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日曜の駅前は、同じように行楽に出かける若者達が待ち合わせをしているのか、結構人出があった。
Fortsetzung folgt
「真琴、はぐれたらいけないから手を握っておいてやろうか?」
「また人を子供扱いするっ!」
「うぐぅ、迷子になりそうだから祐一君に掴まってていい?」
「服が伸びるからいやだ」
「うぐぅ、意地悪……」
「秋子さん、そのクーラーボックス、持ちましょうか?」
「いえ、大丈夫ですから」
「……眠い」
「寝るなっ!!」
「うぐぅ、無視しないでぇ……」
などといつものように賑やかに騒ぎながら約束の待ち合わせ場所にたどり着くと、ベンチに腰掛けていた女の子がちらっとこっちに視線を向けた。
「あれ? 天野じゃないか。早いな」
「はい、おはようございます」
天野は立ち上がると、ぺこりと頭を下げた。
そういえば、天野の私服姿っていうのも初めて見たな。
清楚な感じのパステルグリーンのワンピースで、頭には同じ色のベレー帽みたいな帽子を被っている。
じろじろ見ていると、天野がとがめるような目つきをしながら訊ねた。
「……どうしました?」
「あ、いや、べつに」
俺は視線を逸らして肩をすくめた。
「そうですか」
特に気にした風もなく、天野はすたすたと真琴に近づいた。そしてすっと頭を下げる。
「久しぶり」
「あ、う、うん」
「お名前は?」
「沢渡真琴」
間髪入れずに答える真琴。……なんか雰囲気台無しって感じがした。いや、なんとなくだけど。
でも、天野は気にはしてないようだった。
「そう。私は天野美汐」
「うん、知ってる」
ますます雰囲気台無し……って感じだ。
「あっ、香里、栞ちゃん、こっちこっち!」
名雪が手を振った。そっちの方を見ると、香里と栞が人混みをかき分けるようにこっちに向かって来るところだった。
香里は、疲労困憊という感じで持っていた2つのバッグを置くと、ベンチに座り込む。
「はぁはぁ……つ、疲れた」
どうやら、栞の分の荷物まで香里が持っていたらしい。
「姉さん、ありがとう」
後ろから来た栞がポケットから扇子を出して、ぱたぱたと香里をあおいでいる。……相変わらず四次元ポケットの持ち主だな。
「さて、これであとは佐祐理さんと舞だけだな」
「俺を忘れるなぁっ!」
叫びながら、北川が花壇の中から現れた。
「……」
静まり返る一同。
北川は、その一同の反応を見て、おそるおそる俺に尋ねた。
「……もしかして、俺、外した?」
俺は、泥で汚れたところを避けて、北川の腕を叩いた。
「もう、何も言うな」
「えっと、いや、だからこうやって登場したら受けるかなって思って、隠れてたんだが……」
「……やめとけ、北川。どつぼにはまるだけだぞ」
静かに首を振り、俺は名雪に尋ねた。
「で、時間は?」
「えっとね、あと3分だよ」
「そっか。それじゃもう少し待つかな?」
「そうね。どっちにしても、倉田先輩が来ないと始まらないでしょう?」
と香里が口を挟む。
「それもそうだな。ところで栞って泳げるのか?」
「馬鹿にしないでください。これでも泳ぎは得意だったんですよ」
えいっという感じで胸を張る栞。ちなみに、さすがに今日は例のストールはしてない。パーカーにミニスカートという涼しそうな格好だ。
「幼稚園の時か?」
「そんなこと言う人は嫌いです」
ぷっと膨れる栞。脇から香里がじろっと俺を睨む。
「ひとの妹捕まえて酷い言い様ね、相沢君」
「よーし、それじゃわたしと競争しようか?」
名雪がぴっと指を立てて言った。栞は嬉しそうに頷く。
「はい、望むところです」
「待ちなさいっ! 名雪、あんたばりばりの体育会系でしょうがっ! 病人と競争するんじゃないっ! 栞もっ!」
慌てて止めに入る香里。
北川が花壇の中から怒鳴る。
「お前らっ、何事も無かったかのように話を進めるなっ!」
「北川こそ、さっさと花壇から出てこいっ!」
「お、おう、それもそうだな」
俺が怒鳴り返すと、北川は花壇から出てきた。それから、ベンチの下からスポーツバッグを引っぱり出す。どうやら自分の荷物はそこに隠して置いたらしい。
「やれやれ、酷い目にあったぜ」
「……」
再び、冷たい沈黙が辺りを満たしたのは言うまでもない。
「おかしいなぁ。約束の時間はもう過ぎたっていうのに、佐祐理さんと舞はまだ来ないぞ」
「過ぎたって、まだ2分過ぎただけだよ」
名雪は、そう言って腕時計を俺に突きつけて見せた。確かに猫がプリントされた名雪の腕時計は8時2分過ぎを指している。
「俺は待たせるのはいいが、待たされるのは我慢できないタイプなんだ」
俺は胸を張って言った。
「祐一君って昔からそうだよね」
「うん、そうだね」
あゆと名雪が頷き合っている。おまえらなぁ……。
「そうなんですか? 人類の敵ですね」
栞がにこにこしながら言った。
「栞、そこまで言うか?」
「冗談ですよ」
そう言うと、栞は名雪達に訊ねた。
「でも、祐一さんってそうなんですか?」
「うん、そうだよ。ボク、よく待たされたよ」
「わたしもだよ。栞ちゃんも気を付けた方がいいよ〜」
いかん、このままでは俺の秘められた過去が赤裸々になってしまうではないか。
「か、香里、今日はいい天気だなっ!」
「何うろたえてるのよ、相沢君」
相変わらず冷静なツッコミを入れる香里。
「親友のいとこが苦境に陥っているというのに、なんだその冷静な対応はっ! なぁ、北川」
「相沢……」
「な、なんだ?」
「聞きたいんだが、あの娘とこの娘は誰だ?」
真琴とあゆを指して訊ねる北川。そういえば、初対面だっけ?
