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Pia☆キャロットへようこそ2014 
Sect.37-A



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「でも、急に朝からこっちに来るなんてどうしたの? 昨日はそんなこと言ってなかったじゃない」
 テーブルの前にちょこんと座った美奈さんの前に、麦茶を入れたグラスを置きながら、あずささんは訊ねた。
「ありがとう、お姉ちゃん」
 礼を言って、麦茶を一口飲むと、美奈さんは、じろりとあずささんに視線を向けた。
「お姉ちゃん、耕治さんの隣に座ってください」
「ミーナ、急に何?」
「いいから、座ってください」
「は、はい」
 美奈さんの声に、あずささんは慌てて前田さんの隣に座った。
「これでいいの?」
 聞き返すあずささんには直接答えず、美奈さんは言った。
「昨日の夜、涼子さんから電話をもらったんですよ」
 そこで言葉を区切ると、前田さんに視線を向ける。
「耕治さん」
「な、なにかな、美奈ちゃん?」
 その声音に、居住まいを正す前田さん。
 美奈さんは、そんな前田さんを睨むようにして、言った。
「涼子さんに、教えちゃったんですね? 美奈が結婚するって」
 そういえば、俺達も、昨日耕治さんから聞いて初めて知ったんだっけ。
「あ? あ、いや、それはその、ついポロッと……。でも、隠すようなことでもないんだし」
「ええっ? 涼子さんに話しちゃったの!?」
 言い訳モードに入ろうとした前田さんの隣で、あずささんが声を上げた。そして、首を90度曲げて、隣の前田さんにくってかかる。
「何考えてんのよ! ミーナがいつ打ち明けようかって真剣に悩んでたことを、あんたはっ!」
「あ、お姉ちゃん、美奈は別に耕治さんを怒ってるわけじゃないですよ。いずれは話さなくちゃいけないことだし、いいタイミングだったかも知れないですし」
 慌てて言葉を挟む美奈さん。
「でも……」
「それよりも、です」
 なおも何か言おうとしたあずささんを遮るようにして、美奈さんは2人に視線を向けた。
「お姉ちゃん、耕治さん、今度はなんで喧嘩したんですか?」
「えーっと、それはその、だね……」
 頭を掻くと、前田さんはあずささんを肘でつついた。
「な、なによ、耕治くん?」
「あずさ、そっちから説明してくれ」
「なっ、なんであたしからそんなこと説明しないといけないのよっ」
「……お姉ちゃん」
 美奈さんの冷たい声に、膝立ちになって前田さんに言い返していたあずささんがはっと我に返る。
「あ、ご、ごめん、ミーナ」
「説明してください」
 うわ、美奈さんってこんな冷たい声出せるんだなぁ。
 変なことで俺が感心している間にも、あずささんは、ぼそぼそとしゃべり出した。
「それは、その、耕治くんが悪いんだから」
「なんで俺が……」
「耕治さんも口を挟まないでください」
「……はい」
 美奈さんにびしりと言われて、こちらも膝立ちになりかけた前田さんは、慌てて座り直す。
 続いて、あずささんに視線を向け直す美奈さん。
「お姉ちゃんも、いきなり結論から入らないでください。それじゃ、美奈、さっぱりです」
「だ、だってミーナ、ほら、みんなもいるし」
 そう言って俺達の方に視線を巡らせるあずささん。
 でも、美奈さんは首を振った。
「良い機会ですから、みんなにも聞いてもらいます。さぁ、お姉ちゃん」
 ずいっと迫る美奈さん。
 あずささんは、かぁっと赤くなりながら俯いた。
「だ、だって、今月に入ってから耕治くんの帰りがずっと遅いんだもん……」
「だから、それは仕事が忙しいからだって! あずさだって、判ってるだろ?」
 言い返す前田さんに、あずささんが視線を向ける。
「それにしても、毎日午前様ってどういうことなのよ? それに、あたし留美さんから聞いたんだから」
「誤解だってあの時も言っただろっ!」
「何が誤解よっ!」
 2人は同時に膝立ちになって、睨み合った。
 俺は、同じように唖然としてそんな2人を見ていたかおるに、小声で訊ねた。
「かおる、いつもこんな感じなのか?」
「そ、そんなこと言われても、あたしだって実際に喧嘩してるのは初めてだもん」
「喧嘩してるのを見たのは、だろ? この現国赤点娘」
「なにようっ、数学赤点男っ!」
「おいおい、お前らまで喧嘩してどうする?」
 七海が呆れた声を上げて、俺とかおるははっと我に返って、慌てて座り直した。
 そんな俺達にも気付かない様子で、声を上げる2人。
「だいたい、なんで8号店につかさちゃんを引っ張っていったのよっ! それに4号店からもウェイトレスを引き抜いたって話じゃないっ」
「それだって俺が決めたんじゃなくて、ちゃんと木ノ下オーナーに話を通したって言ったじゃないか!」
「あたしは聞いてないわよっ!」
「そんなこと一々お前に言うことじゃないだろっ!」
「なんでよっ!」
 うわ、ホントに修羅場だ、こりゃ。
 思わず腰を引き気味になる俺達。
 なぜかよーこさんだけは、のほほんとお茶を飲んでいたりするけど。
「ふぅ、お茶が美味しいデス」
 と、不意に、バァン、とテーブルが叩かれた。その勢いで、上に乗っていたグラスが跳ねるくらい。
 さすがに驚いたらしく、言葉を止める2人。
 俺達も、そのテーブルを叩いた人に視線を向ける。
 その人……美奈さんは、ゆらり、と立ち上がった。
「もう、耕治さんもお姉ちゃんも、いい加減にしてくださいっ」
「……はい」
「ご、ごめん、ミーナ」
 腰に手を当てて、めっ、と2人を睨む美奈さんの前で、あずささんと前田さんは正座して小さくなる。
