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香里と名雪の作った料理は、文句なく美味かった。強いて難点を上げるとしたら、教科書通りで意外性がないっていうだけだが、俺は別に料理に意外性は求めていないのでそれはそれで構わない。
Fortsetzung folgt
「そこでどうしてボクを見るんだよっ」
「気のせいだ。……ところであゆ」
「ん?」
箸をくわえて、あゆが俺を見る。
「前から不思議に思ってたんだが、なんでお前は俺の考えてることにツッコミを入れることが出来るんだ?」
「うぐぅ……、そんなの判らないよ」
首を傾げるあゆ。
「でも、なんとなく祐一くんの考えてることってわかるよ」
「祐一って、考えてることが顔に出るもんね」
名雪に言われて、俺は思わず自分の顔を撫でた。
「それは問題だな」
と、舞が席を立つ。
「あ、川澄先輩。もういいんですか?」
「……ごちそうさま」
声をかけた香里にそう言い残して、舞はダイニングを出ていった。
香里は、名雪に視線を向ける。
「もしかして、あたし避けられてるの?」
「ううん。川澄先輩ってずっとあんなだよ。ね、祐一?」
「……そうだな」
俺は肩をすくめて、大皿に盛られた鳥の唐揚げに箸を伸ばした。
「あれ? 今日はいいの?」
「なにがだ?」
「だって、いつも川澄先輩が出ていったら、祐一その後を追いかけてくじゃない」
「……いいんだよ」
名雪にそう言って、俺は唐揚げを口の中に放り込んだ。
香里が名雪に視線を向ける。
「名雪、それ本当なの?」
「うん、そうだよ。わたし、その後すぐに寝ちゃうから良く知らないけど」
「毎日真夜中にならないと、お二人とも帰ってきませんよね」
栞が言うと、香里は、今度は俺に顔を向けた。
「何してるのよ、二人で?」
「……魔物退治だ」
「?」
香里はきょとんとして、それから苦笑する。
「ま、いいけどね。でも、あまり栞をないがしろにしないでね」
「そうだな。これからはそうしよう」
俺はそう言って、味噌汁を飲み干した。
ガシャン
いきなり、食卓の向かい側ですごい音がした。見てみると、真琴が茶碗を前にあうーっという顔をしている。
「どうした? 箸がうまく使えないのか?」
「うまくご飯が食べられないのようっ。……あうーっ」
ほとほと疲れた顔で、秋子さんに視線を向ける。
「秋子さん……」
「何かしら?」
「スプーンで食べたい」
「お前な、ガキじゃないんだから、飯食うときには箸くらい使えっ! 日本人だろっ!」
「……わかったわ」
頷いて、スプーンを取りにキッチンに入って行く秋子さん。
「お前、どんどんガキに戻っていくな」
真琴の隣りに座っていた栞が苦笑した。
「それじゃ、私もガキですね」
栞も右手にスプーンを持っていた。
「くわぁ、お前もか」
「だって、お粥をお箸で食べるのって難しいんですよ」
そう言われてみると、栞と真琴の前にあるお茶碗には、俺達とは違ってお粥が入っていた。
「なんでお前らだけお粥なんだ?」
「病人にはお粥って昔から決まってるでしょ?」
病人なので特別に香里が作ったらしかった。
「でも、このお粥美味しいです」
「当然。あたしが作ったんだもの」
香里が胸を張って言った。隣で名雪が嬉しそうに笑う。
そこに、秋子さんがスプーンを持って戻ってきた。
「はい、真琴」
「ありがと」
スプーンを受け取って、お粥をがつがつ食べる真琴。なんか、戦後すぐの欠食児童みたいだ。って良く知らないが。
「……意地汚い食い方だな」
「ふぁっふぇふぁほほ……」
「いいから、口の中のものを呑み込んでからしゃべれ」
俺が言うと、真琴はお粥をごくりと呑み込んでから言った。
「だって、真琴、今日まだ何も食べてないんだもん」
「あれ? 祐一さん、今朝私、雑炊を作って置いていきましたよね?」
栞が俺に尋ねる。
俺はきっぱりと答えた。
「腹が減ったから、俺が全部食った」
「ええーっ!? 真琴の雑炊食べちゃったのぉ!?」
「食った者勝ちだ」
俺がきっぱり答え、それから手を伸ばして真琴の額を押さえる。
思った通り、真琴がぶんぶんと両手を振り回し始めた。
「このこのこのこのこのっ! 真琴のぞーすい返せぇ〜っ! 真琴のぞーすいぃぃぃぃ〜っ!」
だが、俺が真琴の額を押さえているものだから、両腕は俺まで届かないのだ。ふっふっふ、見よ、この頭脳的プレイ。
「もう、真琴も祐一さんもやめなさい。食事中ですよ」
秋子さんにやんわりと注意されて、俺達は戦闘を中断する。
「ううっ、覚えてなさいよっ! 明日は明日の風邪を引くんだからっ!」
相変わらず意味不明なことを言うと、真琴は自分の前のお粥に戻った。
食事が終わって、俺達――俺と名雪、栞の3人――は、香里を見送りに玄関まで来ていた。
「それじゃ、また明日ね、香里」
「うん。栞も、あまり迷惑かけないようにね」
「はい。お姉ちゃんも気をつけて」
栞に笑顔で片手を振ると、香里は不意に俺に視線を向けた。
「相沢くん、ちょっといいかしら?」
「……わかった」
俺は頷いて、靴を履くと、香里と一緒に外に出た。
水瀬家の門の外に出ると、俺は訊ねた。
「で、何の用だ?」
「……お礼を言いたくてね」
香里は振り返った。
「さっきの夕ご飯の時、栞、とても楽しそうだったから」
「楽しそうって、あいつはいつも楽しそうじゃないか」
俺は栞の顔を思い出してみた。
いつも笑顔でいる少女。ちょっと拗ねたり怒ったりしてみせることはあるけれど、それでもいつも笑っている、そんな印象がある。
「……そうなの」
