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色々あった末に島に漂着した俺達――俺、相沢祐一といとこの水瀬名雪、自称記憶喪失の同居人沢渡真琴、幼なじみ(?)の月宮あゆの4人――は、折からの雷雨から避難するために、島の高台にある洋館に侵入した。
Fortsetzung folgt
しかし、呼べど叫べど応答の無かったその洋館の中には、確かに何者かがいた形跡があった……。
「……うぐぅ」
微かな呻き声が聞こえて、俺と真琴は、名雪達の所に駆け戻った。
気絶していたあゆが、ゆっくりと目を開ける。
「あゆちゃん!?」
「あゆ、生きてるかっ!?」
「……名雪さん、祐一君……。うん、生きてる……」
そう呟くと、あゆはいきなり顔を上げた。
ゴチン
鈍い音がして、あゆの顔をのぞき込んでいた名雪と額同士が激突する。
「うぐぅっ……」
「……痛い」
二人は互いに額を押さえて泣きそうな顔をする。
「うぐぅ、ごめんなさい……」
「ううん。……祐一、痛いよぉ……」
「俺に言うなっ」
俺は名雪はとりあえずほっといてあゆに訊ねる。
「大丈夫か、あゆ?」
「うぐぅ、頭が痛い……」
「それは自業自得だ」
「意地悪……」
額を押さえて涙目になっているあゆ。と、慌てて振り返る。
玄関のドアは閉まったままだった。
「ももももしかして閉じこめられたのボク達っ大変だよ食べられちゃうよっ!」
……異様なほど早口だった。しかも訳が分からない。ドアが閉まったところでなにゆえにいきなり食べられるという展開になるんだろうか?
「あゆ、良いことを教えてやろうか?」
「う、うん……」
「こういうとき、一番怖がっている奴が最初にいなくなるのがパターンなんだぜ」
「ここ怖がってないよボクっ!」
慌てて虚勢を張るあゆ。
額を痛そうに押さえたまま、名雪が割って入った。
「祐一、あんまりあゆちゃんいじめちゃだめだよ」
「いじめてるんじゃない。からかってるんだ」
「うぐぅ、意地悪」
あゆが膨れて拗ねた。俺は名雪に尋ねた。
「それより、頭は大丈夫か?」
「うん……、ちょっとこぶになったみたいだけど、大丈夫だよ」
額を押さえていた手を離して、名雪は顔をしかめた。あゆが慌てて謝る。
「ご、ごめんなさい、名雪さん」
「ううん、大丈夫だよ」
名雪はちょっと引きつった笑みを浮かべた。……いつものんびりおっとりしているこいつがこういう顔をするということは、どうやら本気で痛いようだった。
「それで、これからどうするの?」
真琴が訊ねた。こいつはあゆとは逆に怖いもの無しの様子だった。
「真琴、お前は怖くないのか?」
聞いてみると、真琴はあっさり答えた。
「別に〜」
なんだか今にも鼻歌でも歌い出しそうなほど余裕こいている。
まぁ、真琴の場合は「なんだかよくわからないもの」に対しては恐怖は感じないらしい。こいつが怖がったのを見たのは、前に夜の学校まで俺を脅かしに来たとき、逆に舞に剣で刺されかかったときくらいなものだ。
そのあたり、“雰囲気”で怖がるあゆとは対照的だ。
俺は真琴の肩をぽんと叩いた。
「よし、それじゃお前を探索班の班長に任命してやる。行って中に誰がいるか探ってこい」
「やだっ」
半瞬で答える真琴。
「女の子を一人でそんな危険なことさせるつもりっ!? やっぱり祐一って鬼のような奴ねっ!」
……そこまで言うか?
と、そこまでまくし立てた真琴が不意に押し黙った。
「どうした?」
「しっ」
訊ねた俺を、唇に指を当てて制すると、真琴は振り返った。そして呟く。
「……足音が聞こえる」
俺も耳を澄ませてみたが、聞こえるのは雨が屋根に当たる音ばかりだ。
「気のせいじゃ……」
「静かにしてって言ってるでしょっ、祐一の馬鹿っ! おたんこなすっ!」
……なんでそこまで言われないといかんのだ?
すごく疑問だったが、とりあえず黙ったのは、真琴が珍しく真面目な顔だったからだ。
こいつがこんなに真面目な顔をしているのは、漫画を読んでいるときくらいしか見たことがない。
……それって、あんまり真面目じゃないのだろうか?
と、その時、俺の耳にも微かにその音が聞こえた。
パタン
ドアの閉まる音だ。
俺が振り返ると、名雪とあゆも階段の上の方を見上げていた。あゆは涙目になって、叫び出さないようにか、口を押さえている。
と、背中をつつかれて俺は向き直った。
真琴が無言で階段の上を指す。
今度は俺にも判った。薄ぼんやりとした光が2階の廊下の奥から漏れてきていたのだ。
よく見ると、その光は揺れている。ということは、誰かが懐中電灯か何かを持って、歩いているってことか?
