははっ。あ、それよりも、志緒ちゃん、七海ちゃんから、更紗ちゃんの別荘に行く話、聞いてる?」
かおるが話をそらした、というか戻した。
「あ、うん、聞いてるけど、ごめん」
志緒ちゃんはぺこりと頭を下げた。
「お盆は、お墓参りに行かないといけないから」
「そっか。それじゃしょうがないね」
かおるはうんうんと頷いた。
俺は尋ねる。
「かおるは、いいのか?」
「あたし? うん、お母さんは行くと思うけど、あたしは……」
かおるは、言葉を切った。
「あたし、お父さんのことは全然憶えてないし……」
「……悪い」
手を伸ばして、俺はかおるの髪に手を掛けた。
「ううん」
首を振ると、かおるは明るく言った。
「それじゃ、更紗ちゃん、お世話になるのは5人ってことでいいと思うけど、念のために七海ちゃんに電話して聞いてみた方がいいかもしれないね」
「はい、判りました」
更紗ちゃんは微笑んで頷いた。
志緒ちゃんが残念そうに言う。
「でも、いいなぁ〜。海辺の別荘かぁ……。やっぱ、ボクだけでもお墓参りはぶっちして行っちゃおうかなぁ」
「そりゃ駄目だってば」
「いや、そういうことなら僕は構わないと思うけどね」
不意に声が聞こえた。驚いて視線をそちらに向けると、ドアのところに店長さんが立っていた。
「お兄ちゃん、それホント?」
志緒ちゃんが瞳をキラキラさせながら立ち上がる。
店長さんは頷いた。
「ああ。墓参りって言っても、僕の方の母親の墓参りだしね」
そういえば、店長さんと志緒ちゃん達は、確か母親が違うんだっけ。
「今までは志緒達にも来てもらってたけど、他に予定があるんなら、そっちを優先してもらっても構わないと僕は思ってるよ。うん、今日帰ったら、志保さんや親父にも話をしてみてあげるよ」
「お願いね、お兄ちゃん。やったーっ!」
大喜びでピョンピョンとはね回る志緒ちゃん。その喜びようを見ていると、思わず俺たちまでうれしくなってしまうくらいだ。
更紗ちゃんは、そんな志緒ちゃんを微笑んで見ていたが、不意に言った。
「それじゃ今日は、わたくしも寮の方にお邪魔させてもらいますね」
「へ?」
「スケジュール表を作らないといけませんから、七海さんと打ち合わせもしないといけませんし……」
「スケジュール表?」
「ああ、それは僕が頼んだんだよ。何かあったときに備えてみんなの行動は把握しておきたいから、大まかなものでいいから僕のところに出してくれってね」
店長さんは、笑顔で言った。
かおるが笑う。
「店長さんと言うよりは、涼子さんが言い出しそうな話ですね」
「……鋭いね、かおるちゃん」
「こいつはいらんところばっかりするどぉぉっ!」
「あんたも、いらんことばっかり言わないの」
店長から見えない角度で俺の足を踏みつけながら、小声で言うかおる。
「うん? どうしたんだい、恭一くん?」
「もう、恭一ったら。そんなに急いで食べるから、喉に詰まったりするのよ」
わざとらしく俺の背中を撫でながら言うかおる。くそ、あとでお仕置きしてやる。
「まぁ、大丈夫ですか、恭一さん?」
「うん、大丈夫。ね、恭一?」
かおるに笑顔で聞かれて、俺はこくこくと頷いて見せた。
それで安心したらしく、更紗ちゃんは、言葉を続けた。
「明日でもいいのですけれど、あまり遅くなると、何かあったときが大変ですから」
「そうよね。うん、それじゃ志緒ちゃん、そっちがどうなったか、後で電話してくれないかな?」
「了解っ。七海さんのところでいいの?」
「うん。そうね……、12時くらいまでなら起きてると思うから」
「うん、わかったよっ」
俺が足の痛みに耐えているうちに、あっという間に話はまとまってしまった。こういう時に仕切り上手なヤツがいると助かるというものだ。
「……なに、恭一?」
「いや、なんでも」
寮の前に黒塗りのリムジンが音もなく停車した。
