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翌朝。
Fortsetzung folgt
いつものようにドタバタと登校した俺達が、教室に入ろうとすると、入り口のドアの脇に舞が立っていた。
「うわっ、どうした、舞?」
何も言わずに立っていたので、最初気がつかなくてちょっと驚いた。
舞はそんな俺に、静かに言った。
「……今朝、学校から電話が来て、来てもいいって言われたから」
どうやら、栞の聞かせてくれたテープの通りになったらしい。
「そっか。良かったな、舞」
「……うん」
俺の言葉にこくりと頷くと、舞は言った。
「これで、佐祐理や、祐一と一緒にいられる……」
「ああ」
俺は頷いて、うりゃっと舞の髪を掻き回してやった。
「わ、いいなぁ……」
「なんだ、あゆもして欲しいのか?」
「……うぐぅ、いいもんっ」
なぜか拗ねてさっさと教室に入っていくあゆ。
何となくそれを見送ってから、俺は舞に尋ねた。
「で、佐祐理さんにはもう……。あ、避けられてるのか」
「……」
ちょっと寂しそうな顔をする舞。俺はそのほっぺたを掴んでうりゃっと引っ張ってやった。
「ふゅうふぃふぃ、ひはい……」
もごもごと言う舞の顔から手を離すと、俺は言った。
「もうすぐ卒業式だ。そうしたら、また佐祐理さんと笑って過ごせるぜ」
「……ううん」
舞は首を振った。
「卒業したら、一緒じゃないから……」
「え?」
そう言われてみると、俺は佐祐理さんや舞の卒業後の進路を知らなかった。
「そう言えば、二人とも卒業したらどうするんだ?」
「……さぁ」
「さぁって、お前……」
と、その時、予鈴が鳴り出した。
きーんこーんかーんこーん
「ま、いいや。それじゃ俺達は授業があるから」
「……達?」
聞き返されて周りを見ると、既に名雪の姿も無かった。
さらに、廊下の向こうからこちらに向かってくる石橋の姿も見えたので、俺は慌てて舞に言った。
「ともかく、そういうことなんで。じゃ!」
「……祐一」
そのまま教室に飛び込もうとした俺を、舞が呼び止めた。
「なんだ?」
「……ありがとう」
舞はにっこりと笑った。
「それだけ……」
そう言って身を翻す舞を、俺は石橋に声をかけられるまで、ぼーっと見送っていた。
ちなみに……。
「祐一、嫌い……」
ずっと舞に構っていたせいか、席に戻ると、名雪はすっかり拗ねていた。
ちなみに、俺達の後ろの席ではほわほわ空間が形成されていた。
昼休みになって、チャイムが鳴ると同時に、俺は名雪を連れて廊下に飛び出していた。
窓ガラスを開けて、冷たい空気を胸一杯に吸い込む。
「ふぅ〜」
「気持ちいいね」
隣では、名雪が同じように深呼吸していた。
そこに、あゆがやってきた。
「二人とも、大丈夫?」
「ああ、なんとかな」
「うん。……でも、あと1時間続いていたら、ちょっと判らなかったよ」
名雪が苦笑して振り返る。
教室の中では、北川と香里が見つめ合っていた。
「わっ、お姉ちゃんと北川さん、らぶらぶなんですか?」
「おう、栞」
軽く手を挙げると、いつものように重箱を提げた栞がぺこりと頭を下げる。
「こんにちわです」
「こんにちわ、栞ちゃん」
あゆが元気よく挨拶する。
「あゆさん、試験勉強どうですか?」
「うぐぅ……」
いきなりあゆは、そのまま沈み込んでしまった。
「祐一くん……、ボクのこと、忘れてください……」
「どうしたあゆあゆっ!?」
「えいえんはあるよ……」
「あゆっ、それはゲームが違うぞっ!」
「そうだよあゆちゃん。それを言うなら、『どうしてそういうこと言うかな』だよっ!」
「……名雪、それも違う」
俺と名雪が、そんな風にあゆを介抱している間に、栞は教室を覗き込んで嬉しそうだった。
「お姉ちゃん、幸せそうです〜」
と、俺は不意に気配を感じた。
「スペルゲンあゆバリアーっ!!」
「うぐぅっ!?」
「あうっ!?」
とっさにあゆの首根っこを掴んでそっちに向けたのと、忍び寄ってきた真琴が俺に向かってキスを仕掛けたのは同時だった。
そして今、一部のお兄さんにはドリームな世界が目の前にっ!
