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昼休み。
Fortsetzung folgt
今日は屋上の日(舞と佐祐理さんが来てくれる日のことをこう呼んでいる俺達である)なので、俺と名雪は揃って屋上に出た。
「もうすぐ5月だね〜」
風を受けて気持ちよさそうに言う名雪。
「まぁ、そうだな」
なんとなく答えると、俺は屋上を見回した。
「……あれ? 俺達が一番乗りか」
「うん、そうみたいだね」
同じように屋上を見回しながら頷くと、名雪は風のこないポジションに持参のビニールシートを敷き始める。
「そういえば、香里はどうした?」
「うん、委員さんのお仕事があるから遅くなるって、さっき言ってたよ」
そう言いながら、名雪はちょこんとシートの上に座ると、弁当の包みを広げはじめる。
ちなみに、今日は名雪が寝坊しているので、俺と名雪の持っている弁当は、秋子さんお手製である。
「ごめんね、祐一。わたしが早起きできなかったから」
「いや、いいって。それに秋子さんの弁当も美味いしな」
「……う〜、複雑だよ〜」
「……あれ?」
弁当から漂ってくる美味そうな香りから注意を逸らして、俺はつぶやいた。
「そういえば、あゆあゆはどうした?」
「あれ? ……いないね」
同じく顔をあげて首を傾げる名雪。
俺は額に指を当てて思い出そうとした。
間違いなく、教室にはいたはず。でも、ここに来るまで一緒にいた覚えはないから……。
「栞達を呼びに、1年の教室に行ったのかな?」
「うん。……祐一」
名雪は、俺に瞳を向けた。
「あゆちゃんのことなんだけど……、なんだかわたし達のこと、避けてないかな?」
「名雪を避けてるのか?」
「ううん……。わたしと祐一を、だよ」
首を振ってから、名雪は俯いた。
「あゆちゃん、やっぱり祐一のこと……」
「そりゃないだろ。あいつと俺はホントに兄妹みたいなもんだし」
「……祐一はそうかもしれないけど、あゆちゃんの方はどうなのかな……」
名雪は、俺から視線を逸らすとつぶやいた。
「あゆだってそう思ってるって。第一、そうじゃないとしても、俺が好きなのは名雪なんだからな」
そう言って、名雪の髪をくしゃっとかき回してやると、名雪は赤くなった。
「わ、祐一恥ずかしいこと言ってるよ〜」
「言わせたのは誰だよ、このやろ」
笑いながら、さらにくしゃくしゃに髪をかき回すと、名雪はきゃぁと悲鳴を上げながら、頭を押さえた。
「もうっ、セットが乱れちゃったよ〜。祐一嫌い〜」
「そう言いながら、名雪も嬉しそうじゃないか」
「……うん。嬉しいよ」
手櫛で髪を整えながら、名雪は微笑んだ。
「祐一にそう言ってもらえたら、すぐにわたし安心しちゃうから」
「……相変わらずのバカップル振りね」
その声に、俺達は顔をあげた。
「よう、香里とついでに北川」
「ついで言うな〜っ」
「委員のお仕事終わったの?」
わめく北川を無視して、名雪は腕組みして俺達を見下ろしている香里に尋ねた。
「ええ。それで、ここに上がってきたら、二人がいたというわけ。他のみんなはまだなの?」
「見ての通りだが?」
ざっと手を振ってみせる。香里はぐるっと見回して頷いた。
「……そのようね」
「香里も座ったら?」
名雪に言われて、香里は腕組みしたまま聞き返す。
「あたし達はお邪魔じゃないかしら?」
「そんなことないよ〜」
笑顔で答える名雪に、香里は腕をほどいて肩を落として見せる。
「相変わらず、天然ねぇ」
「まぁ、それが名雪の名雪たるゆえんだからなぁ」
「……二人とも、もしかしてわたしの悪口言ってる?」
「ところで香里、北川と一緒に来たってことは、待ち合わせでもしてたのか? なかなか隅に置けないじゃないか」
「おう。俺と香里はもうラブラブだからな」
胸を張る北川に、ため息をつく香里。