俯いて、香里は呟いた。
「え?」
「……ううん。あの子が笑って過ごしてるのなら、それでいいわ」
そう言うと、香里は顔を上げた。
「それじゃ、お休みなさい」
「……? ああ、お休み」
俺が言うと、香里はそのまま、夜の闇に消えていった。
首を捻りながら戻ってくると、栞がまだ玄関にいた。
「祐一さん、お姉ちゃん何か言ってましたか?」
「いや、べつに。ただ、栞をよろしくって言ってただけだけど……」
「……そうですか」
栞はにこっと笑った。
「祐一さん、テレビでも見ませんか? 面白いドラマやってますよ」
そうだな。たまにはいいか。
俺は頷いて、栞の後に続いてリビングに足を運んだ。
ドラマが終わると、時計はちょうど11時になろうとしている頃だった
「面白かったですね」
「そうだな」
頷いて辺りを見ると、栞しかいなかった。
「……あれ? 他の連中は?」
「名雪さんはそこです」
栞が指さす方を見ると、名雪は床に倒れていた。
「……うにゅ、けろぴー……」
寝ているようだった。
「あゆは?」
「最初の殺人が起きたところで逃げて行っちゃいました」
「真琴は?」
「さぁ。上で漫画でも読んでるんじゃないですか?」
と、そこに秋子さんが顔を出した。
「私はもう寝るけど、何か用はあるかしら?」
「いえ、ただ名雪が……」
俺が床に横になって寝ている名雪を指すと、秋子さんは「あらあら」と頬に手を当てた。それから俺に視線を向ける。
「祐一さん、あとはお願いしますね」
「えっ? あ、あの、ちょっと!」
「それじゃ、おやすみなさい」
そう言って、秋子さんは去っていった。
「どうするんですか?」
「とりあえず起こすしかないだろ? おいこらっ、起きろっ!!」
俺は名雪を揺さぶってみたが、起きる様子はない。
「くそ、しぶといな。こうなったら耳元でネズミ花火でも鳴らすか?」
「それはいくらなんでもひどいですよ。耳に冷たい水を入れるくらいにしませんか?」
なにやらすごい方法を提案する栞。
俺は訊ねた。
「一つ聞くが、それって本来の目的は?」
「耳に冷たい水ですか? えっと、確か脳死判定の時にやる方法だと……」
栞は唇に人差し指をあてて、考え込むような表情で答えた。
実際にやってみて、名雪が何の反応も示さなかったら、それはそれで怖いので、その方法はやめておくことにした。
「よし。それじゃ今から名雪の体のあちこちに触りまくって起こしてみよう」
「わっ、祐一さんエッチです」
「なお、これは純粋に名雪を起こすという目的だけのための行為であって、断じて不純な目的ではない」
「わざわざ解説する辺りが怪しいです」
うーん。
しょうがない。
俺はふっとため息をつくと、キッチンに行った。
確か、冷蔵庫の上に……。あったあった。
目的のものを取って、リビングに戻ってくると、栞がびっくりしたような顔をして、床にぺたんと座り込んでいた。
さっきまでそこで寝ていた名雪の姿がない。
「あれ? 名雪は何処に行った?」
「それが、いきなりがばっと起き上がって、そのまま……」
栞は階段の方に視線を向けた。それから俺を見て、ひくっと顔が引きつる。
「ゆ、祐一さん、それ……もしかして……」
「ああ。起きないんだったらこれを口に詰めてやろうかと思って持ってきたんだが……」
本能的に危険を察知して逃げたのか。さすが陸上部部長だ。
「それじゃ、代わりに栞に……」
「あああの私もう寝ますねおやすみなさいっ!」
栞はあたふたと逃げていった。根性のない奴だ。
仕方なく、俺はそれをキッチンの冷蔵庫の上に戻して、風呂に入ることにした。
脱衣場で服を脱いで、タオルで前を隠しながらバスルームのドアを開ける。
カラカラッ
中には誰もいなかった。
まぁ、こんな日もたまにはないと。いつも俺が入ると誰かが入ってるのは、そりゃ楽しいし目の保養にはなるが、……ま、女ばかりの中に男が一人っていうのは、体験してみないとわからないような気苦労もあるのだ。
俺は湯船に身体を沈めた。
うーん、熱い湯が五臓六腑に染み渡る。
で、さっきの続きだ。
特に名雪。あいつは俺のことを男だっていう認識をしているのかどうか、はなはだ疑わしい。
平気でパジャマでうろつき回るわ、俺の前で寝こけるわ。
……それじゃ、名雪が俺のことを男だって意識すればいいんだろうか?
そうなったらそうなったで、今のいい関係が崩れてしまうような気がした。
様々な気苦労があるとはいえ、俺がこんな環境で平然と生活できているのは、名雪が7年前と同じように俺に接してくれているからだ、というのは、判っているんだ。
問題は、名雪がそれを意識してやってるのか、それとも無意識なのかってことだな。
……多分無意識なんだと思うけど。
俺は、じゃぶじゃぶと湯で顔を洗った。そして、風呂から上がると、脱衣場との間のドアを開けた。
がらがらっ
「……」
そこにいたのは、舞だった。それも、何も身に着けていない。つまり全裸だ。
物憂げに顔を上げて、俺を見る。
風呂場から流れ出した湯気が、足下を流れていく。
「……ただいま」
「ああ、おかえり」
ぽちょん
風呂に雫が落ちる音が、俺の後ろで聞こえた。
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あとがき
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って、何のことかわかんないよね。反省(笑)
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