「心配するな。佐祐理さん達が来れば紹介してやる」
「おう。頼むぜ、まいぶらざぁ」
「あっ、来たよ〜」
名雪が声をあげて指さした。
「はぁはぁはぁはぁ……」
ずっと走ってきたのか、すっかり息が上がっている佐祐理さん。こっちは対照的にいつもと同じ舞が、その背中を撫でている。
「佐祐理、運動不足」
「そ、そうですね。これからは、気をつけることに、しますね。ありがとう、舞……。ふぅ」
胸に手を置いて一つ深呼吸してから、佐祐理さんは俺達の方に向き直って、ぺこりと頭を下げた。
「みなさん、おはようございます」
「おはよーございまーす」
何となく声を合わせる俺達。なんだか幼稚園のおねーさんと園児達という感じだ。
と、そこで不意に佐祐理さんは表情を曇らせた。
「ごめんなさい。佐祐理は皆さんに悲しいお知らせをしなければなりません」
な、なんだ? いきなりプールが閉鎖されたのか?
ざわめきが走るなか、佐祐理さんは決然と顔を上げて言った。
「昨日、お家に帰ってからよく調べてみたんですけれども、実は、市民プールには猫を連れて行ってはいけないんだそうです」
なんだ、そんなこと……。
「ええーーーーっっ!!」
「そ、そんなぁ……」
2人から同時に非難の声が上がった。
「真琴、名雪、お前らなぁ……」
「じゃ、あたし行かない」
「ううっ、香里ぃ〜。わたし、楽しみだったのに〜」
ぷいっと拗ねてそっぽを向く真琴と、香里にもたれて泣き出す名雪。……って、泣くなよなぁ。第一、名雪はぴろが来てること知らないだろっ。
「猫さんプールで泳げると思ってたのに……、ううっ、残念だよ〜」
「そんなプールあるかいっ!」
俺が名雪に突っ込みを入れていると、佐祐理さんがパンパンと手を叩いた。
「はい、皆さん注目〜」
「注目」
横でぼそっと舞が言う。ぶつぶつ言っていた真琴が、びくっとしてそっちに向き直る。
「なっ、なによっ?」
佐祐理さんは、さっきの悲しげな顔はどこへやら、満面の笑顔で言った。
「そこで、今日は市民プールは諦めて、代わりに海に行くことにしましたぁ」
一拍置いて、俺は聞き返した。
「佐祐理さん、今なんて?」
「はい。海に行くと、佐祐理は言いましたよ」
平然と佐祐理さん。そりゃ確かに海なら猫を連れて行こうが、犬を連れて行こうが、誰も文句は言わないだろうけど……。
名雪が頬に指を当てて、考え込んだ。
「えと、確か海に行くには、ここからだと電車で2時間はかかるんじゃなかったかな? ね、香里?」
「ええ、そうよ。ちょっと時間かかるわね」
香里が頷く。
佐祐理さんはとんと胸を叩いた。
「任せてください」
「何を?」
速攻で突っ込む俺。うぉ、舞がじろっと俺を睨んでるっ。
佐祐理さんはというと、俺のツッコミは気にしてない風で、にこにこしながら言葉を続けた。
「佐祐理だって、海まで電車で行くと時間がかかることは知ってます。ですから、お父様に相談してみたんです。そうしたら、お父様が車を貸してくださるそうです。車なら高速使って1時間かからないそうです」
「なるほど」
俺は納得し……かけて、ふと気になったので訊ねる。
「で、その車って誰が運転するか決まってるの?」
「それはもちろん、祐一さんです」
嬉しそうに言う佐祐理さん。俺は慌てて言った。
「無理ですっ!!」
「……え?」
佐祐理さんは、一瞬固まっていた。それから、おそるおそる、俺に尋ねる。
「祐一さん、もしかして、運転できないんですか?」
「俺はまだ免許持ってませんっ!!」
「そ、それもそうですよね。じょ、冗談ですよ〜。あははーっ」
いつものように笑う佐祐理さん。だが、こめかみに汗が浮かんでいた。
