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一応、文化祭の出し物はすべて午後5時終了ということになっている。
Fortsetzung folgt
そのため、名雪と一緒に見て回れた出し物はほとんど無かったが、それでも名雪は嬉しそうだった。
そんな名雪と一緒で、俺もまた嬉しかった。
「……悪かったな、結局ほとんど一緒に見て回れなくて」
「ううん」
教室に置いてある荷物を取りに行くという名雪と一緒に、閑散とした廊下を歩きながら話しかけると、彼女は首を振った。
「いいんだよ、わたしは……。だって、祐一と一緒にいられたんだもん」
そう言って笑う名雪。
その笑顔を見ているだけで、なんていうか、くぅ〜って感じだ。
「な、名雪っ!」
「きゃっ、だ、だめだよぉ、学校で……」
抗う名雪だが、本気ではないのを見越して、俺はその抵抗を封じつつ……。
「……どきどき」
「真琴、あまりしげしげと見るものではありません」
「なにようっ、美汐だってじーっと見てるじゃないのっ」
「そ、そんなことはありませんっ」
一気に萎えた。
そのまま名雪にキスするふりをしつつ、こっそりと盗み見すると、俺達の来た方の廊下の角に、見覚えのある栗色の髪の先が見えた。
頭隠してなんとやら、か。
俺はため息を付いて、いきなり振り返って声を上げた。
「こら、そこの2年生2人っ!」
「ひゃぁっ!!」
真琴が変な声を上げて、飛び出してきた。
「たっ、たまたまようっ! ちょっと振り向いてみただけの異邦人なんだからっ!」
「……意味不明ですよ、真琴」
ため息を付きながら、天野がその後ろから出てきた。そしてあわあわしている真琴を抱きしめてなだめる。
「はい、落ち着いて……」
「あ、あう〜〜っ」
「……きゃぁ」
今頃になって、小さな悲鳴を上げる名雪。
「ど、どっ、どうしたのっ、2人ともっ」
「名雪、今更何を……」
「だっ、だってわたし目を閉じてたから……」
それでも、俺が怒鳴ったところで気付くだろ普通。
まぁ、名雪らしいといえばらしいかもしれないけどな。
と、ようやく真琴を落ち着かせたところで、天野がこちらに向き直って頭を下げた。
「失礼しました」
「ああ、まったくもって天野にしては礼を失すること甚だしいぞ」
流石にちょっと怒った声を上げると、天野はきっと鋭い視線を俺に向けた。
その鋭さに一瞬たじろぐ俺。だが、天野もそれに気付いたのか、すぐにいつもの表情に戻った。
「……すみません。ですが、こんな廊下でそのような……、こほん。そちらにも非はあるのではありませんか?」
「そうだね。ごめんね、天野さん」
取りなすように、名雪が間に入ると、天野に頭を下げた。
「あ、いえ……。私達の方こそ、すみませんでした」
今度は素直に謝る天野。
俺は、その天野に抱きかかえられている真琴の方に視線を向けた。
「で、真琴の方も、今日はもう上がりか?」
「あがり?」
小首をかしげる真琴に、天野が説明した。
「終わりなのか、と聞いてるんですよ」
「あ、そっか。うん、真琴も美汐も今日はお疲れ〜ってちゃんと終わったのよう」
「ごめんね、わたしは見に行けなくて。祐一は見に行ったって言ってたけど」
名雪の言葉に、真琴は俺の方に向き直って指をさした。
「あ〜っ、思い出したぁっ! どうしてあのとき逃げたのようっ、祐一っ」
「うわ、そんな昔のことを……」
「昔じゃないわようっ!」
拳を振り上げる真琴。
「ちゃんと白状しなさいようっ!」
「別に白状するようなことはないだろ? なぁ、天野?」
「……急に私に振らないでください」
天野はそう言いながらも、真琴に向き直った。
「真琴、とりあえず相沢さんを問い詰めるのは後でも出来ますよ。でも、ここで相沢さんが機嫌を悪くしてしまったら、一緒に帰ってもらえなくなりますよ」
「……それは、嫌かも……」
「それなら、この場は知らない顔をして相沢さんに甘えなさい」
「そうだね。うん、そうするっ」
俺はため息混じりに天野に言った。
「あのな。俺の聞こえてるところでそういう相談をしないでくれ」