「待ち合わせをしてたのは本当だけどね」
「……二人とも、もしかしてごまかしてる?」
むーっと難しい顔をする名雪の頭にぽんと手を乗せる。
「そんなことあるわけないじゃないか。HAHAHAHAHA」
「祐一、思い切り棒読みだよ……」
と、そのとき、屋上のドアがドンッと大きな音を立てて開いた。
「祐一くんっ! たたたたたたっ!」
「たいやきやけた?」
「それを言うならたけやぶやけた、でしょう?」
俺の、我ながら中途半端だなと思ったボケにきちんとツッコミを入れてくれる香里は、やはり貴重なツッコミ要員だな、と思ったわけで……。
「違うよっ! 栞ちゃんがっ、不良さん達に捕まってっ!」
「何ですって!?」
俺よりも早い反応を示した香里は、あゆに駆け寄った。
「栞がどうしたのっ!?」
「こ、こっちだよっ!」
そう言って、くるりと身を翻すあゆ。そして、駆け出し……。
ドバンッ
「……わ、痛そう。大丈夫、あゆちゃん?」
名雪がおっとりと言う。
学校のドアというドアの中でも、その頑丈さでは随一と思われる屋上の鋼鉄製のドアに、べたんと張り付いていたあゆは、ゆっくりと振り返った。
「うぐぅ……痛い……」
「走る前に進路の確認をしろって」
呆れながら言う俺。
香里は屈み込んで鼻を押さえるあゆの脇をすっと抜け、ドアを開けた。それから振り返る。
「どこなの、栞は?」
「た、体育倉庫……」
「判ったわ」
そのままだだっと階段を駆け下りていく香里。
「あ、待てよ、香里! 少し落ち着けって!」
叫びながら、北川もその後を追って駆け下りていった。
まだ鼻を押さえているあゆに、とりあえず弁当に蓋をしてから立ち上がった名雪が尋ねた。
「……あゆちゃん、どこの体育倉庫?」
「どこって、どういう意味だ、名雪?」
「うん、体育倉庫は、グラウンドと体育館に、それぞれ2つずつあるから」
さすが陸上部の部長だけあって、そういうことには詳しい名雪だった。
だが、あゆはううん、と首を振った。
「そうじゃなくて、中庭の裏手にある小さな倉庫だよ……」
「あゆちゃん、あれは体育倉庫じゃないよ。確かに体育祭で使ってる道具とか入れてるから、そう見えるけど、ただの倉庫だよ」
「あ、そうだったんだ」
「ほのぼの会話をしてる場合じゃないだろっ!」
俺が言うと、名雪も「そうだね」と頷いて、あゆの腕を取って引き起こす。
「あ、ありがとう、名雪さん……」
「先に行くぞ!」
そう声をかけて、俺は禁断の秘技、階段4段飛ばしを使って駆け下りた。
「わ、待ってよ、祐一っ」
「祐一くんっ」
流石に陸上部の部長でも、この秘技は真似できないらしく、名雪の声があっという間に背後に聞こえなくなる。
……あ。
俺は、はたと気づいて、足を止めた。
一拍置いて、階段を駆け下りてくる2人。
「……あれ? 祐一、先に行ったんじゃ……?」
「いや、名雪……。その倉庫ってどこにあるんだ?」
自慢じゃないが、まだこの学校の隅々まで知り尽くしているとはとても言えない俺だった。
名雪はこくんと頷いた。
「こっちだよっ!」
中庭に通じる扉を押し開け、そこで食事をとっている生徒達の間をすり抜けるように走って、雑木林のように木が茂っている辺りに駆け込んでいく。
……そういえば、前に舞と一緒に“魔物”と対決したのって、この辺りだっけ。あのころは雪が積もってたから、まるで景色が違うけど……。
「祐一くんっ、あの倉庫にっ!」
あゆが指さす方を見ると、確かに一昔前に流行った、いかにもな体育倉庫のような小屋がある。
と、いきなりそのドアが外に向かって吹っ飛んだ。
「ぐはぁっ!」
そのドアと一緒になって、男子生徒が転がり出て、そのまま倒れる。
「……な、なんだぁ?」
俺達が思わず口をぽかんと開けてそれを見ていると、中から声が聞こえた。
