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商店街を出たところで、香里が訊ねた。
Fortsetzung folgt
「それで、撤収するのはいいけど、どこに行くの?」
「百花屋」
「……多分、あれじゃ営業してないわよ」
振り返って言う香里。俺は肩をすくめた。
「残念だな」
「……で?」
ゆっくりとこちらに向き直る香里。そのバックに怒りのオーラが立ちのぼり始めているのを敏感に察知した俺は素直に答える事にする。
「公園っていうのも寒いから、とりあえずうちでどうだ?」
「……まぁ、いいわ」
「舞や佐祐理さんは?」
「佐祐理は大丈夫ですよ」
「……はちみつくまさん」
2人の了承を得たところで、俺達はとりあえず水瀬家に向かうことに決定して、移動を始めた。
「うぐぅ、ボクには聞いてくれないんだ……」
「祐一さん嫌いですっ」
意見を聞かれもしなかった2人は拗ねていた。
水瀬家に向かう道すがら、俺は香里に尋ねた。
「ところで、さっき言ってたよな? 真琴のことはもう心配いらないって。あれはどういうことだ?」
「ここに来る途中で天野さんから電話があったのよ。もう大丈夫みたいだって」
「ほう」
俺は舞の方を見た。
「倉田先輩にお聞きしました。川澄先輩が、また魔物に出逢ったと……。川澄先輩は、再び“ちから”を拒絶した。そのために……」
「その“ちから”によって行われた奇跡が“なかったこと”になろうとしているのでしょう」
あの時、天野はそう言っていた。とすれば、舞が“ちから”を自分のものとして認めたから、真琴も安定したっていうことなんだろうか?
と、舞の隣りにいた佐祐理さんが、「はぇ〜」という顔でこっちを見ているのに気付く。
「どうしたんだ、佐祐理さん?」
「真琴ちゃんに何かあったんですか?」
「あ、そういえば伝えてなかったか」
俺は歩きながら、真琴のことを佐祐理さんと舞に話して聞かせることにした。
「かくかくしかじかってわけだ」
「ふぇ?」
「……祐一くん、省略しすぎだよ」
あゆにツッコミを入れられてしまった。
「相沢くんに説明させると長くなるから、あたしから説明しますね」
香里が割り込んで来て、説明を始めてしまった。
「……祐一さん、寂しそうですね」
「うぐぅ、背中にあいじんが漂ってるよ」
「あゆさん、それを言うなら哀愁ですよ」
「はぇ〜、そんなことがあったんですか〜」
俺がえいえんのせかいに行っている間に、香里は要領よく説明をしてしまった。佐祐理さんはその説明で事態を完璧に把握してしまったらしい。さすが学年トップ同士。
「それじゃ、真琴さんは舞と一心同体なんですね〜。ちょっとうらやましいです」
「……そ、それはちょっと……」
本気でうらやましがる佐祐理さんに、香里は後頭部に大粒の汗を浮かべていた。と、こっちに向き直る。
「でも、今後もこの状態が続くのかしら?」
「どういうことだ?」
「たとえば、の話だけど、もし川澄先輩が何か事故に遭ったりしたら、真琴ちゃんもまた……ってことにならない?」
「……それもそうだな。でも、それこそ俺達にはどうしようもないだろ。その辺はまた天野にでも聞いてみるさ」
俺は肩をすくめた。それから舞に視線を向ける。
「舞は、今の話、判ったか?」
「……よくわからない」
舞は途方に暮れたような顔をしていた。
「私は、真琴に悪いことをしたの?」
「いや、全然そんなことはない」
「そうだよ。真琴さんを舞が助けたんだから」
佐祐理さんが横から言うと、舞は照れたようにあさっての方を見た。
「……なら、いい」
「お、舞、照れてるのか?」
どかっ
衝撃が頭からつま先に抜けていった。
「……おーのー」
思わず頭を抱えてその場にうずくまる俺に、慌ててあゆが声をかける。
「わぁっ、祐一くん大丈夫っ!?」
「だ、大丈夫に、見える、か?」
「ううん……わりと、だめみたいに見えるよ」
「うぐぅ……」
「うぐぅ、真似しないで……」
「それはともかく痛いぞ舞っ! 何で叩いたっ!」
「鞄」
ぼそっと言うと、手にしている学生鞄を軽く上げて見せる。
「ちょうど、角が当たった」
「ちょっとみせてください」
栞が背伸びして、俺の髪をかき分けてしげしげと見てみる。それから手のひらでその辺りを撫でた。
「いててっ」
「こぶになってますけど、血は出てないですね。とりあえず消毒しますか?」
ポケットからマキ○ンを出す栞。
「……栞、消毒薬まで持って歩いてるのか?」
「外に出るときの必需品ですよ」
「やっぱり四次元……」
「わっ、そんなこと言う人嫌いですっ」
「……あら、あれ名雪じゃない?」
俺と栞のやり取りを微笑ましく見守っていた香里が、不意に言った。
その視線を辿ってみると、確かに俺達より前の方に名雪らしい人影があった。……が。
「……妙に猫背で歩いてるなぁ」
「まさか、寝たまま歩いてるのかしら?」
「そんなわけないだろ。しかし、その可能性も〜、否定できないな(某CM風に)」
「えっ? 名雪さんって寝たまま歩けるの?」
「あゆだって何度も見てるだろ? 名雪が夜中に歩き回ってるところ」
「うぐぅ、そりゃ見てるけど……、あの時って寝てるの? だってボクがお休みなさいって挨拶したら、ちゃんと返事してくれたし……」
なにやら下を向いてぶつぶつ言い始めたあゆをほっといて、とりあえず俺は名雪に駆け寄っていった。
「おーい、名雪っ!」
「……えっ?」
名雪は顔を上げて振り返った。どうやら寝ていたわけじゃないらし……いいっ!?