「……聞こえてないところでした方がいいですか?」
聞き返されて、俺は想像してみてから、手を振った。
「いや、どこでもしないでくれ」
「そんな酷なことはないでしょう」
「……相変わらずおばさんくさいな」
「相沢さんも、相変わらず失礼ですね。物腰が上品だって言ってください」
俺と天野は顔を見合わせて、思わず笑った。
「あ〜っ、2人で何笑ってるのようっ!」
真琴が割り込んできて、天野ははっとして咳払いする。
「こほん、な、なんでもないですよ。それより、相沢さんと水瀬さんは、どちらに?」
「いや、教室に名雪の荷物を取りに行くところだったんだけどな」
「そうなんだよ」
相づちを打つと、名雪は2人に尋ねた。
「真琴と天野さんは?」
「あ、はい。私達は、今日の仕事も終わったので、まだお二人が残っているなら、ご一緒しようと思いまして、そちらの教室に伺う途中だったのです」
「あ、そうなんだ。それじゃ一緒に帰ろうか?」
「ええ、水瀬先輩がよろしければ」
「うん、わたしはいいよ。祐一もいいよね?」
「あ、ああ……」
「わぁい、やったぁ!」
歓声を上げて俺の腕にしがみつく真琴。
「わ、こら引っ張るな。カッターが伸びるっ」
「伸びないわようっ」
「……あなた達、楽しそうね」
その声に顔をあげると、呆れた顔の香里がそこに立っていた。
「教室で名雪を待ってたんだけど、いつまでたっても来ないんだもの。はい、鞄」
「あ、ありがと。あれ? 香里って、栞ちゃんと一緒に帰ったんじゃなかったの?」
香里の差し出した鞄を受け取りながら首を傾げる名雪。
俺も正直言ってそう思ってたのだが、香里は肩をすくめた。
「一応、あたしは今日の3年A組の総責任者だからね。妹のことでクラスを放り出して帰るわけにもいかないでしょ?」
「あれ? でも栞ちゃんが足をくじいたってわたしが知らせに来たときには……」
「名雪、それ以上言ったら、どうなるか判ってるわね?」
すごみのある笑みを浮かべる香里。だが、我がいとこにして恋人はそれくらいはどうってことはないのである。
「どうなるの、香里?」
「イチゴサンデーの苺を取るわ」
きっぱり言う香里。
「ごめん。わたし、もう忘れたよ」
そして、あっさり陥落する我がいとこにして恋人。
「よろしい。それじゃ帰りましょうか」
「帰るって、例の金庫はどうしたんだ?」
昨日、めちゃくちゃに重い金庫(売上金入り)を香里の家まで運ぶ羽目になった俺は聞き返した。
香里は肩をすくめた。
「先生にお願いして、職員室の金庫に入れてもらったわ」
「おお、その手があったか。……って、昨日もそうすれば良かったんじゃないか」
「昨日は思いつかなかったのよ」
あっさりと俺をいなして、香里は皆に声を掛けた。
「それじゃ、みんなも帰りましょうか」
そう言いながらも、途中で百花屋に寄ろうという話に決まると、やっぱり栞のことが気になるらしく「ちょっと用事があるから」とそそくさと一人で帰っていった香里であった。
「うん、香里ってわりと素直じゃないところがあるもんね」
イチゴサンデーを口に運びながら頷くと、名雪はフルーツパフェと抹茶パフェを食べている下級生2人に尋ねた。
「真琴と天野さんは、明日は体育祭だよね。調子はどう?」
「任せてっ! 明日は優勝ようっ!」
「真琴、明日では優勝は決まりませんよ」
「あう……」
びしっと出したVサインを、天野に言われてしおしおと取り下げる真琴。
「優勝出来ないんだ……」
「あっ、でも1着は取れるよ。真琴は何に出るんだっけ?」
名雪に尋ねられて、真琴は元気を取り戻して答えた。
「明日はねっ、400メートルと借り物競走っ!」
「そっか。頑張ってね、真琴」
「うんっ、真琴は頑張るっ」
元気良く答える真琴と、嬉しそうに頷く名雪。
俺は天野に視線を向けた。
「で、天野は何に出るんだ?」
「……真琴と同じ借り物競走と、あとはスウェーデンリレーです」
「スウェーデン??」
きょとんとした顔の俺に、陸上部長の名雪が説明してくれた。
