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しすたぁぷりんせす〜12人の姫君達〜 第2部
第3章 Cheer "K" その2

「あむあむ……。うん、甘くて美味しいデス!」
 デパートの屋上には、ベンチがおいてあり、アイスクリームやポップコーンの出店が並ぶ、まぁいわゆるオープンカフェのようになっていた。
 四葉はソフトクリームを手にご機嫌状態だった。
「こらこら、そんなに慌てて食べなくてもいいんだぞ。はい、可憐」
「ありがとう、お兄ちゃん」
 可憐も嬉しそうにバニラのソフトクリームを受け取る。僕は、花穂にも差し出した。
「花穂も、はい」
「……花穂、いらない」
「え?」
 思わず聞き返す僕に、花穂はちょっと上目遣いになって答えた。
「だって……。ううん、ちょっとお腹が痛いから」
「お腹が? 大丈夫なのかい?」
 僕が尋ねると、花穂は、うん、と頷く。
「大丈夫。そんなに痛くないから……。でも、ソフトクリームは……ごめんなさい、お兄ちゃま」
「いや、謝ることないよ。でも、それじゃこれはどうしようかなぁ……」
 手にしたソフトクリームを見て途方に暮れていると、後ろから声がした。
「それじゃ、それはボクがもらっちゃうね」
「え?」
 振り返るよりも早く、一陣の風が通りすぎていった。そして、背後からソフトクリームをかすめ取った衛が、僕の前でくるっと向き直る。
「えへへ〜。あにぃのソフト、いただきっ
「あ……」
 そのままソフトクリームをぱくつく衛を見て、花穂は悲しげにため息をついた。
 可憐が衛に声をかける。
「衛ちゃん、そういうふうに取っちゃうのはよくないと、可憐は思うんだけど……」
「はぁい、ごめんね、あにぃ」
 一応しおらしく頭を下げてみせる衛。その頬にクリームが付いているのに僕は気付いた。
「あ、衛。ほっぺたについてるぞ、クリーム」
「えっ? どこどこっ?」
「しょうがないなぁ。ちょっとおいで」
 衛を招き寄せて、僕はクリームをハンカチで拭ってあげた。それからおもむろにその首に腕を回して、軽くきゅっと締め上げる。
「ふっ、捕まえたぞ」
「わっ、ずるいよあにぃっ!」
 じたばたともがくが、いくら衛が妹たちの中では最大のパワーを誇るとはいえ、やっぱり男の僕には敵わないわけで。
「お、お兄ちゃん、ちょっと……」
 消え入りそうな可憐の声に気付いてみると、僕と衛は周囲の視線を集めまくり状態であった。というか、ちょっとボーイッシュな可愛い女の子をいじめてる僕に、非難の目が集中してるような気が大いにする。
「えーと、こほん」
 僕は咳払いして、衛を解放した。
「とにかく、反省するように」
「ふぇーん、あにぃのけち〜」
「衛ちゃん、可哀想……」
「可憐、君はどっちの味方だね?」
「えっ? あ、もちろんお兄ちゃんだけど、だけど、えっと、えっと……あうぅ〜」
 うろたえる可憐。う、なんかまた周囲の目が一段と厳しくなったような気がしないでもない今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか、なんて言ってみちゃったりしちゃったりしたりして。
「と、とにかく、そろそろ行こうか」
 既に氷点下に近い回りの視線にいたたまれず、僕はベンチから腰を上げた。そして、振り返る。
「花穂、本当に大丈夫かい?」
「……う、うん、花穂は大丈夫だよ、お兄ちゃま」
 にこっと笑って見せる花穂。でも、その笑顔はなんだか無理しているように見えた。
 可憐が僕の耳に囁いた。
「お兄ちゃん、花穂ちゃん、元気ないみたいだけど……」
 可憐も気付いたらしい。僕は囁き返す。
「本人は大丈夫って言ってるけど、一応気を付けていてくれるかい?」
「うん、任せて、お兄ちゃん
 とん、と嬉しそうに胸を叩いてみせる可憐であった。