俺の顔を見て、名雪が目からぽろぽろと涙をこぼした。そしてそのまましゃくりあげる。
「ゆ、祐一っ、わたし、もう笑えないよっ……」
「な、なにがあったっ!?」
あまりにいつもと違う様子に、思わずその肩を掴む。
しゃくり上げながら、名雪は答えた。
「帰りに、商店街に寄ったら……百花屋さん、しばらくお休みするって……」
「……」
俺が思わず沈黙していると、いきなり逆ギレする名雪。
「どうして祐一はそんなに平気でいられるのっ!? 祐一おかしいよっ!」
「……そ、そうなのか?」
普段見せることのない剣幕に思わずひるむと、名雪はずずっと鼻をすすった。
「百花屋さんのイチゴサンデーが食べられなくなっちゃうなんて……。わたし、どうしたらいいかわかんないよ……」
「そうだよね。ボクもたい焼き食べられなくなったら嫌だもん」
あゆがうんうんと頷く。と、そこで名雪は初めて、他のみんなに気付いたらしい。
「あ、みんなもいたんだ……」
「はいはい、どうせあたし達は相沢くんのおまけよ」
香里が苦笑しながら言う。
「あ、そんなことないよ」
「この顔は、図星を指されたときの顔ね」
「えっとえっと……」
さらに香里に指摘され、名雪は結局俺に泣きついてきた。
「祐一〜、香里がわたしのこといじめるんだよ〜」
「あのな……。あ、そうだ。栞、舞、ちょっと」
俺は振り返って、栞と舞を手招きした。そして改めて向き直る。
「名雪にも心配かけたけどさ、ちゃんと仲直りできたんだ。な、舞、栞?」
「……」
こくんと頷く舞、そして栞は笑顔で言う。
「はい。それに名雪さん、私まだ諦めたわけじゃないですから」
「えっ?」
思わず聞き返す名雪。そして香里は嬉しそうに頷く。
「名雪にライバル宣言とはね。頑張ってね、栞」
「はい、お姉ちゃん」
こっくり頷く栞。
「はぇ〜。これは舞も負けていられませんよ〜。頑張って名雪さんから祐一さんを取り返さないと。ねっ、舞?」
「……」
ずびしっ
「ふぇ、舞、今のは痛いよ〜」
つむじに指を突き立てられて、佐祐理さんは涙目になって頭を押さえた。舞はぽっとほっぺたを赤くして、あさっての方を見る。
「……佐祐理が変なこと言うから」
「でも、祐一さんのこと、やっぱり好きなんだよね?」
佐祐理さんの言葉に、舞はこくんと頷いた。満足そうに頷く佐祐理さん。
「わかりました。佐祐理は舞のこと、応援するからねっ」
「わっ、舞さんずるいですっ。私だって祐一さんのこと好きなんですからっ」
「大丈夫よ。栞にはあたしがついてるから」
栞の頭をぽんぽんと叩く香里。
俺は思わず呟いていた。
「……もしかして、俺ってモテモテ?」
「今頃気が付いたの? ラブラブハンター」
「……香里、その呼び方はやめろ」
「でも、これで真琴ちゃんが戻ってきたら、結局前と同じ状況じゃない」
肩をすくめる香里。
「うぐぅ、ボクのことは関係なし?」
小さく呟くあゆに、栞がにこにこしながら話し掛ける。
「そんなことないですよっ。あゆさんだって祐一さんのこと好きなんでしょう?」
「えっ? し、し、栞ちゃん何言って、そ、そそんなことぜんっぜんないよっ!」
かぁっと赤くなってうぐうぐと暴れ回るあゆ。
「うぐぅ、そんな暴れ方してないもん……」
「俺の考えを読むなっ! ったく、これじゃ結局何も変わらないじゃないか。なぁ、名雪?」
「……」
いつもなら明るく答える名雪が、それには何も答えなかった。俺は違和感を感じて、名雪の顔を覗き込んだ。
「どうした、名雪?」
「なんでもないよ。ええと、それじゃみんなもうちに来るんだよね。それじゃわたし、先に帰ってお母さんに知らせてくるよ」
名雪はそう言い残して駆け出した。
「……なんだ、名雪のやつ?」
「……ちょっと変ね」
いつの間にか俺の隣りに来ていた香里が、腕組みして呟く。
俺は香里に尋ねた。
「やっぱり、変に見えたか?」
「ええ」
最近、というレンジで言えば俺よりも名雪との付き合いが長い香里が変だって言うからには相当変なのだろう。
「はぇ〜、やっぱり佐祐理たち、お邪魔ですか〜?」