「えっとね、4人で走るリレーだよ。最初の人が100メートル、次から200メートル、300メートルって距離が増えてって、最後の人が400メートル走るの」
「ほう。やっぱりスウェーデンが発祥の地か?」
「ううん。アメリカ」
「……」
「……」
沈黙が流れた。
俺は天野に向き直る。
「ええっと、それで、やっぱり天野だから、第2走者なんだろ?」
「やっぱり、とはどういう意味ですか? ……合ってますけど」
うわ、本当に合ってるとは思わなかった。
「えっと、まぁ天野らしいな」
「……ほっといてください」
あ、珍しく拗ねた。
「大丈夫ようっ! 2人で1位を取るんだもんっ。ねっ、美汐っ!」
ぺしん
笑顔で天野の肩を叩こうとした真琴だったが、どういうわけかその手は天野の後頭部を、それも結構強く叩いていた。
「へぶ……」
そのまま、抹茶パフェに顔面を突っ込む天野。
「あ……」
空気が凍る中、ゆっくりと顔をあげる天野。
「……真琴、酷いです……」
「あう、ご、ごめん。冷たかった?」
慌てて天野の顔を、おしぼりで拭こうとする真琴。だが、その手が抹茶パフェの器に引っかかり、そのままなぎ倒す。
「わぁっ!」
「あ……」
べしゃっ
器の中身が、そのまま天野の制服にべったりと付いてしまった。
抹茶パフェの中身といえば抹茶クリーム。つまり天野に似合う深緑。だが、女子の夏制服は白であり、深緑の染みは死ぬほど目立つのである。
まさに悲劇だった。
結局、そのまま電車に乗って帰るという天野を、真琴と名雪が二人がかりで説得して、水瀬家に連れて帰ってきた。そして出迎えた秋子さんに事情を説明し、天野の制服を洗濯して返すことになった。
というわけで、今、リビングには天野と真琴、名雪の3人がいる。ちなみにあゆあゆは、どうやら栞を送っていったまま、美坂邸にお邪魔しているらしい。
「美汐、ごめんね……」
「いえ、真琴に悪気があったわけじゃありませんから」
のぞき込むようにして謝る真琴に、微笑んで首を振る天野。
「乾燥機を使いますから、そうですね、3時間くらいあれば乾きますから」
「すみません」
秋子さんに頭を下げると、天野は時計を見て肩をすくめた。
「今から3時間ということは、多分こちらで夕食をごちそうになることになるわけですね……」
「うん。そうだね。いいよね、お母さん?」
「ええ、もちろんよ」
名雪の言葉に笑顔で頷く秋子さん。
天野は2人に頭を下げた。
「ご迷惑をおかけします」
「賑やかなのは、いいことですから」
笑顔でそう言うと、キッチンに入っていく秋子さん。
それを見送ってから、天野は不意に俺に視線を向けた。
「あの、何でしょうか?」
「へ? あ、いやいや。天野もそんな服持ってたんだなって」
「あ、これは真琴に借りました」
「真琴が貸したのようっ」
胸を張る真琴。
確かに、スポーティーな感じのフリースにスパッツという格好は、どっちかというと真琴のファッションっぽい。
「でも、サイズもピッタリだな」
「はい」
「真琴と美汐って同じくらいのおっきさだもん。ねっ」
「そうですね」
頷く天野。
しかし、なんというかこう、普段と違う天野っていうのも、いいよなぁ。
そんなことを考えてから、いかんいかんと俺は頭を振った。
「……? 祐一、どうしたの?」
「いや、なんでも……」
名雪に声を掛けられて、俺は首を振って立ち上がった。
「さて、それじゃ明日に備えてランニングでもするかっ」
「あ、いいね。それじゃわたしもするよ」
「真琴もする〜っ」
しまった。
内心悔やむが、一度口にしてしまった以上引っ込みが付かず、俺は結局、夕食までに町内一周ランニングをする羽目になったのであった。
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あとがき
ほんとに真琴と美汐たんが同じくらいの大きさなのか? と思われた方のために、オフィシャルデータを乗せておきます。
沢渡真琴-1/6,U,159cm,46kg,81-55-79
天野美汐-12/6,A,159cm,44kg,80-53-79
プールに行こう6 Episode 51 02/2/14 Up