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しすたぁぷりんせす〜12人の姫君達〜 第2部
第5章 Chasing "M" その7


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「えっとね、つまりここに衛ちゃんの居場所が写るってわけよ」
 どうにか精神的再建を果たしたらしい鈴凛が説明しながら、コンパクトの横に付いている竜頭のようなものをいじる。と、光点がスクリーンに写った。
「ほら」
「ええっと、鈴凛ちゃん、光ってるのはわかるけど、これがどこになるのか、可憐にはわかりません」
「そうね、あたしにもわからないわ」
 可憐と咲耶が異口同音に言う。
 鈴凛は、にっと笑った。
「まぁまぁ。こっからよ。ここを、こう」
 そう言いながら竜頭をちょこちょこといじると、今度はスクリーンに地図が浮かび上がる。
「おおーっ」
 みんなの感嘆の声に気を良くしたらしく、鈴凛はえへんと胸を張った。
「どう?」
「すごいすごい、鈴凛ちゃん。可憐、感心しました」
「えへへ〜」
 可憐に素直に誉められて、鈴凛は鼻の頭をこすると、僕に向き直った。
「というわけで、この開発費がまたちょっとかかっちゃったのよねぇ、アニキ〜
「えーっと、それについてはまた後日相談してくれ」
「了解〜っと」
 笑顔で頷く鈴凛に、やれやれと思いながら、僕は改めて画面を覗き込んだ。
「……これは、くすのき公園、かな? よし」
 連れに行こう、とソファから立ち上がりかけ、僕は呻いた。
「ててっ」
「ほら、お兄様。無理しないで」
 咲耶が僕の肩に手を掛けて押さえると、ウィンクした。
「あたしにお任せ 衛ちゃんを連れて帰ってくればいいんでしょ?」
「あ、ああ、そうだけど……」
「それじゃ、行ってくるわね、お兄様。あ、可憐ちゃんも一緒に来て」
「わかりました」
 可憐も頷いて立ち上がる。
「花穂も行く!」
「四葉もチェキデス!」
 続いて花穂と四葉も立ち上がったが、咲耶は首を振った。
「あまり大勢で行っても仕方ないわ。他のみんなはここにいて。お兄様、それでは行って参ります
「待っててね、お兄ちゃん」
 2人はリビングを出て行った。
 僕は、鞠絵に向き直って頭を下げた。
「ごめん、鞠絵。せっかく来てもらったのに、こんなにばたばたしてて」
「いえ。私は、兄上様やみんなに、いつも通りにしていてもらえた方が、嬉しいですから」
 鞠絵は穏やかに微笑んだ。
「療養所じゃ、こんなに活気はありませんから」
「そっか……」
「そうそう、鞠絵ちゃん、パソコンの使い方は上達した?」
 鈴凛がタイミング良く話題を振ると、鞠絵も多分判ったんだろう、笑顔で頷いた。
「はい。でもいくつか判らないところがあるので、鈴凛ちゃんにお尋ねしようって思ってたんですよ」
「オッケー、なんでも聞いて」
「えっとですね……」
 2人がパソコンの話を始めたところで、僕は一息ついた。
「兄や……」
「おにいたまぁ〜」
 もとい、一息つく間もなく、亞里亞と雛子が並んで駆け寄ってきた。
「あのね、あのね、ヒナと亞里亞ちゃんでね、折り紙作ったんだよ〜」
「作ったの〜」
 並んで、手のひらに折り鶴を乗せて見せてくれた。
「へぇ、鶴なんて難しいのに、よく作れたね。えらいえらい」
 笑って頭を撫でて上げると、雛子が笑顔で言った。
「じーやさんに教えてもらったんだよ」
「へぇ」
 なるほど、と思ってじいやさんの方を見ると、テーブルの前で花穂と四葉を相手に折り紙を折っていた。
「ですから、ここをここを合わせて、こうです」
「……あう、また曲がっちゃったよぉ」
「チェキ〜、紙を折るのが、こんなに難しいなんて、知らなかったデス……」
 どうやら、2人は苦戦しているらしかった。
「ふぇぇ〜ん、お兄ちゃま〜」
「兄チャマ〜、ヘルプデス〜」
 うーん、亞里亞と雛子が出来て、花穂と四葉が出来ないとは。得手不得手ってやつなのかなぁ。

