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「ただいまぁ」
Fortsetzung folgt
水瀬家の玄関を開けると、奧のほうからなにやらきゃっきゃっと笑い声が聞こえてきた。
俺と名雪は顔を見合わせた。
「なにかな?」
「さぁ……。とにかく行ってみようぜぇ」
「うん、そうだね」
靴を脱いで、とりあえず声の聞こえたリビングの方に行ってみる。
と、その途中の廊下で、なにやら楽しそうな顔をした秋子さんが向こうから歩いてきた。
「あら、お帰りなさい、祐一さん。それに名雪も」
「あ、ども」
「ただいまぁ」
「ごめんね、ちょっと立て込んでるから。夕御飯はいつもの時間に出来ると思うわ」
それだけ言い残して、秋子さんは階段を上がっていった。
もう一度顔を見合わせる俺と名雪。
「とりあえず、リビング?」
「うん、そうだね」
「おーい」
「きゃぁーーーーーーーーーっっ!!!!」
リビングのドアを開けると同時にクッションが飛んできて、俺の顔面に当たる。
「わぷっ! な、なんだぁっ!」
「えっち、すけべ、変態っ!」
リビングの真ん中でぺたんと座り込んだ真琴が叫んだ。ちなみに、上半身はバスタオルを胸に当てただけという姿である。
「人が着替えてる最中に入ってくるなんてっ!!」
「アホかっ! リビングで着替えるなっ! 自分の部屋があるだろっ!」
クッションをソファに放り投げながら、負けじと怒鳴り返すと、真琴はぷっと膨れた。
「だって……」
「あらあら、おかえりなさい」
廊下から秋子さんが入ってきた。腕になにやら色々と抱えている。
「はい、これなんてどうかしら?」
……水着のようである。
「あ、それわたしの水着だよ」
俺の後ろからリビングに顔を出した名雪が言った。
「ええ。もう、名雪は着ないでしょ? 真琴、水着持ってないって言うから、貸して上げようと思って」
「あ、そうなんだ。うん、わたしはいいよ。今日新しいの買ってきたし」
にこにこしながら頷くと、名雪は紙袋を指して見せた。
「ありがとう、名雪。さ、真琴、これなんてどうかしら」
秋子さんは笑顔で一枚の水着を広げた。紺色のいわゆるスクール水着みたいなやつで、ご丁寧に胸の所には『1−B 水瀬』と書いてある。……って、それって正真正銘のスクール水着じゃないか?
「それはいらない」
「いかんな、真琴。こういうスクール水着は流行の最先端で大人の女の証なんだぞ」
俺がもっともらしくいうと、真琴は俺と水着を見比べて、聞き返した。
「それ、ホント?」
「無論だ。俺が嘘を言うような男に見えるか?」
「見える」
速攻で頷く真琴……はともかく、名雪まで深々と頷くとは何事だ?
しかし……。
「でも、似合うわよ、きっと」
秋子さんが笑顔で言うと、真琴はううっと考え込んで、その水着を受け取ると立ち上がった。
「おっ、何処に行くんだ?」
「着替えてくんのよっ!」
そう言って、ずかずかっとリビングを出ていく真琴。
「あ、そうだ。私も水着着てみようかしら」
ぽんと手を打つと、秋子さんも出ていった。
「着てみようかしらって、秋子さん?」
「だって、去年の水着まだ着られるかどうかわからないんですもの」
そう言い残し、なにやら鼻歌を歌いながら階段を上がっていく秋子さん。
入れ替わるように、真琴がドアの隙間から顔だけ出す。
「おっ、どうした、真琴?」
「あうーっ……」
なにやら困っているようだ。
俺はソファにとすんと腰を下ろして言った。
「何かあったのか?」
「えっと……」
やれやれ。おおかた前後ろが判らないとかそういうことなんだろう。
「名雪、頼む」
さすがに「俺が見てやろう」とは言えず、俺は名雪に振った。名雪も心得たもので、頷いて立ち上がった。
「うん、わかった。真琴、どうしたの?」
「……どっちが前?」
やっぱりだった。
「ちょっと判りにくいもんね。いいよ、わたし手伝うよ」
そう言って、嬉しそうに名雪はリビングを出ていった。真琴がちょこちょこと後に続く。
