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「……とゆーわけでぇ〜、かぁるちゃんとぉ、きょーいちくんのぉ……えーっと、まぁなんでもいっか。かんぱーい!」
TO BE CONTINUED?
「かんぱーい!!」
葵さんの音頭で、俺とかおるの歓迎会が始まったときには、もう時刻は11時半を過ぎていた。
ちなみに、今日参加しているのは、俺、かおる、葵さん、涼子さん、よーこさん、七海という寮の面々、そして強引についてきた翠さんである。
俺はジュースの缶を片手に、部屋を見回した。
「それにしても、よく片づきましたねぇ……」
そう、ここは、昨日は魔窟と化していた管理人室なのである。
涼子さんが缶ビール片手にはぁ、とため息を付く。
「おかげで私のお休みが潰れたわ」
「……ご愁傷様です」
思わず涼子さんに頭を下げると、葵さんがむっとした顔で言う。
「あによぉ、まるであたしがいつも散らかしているような言い様じゃない」
「ような、じゃないでしょ」
涼子さんは、眼鏡の奧の瞳を細めて、葵さんを睨んだ。
翠さんがタイミング良く割って入る。
「まぁまぁ。ささ、マネージャーも、もう1本どうぞ」
「私は明日は仕事なんだけど」
そう言いながら、涼子さんは缶ビールを受け取って、プルを引いた。
……涼子さんも、結構飲む方なんだな。
「涼子さんと葵さんって、付き合い長いんですか?」
「ん〜、そうね。短大の時からだから、かれこれ、ひぃ、ふぃ、みぃ……よぉ……いつ……む……なな……やぁ……この……」
頬に指を当てて考えていた涼子さんは、今度はなにやら指を折って数え始めた。……なんか、指を1本折るごとに表情が暗くなっているような気がするんだけど。
七海が俺を引っ張る。
「こ、こら、恭一っ! そういう話をするなっ!」
「あ……」
そう言えば、涼子さんや葵さんに歳の話はするなって言われてたような……。
と、涼子さんは、やにわに手にしていた缶ビールをぐいっと飲み干すと、空になった缶をドンとテーブルに置いた。
「葵っ! 今夜は飲むわよっ!」
「そうこなくっちゃ。さ、どんどん行きましょっ!」
葵さんは上機嫌で新しい缶ビールを渡す。
七海は額に手を当てた。
「あっちゃぁ〜」
「いけいけー」
翠さんが、こちらも片手に缶ビールを装備して、無責任に囃したてている。
かおるとよーこさんは……と思ってそっちの方を見てみると、なにやら喋りながらおつまみのポテチを摘んでいる。仲良いんだな、あの2人。
と、いきなり俺の首に腕が回された。そのままぐいっと引っ張り寄せられる。
「恭一くぅん、飲んでるぅ?」
「うわっ、あ、葵さんっ!?」
「ふふふふふ」
葵さんはにへらぁっと笑いながら、俺を後ろからぐいっと抱き寄せる。うわ、背中に柔らかい感触がっ!
「あ、あの、ちょっと……」
「ところでぇ〜、恭一くん、もうかおるちゃんとはやっちゃったのぉ?」
唐突にとんでもないことを言い出す葵さん。もちろん、手つきは例の手つきだ。
「なっ!?」
「そんなわけないでしょっ!! 誰がこんなのとっ!!」
今までよーこさんとおしゃべりしてたはずのかおるが、文字通り飛んできた。そのまま、俺を葵さんの腕の中から引っ張り戻すと、今度は俺に向かってがなり立てる。
「恭一もっ! なにへらぁーっとしてんのよっ!!」
「い、いや、俺は別に……」
「これだから男ってダメなのよっ!」
かおるは奮然として怒鳴ると、テーブルの上にあった缶ジュースのリップルを引いて、ごくっと飲んだ。
葵さんはふむ、と腕組みしてから、かおるに訊ねた。
「ん〜、それじゃかおるちゃん……、まだ処女?」
ぶーっと、ジュースを吹き出すかおる。
「わっ、きたねぇぞかおるっ!!」
「う、うるさいっ! 葵さんもっ、な、な、なんてこと言うんですかっ!」
両手を振り回すかおるに、葵さんはにへと笑う。
「そっかー、ヴァージンかぁ」
「そっかー」
どかぁっ!!
