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首からタオルをかけただけの姿の舞。
Fortsetzung folgt
風呂場のドアに片手をかけたまま固まっている俺。
二人とも全裸だ。
しかし……。
思わず、ごくりと生唾を飲み込んでしまう。
前から思っていたけれど、舞はナイスプロポーションだ。
背の高さに釣り合うダイナマイトなボディの完成度の高さは、やはりあゆや栞の未完成な身体と比べることすら罪といえよう。うん。
「……祐一」
舞は、じっと俺を見ている。
「大きくなってきた」
「うわぁっ!」
俺は慌てて洗面器を掴んで前を隠した。
「そ、そりゃ生理的なものであってだなっ! 大体お前も女なんだから、きゃぁって悲鳴を上げるなりなんなり、そういう反応ってもんがあるだろっ!」
「そこ、どいて」
そう言うと、舞は俺の脇をすり抜けて、風呂場に入っていった。それから振り返る。
「風が入って寒いから閉めて」
「あ、ああ」
俺はとりあえず外に出てドアを閉めようとする。
「……洗面器」
「……」
無言で、俺は洗面器を風呂場に放り込んだ。
舞は、風呂に身体を沈めた。
「っ!」
思わず出そうになった叫び声を無理矢理に飲み込むような声。
俺は思わず振り返った。
「舞!?」
白い肌に、赤い筋が流れ落ちる。
非現実的な、でもそれゆえに幻想的な眺めだった。
俺はそこではっと我に返り、叫んだ。
「怪我してるじゃないか!」
「深い怪我じゃない」
「でも、血が……」
「放っておけば、止まるから」
「馬鹿!」
俺は、風呂場に入ると、舞の肩にタオルを当てた。
「……っ」
「ほれみろ、痛いんじゃないか」
「祐一が押さえるから」
言われてみると、舞の肩は青いあざになっていた。どうやらどこかにぶつけたらしい。
「す、すまん」
謝ってタオルをどけると、また肩から血が流れ出す。
「でも、この傷、結構深いんじゃないか? どうしたんだよ?」
「窓にぶつけられた」
淡々と言う舞。
「窓に?」
舞の説明によると(相変わらず説明が下手だったが)、どうやら魔物と戦ったときに、吹っ飛ばされて窓に肩から突っ込んだらしい。その時に割れたガラスで怪我をしたようだった。肩の打ち身もそのときのせいらしい。
「ったく、無茶しやがって……」
「……今日は、祐一がいなかったから……」
「……え?」
そういえば、最近はずっと一緒だったからな。
それが、今日はいなかったから、舞の戦い方にも微妙に影響しちまったってことか。
「……ごめん、舞」
「暇だった」
「……は?」
聞き返すと、舞は仏頂面で繰り返した。
「祐一がいなかったから暇だった」
「あ、そ」
俺はため息をついた。
どうせ、俺は暇つぶしですよ。
「祐一……」
「ったく。とりあえず、あとでリビングに来いよ。怪我の手当くらいはしてやるからさ」
そう言って、俺は風呂から出て、ドアを閉めた。
閉めてから気付いたが、俺は全裸のままだった。
……もしかして、舞に見られていたんだろうか?
もう一度、深々とため息をつくと、俺はタオルで身体を拭いた。
リビングで、とりあえず救急箱を用意してから、何をするでもなくぼーっとソファにもたれていると、風呂から上がった舞が入ってきた。
「おう、来い来い」
「……」
無言で頷くと、舞は俺のそばまで歩いてきた。
ちなみに、今日は普通のスウェットの上下を着ている。
「んじゃ、ここに座って」
俺が指すと、素直にソファに座る俺の前の床にぺたんと座る。
救急箱から消毒薬を出して、俺ははたと気付いた。
スウェットを着たままじゃ治療出来ないじゃないか。
「舞、スウェットの上、脱いでくれ」
こくりと頷くと、舞はがばっと上を脱いだ。
プルンと揺れる胸。って、ブラしてないのかっ!?
「お、お前っ、下着はっ!?」
「きついからしてない」
そりゃその大きさだとそうなのかもしれないけど……。
けど……。
お、俺はいま猛烈に熱血しているっ! などとやると、身体の一部が熱血しそうになったので、俺は慌てて視線を逸らしながら舞に言った。
「とりあえず、胸を隠せって」
「……変な祐一」
変なのはお前だっ!
とりあえず肩の傷に消毒薬を塗る。
血は風呂に入っている間に止まったようだった。傷口も風呂で洗ったらしく綺麗になっている。
なるほど、舞の言うとおり、それほど大きな傷ではないが、何カ所か裂けている。それで血がかなり出たんだろう。
傷口にガラスの破片なんかが入ってないのを確認してから、清潔なガーゼを傷口に張った。それから、打ち身には湿布を貼る。
「……よし。もういいぞ」
「……ありがと」
うぉっ! 舞が礼を言ったぞっ!