 4階には、雑貨品を売っている専門店が、いくつも並んでいた。こういうところには来たことないので、全然知らなかったけど。まぁ、どう考えても普通の男子高校生が来そうなところじゃないし。
 でも、外国の雑貨なんかを展示してるお店は、ショーウィンドウを眺めているだけでも、結構面白かったり。
 なんか新しい境地に至りつつある僕だった。
 それはさておき、四葉に尋ねないといけないことがあったんだ。
「で、どうしてなんだい?」
「は? 何がデス?」
 虫眼鏡片手に雑貨をじーっと見ていた四葉が、顔を上げる。
 僕は無言でその頭をげんこつで挟んでぐりぐりしてやった。
「大事なことを忘れてるのは、この頭かなぁ〜」
「あいたたた、痛いデス! 痛いデス〜ッ! 思い出したから離して欲しいデス〜!」
 また周囲の注目を浴びてもなんなので、とりあえず解放してあげると、四葉はぐりぐりしていたところを両手で押さえて、涙目で僕を睨んだ。
「兄チャマひどいデス〜。未来の名探偵の頭脳が損傷したら、どうしますか」
「いや、どうしますって言われても……。じゃなくてっ!!」
「チェキッ!?」
 僕が大声をあげると同時に、四葉もびっくりしたような声を上げた。
 ……って、僕を見てないぞ。
「あ、兄チャマ、あ、あれっ!」
「え?」
 四葉は僕の背後を指さしていた。その隣で、残る3人も驚いた顔をして、同じく僕の背後を見ている。
 なんだろう、と思って振り返ると、そこにはバリとかその辺でありそうな、極彩色の大きな仮面があった。
 って、なんで仮面!?
「やぁ、兄くん」
 その仮面がいきなりしゃべったので、僕は腰を抜かしそうになった。が、それよりも早く可憐たちが僕の背中にしがみついてきたので、なんとか無様なところは見せなくて済んだ。
「お、お兄ちゃんっ」
「わ〜っ、ボクこういうのは苦手なんだよ〜っ」
「お兄ちゃまぁ〜」
「だ、大丈夫だから」
 背後の妹たちにそう声をかけながら、僕は仮面に視線を向けた。
「精霊達も、兄くんによろしくって言ってるよ」
「……千影か……」
「やぁ、兄くん。それに、みんなも」
 仮面の後ろから出てきたのは、千影だった。
 ……高さ1メートルくらいの仮面の後ろに、長身の千影がどうやって隠れていたのかは、あまり考えないことにしよう。うん。
 僕は振り返って、みんなに声を掛ける。
「ほら、千影だったんだよ」
「なんだぁ。可憐、ドキドキしました……」
「うん、ボクも……」
 胸をなで下ろす可憐と衛、そしてまだ涙目の花穂。
「えぅ〜、お兄ちゃまぁ」
「よしよし」
 その頭を撫でてあげながら、僕は四葉に視線を向けた。
「でも、四葉は怖がってなかったみたいだけど、こういうのは得意なの?」
「いちいち怖がってたら、兄チャマをチェキできないデス」
 びしっと胸を張ってみせる四葉。さすが英国魂。……あまり関係ないか。
「でも千影、その仮面はどうしたの?」
「ああ、これはね、その店にあったのを譲り受けたんだ」
 千影は近くにある、その手の輸入雑貨店を指した。
「なんでも、これを店に置いてから、良くないことが色々と起こるとか言ってたよ。……ふふっ、君たちは、帰りたかっただけなのにね……」
 あの、最後は誰に向かって言ったんでしょう?
 まぁ、これくらいでいちいち驚いてちゃ、千影の兄なんてやってられないけど。
 と、千影は不意に僕に視線を向けた。
「兄くん、それで、もう花穂くんの用事は済んだのかい?」
「え? あ、そういえば、まだ水着は……」
「そっ、それよりも、みんなどうしてここにいるのっ?」
 焦ったような口調で花穂が口を挟んで、僕は四葉に聞きかけていたことを思い出した。
「そうだ。四葉、正直に言えばおやつ抜きは勘弁してやるぞ」
「ええっ? し、正直に言うから許して欲しいデス!」
 慌ててしゃべり出す四葉。
「ええとデスね、昨日四葉のところにメールが来たんデス」
「メール?」
 昨日、四葉にはメールは出してなかったはずだけど……。
