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しすたぁぷりんせす〜12人の姫君達〜 第2部
第3章
「……うーん」
駅前のターミナル。
駅ビルの壁にもたれた姿勢のままで、僕は腕時計を見て首を捻った。
約束の時間を間違えたのかなぁ……。
いや、確かに9時だった。
だとすると、待ち合わせの場所を間違えたか?
頭の中にそんな選択肢が浮かんだとき、声が聞こえた。
「お兄ちゃまぁ〜〜〜」
声の方を見ると、花穂がたたっと駆け寄ってくるところだった。
あ。
ずでぇん
何につまずいたのか、そのまま転んで豪快に地面にヘッドスライディングを敢行する花穂。
僕は慌てて駆け寄った。
「花穂っ、大丈夫かっ!?」
「ふぇぇ、お兄ちゃまぁ……」
半泣き状態で顔を上げる花穂。
僕は傍らに屈み込んで、引っ張り起こして上げた。
「あっ、ありがとう、お兄ちゃま」
「それより、怪我はないか?」
「うん、膝をすりむいただけ」
「どれ、見せてごらん?」
僕は、花穂の膝小僧を見てみた。確かに少しすりむいたようで、血が滲んでいる。
でも、このままだとばい菌が入ったりするかもしれないなぁ。
辺りを見回して、近くにベンチがあるのを見つけて、僕は花穂を抱き上げた。
「きゃっ、お、お兄ちゃま?」
「こらこら、騒ぐんじゃないよ」
「あ、うん……」
驚いたのか、少しもがいた花穂も、僕がそう言うと、おとなしく身を任せた。
Cheer "K" その1
そのまま、ベンチまで花穂を抱いていくと、僕はそのベンチの上に花穂を降ろした。
そして、その前に屈み込んむ。
「膝を出して」
「あ、うん……」
邪魔にならないように、すこしスカートを引き上げる花穂。
僕はハンカチを出して、それから全然濡れてないことに気付いて、辺りを見回した。
むぅ、水道なんてないなぁ。しょうがない。
そのまま、花穂の膝に顔を寄せると、膝小僧をぺろっとなめた。
「ひゃぁ! お、お兄ちゃま!?」
「あ、びっくりした? とりあえず消毒代わりに、ね」
「そ、そんなぁ、汚いよぉ……。ひゃんっ!」
もうひとなめして、傷口が綺麗になったのを確かめてから、僕は膝にハンカチを巻いた。そして立ち上がる。
「これで、よし。……花穂?」
花穂は、何故か真っ赤な顔をしていた。
「あ、ありがとう、お兄ちゃま……」
「さて、それじゃ行こうか」
「え?」
一瞬きょとんとしてから、慌てて花穂は立ち上がった。そして、笑顔で言う。
「うんっ、お兄ちゃまゥ」
僕たちは、連れだって歩き出した。
「しかし、びっくりしたよ。花穂からメールが来るなんて珍しいから」
「あっ、うん。花穂、鈴凛ちゃんに教えてもらって、一生懸命書いてみたの」
「でも、どうしてメールで? 僕を誘うなら直接言いに来ればいいのに」
「だって……、お兄ちゃまのお家には春歌ちゃんや四葉ちゃんがいるし、学校だと可憐ちゃんや咲耶ちゃんがいるし……」
花穂はもじもじと俯いた。
僕は首を傾げた。
「みんなに聞かれるとまずいの?」
「だ、だぁってぇ……」
さらにもじもじくんな花穂。
「花穂、みんなみたいにスタイルが良くないし……」
「えっ? 何か言った?」
「う、ううん、なんでもないよっ!」
慌ててぶんぶんと手を振ると、花穂は僕の腕を掴んだ。
「それよりも、早く行こうよっ!」
「でも、水着を選ぶなら、僕なんかよりも咲耶に選んでもらった方がいいと思うんだけど……」
「だめっ!」
こっちもびっくりするような声で叫ぶと、はっと我に返って自分の口を塞ぐ花穂。
「ご、ごめんなさい、お兄ちゃま……」
「ええっと、とにかく行こう」