なんだか妙に新鮮な感動を覚えながら、俺はもぞもぞとスウェットの上を着る舞を見ていた。
「……祐一」
不意に、舞が俺の方に向き直った。
「話がある」
「なんだ?」
「佐祐理のこと」
「……!」
俺は、姿勢を正した。
舞は俯いた。
「私には、どうしていいのかわからない。でも、祐一なら、佐祐理を助けてあげることが出来るような気がする」
「……舞」
それから、舞は話し始めた。
佐祐理さんのことを。佐祐理さんの過去を。
相変わらず説明が下手だったけど、それでも一生懸命に説明していた。
そして、俺は初めて知った。佐祐理さんが下級生の俺に敬語を使って話すわけを。
「……そんなことが……あったのかよ」
俺は呻いた。そして、ソファの肘掛けをぎゅっと握りしめた。
それで、佐祐理さんはあんなことを……。
「ごめんなさい、祐一さん。でも、やっぱり佐祐理は、祐一さんや舞と一緒に学校で楽しく暮らしたいんです」
贖罪。
その一言で済ませるには、あまりに重い過去と現在を、佐祐理さんはその小柄な肩に担いでいるんだ。
「祐一……」
舞が顔を伏せて、小さな声で言った。
「私には、出来なかったから……」
「……舞に出来なかった事が俺に出来るとは思えないけれど……。でも、やってみるさ」
俺は拳を握りしめた。
「いや、やらないとな」
舞は、だまって俺の隣に座ると、そのまま俺の肩にこつんと自分の頭をもたれさせた。
「舞?」
「……ありがとう」
洗い立ての髪からは、いい香りがした。
俺は少し迷ってから、その肩にそっと手を回した。
「一緒にがんばろうぜ。佐祐理さんのために」
「……」
舞はこくりと頷き、微かに微笑んだ。
「んじゃ、万事、まず明日からだ。とりあえず今夜はゆっくり休むんだぞ」
「わかった。お休み」
「おう。お休み」
俺達は2階に上がって、挨拶をしてから、それぞれの部屋に戻った。
ドアを開けて、電気を付けると、とりあえずベッドの毛布をめくってみる。
真琴がまた入り込んでるかと思ったが、そんなこともないようだった。
続いてクローゼットからベッドの下までチェックしたが、あゆが隠れている様子もない。
俺は安堵のため息をついた。どうやら今夜はゆっくりと眠れそうだった。
『朝〜、朝だよ〜』
枕元で、目覚ましから名雪の声が聞こえてくる。
『朝ご飯食べて学校行くよ〜』
「へいへい」
俺は手を伸ばして目覚ましを止めると、大きくあくびをしながら起き上がった。
俺の記憶が正しければ、今日は金曜日だ。
と、トントンとノックの音がした。
「祐一くん、起きてる?」
「あゆあゆか?」
「あゆあゆじゃないもんっ!」
がちゃりとドアが開いて、あゆがぴょこんと顔を出した。
「おはようっ、祐一くん」
「お前はいつも無意味に元気だな」
「うぐぅ、そんなことないよ」
「まぁ、いいけどさ。それより、どうした?」
「えっと、別に用はないんだけど、暇だったから」
「お前は暇だと俺を起こしに来るのか?」
そう言いながら、俺はベッドから降りた。
「だって、一人だと退屈なんだよ〜」
「まぁ名雪は起きるわけないとしても、栞はどうした?」
「栞ちゃんなら、台所で秋子さんの手伝いしてるよ」
そう言ってから、あゆはちょっと拗ねたような口調で呟いた。
「ボクも手伝うって言ったんだけど、秋子さんに断られちゃったよ」
ナイスだ秋子さんっ!
俺の中で秋子さんポイントが20上がった。
「……祐一くん、どうして嬉しそうな顔してるの?」
「そ、そんな顔してるか?」
「うん、してるよ」
「いや、それはだな、朝一番にあゆの笑顔を見られたからなんだ」
適当なことを言うと、あゆはぽっと赤くなった。
「そ、それ本当? えへっ、なんか嬉しいな」
まぁ、確かに朝一番に怒った顔を見せられるよりはよほどマシだが。
「ボクも朝一番に祐一くんの顔見られたから嬉しいよ」
「器用な奴だな……。さて、それじゃそろそろ名雪を起こすか」
俺は腰を上げた。それからあゆに訊ねる。
「なぁ、たまにはあゆが名雪を起こしてみるか?」
あゆはぶんぶんと首を振る。
「ボクには無理だよっ!」
……それほど専門技能なのか?
まぁ、専門技能かもしれないな。
俺は苦笑して、部屋を出て、名雪の部屋のドアをノックする。
「名雪ーっ! 起きろーっ!」
ドンドンドンドン
「……にゅう」
微かに反応があった。
「起きたのかーっ!?」
「……起きたよぉ……」
怪しい。
「本当に起きてるんだったら、今から言う質問に答えるんだっ!」
「……けろぴー」
多分、OKだろう。
「アメリカの州を全部言ってみろっ!」
「うぐぅ、ボクそんなの言えないよ……」
「誰もあゆには聞いてないだろっ! しょうがない。名雪、自分の誕生日は?」
「ボクは1月7日だよ」
「あゆには聞いてないっつーに」
「うぐぅ、意地悪……」
「よし、それじゃスリーサイズを言ってみろっ!」
「はち……うぐぅ……」
「あゆ、どうして言わない?」
俺が訊ねると、あゆはぶんぶんと両手を振り回しながら叫んだ。
「いじわるーっ!! 祐一くんのばかぁっ! うぐぅぅーーっ!」
“うぐぅ”まで叫ぶことはないだろうに、と思いながら、俺はドアを開けてみた。
案の定、名雪はけろぴーを抱いて眠っていた。
俺はため息をついた。
「……やれやれ」
結局、名雪を起こして着替えさせるのに、それから15分を要した。
それからダイニングに降りたところで、俺は自分が着替えていなかったことに初めて気付くことになる。
栞や真琴に笑われて結構情けなかった。
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あとがき
祝! ダイエーホークス パ・リーグ優勝っ!
ううっ、まさかこの日が来ようとは……。長生きはするものだなぁ(笑)
プールに行こう2 Episode 27 99/9/25 Up