 美奈さんは2人の返事を聞いて、ふぅと肩をすくめる。
「お姉ちゃん、前田さん、前にも美奈と約束しましたよね? もう喧嘩はしないって」
「そ、そうだったかしら?」
「それも、何回もしました」
「あ、そ、そうだったかな、美奈ちゃん? あはは」
「耕治さん、笑ってもダメです」
 頭の後ろに手を当てて、乾いた笑い声をあげた前田さんを、じろりと睨む美奈さん。
 途端に、しゅんとなる前田さん。
「……ごめんなさい」
 美奈さんは、はぁ、とため息を付いて、少し口調を和らげた。
「2人とも、もう喧嘩しないって、美奈と約束したのは何回か、憶えてますよね?」
「えっと、4回目かな、あずさ?」
「5回目、かも」
 顔を見合わせて、指を折る2人。
 バンッ、ともう一度テーブルを叩くと、美奈さんは再噴火した。
「7回目ですっ!!」
「あう」
「そ、そうだったかな? あっはっは」
「あっはっは、じゃないですっ」
「ご、ごめん」
 びしっと言われて、前田さんは頭を掻いた。
 そんな2人を見て、美奈さんは表情を和らげた。それから、あずささんに向き直る。
「お姉ちゃんも、もっと耕治さんを信じてあげてくださいね。確かに、前に耕治さんもいろいろと信用なくすことをしてたのは、美奈も知ってますけど」
「み、美奈ちゃ〜ん」
 情けない声を上げる前田さんを無視して、美奈さんは言葉を続けた。
「でも、今回はほんとに仕事が忙しかったんですよ。それは涼子さんも保証してくれました」
「涼子さんが?」
「はい。今度、太刀川店が出来ることは、お姉ちゃんも知ってますよね? 2号店から葵さんが行くんですけど、耕治さんの8号店からもベテランさんがそっちに移籍するんで、耕治さん、その分仕事が増えちゃって大変だったんだって」
「そ、それならそう言ってくれれば……」
 ごにょごにょと呟くあずささん。
 美奈さんは、前田さんの方に視線を向けた。
「耕治さんも耕治さんです。ちゃんとそれをお姉ちゃんに話してあげれば良かったんですよ」
「いや、でも仕事の話を家に持って帰るっていうのもあれだしさ……」
 また頭を掻く前田さんに、美奈さんはため息をつく。
「耕治さん、そんなんだからお姉ちゃんに疑われるんですよ。そりゃ確かにお姉ちゃんは人当たりきついし、人の言うことを聞かなかったり、自分一人で完結しちゃったり、思いこみが激しかったりするところありますけど……」
「ミ、ミーナ〜」
 今度はあずささんが情けない声を上げるが、美奈さんは再び無視して言葉を続けた。
「でも、寂しがりで、甘えんぼさんで、美奈の大好きなお姉ちゃんなんです」
「……ごめん、美奈ちゃん」
 前田さんは、頭を下げた。
 そんな前田さんの様子に、美奈さんはぱっと笑顔に戻ると、ぽんと手を合わせて言う。
「はい、それじゃ2人とも、みんなの前で仲直りしてくださいね」
「え? ちょ、ちょっとミーナ、何言って……」
「し・て・く・だ・さ・い・ね」
「わ、わかったわよ」
 ぐいっと顔を近づけて、一語一語区切るように言う美奈さんに、あずささんは腰を引き気味にして答えた。それから、前田さんの方に向き直る。
「えっと、あの、あたしも悪かったわ。ごめん、耕治くん」
「そうだな……」
「そうだなぁ?」
 顔を上げてじろりと睨むあずささんに、前田さんは慌てて手を振る。
「あ、いや、ごめん、俺も悪かった」
「本当に、そう思ってる?」
「ああ、もちろん。これからは、ちゃんとお前にも説明するから」
「うん。あたしも、耕治くんの言うこと、信じてみることにする」
 なんかちょっと持って回った言い方だなぁ、と思う。
 美奈さんは、ぽん、ともう一度手を叩いた。
「はい、これで元通りに仲直りですね。それじゃ、美奈、お茶入れ直して来ますね」
「あ、あたしも手伝うわね」
 あずささんも立ち上がった。
 2人がキッチンに行くと、前田さんはずっと正座していた足を崩して、俺達に苦笑して見せた。
「みっともないところを見せちまったな」
「おにいちゃん、いまさらハードに決めて見せようとしても無駄だよ」
 情け容赦ないかおるのツッコミに、前田さんはかくんと肩を落とした。
「かおるちゃん、そりゃないよ〜」
 と、キッチンから美奈さんがこっちに視線を向ける。
「みんな、朝ご飯まだですよね?」
「あ、俺とかおるはまだです」
「あたいもまだ食べてないけど」
「私もデス」
 七海とよーこさんも声を上げた。美奈さんは頷いた。
「判りました。それじゃ美奈とお姉ちゃんで朝ご飯作りますから、食べていってくださいね」
「ええっと、みんなまで巻き込んじゃったから、その、お詫び代わりに、ね」
 美奈さんの後ろで、照れてるらしく明後日の方を見ながら言うあずささん。
「でも、悪いですよぉ」
 一応、遠慮してみせるかおるに、前田さんが笑って言った。
「まぁまぁ。ああ見えてあずさの奴、料理はうまいぜ」
 かこんっ
「がはっ」
「ああ見えてって、どういう意味よ、耕治くんっ」
 言葉より先に飛んできたおたまが、前田さんの頭に直撃していた。
 頭を押さえていた前田さんが、床に落ちたおたまを拾い上げると、あずささんに食って掛かる。
「なにすんだっ! 当たり所が悪かったら死ぬぞっ!!」
「それくらいなによっ。あんたが変なこと言うから悪いんでしょっ!」
「俺は誉めたんだぞっ!」
「誉め言葉になってないでしょっ!」
「もうっ! 2人ともっ!! いい加減にしないと朝ご飯抜きですよっ!」
「……ごめんなさい」
 俺は、美奈さんに怒られている2人を見て、かおるに囁いた。
「これからは、美奈さんには絶対逆らわないようにしないといけないな」
「うん。あたしもそう思った」
 かおるも、こくこくと頷いた。

