「裏・幸せの定義」
第一話 「吸血鬼らしく、で逝こう! side.A」
俺の名はテンカワアキト。
正装姿の黒いマントが哀愁漂う、火星一クールでニヒルなジェントルマン。
最近では希少価値の非常に高い吸血鬼であり、何を隠そう火星初の人造吸血鬼でもある。
バケモノと呼ばれていた過去の吸血鬼達とは違い、むやみやたらに血を求めず、俺の吸血を受けた相手にも後遺症を残さない。
一時だけの刹那の快楽と脱力感を残すのみである。
そう、今までの吸血鬼のイメージを覆す、人畜無害な紳士的吸血鬼なのだ。
笑顔が素敵なナイス・ヴァンパイアなのだ。
断っておくが、俺はダンピールではない。
人造吸血鬼、その名の通り俺は人間によって造られた吸血鬼であり、戸籍上は俺を造り出したマッドな科学者テンカワ夫妻の息子として存在している。
あいつらは自分たちの遺伝子と、遺跡とかいう物に保存されていた謎の真紅のロザリオを合成させて俺を造り出したんだ。
その結果、何故か俺が誕生してしまったのだが、原理はさっぱり不明だ。
俺が物心つくまでのやつらの教育方針と来たら酷かった。
霧になって移動しようとしたら『何故ボソンジャンプを使おうとしない!』とか訳の判らないことを言いやがるし、普通の人間の料理を食べようとしたら『吸血鬼は生き血以外を食してはいけない!!』とか言ってネズミを丸ごと出してきたりもした・・・それも毎日だ!!!
思い出しただけでも吐き気が・・・。
あいつらがテロで殺された時は泣いて喜んだね、うん。
話が脱線してしまったな、俺は吸血鬼であり、基本的に人間社会には無関心だ。
・・・いや、だった。
そう、俺の棲家にでっかいチューリップに全く見えないチューリップが落ちてくるまでは!
こいつのおかげで俺の食料どもが大量に死んでしまった。
その中には俺の麗しき花嫁候補達もいたのだが、皆消し飛んでしまった。
俺の人生計画は大幅に狂ってしまったと言っても良い。
あのフニャチン野郎どもが! いつか必ずぶっ殺す!!
俺が十年の歳月をかけて造り出したハーレムが・・・絶対に復讐してやる!!!
心に固く誓った俺だったが、一つ問題が発生した。
そう、吸血鬼といえども腹は減る。
俺の主食は壊滅状態。
美しい処女の血が最高なんだが、この際贅沢は言っていられないからな。
そこで俺は食料を求めて地下に潜った、僅かな期待を胸に秘めながら。
だがしかし、美しい処女なんていやしねぇ・・・。
むさ苦しいおっさんとジジイの大群に、俺の守備範囲を外れちまっているガキぐらいだ。
そうそう、一言言い忘れていたが、俺は人妻には手は出さない。
紳士的に不倫は良くないからだ。
そして、ロリコンもダメだ。
モラルに著しく反するからな。
そう、俺は悩んだ。
倫理と空腹の狭間で・・・。
その最中、品位と色彩センスを疑う事間違い無しの悪趣味な木偶人形どもが壁を突き破って現れやがった。
本来の俺の力ならばあんな奴ら物の数ではない。
しかし俺は空腹だったのだ、車で言えばガス欠状態・・・力などでるわけが無い。
ジジイなど幾ら死のうと知った事ではないが、未来の美女になるであろう幼女の運命だけは心残りだった・・・などと悠長な事を言っている場合ではなかったのだ。
あのバカどもは、俺に向かって攻撃しようとして来やがった。
空腹の為に人間並みに体力の落ちてしまっている俺に勝ち目など・・・無い。
無念だ・・・の筈だったのだが、気が付いたら地球だった。
この時俺は、ご都合主義のありがたさを実感したんだ。
ご都合主義よ万歳!
ありがとう、信じてもいない神様!!
しかも、しかも今夜は満月、初めて目にした月が眩しくワンダフルだ!!!
これぞ正しくノスフェラトゥ最高の日!!!!
待ってろよ、世の美女たちよ!!!!!
