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Kanon Short Story #14
プールに行こう4 Episode 45(Director's Cut Ver.)

 早いもんで、とうとうこの日が来てしまった。
 今日が、舞と佐祐理さんが、俺達の学校に生徒として来る最後の日。
 ……なのだが……。
「うぐぅ……、祐一くん、待ってよぉ……」
「なんで俺があゆあゆと一緒に激走しないとならんのだ?」
「祐一くんが寝坊するからだよう……」
 そうなのだ。今朝に限ってどういうわけか俺は寝坊してしまい、目が覚めてみると家にいたのはあゆだけという体たらく。
 ちなみにあゆも珍しく寝坊したらしい。
 そういえば、あゆの奴、夕べ秋子さんに謎じゃむを食べさせられていたような……。とすると、もしかしたら……。
 ああっ、なんということだぁっ! そんなことがあっていいものだろうかっ、いやない。反語。
 考えていると妙に怖い考えになってしまったので、俺は話題を変えることにした。
「しかし、名雪もほかのみんなも薄情だよなぁ。俺達を置いてさっさと行ってしまうとは」
「……、……!」
「……あれ?」
 相づちがないのに気付いて足を止め、振り返ってみる。
 案の定、あゆは曲がり角のところで、手を膝に乗せてはぁはぁと息を切らしていた。
 俺は手をメガホンにして叫ぶ。
「走れメロスっ!」
 その声に励まされてメロス……もとい、あゆは顔を上げると、走り出した。
「いいぞメロスっ!」
 あゆは声援を送る俺の所まで駆け寄ってくると、恨めしげに俺を睨んだ。
「うぐぅ……。ボク、メロンじゃないよぉ……」
「『走れメロス』は、ギリシャ神話をモチーフにして、太宰治の書いた小説よ。試験にも良く出るから、ちゃんと覚えておいた方がいいわ」
 にっこり笑いながら言う秋子さんに、うんうんと頷くあゆ。
「そうだったんだ。勉強になったよ。ありがとう、秋子さん」
「どういたしまして。それじゃ、またね」
 笑顔で去っていく秋子さん。……秋子さん?
 俺とあゆは、顔を見合わせた。
「……祐一くん。秋子さん、さっきボク達を玄関のところで、「いってらっしゃい」って見送ってたよね? それからボク達、ずっとここまで走ってきたんだよね?」
「……あゆ、考えるな。考えたら負けだぞ」
「う、うん。そうだねっ」
 俺達は頷き合って、再び駆け出した。

 しばらくして、ようやく校門が見えてきた。
 ♪あお〜げば〜とぉ〜とし〜
 折良く体育館から漏れてきた歌声が、青空に消えていく。いかにも卒業式っていう感じだ。
 校門の辺りには、どう見ても卒業生の父兄には見えない若者が大勢たむろしている。というか、卒業生の見送りに来た在校生達なのだが。
 実は、今日は1・2年生は休みなのである。
 普通、卒業式といえば、在校生も式に出席して、校長やどこぞの偉いさんの有り難くもないお言葉を延々と聞かされるものだと思っていたが、この学校は卒業式に出るのは卒業生だけで、在校生で出席するのは、生徒会役員と他数名のみで済むそうだ。
 なんでも、香里によると、以前在校生が卒業式で大騒ぎした事件があった名残らしい。
 まぁ、そんなことはどうでもいいのだが。

「あっ、祐一! あゆちゃん! こっちだよ」
 名雪の声に、俺達はそちらに視線を向けた。
 そこには見知った顔が集まっていた。……のだが。
「うぐぅ、みんな私服だよ……」
「騙されるなあゆあゆ! あれは校則違反だっ!!」
「人聞き悪いよ、祐一〜」
 不満そうな名雪に続いて、北川がえへんと胸を張る。
「卒業式の日は制服でなくてもいいのだ。そもそも、在校生は休みだからな。どんな服を着ていようとそれは勝手というものだ」
「うん、そうなんだよ」
 カジュアルなワンピースに身を包んだ名雪が言う。うむ、こうしてみるとますます美少女に見えるな。……内面はどうあれ。
 それにしても……。
 俺は、自分の服の裾をつまんだ。
「そういうことは、もっと早めに言えよな。制服で来た俺が馬鹿みたいじゃないか」
「うぐぅ、ボクも……」
 こっちは泣きそうなあゆ。
 北川が、「あれ?」という顔をした。
「でも相沢。卒業式の時は私服でいいんだって話は前にしなかったっけ?」
「……してたっけ、あゆ?」
「うぐぅ……、憶えてない……」
 首を振るあゆ。俺は北川に向き直った。
「というわけだから聞いてないぞ」
「……あのとき、あゆちゃんいなかったよ」
 名雪が思い出すように頬に手を当てながら言った。それから俺に視線を向ける。
「祐一、忘れてたんだよ」
「ああ。詳しくはEpisode13参照だな」
「なんだ、それ?」
 聞き返す俺に、北川が胸を張って答える。
「お約束だ」
「……あのなぁ……」
「祐一の忘れんぼ〜っ。あ、でもそんな祐一も大好きだよっ!」
 ぴとっと俺にひっつく真琴。ちなみにちょっと大人っぽい薄緑のツーピースに白のブラウスは天野の見立て。
「あっ、ずるいですっ!」
 素早く割って入る栞。こちらは清楚な白のワンピースで、肩から羽織ったピンク色のストールがアクセント。間違いなく香里の見立てである。
 何故知ってるかというと、こないだの日曜にこいつらの買い物に一日中付き合わされたからだ。しかし、今日のためなんて一言も聞いてなかったぞ。畜生、騙されたっ!