と、今まで黙って俺達のやりとりを聞いていた秋子さんが、佐祐理さんに尋ねた。
「運転する人がいればいいのね?」
「あっ、はい。そうです」
「それじゃ、私が運転するわ」
秋子さんはあっさり言った。佐祐理さんはぽんと両手を合わせて喜んだ。
「ありがとうございます、見知らぬお姉さん」
「あ、わたしのお母さんです」
慌てて紹介する名雪。そういえば、紹介もまだしてなかったな。
「佐祐理さん達は初めて逢うだろうから、俺から紹介するよ。来い来い」
「うんっ」
大きく頷いて駆け寄ってくるあゆと、渋々という感じでやってくる真琴。
俺は2人を指して紹介した。
「こっちから順番に、食い逃げ犯と傷害犯だ」
「うぐぅ。食い逃げじゃないもん」
「誰が傷害犯よっ!!」
思った通りの反応をする2人。佐祐理さんは、はぁと目を丸くした。
「悪い人ですねぇ」
「違うもん……。祐一君の意地悪」
「違うって言ってるでしょっ!! バカッ!」
「もう、祐一無茶苦茶だよっ! えっと、こっちがあゆちゃんで、こっちが真琴です」
名雪が割って入ると、2人を紹介した。
「えっと、月宮あゆです。ボク、食い逃げ犯じゃないんだよっ」
「沢渡真琴……。えっと、よろしく……」
「これはこれはご丁寧に。私は、倉田佐祐理ともうします。で、こちらが私の親友の川澄舞」
「……」
無言のまま、すっと頭を下げる舞。相変わらず無口な奴だ。
と思ったら、佐祐理さんにぼそっと言った。
「佐祐理……」
「あっ、そうですね。それじゃそろそろ行きましょう。皆さん、こっちですよ〜」
そう言って、佐祐理さんは歩き出した。
「……佐祐理さん、本当にこれに乗っていいんですか?」
「ええ。お父様の許可はいただきましたから」
佐祐理さんは、その車の前でにこにこしながら言った。
俺は、改めてその車を見上げた。
小型のバスで、サイドには市役所の名前が書いてある。どう見ても市役所の公用車だよなぁ。
佐祐理さんに先導されて、5分ほど歩いて付いたここは、どうやら市役所の裏にある職員専用駐車場らしい。
「さ、どうぞ〜。鍵は付けっぱなしにしてあるそうですから」
ドアを開けながら、佐祐理さんは言った。
と、そこで不意に俺は気が付いた。
バスって確か普通の免許じゃ運転出来ないんじゃなかったっけ? いや、よく知らないけど。
「秋子さん、免許持ってるんですか?」
「はい、持って来てますよ。ほら」
そう言って、秋子さんは免許証を見せてくれた。……いや、別に免許証を持ってるかどうか聞いたわけじゃないんだけどな。
そう思いながら、秋子さんの免許証を見て、俺は思わず訊ねた。
「秋子さん、大型二種なんて、なんで持ってるんですか?」
「企業秘密です」
澄まして言う秋子さん。うーむ、やっぱり謎な人だ。
「祐一さん、早く乗ってください」
佐祐理さんに促されて、俺はバスに乗り込んだ。皆もその後からどやどやと乗り込む。
「それじゃ、出発〜!」
最後に運転手の秋子さんが乗り込んだところで、何故か妙にハイテンションな佐祐理さんが宣言し、バスは海に向かって走り出した。
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あとがき
うぐぅ、タイトルと違う展開になっているっ(笑)
というわけで、海に行くことになった一同です。一体どうなるって言うんでしょうか?
しかし、だんだんわけのわからない展開になってきた(苦笑) 感想も来ない……ってことは、やっぱりまずいのかなぁ……。
読まれないものを書いても仕方ないので、中止の方向で検討することにします。
プールへ行こう Episode 9 99/6/22 Up 99/6/28 Update