「わ、わわわっ!」
「な、なにするのようっ、あゆあゆっ!!」
とっさに飛び退いて、同時に自分の唇をそれぞれ袖で拭う2人。
「あう〜っ、真琴の唇は祐一のものなのにぃ〜」
「ボクだって……。あ、そうじゃなくて、えっと……うぐぅ」
と、そこに天野がいつもと同じように静かにやってきた。
「真琴、あんまり廊下に座り込むものじゃないですよ」
「あう〜っ、美汐〜っ。あゆあゆが変なコトする〜っ」
天野にすがりつく真琴。一方あゆはかなりアイデンティティが崩壊していた。独りでぶつぶつ呟いている。
「ボ、ボクは女の子だもん、女の子には興味ないもん。胸だって……ちゃんと……そのうちにきっと大きくなる……と、いいなぁ……じゃなくって」
「さて、それじゃそろそろ行こうか」
「祐一、それはちょっと無責任だよ」
名雪にたしなめられて、俺は肩をすくめた。
「で、俺にどうしろと?」
「それはよくわからないけど……」
名雪も肩をすくめて、それから俺に視線を向けた。
「でも、祐一ならきっとなんとかできるよ」
「その無意味な信頼はやめてくれ……」
俺はもう何度目になるかわからないため息をついて、それから声を上げた。
「よし、昼飯を食いに行くぞっ!」
「あ、うん」
「そうだねっ」
「わかりましたっ」
名雪がぱちぱちと手を叩く。
「……わ、すごいね祐一っ。ホントになんとかできたねっ」
「……名雪、それって、ほめられてもぜんっぜん嬉しくないぞ」
ちなみに、その間もずっと、香里と北川はキックオフ状態であった。
屋上に通じる踊り場に来ると、今日も舞が独りぽつんと待っていた。
「……遅い」
「俺達は授業があったんだ。我慢しろっ」
「……お腹空いた」
「へいへい。栞、頼む」
「は〜い」
いそいそと栞が重箱を降ろす間に、名雪とあゆがビニールシートを敷く。
「はい、準備出来たよ」
「いっちばーん!」
ばっと真琴がその上に飛び乗った。
「うぐぅ、一番取られた……」
「そんなことで涙ぐむんじゃない、あゆ」
「だって……」
「へっへーん。あゆあゆには負けるわけないわようっ!」
何故か偉そうに胸を張る真琴。
「確かに、胸も真琴の方が大きいしな」
「うぐぅ……」
「ひどいです祐一さんっ。胸の大きさは関係ないですよっ!」
「そうだよねっ、栞ちゃんっ!」
がしっと手を取り合う2人。
「……ぐすっ、お腹空いた……」
「泣くなよ、舞……」
そんなこんなで、一同がビニールシートに上がり込んだところで、栞が重箱を広げた。
「はい、大好評により重版できましたっ!」
「……何を言ってる、何を……?」
あきれながらも、俺は重箱に箸を伸ばし、煮物を口に運ぶ。
「……ん。美味いな」
「ホントですかっ? 良かった。これで私も祐一さんのお嫁さんになれますねっ」
ガッツポーズを取る栞に、俺はあっさり答える。
「いや、それは無理だが」
「えぅ〜。でも、負けませんからっ」
「わたしだって負けないよ」
のんびりと、でもはっきり言う名雪。一瞬、2人の間でばちっと火花が散ったような気がしたのは気のせいだろう。うん、そうに違いない。
「あう〜っ! 真琴だって負けないわようっ!」
お箸に唐揚げを突き刺したまま、それを振り回す真琴。
「真琴、お箸を振り回すのは危ないですよ」
「あ、あう……。ごめん、美汐」
相変わらず天野には弱いのだが。
「……たこさんウィンナー、嫌いじゃない……」
舞は舞で、一心不乱に重箱に箸を伸ばしていた。
久しぶりになんだか平和な昼食を済ませて教室に戻ってくると、そこにいたはずの北川と香里の姿は無かった。
「あの二人、どこに行ったのかな?」