 ちなみに、前田さんの言うとおり、あずささんと美奈さんの作ってくれた朝食は絶品で、全員が満足した。
「うーっ、あたしだって練習したらもっと美味しく出来るもん」
 若干1名、対抗心を燃やしている奴もいたけれど。

「……というわけで、仲直りさせましたから」
 朝食を済ませてから、美奈さんは全員を連れて涼子さんの部屋に行くと、仲直りしたことを報告した。
「そう。ありがとう、美奈ちゃん」
 涼子さんは笑って頷くと、2人に視線を向けた。
「2人とも、いい大人なんですから。特に前田くんは、店長なんですからね。もうちょっと立場っていうものをわきまえて行動してくださいね」
「すみません、涼子さん」
「ごめんなさい」
 深々と頭を下げる2人に、涼子さんは笑顔で頷くと、美奈さんに視線を向けた。
「さて、と。それから、こんなところで何だけど、結婚おめでとう、美奈さん」
「あ、はい。ありがとうございますっ」
 急に言われて驚いたらしく、美奈さんは慌てて頭を下げた。
 涼子さんは、頬に指を当てて小首を傾げた。
「それで、式はいつなのかしら?」
「えっとですね、まだ決まってないんですけど、秋くらいにしようかって話してるんです。……きゃっ
 なにやら照れてほっぺたを押さえる美奈さん。
 あ、なんか涼子さんの表情が一瞬、凍ってたような。
「……こほん、それじゃ、すぐってわけでもないようですから、この話は後でってことにして、と。あずささん」
「あ、はい。何でしょう?」
 急に話を振られたあずささんが、反射的に背筋を伸ばす。
 涼子さんは、そのあずささんに訊ねる。
「これからどうする?」
「えっ?」
「ここに来た直接の原因は、前田くんとの喧嘩だったんでしょう? 仲直りも出来たんだから、家に戻るんじゃないかなって思って」
「あ、それなんですけど、せっかく来たんですし、2号店でヘルプをしてる間はこちらにご厄介にならせていただけませんか?」
 そのあずささんの言葉に、前田さんも頷いた。
「ええ。家から2号店だと通勤時間も結構掛かります、俺からもお願いします。こんな奴でよければしばらくこっちに置いてやってもらえませんか?」
「なによ、こんな奴っていうのは?」
「もう、2人ともっ!」
 ぽや〜んと漂っていた美奈さんが、速攻で戻ってくると声を上げ、そしてそんな2人を見ていた俺達は、やれやれと肩をすくめるのだった。


To be continued...

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あとがき
 お久しぶりにAシリーズです。

 閑話休題。
 連休も終わってしまいましたね。
 私は、とりあえず、うたわれるものと水月を堪能したGWでした。
 うたわれではエルルゥ、水月では雪さん、かな?
 いや、アルルゥと香坂姉妹なんていいませんよ。
 はじいしゃ? なんのことですか?(爆)

 あ、あとスパロボImpactもやってます(まだ第1部ですが(笑))

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