「そんなことはないぞっ」
とりあえず佐祐理さんには即答しておく。
隣で香里がため息をついた。
「名雪も大変ねぇ……」
「何がだ?」
振り返って訊ねると、香里は肩をすくめた。
「秘密」
これ以上追求しても何も言わないだろうから、俺もそれ以上は何も聞かなかった。
着替えてリビングに下りてくると、もうみんなくつろぎ状態に入っていた。
「それじゃ、栞ちゃん来週テストなんですか?」
「そうなんです……」
「はぇ〜、大変ですね〜」
佐祐理さんが目を丸くして驚いていた。俺はソファに座りながら訊ねた。
「1年生はこんな時期にテストなのか。大変だな」
「はい。でも、ちょっと違いますよ」
栞はにこっと笑った。
「1年生は、じゃないです。だって、テストを受けるのは私だけですから」
「栞だけ? なんでまた?」
「ええと、先生が特別にテストを受けさせてくれることになったんです。合格したら、春からは祐一さんと同じ学年です」
嬉しそうに言う栞。
「なるほど、つまりテストに合格できれば、みんなと一緒に2年になれる、と……」
そこで、ふと気付く。
「栞、もしかしてそれって、俺が留年することを前提にしてるのか?」
「もちろんです」
栞は笑顔で頷いた。俺は黙ってぴしっとデコピンをした。
「あいたっ。祐一さん、ひどいですっ」
「どっちがだっ。……と、名雪はどうした?」
俺達よりも先に帰ってきているはずの名雪の姿は、リビングには無かった。
ちなみに、香里は上品に紅茶を飲んでおり、舞はテレビでやっていた動物番組に夢中だった。
「……マダガスカルタマリンさん、かわいい……」
俺は、ちょうどそこに入ってきた秋子さんに尋ねた。
「秋子さん、名雪は帰って来てますよね?」
「ええ。部屋にいると思うわよ」
「俺、ちょっと呼んできます」
俺はそう言ってリビングを出た。
「祐一さん」
後ろから秋子さんが俺を呼び止める。
「はい?」
「……名雪のこと、お願いしてもいいかしら?」
「え? ええ、まぁ……」
「それじゃ、よろしくお願いしますね」
それだけ言って、秋子さんはリビングに戻っていった。
……秋子さん、何が言いたかったんだろう?
俺は首を傾げながら、階段に向かった。
階段を上がろうとしたとき、不意に廊下に面したドアの一つが開いた。
「あ……」
「なんだ、あゆか」
ちなみに、既に2階の部屋は全部ふさがっていたため、あゆの部屋は1階にある。
「うん。あ、ボク、着替えてたから」
何故か言い訳すると、あゆは、階段の手すりに手をかけた俺の姿を見て、訊ねた。
「名雪さん?」
「ああ。せっかくみんなも来てるんだから、名雪も呼ぼうと思ってさ」
「……祐一くん」
真面目な顔で、あゆは俺に言った。
「ボク、思うんだけど……。えっと……」
言葉に詰まり、天井を見上げてから、ようやく言葉を続ける。
「とにかく頑張ってねっ」
「なんじゃそりゃっ!」
「あははっ」
笑ってリビングに入っていくあゆ。
秋子さんだけじゃなくて、あゆもなんか変だぞ。
俺はもう一度首を傾げてから、改めて階段を上がった。そしてすぐ前にある、『なゆきの部屋』と書かれたプレートのかかっているドアをノックする。
トントン
返事がない。
「名雪、いるんだろ? 俺だ、祐一だ」
声をかけながら、もう一度ノックした。
……もしかして、もう寝てるのか?
そう思ったとき、ドアの向こう側で小さな声がした。
「……祐一……」
「なんだ、やっぱりいたのか。みんなリビングに来てるからさ、お前も来いよ」
そう言って踵を返そうとしたとき、その声が聞こえた。
微かに、でもはっきり。
「……嫌だよ」
それは、明らかに、拒絶の言葉だった。
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あとがき
AIRのSSLINKにうちのSSが載りました。嬉しいです。
次の目標はお勧めSSに載ることです(笑)
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