回りの人の注目を集めてしまった僕たちは、そそくさとその場を離れるのだった。
だが。
デパートの水着売り場の前まで来て、僕は見慣れた人影を発見した。
「あれ? 咲耶」
「さっ、咲耶ちゃんっ!?」
「もう、遅いわよ、お兄様、花穂ちゃん」
水着売り場の前で腕組みしていたのは、咲耶だった。
「遅いって……」
「はっ、もしかしてここに来るまでにあんなことやそんなことを花穂ちゃんと……。いいえっ、私のお兄様がそんなコトするはずがないわ。だって、私の情熱的な肢体にも手を出さないような、それこそ聖人君子のような清らかなお兄様なんですもの。ああっ、ごめんなさいお兄様。咲耶は自分の想像の中でお兄様をおとしめてしまいました……」
「……ええっと、咲耶?」
いきなりその場でひざまずいて懺悔モードに入ってしまった咲耶に声を掛けてみたが、思った通り反応無し。
「お、お兄ちゃま、こっち!」
「えっ? わ、わわっ!」
いきなり花穂に腕を引っ張られ、僕は咲耶をちらっと見てから、花穂と一緒に駆け出した。
その上のフロアにあるおもちゃ売り場まで来て、花穂は走るのを止めた。
僕も花穂の隣で立ち止まると、訊ねた。
「どうしたんだい、花穂?」
「だ、だって……」
「あっ、おにいたまと花穂たんだぁ!」
急に後ろから声が聞こえた。振り返ると、雛子がにこにこしながら手を振っていた。その隣には亞里亞もいる。
「兄や……ゥ」
「おにいたま〜ゥ」
2人とも上機嫌らしくてにこにこしている。
僕は2人のところまで行くと、両手でそれぞれの頭を撫でながら訊ねた。
「2人だけでここに来たかい?」
「違うよ〜」
にこにこしながら首を振る雛子に、亞里亞が続けた。
「みんなで来たの……」
「……みんなで?」
うんっ、と頷く亞里亞。
「亞里亞さま、雛子さま、こちらでしたか。あ、兄上様もいらっしゃっていたのですか」
「あ、じいやさん」
じいやさんが小走りにやってきた。
「捜しましたよ、もう」
「亞里亞は、雛子ちゃんに、ここのこと、教えてもらってたの」
「雛子のしみつのばしょだもん」
にぱっと笑ってみせる雛子。
「ほら、じいや。こんなにお人形がいっぱいあるの」
さっと手を振る亞里亞に、雛子が言う。
まぁ、人形売り場だからなぁ……。
「あ、でもね、亞里亞たん、ここのお人形は、抱いてかわいかわいしちゃめーなのよ」
「どうしてなの? 亞里亞のお人形はみんなぎゅってしてもいいのに……」
「ええっと……。それはぁ……。……おにいたまぁ〜」
説明に窮したのか、雛子は僕の顔を見上げた。
僕は苦笑して、亞里亞に言った。
「亞里亞、ここにあるお人形はね、まだ誰のものでもないんだよ」
「兄や……。みんな、亞里亞のこと、嫌いなの……?」
「そんなことはないよ。でも……、亞里亞だって、自分が欲しいなって思っていたお菓子が、他の人に食べられちゃったら嫌だろう? それと同じことだよ」
「……亞里亞、お菓子を食べられちゃうのは嫌なの」
俯いてそう呟くと、亞里亞は顔を上げてにっこり笑った。
「うん。それじゃ、亞里亞は我慢するの」
「偉い偉い。雛子がいーこいーこしたげるね」
亞里亞の頭を雛子が撫でた。……というよりはかき回してるように見えるが、亞里亞はそれでも嬉しそうだった。
「……お兄ちゃまぁ……」
後ろから泣きそうな花穂の声が聞こえて、僕は慌てて振り返った。
「あ、ごめんごめん。それじゃじいやさん、2人のことをお願いしますね」
「お任せ下さい」
深々と頭を下げるじいやさん。僕は2人にも声をかけた。
「それじゃ、僕は行くけど、2人ともじいやさんの言うことをよく聞いて……」
「あっ、そうだ。亞里亞たん、もうひとつ、雛子のしみつのばしょ、教えたげるねっ! こっちこっち!」