 それからキリのいいところで、じいやさんがお茶とお菓子を出してくれて、みんなでそれを食べながら談笑していると、リビングのドアが開いて春歌と咲耶が顔を出した。
「兄君さま、ただいま戻りましたわ
「ただいま、お兄様 衛ちゃんも連れて帰ってきたわよ」
「ありがとう、咲耶、春歌。ご苦労様」
「いえ、兄君さまのためならば、わたくし、苦労は厭いませんわ。……ぽっ
 頬を挟んで赤くなる春歌。
 その脇から、俯いたままの衛と、その背中を押しながら可憐が入ってくる。
「お兄ちゃん、ただいま。ほら、衛ちゃんも」
「う、うん……」
 衛は頷いて、上目遣いに僕を見た。
「あ、あにぃ……、ボク……」
「衛」
 僕は、身体が悲鳴を上げるのを無視して、立ち上がった。
「あにぃ、ボク……、えっ!?」
 戸惑う声を上げる衛を、僕は抱きしめていた。その耳元で、囁く。
「ありがとう、衛」
 衛は、僕に聞き返した。
「あにぃ、怒って……ないの?」
「何を? 衛は僕のためにやってくれたんだろ?」
「だって、ボクのせいで、あにぃはあんなことになっちゃって……。ボクがあにぃに無理させたから……」
 僕は、身体を離すと、衛の両肩に手を置いて、呼びかけた。
「衛……」
「あにぃ……」
 衛は顔を上げた。その瞳に、涙が溜まっているのに気付いて、僕はそっと、指でその涙を拭った。
 と、衛はそのまま、僕の身体に手を回し、ぎゅっとしがみついて、しゃくりあげた。
「あにぃ、あにぃっ、うくっ」
 僕は、衛が落ち着くまで、その髪を手で梳くように撫でていた。

「えへへっ」
 ようやく落ち着いたところで僕から離れた衛は、照れ笑いを浮かべて、ソファにちょこんと座った。それから、真面目に頭を下げる。
「えっと、あにぃ、それからみんなも、ごめんなさい」
「ううん、いいの」
 可憐が速攻で首を振り、他のみんなもうんうんと頷く。
「私のお兄様になんてことを、って普通なら怒るけれども、今回は許してあげるわね」
「チェキ!」
「ところで、衛」
 僕は衛の隣に座ると、訊ねた。
「どうして白並木の水泳大会に来てたんだい?」
「だって、ボク、やっぱりあにぃのことが心配だったから。それで、お昼休みに鈴凛ちゃんに相談したら、そんなに気になるなら見に行った方がいいって言ってくれて」
 鈴凛が? と視線を向けると、鈴凛はきっぱり言った。
「当然でしょ? ホントはあたしも見に行きたかったんだけどね、ちょっと授業さぼるとまずかったし」
「まぁ、お兄様のためだったら、仕方ないわよね」
 咲耶もうんうんと頷く。
 いいわけないだろ、とツッコミをいれそうな人もいなかったので、僕はため息を一つついた。
「やれやれ。でも、うちの学校にどうやって入ってきたの?」
「みんなに混じってだよ」
 平然と答える衛。
「プールのところについたら、みんながいたから」
 そこで合流した、と。
「でも、お兄ちゃんが溺れたとき、衛ちゃんすごかったよね」
 可憐が手を組んで言った。
「可憐もみんなもどうしようってうろたえてたのに、衛ちゃんそのままプールに飛び込んで、お兄ちゃんを助けちゃったんだもん」
「え? 僕を助けてくれたのは衛だったの?」
「あははっ、あにぃが危ないって思ったら、なんだか自然と身体が動いてたんだ」
 衛は赤くなって視線を落とした。
 そう言われてみれば、プールサイドじゃ若草学園の制服だったのに、保健室ではジャージ姿だったなぁ。あれは制服が濡れたから着替えたのか。
「衛さんにはわたくしも感服いたしましたわ。我が身も省みず、兄君さまをお救いするそのお姿、大変ご立派ですわ」
 春歌にも言われて、衛はますます照れて小さくなった。
「も、もうやめてよぉ。そんなに言われたら、ボク恥ずかしいよぉ」
 と、くー、と可愛らしい音がした。
「あ、お腹空いちゃったな」
 衛がお腹を押さえて顔を上げる。
 そこに、タイミング良くじいやさんが顔を出した。
「みなさん、夕食の用意が出来ましたよ」
「わぁい。あにぃ、ボク食べていってもいいよね?」
 途端にいつも通りに戻った衛に、僕は笑顔で答えた。
「もちろん。今日は衛のおかげで助かったんだし、思いっ切り食べていっていいよ」
「うん、ありがと、あにぃ
 衛は笑顔でダイニングに駆け込んでいった。
 その後ろ姿を見て、咲耶はくすっと笑う。
「衛ちゃんったら、まだまだ、花より団子って感じかしら。ねぇ、お兄様?」
「ええっと、まぁそうなのかな」
「お兄ちゃん、可憐たちも、お邪魔してもいいですか?」
 可憐に訊ねられて、僕は人数を数えた。
 えっと、いつものメンバーに加えて、可憐、花穂、咲耶、鈴凛、衛、鞠絵、雛子……と。プラス7人となると、どうなのかなぁ?
 と、そこにじいやさんが戻ってくると、声をかける。
「みなさんの分も用意してしまいましたから、よろしければ召し上がっていってくださいませんか?」
 歓声が上がる中、僕はじいやさんに頭を下げた。
「すみません、何から何まで」
「いえ、私の仕事ですから。それに……」
 じいやさんは、リビングのみんなをくるっと見回して、笑顔で言った。
「賑やかなのは、いいですね」
「ええ」
 僕も頷いた。