 僕の表情を見て、ぱたぱたと手を振る四葉。
「あ、違うデス。来たのは花穂ちゃまからデス」
「花穂? で、でも、花穂が昨日メール出したのは、お兄ちゃまだけだよ」
 首を傾げる花穂。
「でも、可憐のところにも来てたよ」
「ボクのとこにも、花穂ちゃんが、あにぃを誘ったメール来てたよ」
「オフコース、四葉のところにもデス!」
「ええーっ!? ど、どうしてみんなのところにっ!?」
 心底びっくりの花穂。
「花穂、鈴凛ちゃんに言われたとおりにメール出したのに……」
「よくいるのよねぇ、全員にメール送っちゃう初心者って」
「どわぁっ!」
 いきなり後ろで声がして、僕は驚いて飛び上がった。それから振り返ると、鈴凛が腕組みしてうんうんと頷いていた。
「な、なんだ、鈴凛か……」
「鈴凛か、とはご挨拶ねぇ、ア・ニ・キ
 鈴凛はにんまりと笑って言った。う、あの笑顔はだいたい僕に何かをねだろうとしているときの笑顔だぞ。
「ま、アニキに援助をお願いするのは後にして、先に謎解きしちゃいましょうか。花穂ちゃん、アニキにメール送るときに、教えた通りに“返信”、使ったでしょ?」
「う、うん。鈴凛ちゃんが、そうしたら簡単だよって教えてくれたから……」
 こくんと頷く花穂。
 鈴凛は、我が意を得たりとばかりに頷く。
「その時、間違って“全員に返信”ってやったんじゃないかな」
「えっと……」
 どうだったかなぁ、と首を傾げる花穂。
 鈴凛は説明した。
「アニキ、時々アタシ達全員に同報メールするじゃん。そのメールに返信しようとしたときに、間違って“全員に返信”ってやっちゃうと、アニキだけじゃなくて、アタシ達全員にその返事が送られて来ちゃうのよねぇ」
「なるほど、そういえばそんな話を前に聞いたことがあるなぁ」
 俺は腕組みして頷いた。
 ようやくそれで判ったらしく、花穂は、さぁっと青くなったかと思うと、今度はかぁっと赤くなった。
「そ、それじゃ、花穂のメール、みんなのところにも行っちゃったの……?」
「そ。ま、アタシ達だけで、そのほかのところにまでは行ってないけどね」
「イエス! それで、四葉達は、兄チャマと花穂チャマが今日デートだということを知ったわけデス!」
 びしっとVサインをする四葉。
「でも、四葉が来るのは兄チャマをチェキするから当然としても、みんなも来るとは思って無かったデス」
 小首を傾げながら言う四葉。
 可憐がもじもじしながら言う。
「えっとね、可憐は、邪魔すると悪いかなって思ったんだけど、やっぱり来ちゃったの」
「ボクは、練習も今日は特になかったし、暇だったから。えへへっ」
「アタシもまぁ、暇だったからね〜」
 僕は、やれやれとため息をついた。
「まぁ、謎は解けたけど……」
「あうう〜〜」
 あ、花穂が落ち込んでる。
「やっぱり、花穂ってドジっ子なんだ。ふぇぇぇ〜〜」
「わわっ、泣かないでよ、花穂」
 慌てて、その場にしゃがみ込んで泣き出した花穂をなだめる僕。
「だって、だってぇ……、ふぇぇ」
 と。
「にいさま〜っ、見付けましたの〜っ」
「どわぁっ! し、白雪っ!?」
 大声で呼ばれて、慌てて振り返ると、白雪がカートを引っ張りながら駆け寄って来た。
「見てくださいにいさまっ、地下の食料品売り場でバーゲンしてましたのっ これで、またにいさまに、姫の愛情たっぷりのお弁当をごちそうできますのよ
 そう言いながら、カートにこれでもかとばかりに乗った食材の山を見せる白雪。……僕としては、妙に極彩色の果物とか、オレンジ色のジャム瓶あたりが異様に気になるんですけど。
 と、そこで白雪は、めそめそしている花穂に気付いて声をかけた。
「あら、花穂ちゃん、どうしちゃいましたの?」
「えう〜、っく、ふぇぇ〜〜ん」
 しゃがみ込んでべそべそと泣いている花穂をしばし見て、そしてぽんと手を打つ白雪。
「なるほど、わかりましたの」
「な、なにが?」
 思わず聞き返す僕に、白雪は自信たっぷりに言い切った。
「姫にお任せ、ですの