俺は振り返り、2人に物陰に隠れるように手真似で告げた。そして俺達も階段のすぐ下に移動する。ここならちょうど死角になって2階の踊り場からは見えないはずだ。
どうやら、2階の廊下も絨毯が敷かれているようで、足音は聞こえない。
「……近づいてくるわ」
いや、真琴はどんな耳をしているのか、足音が聞こえているらしい。
俺は小声で訊ねた。
「何人か判るか?」
「……一人」
真琴も囁き返す。
俺は、名雪達が玄関ホールの柱の影に隠れたのを確認してから、一つ頷いた。
「俺が確かめてやる」
「え?」
真琴が聞き返す間もなく、俺は玄関ホールの真ん中に駆け戻り、振り返った。
2階の踊り場に、人影があった。そいつが持っていると思われる懐中電灯の光が、俺を照らし出す。
一瞬、目が眩んだ。
その時。
その人影が飛んだ。ふわりと舞い上がり、そして俺に向かって落ちてくる。
「祐一っ!」
「祐一君っ!!」
名雪とあゆの叫び声が聞こえる。馬鹿野郎、隠れてろって言っただろうがっ!
俺は目が眩んだまま、とっさに飛びすさった。
ヴン、ガキッ
額を何かがかすめ、床に突き刺さる。
そして呟き。
「……外れた」
俺は、その場にへなへなと腰をついた。そして怒鳴る。
「何をするんだ、舞っ!!」
「斬ろうとした」
身を起こしたのは、間違いなく川澄舞だった。もっとも、この距離まで接近したから初めて判ったのだが。
「当たったらどうするんだっ!」
「当たらなかった」
「結果論で言ってるんじゃないっ!」
「川澄先輩なの、祐一?」
名雪が駆け寄ってきた。それから、小首を傾げる。
無理もない。俺も2階の踊り場に立っていたときは、逆光だったせいもあるが、誰なのか判らなかったくらいだ。
「で、その格好はどうしたんだ?」
名雪の助けを借りて身を起こしながら、俺は訊ねた。
「2階にあった。水着のままだと寒かったから」
舞が答える。
その舞の格好はというと、いわゆる“メイド服”だった。しかも、いつも結わえてある髪を解いて、白い髪飾りでとめているので、まるで雰囲気が違ってしまっている。
まぁ、片手に抜き身の剣をぶら下げているメイドさんなんてこいつくらいなもんだろうけど。
あ、そうだ。
「舞、ここにいるのはお前だけか? 栞は?」
栞が舞と同じボートに乗っていたはずだ。
「……」
黙ったままの舞に、名雪が口に手を当てる。
「まさか、栞ちゃんに何か……?」
「私だけじゃない。栞は無事」
「答えるのが遅いっ!!」
俺が突っ込む。名雪はほっと胸をなで下ろした。
「よかったよ。わたし、本気で心配しちゃった」
続けて訊ねる。
「後誰がいる? お前らだけか?」
「佐祐理と……もう一人。名前知らない」
小首を傾げて言う舞。
佐祐理さんも無事か。もう一人っていうのは、佐祐理さんと一緒のボートに乗っていた天野のことだろうな。しかし、舞に名前を覚えてもらってなかったとは、天野も不憫な奴。
「着替えてたら、玄関の方で物音がしたから、見に来た。佐祐理達はまだ残ってる」
「あ、そうだったんだ」
名雪が納得したように頷いた。
と、後ろから真琴がやって来た。
「それならあたしたちもはやックション」
「お? マコピー語か?」
「違うわよっ! 早く着替えようって言おうとおもったらくしゃみが出ただけよっ!」
「そうだな。舞、佐祐理さん達の所に案内してくれるか?」
「わかった」
こくりと頷くと、舞は右手で剣を抜こうとした。が、深く床にめり込んだらしく抜けない。
「……抜けない」
「両手で抜けっ! 懐中電灯は持っててやるから」
俺はそう言って懐中電灯を奪い取った。それからふと、名雪に尋ねた。
「そういえば、あゆは?」
「えっ? あっ!」
慌てて、自分たちが隠れていた柱の方を振り返る名雪。
そこには、柱にもたれかかるように目を回して気絶しているあゆの姿があった。
ガチャ
2階の廊下を進んでいくと、さらに階段があった。それを上がると、舞は一番近くのドアを無造作に開けた。
「ただいま」
「あ、舞。お帰りなさ〜い」
大きく開いたクローゼットの扉の影から佐祐理さんが顔を出した。そして俺達の姿を見て、ぱっと微笑んだ。
「皆さんだったんですね。佐祐理はまたお逢いできて嬉しいです」
「えっ?」
栞がひょこと顔を出した。その表情がぐっとゆがむ。
「祐一さん、それに皆さんも……。ううっ」
「おっす。栞も相変わらず小さいな」
「そ、そんなこと言う人は……ぐすっ」
「あらあら」
泣き出した栞を、佐祐理さんが優しく抱きしめて慰めている。
ちなみに、2人とも舞と同じくメイド服である。そしてクローゼットの奥にはさらにメイド服がずらっとハンガーに掛かっている。どうやらここはメイドさんが着替えをする部屋か何かなんだろう。
しかし、お嬢様のはずの佐祐理さんが一番メイド服がしっくりきてるのは何故だろうな?