 食事が終わると、可憐達はそれぞれの家に帰ることになった。とはいえ、夜道を女の子一人で歩かせるわけにもいかず、さりとて僕はこの有様なので、結局またじいやさんにお願いして、一人一人家まで車で送ってもらうことにした。
 鞠絵はうちに泊まるとしても、残りは6人。車に最大乗っても4人まで、というわけで、結局2度に分け、最初に4人、次に残った2人という順番で帰ることになった。
 それで……。
「じゃんけん、ぽんっ!!」
 リビングで、「誰が残るかチキチキじゃんけん大会」が行われた。その結果。
「ううっ、可憐は負けてしまいました」
「くすん、花穂も負けちゃったよ、お兄ちゃま〜」
「ヒナも負けちゃったぁ」
「まぁ、しょうがないわね。これもお兄様に対する私の愛に課せられた試練なのね、お兄様
 とまぁ、この4人が先に帰る事に決定となったわけである。
「それじゃ、お兄ちゃん、また明日」
「ばいば〜い、おにいたま」
「お兄様、ラブよ
「お休みなさい、お兄ちゃま」
「ああ、みんな、お休み」
 挨拶をして、4人がリビングから出て行くのを見送ったところで、春歌が四葉に声を掛けた。
「それでは四葉さん、夕食の後片づけをしますので、手伝ってくださいね」
「チェキ!? 四葉がデスか?」
「はい」
 にっこり笑って頷く春歌に、四葉は「うーっ」と唸りながらも腰を上げた。
「仕方ないデス。四葉はお手伝いデス」
 鈴凛と鞠絵は、またなにやらパソコンの話をしており、亞里亞は食事が終わって眠くなったらしく、ソファにうずもれるようにしてうとうととしている。
「あにぃ、何してるの?」
 僕もソファにもたれてぼーっとしていると、衛が声を掛けてきた。
「いや、ただぼーっとしてるだけ」
「それじゃ、ボクもぼーっとしていようっと」
 そう言って、衛は僕の隣に座った。それから、ちらっと僕を見た。
「なんだい、衛?」
 訊ねると、衛はこくんと頷いた。
「あにぃ、あのね……、しばらくあにぃと一緒に毎日走ってて、ボクすっごく楽しかったんだよ」
 僕も楽しかった、とは言わず、僕は別のことを言った。
「衛、今までみたいなトレーニングはちょっと遠慮したいな」
「あう……」
 しょぼんと俯く衛の髪を、僕はくしゃっとかき回した。
「わっ、な、なにっ!?」
 驚いて顔を上げる衛に、僕は笑顔で言った。
「でもさ、毎朝少しくらい走るっていうのは、気持ちいいもんだよな」
「あにぃ……?」
「だからさ、衛が良ければだけど、これからも朝は一緒に走ろう」
 衛は、ぱっと笑顔になって、大きく頷いた。
「うんっ、あにぃ
「あ、でも、距離は少し短くな」
 僕が慌てて付け加えると、衛は笑い出した。
「あははっ、しょうがないなぁ、あにぃってば」
 その笑顔は、いつもの衛の、素直な笑顔だった。


《続く》

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あとがき
 衛編、どうにかこれで終わりです。はい。

 最近は、すっかりROにはまってしまった日々。
 というわけで、更新はしばらく滞るのではないかと思います。

 しすたぁぷりんせす 2-5-7 02/5/22 Up
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