 俺が心の中で憤慨している間にも、真琴と栞の戦いの火ぶたが切って落とされようとしていた。
「うるさいわようっ、しおしおっ!」
「そんなしなびそうな名前は嫌いですっ!」
「やーいしおしおしおっ!」
「真琴。あまり騒ぐものではありませんよ。ほら、相沢さんも嫌そうです」
「あ、あう〜っ」
 天野にたしなめられて、しぶしぶ俺から離れる真琴。
 ちなみに、その天野の格好はというと……。
「……相沢さん、何か言いたそうですね?」
 天野の着ているのは、思いっきりフリルやらリボンの付いた、いわゆるピンクハウス系の服だ。
 これは、これで……。
「いや、案外似合ってるな、と思ってな」
「……そうですか?」
 聞き返しながらも、まんざらでもなさそうにスカートの裾を摘んでみたりする天野。
 これも日曜日の買い物の成果である。いつもはお洒落になんて頓着しないという天野に、真琴と栞が寄ってたかって買わせたのだ。
「でも、この格好をしていると、さっきから男の人がうるさくて困ります」
 確かに、思わず声をかけたくなる気も判らなくもない。
「ふふふ。こういうときこそ、日頃のファッションセンスがものを言うのだよ、相沢」
「あっ、そういえば北川っ! お前までそんなに決めやがって!」
「へへっ、そりゃ卒業式だもんな」
 くいっと襟の位置を直しながら笑う北川。
「それになっ、見ろこのネクタイ! 美坂のプレおげっ!」
「……恥ずかしいこと言うんじゃないわよ」
 北川の脇腹に深々と肘を突き刺しながら言う香里。ちなみに香里だけは、このメンバーの中で実際に卒業式に出ていたのだが、役目が終わったらすぐに体育館から出てきたとみえる。服装も、目立たないスーツ系だったりするのが香里らしい。
 栞が嬉しそうに両手を組んで言った。
「それじゃ、お姉ちゃん、あの特訓の成果を発揮できたんですねっ!」
「とっくん?」
 聞き返す俺に、栞はにっこり笑って答えた。
「はい。お姉ちゃんったら、私を実験台にネクタイを結ぶ練習を……」
「わーわーわーっ!!」
 慌てて両手を振り回しながら、俺と栞の間に割り込むと、香里はがしっと栞の肩を掴んだ。
「栞、二人っきりの姉妹じゃない」
「お姉ちゃん、私ハーゲンダッツがいいです」
「……わ、わかったわよ」
「商談成立、ですね」
「……ううっ、今月お小遣い厳しいのに……」
 俺は香里の肩を叩いた。
「姉は辛いな」
「うん、わたしも判るよ。お姉ちゃんだもんね」
 こっちは嬉しそうな名雪。
 北川がどんと胸を叩いた。
「ま、心配するな。俺が今夜じっくりとなぐさめ……」
「目からびぃむ」
 どぉぉぉん
「うっわぁーーーーーっっ」
 そのまま吹き飛ばされていく北川を見送りながら、名雪が言う。
「わ、北川くん飛んで行っちゃったよ……」
「大丈夫よ。北川くんの耐久度はちゃんとわきまえてるから」
 真っ赤になってはぁはぁと息を付きながら言う香里。しかし、すっかり手玉に取られてるなぁ、北川のヤツ。
 と、その時、体育館の方からざわめきがあがった。
「あ、終わったみたいだね」
 名雪が、手のひらを額の上でかざすようにしてそちらを見て言った。
 俺もそちらを見ると、体育館からカラフルに着飾った人の群が吐き出されてくる。
「……あの中のどこに2人がいるんだ?」
「……さぁ」
「よし、あゆ! あの中から2人を探してこいっ!」
「うん、ボクがんばるよっ!」
 そう言って、あゆはとたたっと走っていった。そしてそのまま人波に飲み込まれる。
「うぐぅ〜っ」
「あ、流されてる」
「あゆあゆ、格好わるーっ」
 それを指さしてけたけたと笑う真琴。
「……真琴、あまり人を指さして笑うものではないですよ」
「だ、だって、あれ、あはは〜」
 と、そんな俺達に、聞き慣れた声がかけられた。
「あ、祐一さん。それに皆さんも、来てくれてたんですね〜」