この時、俺は初めてこの目にした満月に浮かれまくっていた。
俗に言うハイテンションというヤツだ。
窮地を脱した事もあるのだろう・・・・・・しかし、あんな事になろうとは・・・。
場所を確認しとけば良かったんだよ・・・。
何なんだよ、『ネルガル遺伝子研究所』って!
よりにもよって紳士であるこの俺が、ロリコンの烙印を押されるなんて・・・。
・・・・・・俺のバカ・・・はぁ・・・・・・。
俺は空腹感に苛まれ、本能の赴くままに美女を探して彷徨った。
暫くそのままうろうろとしていただろうか、突如として俺の嗅覚に衝撃が走った!
今まで感じた事の無い鮮烈かつ芳しい処女の香り!!
下品にも涎を滴らせながら、俺はその匂いの元へ向かった。
数々のセキュリティに護られている要塞とも呼べるような場所であったが、ヴァンパイアである俺の前では無力。
夜の帝王、闇の貴公子、黒い王子様と呼ばれた俺に、その程度のセキュリティなど他愛も無い。
その全てを霧になる事によって突破した俺は、目的の部屋へと辿り着いた。
月明かりを受けて輝く瑠璃色の髪がベットから流れている。
布団の隙間から覗く染み一つ無い首筋に、俺ははしたなくも咽を鳴らしてしまった。
・・・後になって考えてみれば、この時良く観察しておけば良かったんだ。
俺は、熟睡している彼女の首筋に牙を立て、柔肌から溢れる生き血を啜った。
「・・・・・・はぅんっ!」
それは、えもいわれぬ味であった。
芳醇で甘酸っぱく、極上の味であったのだ。
その味に夢中になってしまった俺は、またしてもミスを犯してしまった。
「・・・はぁっ! くぅっ!!」
・・・吸い過ぎてしまったのだ。
俺の吸血は適度であるならば刹那の快楽なのだが、度を越してしまうと烈しい催淫作用を引き起こしてしまう。
そう、やりすぎてしまったのだ!!!
「・・・はぁはぁ・・・・・・・・お、お願い・・・・・・も、もっと・・・・・・ぅあっ!!」
目を覚ました彼女は俺にしがみつき、更なる吸血をせがんだ。
俺の身体を抱きしめる華奢と呼ぶには未だ早すぎる幼い両腕。
ド畜生、何故この時に気が付かなかったんだ、俺!!!
「あ・・・いやぁんっ! ダメ、ダメェェっ!! 来る、来ちゃうの・・・あぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
フッ・・・イッたな(ニヤリ)。
そのまま暫く吸血していたら、彼女は余りの快楽に失神してしまった。
俗に言うエクスタシー、もしくは絶頂というヤツだ。
憎い、憎すぎるほどのテクニシャンだぞ、俺。
脱力し、下半身を中心に痙攣しながらくず折れる彼女。
そこで初めて彼女の容姿を確認したのだが、俺は自分が信じられなくなった。
だって・・・・・・ローティーンにも差し掛かっていなかったんだぞ、彼女は!!!
確かに極上の美少女である事は認めよう!
だからって、俺は・・・俺はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
ロ、ロリ・・・言うなぁぁっぁぁぁぁあぁぁぁ!!!
茫然自失のまま朝を迎えたのは初めてだよ・・・。
そして、捕縛。
なんでだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
危うくモルモットにされるところであった・・・なら未だ良い。
なんだその、青少年保護条例違反というのは!!!
警備員、俺を変態を見るような目で見るのはよせ!
そのまま護送されようとしていた俺であったのだが、彼女の機転により難を逃れてしまう。
そう、コンピューターにハッキングして火事を起こしたのだ、彼女は!!
慌てる警備員を尻目に、何とか逃げ出す俺。
ハイブリット・ヴァンパイアとも呼べる俺は、太陽の下でも活動できる。
出来るだけなのだが・・・。
つまり、直射日光の下では体力は成人男子を多少上回る程度で、プロを相手にしたら死なないだけの唯の人なのだ。
そこを助けてもらったのだから、恩を返さなければ紳士が廃る。
何よりこのままではロリコンに加えて、性犯罪者等と世間様から呼ばれるところだったのだ。
俺と一緒に逃げる事を希望した彼女を連れて、朝陽の下を逃避行したのだ。
おい、名前も知らない美少女よ。
「・・・愛の逃避行ですね(ポッ)」は止めてくれ・・・。
この一年間、何度も彼女の記憶を消そうと能力を使ってみたりもした。
しかし、全く効かなかった・・・何故だ!?