「あんたまで腕組みして頷くんじゃないわよっ!!」
真っ赤になって俺を蹴飛ばすと、かおるはしゃがみ込んでぶつぶつ言い始めた。
「どうせあたしはまだ処女ですよ。でもしょうがないじゃない。いい男の子が周りにいないんだもん」
「かおるちゃん、あまり理想ばっかり追いかけてると、涼子みたく行き遅れるわよぉ」
めきょっ
異様な音がした。
思わずその音の方を見ると、涼子さんが缶ビールを握り潰していた。そのまま、地の底から響くような声で葵さんをじろっとねめつける。
「あ〜お〜い〜」
「あらら〜、どったのぉ、涼子〜?」
けろっとして、けらけら笑う葵さん。涼子さんはそのまま殴りかかるかと思いきや、ふっとため息をついて、眼鏡の位置を直すと言った。
「そりゃぁ、私はあなたみたいに大失恋してないもの」
「くわ」
今度は葵さんが固まる。……大失恋って?
「やべ、あたいはもう逃げるぞっ!」
「私も逃げるです〜」
「あっ、あたしもっ!」
素早く立ち上がると、ドアに向かって駆け出す七海とよーこさんとかおる。
こりゃ、俺も逃げた方が良さそうだな、と思って腰を浮かそうとする俺。
……腰が上がらない。
「こら、逃げるな恭一」
気が付くと、翠さんが俺の肩を押さえていた。
「ちょ、ちょっと翠さんっ!」
「……へぇ、よく見るといい男じゃないのぉ」
ほんのりと頬を赤く染めて言う翠さん。その眼鏡の奧の瞳が潤んでいるような……。って、翠さん、酔っぱらってるのかっ!?
「キスしちゃおうっかなぁ〜」
「ええっ!?」
「ん〜」
目を閉じて唇を突き出してくる翠さん。こ、このままだと未知の体験ゾーンへまっしぐらっ!?
「ちょっと翠さんっ! 何してるんですかっ」
七海達と逃げ出していたはずのかおるが駆け戻ってくると、俺の腕を取って引っ張る。
翠さんは、指をくわえてかおるを見上げる。
「……ダメ?」
「ダメですっ!!」
「んじゃかおるちゃんにキスしちゃおうっと!」
「……へ?」
虚を突かれたかおるの腕を引っ張ると、そのまま抱きしめる翠さん。
「きゃぁっ! ちょ、ちょっと恭一っ、助けてよっ!」
「へ? い、いやそう言われても……」
俺が急展開に狼狽えていると、翠さんはかおるの頬に手を当てて、その唇をかおるの唇にすっと近づけていく。
「や……、やめてぇっ! あたし、ファーストキスもまだなんだからぁっ!!」
じたばた暴れるかおる。だが、翠さんはそのかおるをそのまま畳に押し倒して、上から乗りかかる。
「そっかー。それじゃかおるちゃんのファーストキッスはあたしがいただきまーす」
「いやぁ〜っ! た、助けて恭一ーっ!」
「えっと、あ、うん」
俺はようやく我に返ると、後ろから翠さんの身体を引っ張った。
「翠さんっ、止めてくださいっ!!」
「うるしゃいっ、かぁるちゃんの邪魔をするなぁ〜」
「っていうか翠さんの邪魔をしてるんですけどね……、それはいいからっ!!」
必死になって翠さんを引っ張って、かおるの上から引き剥がそうとする。
と、いきなり翠さんの身体から力が抜けて、俺はそのままひっくりがえった。
ドシン
「つぅっ、……あたた」
したたか畳に後頭部をぶつけ(テーブルで無かったのは幸いだ)、俺は頭をさすりながら起き上がろうとした。
起きあがれなかった。俺の身体の上に翠さんが乗っかっていたのだ。
「み、翠さんっ!?」
今度はターゲットが俺かっ!?
一瞬そう思ったが、それにしては動く気配がない。と思ってよく見てみると……、
すぅ、すぅ、すぅ
翠さんはすやすやと眠っていた。
俺は大きなため息を付いて、翠さんの身体を脇に寝かせてから、自分の身体を起こした。
「ふぅ、ひどい目にあった。かおる、大丈夫か? ……かおる?」
「……うぐっ、えぐっ……」
かおるはしゃくり上げていた。
って、あのかおるが、泣いてる?
「……かおる?」
「……恭一のばかぁっ!!」
どんっ
びっくりして声をかけようとした俺を突き飛ばして、かおるは部屋の外に飛び出していった。
……なんだってんだ?