「うんっ」
ぱたぱたっと駆け出す2人。
「あ、お待ちください、亞里亞さまっ、雛子さまっ! 兄上様、では。お待ちくださいっ!」
じいやさんも慌ただしく一礼して、その後を追いかけて行った。
僕は振り返った。
「お待たせ、花穂。それじゃ行こうか?」
「お兄ちゃま……。うんっゥ」
ちょっと拗ねてた様子の花穂も、すぐに機嫌を直して僕の腕にしがみついた。
「それじゃ水着売り場に……」
「あ、その前に行きたいところがあるの」
花穂は、僕の顔を見上げながら言った。
そうだな、花穂のお願いなら聞いてあげるか。それに、水着売り場の前じゃ、咲耶が旅に出たままかもしれないし。
そう思って、僕は頷いた。
「ああ、いいよ」
チーン
最上階でエレベーターを降りると、目の前にはペットショップがあった。
ショーウィンドウの中では、子猫が数匹、仲良く並んで眠っている。
「わぁ、可愛いっゥ」
「ほんとに可愛いね、お兄ちゃん」
「ああ、そうだなぁ」
それよりも、ショーウィンドウにかぶりつかんばかりにしている花穂の方が可愛いと思うんだけど、まぁそれは言わぬが花って奴だろう。
「これを見に来たの、花穂は?」
「うんっ。だって、ふわふわのもこもこさんだもの」
「可憐のバニラも、小さなときはこんな感じだったよ、花穂ちゃん」
「あ、そうなんだ……」
と、外が騒がしかったせいか、一匹が目を開けた。そして身体をそらしてあくびをする。
「わぁっ、お兄ちゃま! ほらあくびしたっ!」
花穂はもう大はしゃぎだった。
僕は苦笑して、花穂の頭に手を置いた。
「こら、花穂。あんまり騒ぐと子猫がびっくりするだろ?」
「あっ、ごめんなさい」
「そうだよ、花穂ちゃん。静かに見ないと……」
「ごめんなさぁい」
謝って、それから再度ショーウィンドウ越しに子猫を見つめる花穂。
そんな花穂を後ろから見守りながら、僕は隣に訊ねた。
「ところで、可憐。いつからそこにいたっけ?」
「……最初からいたもん」
ぷっと膨れる可憐。
「ごめんごめん。でも、どうして可憐までデパートに?」
「あ、やっぱりほかのみんなにも逢ったんだ」
「逢ったのは、咲耶と、雛子と亞里亞だけだけど……。もしかして、そのほかのみんなも来てるの?」
「もちろん、そうだよ」
にっこり笑って頷く可憐。
「もちろんって……、どうしてみんなでデパートに来てるの?」
「ババーンッ! スペイン宗教裁判……じゃなくて、四葉ちゃん登場デス!!」
『しぃ〜〜〜〜っ!!』
同時に3人に言われて、四葉はしょぼんとした。
「……ごめんデス……」
「で、どうして四葉が出てきたわけ?」
僕が訊ねると、しょんぼりしていた四葉は再び復活した。懐から取り出した虫眼鏡をびしっと僕に突きつけて、言い放つ。
「それは、今日このデパートにみんなが集合している理由を、この名探偵の卵の四葉ちゃんが、兄チャマに説明するためデス!!」
『しぃ〜〜〜〜っ!!』
「……ごめんデス、アゲイン……」
再び、3人に言われて、しょぼんとする四葉だった。
《続く》
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あとがき
つぅことで、新章突入。今回は、感想メールによると根強い人気を誇るらしい花穂ちゃんです。
……ただ、ヒロインになると出番が減るというジンクスは、今回はどうなるんでしょうか?
ここのところ、執筆速度が以前の半分に低下してます。ゆゆしき事態ですが、どうにもならないので歯痒く思ってます。
……なんとかしなくっちゃ。
ところで、PSOを買いました(一部爆)
01/07/31 Up