それがダメならと、逃亡を図った事もあった。
誰だよ、コンピューターにこんなに強い遺伝子を作ったヤツは。
逃げたら全世界に指名手配される・・・しかも、ロリコンとして。
何て脅し方をするんだ、ルリ!
そう、ルリというのが彼女の名前だ。
フルネームは『ホシノ・ルリ』、十六歳になったら『テンカワ・ルリ』になりますから等とほざいている。
一年前、若さゆえの過ちでゲットしてしまった少女だ。
確かに、その血は極上の味がするさ!
でも、俺は、俺は・・・・・・・・・。
仕方がなしに、二人で飲食店を経営しながらこの一年を過ごしてきた。
ルリには吸血は極限まで控えて、普通の食事をしながら接してきた。
これ以上ドツボにはまるのは嫌だからな・・・。
この話をした瞬間、俺の口座の預金残高が二桁ほど減っていた・・・。
経済的にも尻に敷かれている俺って・・・。
仕方が無いので、一月に一回は吸血するという事で残高を元に戻してもらった。
一応、世間的には血の繋がらない兄妹という事にしてある。
俺の魔力の篭もった料理で、女性の常連客で店は大繁盛していた。
これも俺の有り余る才能の一つだ。
そうして過ごしていたある日、最近では珍しく男の客がやって来た、それも二人。
一人は見た事がある、と言うよりは何度か出会ったことがある男だった。
プロスペクター。
にこやかな顔とは裏腹に、ネルガルシークレットサービスのトップである男。
人間にしてはかなりの強さを誇る。
俺の店にもこいつの部下が何度か襲撃してきやがった。
最初の内は男なんぞが俺の家に無断侵入を図ろうとしている事が赦せなく、全治六ヶ月程度の半殺しにしていたのだ。
そして、暫くしたらこいつがやって来た。
かなりできる男で、夜の俺に手傷を負わせやがった。
感心したので襲撃理由を聞いてみたところ、目的はルリだと言う。
俺は喜んで手放そうとしたのだが、俺の背後にルリが居た・・・それも、凄い視線で・・・。
その後、ルリとプロスがトップシークレットがどうのこうのとか、非人道的な研究とか話し、顔を青くしたプロスが和解を提示、そのままサヨナラとなった。
その男が再び俺の前に現れたのだ。
警戒心を顕にするルリに、なにやら話があるようなのだ・・・と思ったら俺にも?
はぁ? ナデシコ? なんだそれは?
って顔をしていたら、プロスが懇切丁寧に説明してくれた。
曰く、・・・・・・・・・・・ようは最新鋭戦艦だと言う事だ。
で、何故俺達かというと。
一流の能力を持ったスタッフが必要との事だった。
民間企業が戦艦を建造する、こんなに胡散臭い事は無い。
しかも、企業目的に運用するんだそうだ。
軍から横槍が入るに決まっている、バカバカしすぎるぞ。
と思ったら、軍の方にも話はついていて、オブザーバーとしてフクベ・ジン退役提督が乗艦するそうだ。
ん? フクベ・ジン・・・何処かで聞いたような・・・。
ふむふむ・・・第一次火星会戦の英雄か、ルリすまんな。
って、なんだとォォォォォ!!!
この一年間、ルリとのドタバタ生活のおかげですっかり忘れていた。
そうだ、俺はあいつに復讐するんだった。
プロス、O.Kだ!!!
今すぐ行くぞ!!!
何、乗艦は一ヵ月後ぉ?
ちっ、寿命が延びたな・・・フクベ・ジン。
俺のハーレムを破壊してくれた罪、万死に値する!!!
この一年間、よくも俺から逃げおおせた物だ・・・。
逃げていないって? 忘れてただけ? 余計なツッコミを入れるな!!!