「か弱い下級生に乱暴しようとした罰ですっ」
「なにようっ、しおしおったら偉そうにっ! やっつけたのは真琴なんだからねっ!!」
俺はあゆを見て、視線で尋ねた。あゆはふるふると首を振った。
「ボクが一緒だったときには、真琴ちゃんはいなかったよ」
「とにかく、行ってみようよ」
名雪の言葉に俺は頷いた。
ドアが吹っ飛んだままの倉庫の中を、おそるおそるのぞき込むと、薄暗い中で何かが光った。
「うぐぅっ!」
慌てて俺の背中に隠れるあゆ。
「あ、祐一っ!」
元気のいい声がしたかと思うと、ばっと何かが俺に飛びついてきた。
「えへへ〜っ」
「えっ、祐一さんなんですかっ!? ……きゃっ」
何かばたばたと音がして、栞が光の中に出てくる。
「栞、どうしたんだ?」
「え? きゃぁ!」
聞き返してから、栞は俺の視線で、自分がほこりまみれになっていることに気づいて、慌てて制服をはたきはじめる。
「どうしましょう。祐一さんの前でこんな格好なんて恥ずかし……けほけほ」
あげくに、そのほこりを吸い込んで、咳き込んでるし。
「で、なにがどう……ん?」
何かが動いたような気がして、暗さに慣れてきた目で中をのぞき込むと、数人の女生徒が壁に寄りかかるように座っているのに気づいた。
名雪もそれに気付いたらしく、小声で言う。
「祐一、あの人たちって、七瀬さんに悪いコトしてた不良さん達じゃ?」
「そうなのか、栞?」
「はい」
こくりと頷くと、栞はドアを巻き込んで倒れていた男子生徒の方を指す。
「そして、あの人は生徒会の人ですっ」
「……はい? なんで、ここで生徒会が?」
思わず聞き返すと、栞は得意げにない胸を張った。
「えへん、それはですねっ」
「その不良の人たちを使って七瀬先輩に嫌がらせをさせていたのが、その生徒会の生徒だったんです」
そう言いながら現れたのは天野だった。
「あっ、美汐! 言われた通りやっつけたよっ!」
抱きついていた俺からぴょんと飛び降りて、真琴は天野にガッツポーズをしてみせる。
「いい子……」
にっこり笑うと、その頭を撫でる天野。
「天野さんっ、美少女探偵助手が謎解きしてるところなんですっ。いいところを邪魔しないでくださいっ」
ぷっと膨れて言う栞。
俺は天野に向き直る。
「天野、つまりどういうことなんだ? なんで生徒会がそんなことを?」
「祐一さ〜んっ」
栞がくいくいと俺の腕を引っ張る。
「事件のことはちゃんと助手に聞いてくださいようっ!」
「でも、解決したのは天野なんだろ?」
当てずっぽうにだが、そう言ってみると、栞はうーっとか唸りながら腕を離した。どうやら図星だったらしい。
「確かに、そうなんですけど……」
「ともかく、こんなところで立ち話も何ですので、屋上に行きましょう。倉田先輩や川澄先輩も待ってますよ、きっと」
天野に言われて、俺ははたと2人のことを思い出して、慌てて頷いた。
「そうだな。急ごう」
でないと、あの2人のことだ、俺達を探してクラスからクラスへと顔を出しまくって、よけいな騒ぎを起こしかねない。
あっと!
「でも、この人たちは?」
俺の代わりに名雪が言ってくれた。天野は肩をすくめる。
「放っておいても大丈夫ですから」
「それならいいよね」
あっさり頷くと、名雪は俺の袖を引いた。
「祐一、わたしお腹空いちゃったよ〜」
「ボ、ボクも早く行こうよっ」
こわごわと倒れている女生徒を横目にしながら、俺の腕を掴んで言うあゆ。
まぁ、天野が言うことなら間違いもなかろう、というわけで、俺達はその場をそのまま放置して、屋上に移動したのだった。
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あとがき
多分、これで今年最後じゃないかと。……でもわかんないけど。
プールに行こう6 Episode 30 01/12/28 Up