なにげにそっちを見て俺は苦笑した。バスタオルで前を隠しているのはいいが、前しか隠してないので、後ろからは丸見えだったのだ。
「おーい、真琴! 尻見えてるぞっ!!」
「わぁっ! 女の子になんて事言うのよぉっ!!」
飛び跳ねた真琴が、慌てて前を隠していたバスタオルを後ろに回す。と、名雪が珍しく怒った顔でずんずんと俺の所にやってくると、小声で言った。
「祐一、そういうこと言っちゃ駄目だよっ! 女の子ってそういうことすっごく気にするんだよっ!!」
「……わかった、善処する」
あまりにマジだったので、俺も素直に答えておく。すると、名雪は元の笑顔に戻った。
「うん。人間、素直が一番だよっ」
「へいへい」
俺は、新聞を広げながら返事した。
名雪は、真っ赤になってしゃがみ込んでいる真琴の所に戻ると、優しく声をかけている。
「祐一はちゃんと叱っておいたから、気にしないでね。さ、真琴、行こう。脱衣所で着替えてたんだよね?」
「うん……」
立ち上がると、今度はバスタオルを体に巻き付けて、真琴は歩いていった。その後から名雪もついていく。
それにしても、名雪の奴、いいお姉さんしてるよなぁ。
今まで一人っ子だったから、きっとああいう妹が欲しかったんだろうな。
俺はそう思って苦笑した。
「……さん、祐一さん、起きてください」
「ん……」
軽く揺さぶられて、俺は目を覚ました。どうやら、リビングのソファでうたた寝をしてしまったらしい。
「もうすぐ、夕御飯の時間ですよ」
俺を起こしてくれたのは、秋子さんのようだった。俺は生あくびをしながら、聞き返す。
「ふわぁ……、もうそんなじっ!?」
「どうしました?」
絶句した俺を、秋子さんは怪訝そうに見ていた。
「どうしましたって、秋子さん!」
「はい?」
「そ、その格好はっ!?」
「えっ? ああ、この格好ですか?」
秋子さんは、自分の格好を改めて見てから、小首を傾げた。
「何か変ですか?」
多分、夕食の支度をしていたんだろう。秋子さんはエプロン姿だった。いつも秋子さんが愛用しているピンクのひよこの絵がついたエプロンである。
別にエプロン姿というだけなら別にどうということもない。問題は、秋子さんが素肌にエプロンという姿だったことだ。
そう、これは「白いブラウスのみ」と並ぶ男の浪漫と呼ばれるシチュエーション「裸エプロン」ではないのかっ!?
「へ、変って、あああ秋子さん?」
「去年のがそのまま着られたから、つい嬉しくて」
そう言って、ぽっと照れたように頬を染める秋子さん。
「……は?」
そう言われて良く見てみると、肩のところにエプロンのとは違う白い紐が見えた。……水着?
「も、もしかして水着の上にエプロン、なんですか?」
「ええ。つい嬉しくて名雪や真琴に見せてたら、着替える時間が無くなっちゃって」
ぺろっと舌を出す秋子さん。
……水着を着替える時間なんて、ものの1分もかからないような気もするんだが。
「あ、そうそう。まだ祐一さんにはお見せしてませんでしたね。どうですか?」
そう言って、その場でくるっと回ってみせる秋子さん。
前はエプロンなのでよくわからんにしても、白いビキニに包まれたお尻は柔らかそうで、思わずごくりと生唾を飲み込んでしまう。
いや、俺だって一応健全な男子高校生だからして、なぁ?
「あら、どうしたんですか、祐一さん。顔が赤いですよ」
「えっ? あ、いや、これはその……」
「熱でもあるんですか?」
そう言って、秋子さんはおでこをぴたっとくっつけた。
……ぬぉぉぉっ! 視線を落とすと、そこにはエプロンの隙間から胸の谷間がぁっ! ヌクレオチドォォォ(意味不明)
「熱は、ないみたいですね」
「な、ない、ないですっ! 元気です健康です何でもないですっ!」
俺はそう言いながらソファの上でにじにじと後ずさった。
「そうですか? それならいいんですけど。それじゃ夕食ですから、ダイニングに来て下さいね」
そう言って、秋子さんはリビングを出ていった。むぉぉぉっ、またお尻がぁっ!