 そのまま、僕たちが白雪に引っ張って行かれたのは、デパートの中にある喫茶店だった。
 ちょうど昼の混雑時を外れていたこともあって、僕たちは窓際にあるテーブルを占領することが出来た。
 そうしておいて、白雪は笑顔で僕に言って立ち上がる。
「ちょっとお待ちください、ですの」
「いらっしゃいませ〜。って、あれっ? どうしたの、姫じゃない。珍しいわね」
 注文を取りに来たウェイトレスさんが、白雪に気付いて声を上げる。どうやら知り合いらしい。……どう見ても、ウェイトレスさんは僕より年上だから、同級生ってわけじゃないだろうけど。
「お久しぶりですの。ちょっと、厨房を貸して欲しいんですの」
「姫の頼みじゃ断れないけど……、でも代わりに、ね?」
 ウィンクするウェイトレスさん。白雪は肩をすくめる。
「姫の才能をにいさま以外のために使うのは忍びないんですけど、仕方ないですの」
「契約成立っと」
 ぽん、と手を叩くと、ウェイトレスさんは僕に視線を向けた。
「へぇ、君が、姫がいつも言ってるにいさまってわけだぁ」
「いやぁん、姫は恥ずかしいですのぉ
 白雪は、お得意の「両手で頬を挟んで恥ずかしがる」ポーズのまま厨房に駆け込んでいった。
 僕は照れ隠しに頭を掻きながら尋ねた。
「あの、すみません。あなたは白雪のお友達ですか?」
「一応、上級生かな。若草学院の大学部だから。あ、あたしはここのオーナーの娘で、都筑っていうの。都筑真美。よろしくね」
 胸のネームプレートを示しながら言うと、都筑さんはテーブルを見回した。
「あ、衛に鈴凛ちゃんも来てたんだ」
「うん。おひさ」
「ども〜」
 笑って挨拶する2人。そういえば、2人も白雪と同じく若草学院に通ってるんだった。
 と、そこに近くのテーブルから声がかかる。
「すみませ〜ん」
「あ、ごめんね。はーい」
 お客さんに呼ばれて、都筑さんはテーブルを離れていった。
 僕は、隣に座っている花穂に視線を移した。もうさすがに泣いてはいないが、まだしょぼんとしている。
「花穂、あのさ、失敗は誰にでもあるんだから、気にすることないって」
「でも、花穂、ドジばかりだから……」
 花穂は俯いて、テーブルをじっと見つめながら呟いた。
「そんなことないって」
「そうだもん」
 うーん、困ったぞ。
 僕は可憐に助けを求める視線を向けかけて、止めた。なんだか「困ったときの可憐頼み」っていうのも、可憐に失礼だし。
 さりとて、他に解決策も見当たらないわけで……。
 悩む僕の隣で、さらに落ち込んでいく花穂。
「……はぁぁ」
 そんな2人が、並んで盛大にため息をつくのを、他の妹たちは心配そうに見ているのだった。
「……ふふっ、兄くんが悩む顔は、ヒルバンテの精霊によく似ているな」
 あんまり心配そうでもない妹もいるけど。

《続く》

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あとがき
 ……なんか9月になってますねぇ(笑)
 すっかりめっきょり涼しくなってきました。

 「プール5」が終わったところで、これと「2014」の催促をされることが多くなりましたので、まずはこっちから、と。
 とはいえ、大仕事が終わってかなり消耗してるところなので、かなりきついのは事実ですが。
 まぁ、そのうち調子も戻ってくるでしょう。
 ……調子が戻らないで再び中断、なんてこともよくありますが。

 さて、シスプリといえばベランダの猫親子ですが……。
 どうやら、完全に巣立ってしまった様子で、最近は近所で見ることも無くなりました。
 とはいえ、似たような猫がもともと大量にいるので、子猫も身体が大きくなると見分けられなくなった、というのが実情なのかもしれません。
 まぁ、今度はアパートの目の前の民家の玄関先に別の猫親子がいるようですが。

01/09/06 Up

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