運転していた有田さんが、自然な身のこなしで路上に降り立つと、更紗ちゃんの横のドアを静かに開く。
「お嬢様、どうぞ」
「ありがとうございます」
更紗ちゃんは軽く頭を下げてリムジンから降りる。
続いて、寮までの道案内ということで同乗させてもらっていた俺とかおるも、リムジンから降りる。
道案内って言っても、俺たちが一言も案内しないうちにリムジンはここまで着いてしまったのだが。有田のじいさん、この辺りの地図は頭の中に入っているに違いない。
更紗ちゃんは、ドアを閉めている有田さんに声を掛けた。
「それでは、そうですね……、15分ほどお待ち頂けますか?」
「はい、承知致しました」
慇懃無礼っていうのだろう。恭しげに頭を下げる有田さんを残し、更紗ちゃんは俺たちの方に向き直った。
「それでは、案内をして頂けますでしょうか?」
「喜んでお役目仕りまたぁっ!!」
「何、いきなり丁寧語になってんのよっ!」
思い切り俺のつま先を踏みつけてから、かおるは笑顔で言った。
「それじゃ、七海ちゃんの部屋はこっちだから」
「はい、よろしくお願いしますね」
にっこり笑う更紗ちゃんを案内して、かおるが寮に入っていく。
このまま痛がっていると、有田のじいさんとこの場に2人で取り残されることになるので、俺も慌ててかおるの後を追いかけた。
受話器を置くと、七海はにっと笑って言った。
「オッケーだってよ、志緒とさくら」
「良かったですね。それじゃ、わたくしを含めて8人ということで、よろしいですね」
「ああ、そうだな」
七海は頷いて、時計を見た。
「さて、と、もう11時半か。スケジュール表も出来たことだし、更紗はそろそろ帰らないといけないだろ?」
「あ、そうですね。それでは、お先に失礼致しますね」
更紗ちゃんは深々と頭を下げると、立ち上がった。
「それじゃ、俺たちも部屋に帰るか。な、かおる?」
「うん、そうね」
かおるも頷いて立ち上がった。
七海の部屋を出ると、エレベーターで降りるという更紗ちゃんと別れ、俺たちは階段を上がって部屋に戻った。
「……って、なんであんたまであたしの部屋に来てるのよっ!」
「いや、何となく」
「とっ、とりあえず、あたしシャワー浴びるからっ」
そう言い残して、かおるはバスルームに飛び込んでいった。
何となく手持ちぶさたになって、俺はかおるのベッドに座ってみる。
ん〜、まったり。
そのまま、横になって、天井を見上げた。
なんていうか、ほわんといい匂いがする。
目を閉じると、俺はそのまま、心地よい眠りの世界に引きずり込まれていった。
あ、あれ?
目を開けてみると、窓からは白い光が差し込んで来ていた。
壁の時計を見てみると、午前6時をちょっと過ぎた辺り。
隣からは、規則正しい寝息が聞こえてくる。
そっちに視線を向けると、かおるが俺の腕を抱き込むようにして、眠っていた。
辺りを見回すと、どうやらここはかおるの部屋らしい。
ようやく、脳細胞がまともに動き始めて、俺は状況を理解した。
つまり、かおるの部屋で一晩過ごしてしまった、と。しかも何もしないで。
いや、それを期待して……無かったって言えば嘘だけど、ええと何を言いたいんだ俺は?
と、かおるが不意に目を開けた。
「……うん?」
「や、やぁ」
軽く手を上げて、さわやかな朝の挨拶をしてみせる俺。
「……うーん」
かおるは、そんな俺にしばらく眉根を寄せて唸っていたが、不意にがばっと体を起こした。
「あんたねっ! 乙女が決心して出てきてみたらぐーすか寝てるってどういう了見よっ!!」
「乙女?」
思わず部屋を見回す俺。
「どこ?」
「バーニングかえんれんきゃくっ!!」
再び意識を失って、ベッドに崩れ落ちる俺だった。
To be continued...
あとがき
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