慌てて目をそらして、俺ははたと気付いた。……たしかに、一部が健康で元気になっている。
結局、その一部が元気でなくなるまで、俺はソファに座ったまま前屈みになっていた。
しかし、秋子さんっていったいいくつなんだ? とても高校生の娘がいるようには見えないぞ。
まさか、名雪や真琴やあゆまで水着じゃないだろうな、と期待半分恐れ半分でダイニングに入ったが、3人はごく普通の格好だった。
「あ、祐一君。寝てたの?」
あゆが元気に顔を上げて俺に尋ねる。
「んあ? なんでだ?」
「寝癖付いてるよ、頭」
「きゃはははっ! 寝癖付いてる〜っ!」
早速鬼の首を取ったようにはしゃぐ真琴。
俺は髪に触れてみた。うーむ、確かにぴょこんと一筋の髪が立っている。
「ま、いいや。あとで風呂入って髪洗うから」
「そうだね」
「あー、恥ずかしい奴ぅ」
「水着の前後ろが判らんよりはマシだ」
「なにようっ! あれはたまたまよ、たまたまっ!」
真琴が膨れる。
……あれ? そういえば会話に参加してこない奴がいるな。
と思って、名雪の方を見ると……。
「くー」
寝ていた。
右手にお箸を、左手にお茶碗を持ったまま寝てる。器用なのか不器用なのかよくわからん奴だな。
「わっ、名雪さん寝てるのっ!?」
あゆもそれに気付いて、しげしげと名雪の顔をのぞき込んでいる。前で手をひらひらさせたりしているが、無論名雪はそれに気付く様子もない。
「はー。こんな時間から寝てるなんて、よっぽど疲れてるんだね〜」
「こいつのベスト睡眠時間は12時間だからな」
「へぇ〜。ボクは5時間で十分だよ」
「あたしはね〜、うんっと、よくわかんない」
「わからんなら言うな」
「なにようっ!」
「あらあら、喧嘩しちゃだめよ〜」
そう言いながら、キッチンから秋子さんがやってきた。……相変わらず水着エプロンだ。
思わず鼻を押さえながら、俺は言った。
「あの、秋子さん、着替えた方がいいんじゃないですか?」
「え? 祐一さん、こういうのはお嫌いですか?」
悲しそうに訊ねる秋子さん。
「……」
無言で非難の視線を俺に送るあゆと真琴。
「くー」
眠っている名雪。
「いや、嫌いっていうか、……嫌いじゃないです」
「良かった、祐一さんに気に入ってもらえて」
にっこりと微笑むと、秋子さんは鼻歌混じりにキッチンに戻っていった。
あゆがため息をつく。
「いいなぁ……。秋子さんって、プロポーションよくって……」
「お前だってそんなに悪くないんじゃないのか?」
確かにサイズは、例えば名雪に比べると少々見劣りするが、もともとあゆは背が低いから、身長比で換算すると、出るところは出てるのだ。からかうと面白いから普段は言わないんだけど。
俺がそう言うと、あゆはかぁっと真っ赤になって、照れたように笑った。
「祐一君が誉めてくれたから、嬉しいよっ」
「祐一〜、あたしはどうなのよっ!」
何故かあゆに対抗心を燃やしたらしく、真琴が箸を振り上げながら俺に迫る。
「真琴は見てないからわからん」
「嘘つきっ! あたしがお風呂に入ってるとこ、覗いたくせにっ!」
「ええっ? ボクだけじゃなくて真琴さんも覗いたのっ!?」
「そうよっ! この変態っ!!」
「お前ら、人聞きの悪いこと言うなっ!!」
「くー」
「あらあら、喧嘩しちゃだめよ〜」
ぶしゅーっ
「わぁっ! 祐一君っ、鼻血、鼻血っ!」
「きゃはははは〜」
……おおむね、今日も水瀬家は平和だった。
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あとがき
秋子さんのお尻〜。
あ、のっけから失礼しました。完結編<3>です。やっと土曜日が終わりそうです。うぐぅ。
明日はときパ5があるので、SS書いている暇はないと思います。
モバイルマシンのリブ100のバッテリーも調子悪いし(苦笑)
ときパ5では、知り合いのブースで売り子してると思います。なにせSS掲載したコピー誌が出る予定だし。ちなみに、こみパの由宇SS書きましたです。よろしく〜(笑)
暑いなと思って買った扇風機が、急に涼しくなって用なしになってます。ちょっと悲しいです(苦笑)
ではでは。
プールへ行こう Episode 6 99/6/18 Up 99/6/21 Update