あれ? そういえば一人足りないな……。
俺は部屋を見回して、訊ねた。
「天野は?」
「ここです」
「うわぁっ!」
思わず飛び上がる俺の後ろで、これまたメイド服姿の天野が平然と真琴に声を掛けていた。
「大丈夫でしたか?」
「えっ? う、うん、大丈夫だった」
「そう」
「えっと、あの、……そのっ」
何度かぱくぱくと口を開けた後、真琴はそっぽを向いてぼそっと言った。
「み、美汐も、大丈夫だった?」
「はい、大丈夫」
「そ、そう。よかったわねっ」
そう言うと、赤くなって明後日の方を向く真琴。
それでも、天野は嬉しそうに微笑んでいた。
「う、うん……」
不意に俺の背中で呻き声が上がった。俺は首をねじ曲げて後ろを見た。
「よう、あゆ。気が付いたか?」
「えっ? あ、祐一君? あれれっ? ボクどうして……?」
俺の背でしきりに首をひねるあゆ。
「気が付いたんなら、降りてくれ」
「えっ? わ、わわぁっ!」
言われて俺に背負われているのに初めて気付いたらしく、あゆは慌てて俺の背中からすべりおりた。
俺は大きく腕を回した。
「ふぅ、肩凝った」
あゆはきょろきょろと辺りを見回してから、俺に尋ねた。
「ボク、もしかして、また気絶してた?」
「してたしてた。すごく豪快な気絶だったぞっ」
「……うぐぅ、なんかやな言い方だよ」
「そんなのいいから、はやックション」
またくしゃみをする真琴。
「真琴、マコピー語はわかりにくいから普通にしゃべってくれ」
「だから、くしゃみが出ただけよっ! 寒いから早く着替えたいのよっ!」
「そうだな。名雪もあゆも今すぐに着替えた方がいいぞ」
俺がそう言うと、なぜか皆が白い目で俺を見た。
「ん、どうした?」
名雪がため息を付く。
「祐一……」
「何だ?」
「出ていって」
ぴっとドアを指して言う名雪。
こくこくと頷く他の娘達。
どうやら、残念なことに俺に拒否権はないようだった。
ドアを背にして、中に向かって尋ねる。
「で、これからどうするんだ?」
「これなんて合いそうですよ〜」
「わぁっ、ほらほら、これボクにピッタリ!」
「きゃぁっ、なによこれっ、破けちゃったじゃないっ!」
……随分にぎやかである。
俺はもう一度訊ねた。
「どうするんだってば?」
「うーっ、これちょっと小さいよ〜」
「あ、それじゃこれなんかどうですか?」
「うん、それなら多分ピッタリだよ」
バタン
「俺の話を聞けぇっ!!」
俺は思わず振り返ると、ドアを開けて怒鳴った。
そして、硬直した。
「あ……」
ドアの中では、ちょうど名雪が、ビキニの上を全部外したところだった。ちなみに真琴とあゆはもう着替え終わっている。
「えっと、や、やぁ……」
「ゆ、祐一……」
と、その時。
「きゃぁぁぁぁーーーーーっ」
遠くで、でもはっきりと、悲鳴が聞こえた。
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あとがき
メイドさんといえば、殻小鳥シリーズかPia2でしょうか(笑) いや、Pia2はメイド服じゃないですが。
あと、最近だとリトルMyメイドかなぁ。雛鳥早くやりたい(笑)
あ、ども。昨日寝過ごしてアップ出来なかったもので、今日は3話続けてアップさせていただきます。
なんかタイトルとは全然関係のない方向へと突き進んでいますが、まぁあんまり気にしないほうがよろしいか、と(笑)
ではでは
PS
感想下さった皆様、ありがとうございます。色々と忙しくてお返事できませんけど、全部読ませて頂いてますよ〜。
最近また来なくなったのでちょっとヘコんでますけど(苦笑)
PS2
ママトト買ってきました。しばらく更新は止まるかもしれません。
最悪、シリーズ打ち切りにしてママトトSS書き始める可能性もあります(笑)
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