「ま、いいじゃねぇか。ほっといてやれよ」
「それもそうだね」
俺と名雪は頷きあって、友の幸せを祈ってやることにした。
まだ休み時間が残っているので、何となく並んで窓から外を眺める。
「……もうすぐ、だよ」
「何が?」
「春が来るのが、だよ……」
春……か。そんな季節は、この街には来ないのかと思ってたぞ。
「春が来て、ずっと春だったらいいのに……」
「うわぁっ、マコピーいつの間にっ!」
「だって、まだ休み時間だもん」
いつの間にか俺の背中にぴとっと張り付くようにしていた真琴が、そのまま俺の顔に自分の顔をすり寄せてきた。
「祐一〜、あったかいね〜」
「こ、こら、くすぐったい! よせってっ!」
すりすりと頬をすり寄せる真琴と、それを離そうとする俺を、名雪はにこにこしながら見ていた。
「本当に真琴と祐一って、仲が良いよね」
「それは違うっ!」
「あう〜っ、祐一の嘘付き〜っ!」
「なんでだっ!!」
ちなみに、この間、おそらく真琴ファンと思われる男子生徒達から非難の視線というか、むしろ殺意の波動すら感じているのだが、当然無視である。
「うーむ、結局今日は北川も香里も俺達とは一言もしゃべってないな」
「こんなの初めてだよ」
放課後、俺と名雪はそんな事を言いながら、昇降口で靴を履き替えていた。
と、そこにあゆが鞄を提げてやってくる。
「あ、祐一くん達も今帰り?」
「あれ? あゆちゃん、試験勉強は?」
「うぐぅ……。香里さんに教えてもらう約束だったんだけど……」
あゆは、ため息をついた。俺は苦笑した。
「なるほど、あの2人の作り出す空間には割って入れなかったのか」
「……うん。だから、今日は早く帰って秋子さんに教えてもらおうと思って……」
「うん、それがいいと思うよ」
名雪も頷いた。
あゆは靴を履くと、とんとんとつま先を地面に当ててかかとを入れた。
「だから、祐一くんと名雪さんはゆっくりしててもいいよ。じゃねっ!」
「ああ、また明日な〜」
「うぐぅ、同じ家に住んで……」
駆け出したあゆが振り返って文句を付けようとしたところで、何かにつまづいて転ぶ。
ずしゃぁーーっ
「うぐぅーーーっ」
「あっ、あゆちゃん!」
名雪が慌てて駆け寄ると、引っ張り起こして制服のほこりを払ってやった。
「大丈夫?」
「う、うん、これくらい大丈夫だよ、名雪さん。ボク頑丈だから」
頷くと、今度こそ駆け出していくあゆ。
名雪はその背中を見送りながら、呟いた。
「……もしかして、わたし達に気を遣ってくれたのかな、あゆちゃん」
「……かもな」
俺は苦笑した。
「あいつ、ああ見えて繊細だからなぁ」
「あゆちゃんは、わたしなんかよりずっと繊細だよ」
名雪はそう言うと、俺の腕を取った。
「祐一、帰ろっ」
「そうだな」
俺達は並んで歩き出した。
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あとがき
がんばって、がんばって、がんばって……、さらにがんばって。
いったいなんのためにがんばってる?
わからないけど、がんばってる。
最近、どうよ?(笑)
どうも最近、鬱気味です。……やっぱりSS書くのをやめたほうがええんやろか? 少なくとも書かなければ、何も言われることもないしな〜。
ところで話は変わりますが、採点って皆さんどういうレベルで付けてるんでしょう?
私は……
1点〜4点:もう書くのやめろ
5点〜7点:読めなくもない
8点:まぁいいんじゃないの
9点:そこそこ
10点:ちょっとはまし
くらいだと思ってますが。
プールに行こう4 Episode 43 01/2/18 Up