尻餅をついたまま、俺が呆気にとられていると、後ろから葵さんが言った。
「ほら、恭一くん。かおるちゃんを追いかけなくちゃダメよ」
「え? でも……」
「そうよ。ほら、早く」
涼子さんも、こくりと頷く。
「判りました」
俺は慌てて頷くと、立ち上がって部屋を飛び出した。
廊下に出ると、もうかおるの姿は無かった。でも、耳を澄ますと足音が聞こえた。
パタパタパタッ
「……あっちか」
俺はその後を追いかけた。そして、階段の踊り場で立ち止まって、もう一度耳を澄ます。
上の方から足音が聞こえる。どうやら階段を駆け上がってるようだ。
……そういえば、かおるの部屋ってどこなんだ? まだ聞いてなかったな。
ちょっと場違いなことを思いながら、俺は二段飛ばしで階段を駆け上がった。
3階まで上がったところで、その上の踊り場にかおるのスカートがちらっと見えた。俺は叫んだ。
「かおるっ、待てよっ!!」
「うる、さいっ、付いて、来な、いで、よっ!」
どうやらかなり息が上がってるらしい。俺は禁断の三段飛ばしに切り替えて、さらにハイピッチに階段を駆け上がる。
と、
ガッ
「うわっ!!」
しまった。禁断の三段飛ばしは、体調のいいときにしか使ってはならないという掟を忘れていたっ!
俺は階段につまずいて、4階の踊り場に倒れた。とっさに身体を捻って顔面から落ちることはまぬがれるが、右肩をしたたかコンクリートにぶつける。
ゴスッ
「あぐぅっっ!」
鈍い音と激痛が走り、俺は思わずその場でのたうっていた。
と、タタッと足音が駆け下りてくる。
「ちょ、ちょっと恭一! 大丈夫っ!?」
かおるが戻ってきたんだ。
「……痛い」
あまりの痛みに涙目になってかおるを見上げると、かおるはブラウスの袖で目元を拭って、泣き笑いのような表情で言った。
「……ほんっっとぉぉに、ばかっ!」
ガチャ
かおるはドアの鍵を開けると、右肩を押さえて廊下の壁にもたれていた俺に言った。
「とりあえず、入ってよ」
「でも、いいのか?」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
かおるの部屋は4階だった。ちなみに俺の部屋は2階なので、こっちの方が近いとかおるに引っ張ってこられたのだ。
かおるは有無を言わさぬ勢いで俺を引っ張り込むと、言った。
「ほら、脱いで」
「あ、ああ」
ここでズボンを脱ぐというギャグをかましてみようかと思ったが、これ以上痛いところが増えては叶わないので、今回は断念してTシャツを脱ぐ。
「あ〜あ。痣になってるじゃない」
右肩を見ながらかおるが呟く。それから、部屋の奥に歩いて行きながら、言った。
「とりあえずその辺に座ってて」
「おう」
俺は頷いて座ると、部屋を見回した。
山名家のかおるの部屋に入ったことは何度かあるが(誤解されないように説明しておくが、食事が出来たから呼んできて、と春恵さんに頼まれたからだ)、まだ引っ越したばかりで荷物もほとんどないのに、ここは何故かその部屋に似たような感じがしていた。
「こら、あんまりじろじろ見るな」
頭をこつんと小突かれて向き直ると、かおるが片手に湿布を持って立っていた。
「ほら、湿布貼ってあげるから大人しくしなさい」
「すまん」
「何を今更……」
ペタン、と冷たい湿布が肩に貼られる。
「これでよし、と」
「サンキュ」
俺はシャツを被り直した。
と、かおるが恥ずかしそうに言った。
「あ、あのね、恭一……。さっきのこと、だけど……」
「あ?」
「その……、内緒にしといてくれない、かな?」
いつもだったら、かおるの弱みを握った上は泣くまでいじめるところだが、ここ2日ばかり連続で手当してもらったわけだし、まぁいいか。
「ああ。あの山名かおるが実は単なる耳年増で、Hどころかキスもしたことないっていうのは秘密にしてやる」
……あ。
深夜の寮に、俺の悲鳴が響き渡ったのは、その直後だった。
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あとがき
今回のおまけは、これだっ!(笑)
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見て判るとおり、恭一達が面接をうけたのが20日で、21日から働き始めてます。ちなみに今回でやっと21日が終わり……。
ま、連載じゃないですから(笑)
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