 振り返ると、そこにはえんじ色の袴にピンクの着物姿もよく似合う佐祐理さんが笑顔で立っていた。その手には、卒業証書の入った黒い筒がしっかりと握られている。
 俺も笑顔で声をかけた。
「よう、佐祐理さん。卒業おめでとう」
「おめでとうございます」
「えっと、おめでと……」
 皆もそれぞれにお祝いの声を上げた。
「あははーっ、ありがとうございます」
 佐祐理さんは笑顔で頭を下げた。
「さて、それじゃ今日の主役も来たことだし、行こうか」
 俺は佐祐理さんの手を取って、先導しようと……。
 ……ぽかっ
 いきなり後頭部にチョップをされた。
「いてっ」
「あははーっ、本当のヒロイン登場ですね〜。これで佐祐理は脇役です」
 にこやかに笑う佐祐理さん。
 振り返ると、そこにいたのは紺の袴に矢絣の着物姿の舞だった。
「……私を置いていこうとした……」
「冗談だって。俺達が舞を置いていくわけがないだろ?」
「……本当に?」
「そうだよ、舞」
 佐祐理さんが笑顔で言った。
 舞は、表情をふっと曇らせる。
「でも、今日で、もう佐祐理と一緒じゃなくなる……」
「そういえば、舞と佐祐理さんはここを卒業してどうするんだ?」
 これまで聞こうと思っては忘れていたことを、俺はようやく聞くことが出来た。
 佐祐理さんは笑顔で答える。
「はい、佐祐理と舞は、4月から同じ大学ですよ」
「……えっ?」
 驚いた顔をする舞。
「……佐祐理、本当に?」
「うん」
 佐祐理さんは舞の腕を抱え込むようにして、その顔を覗き込んだ。
「佐祐理が舞とこのままお別れするわけないですよ」
「……えくっ」
 しゃくり上げる舞。
「私、もうお別れだって……思って……えくっ」
「あ、ほらほら。まだ泣くのは早いですよ〜」
 笑って舞に言う佐祐理さん。こくりと頷く舞。
「……うくっ、うん……」
 俺は苦笑した。
「そっか、それじゃまた二人一緒ってことか。良かったな、舞?」
 佐祐理さんはともかく、いつの間に舞が大学を受験したのか不思議ではあったが、まぁ舞は頭も良いらしいからなぁ。
 それにしても、大学か……。
 と、そこで不意に気付く。
「もしかして、佐祐理さんの隠し事ってこれ?」
「あははーっ、違いますよーっ」
 あっさり否定されてしまった。そう言われてみれば、3年生の大学合格者はずらっと壁に張り出されてたっけ。興味ないから見たこと無かったが、それを見れば一目瞭然だ。
「……佐祐理は、もっといい大学に受かってたから、そっちに行くと思ってた」
 まだ時折鼻をすすり上げながら呟く舞。
 佐祐理さんは首を振った。
「舞のいない大学なんて、佐祐理にとって価値はないもの」
 ああ、麗しの乙女の友情、というところだな。
 俺は内心で感動しながらも、表に出すのも恥ずかしかったので、いつものように装って訊ねた。
「ところで、その2人が行く大学ってどこにあるんだ? もしかして、この街を離れることになるのか?」
「大丈夫ですよ。確かにここからはちょっと離れてますけど、電車で1駅ですから。それに、舞が祐一さんのいるこの街から離れるなんてありませんよ」
 ずびしっ
 赤くなった舞が、佐祐理さんのおでこにチョップをしていた。そして、後ろを向いてぶつぶつと言う。
「私は、ずっとここを守るって約束したから、ここから離れないだけで……」
「それじゃ、祐一さんは好きじゃないんだ?」
「それは、……祐一は嫌いじゃない……」
 耳まで真っ赤になって、小さな声で言う舞と、そんな舞を嬉しそうに見つめる佐祐理さん。
 と、そこに別の声が聞こえた。
「はぁはぁ、探しましたよ、倉田さん」
「あ、久瀬さん」
 佐祐理さんは振り向いた。
 俺達もそちらを見ると、眼鏡をかけた久瀬が、膝に手を当てて荒い息をついていた。
「大丈夫ですか、久瀬さん?」
 そう言いながら、佐祐理さんが手にした小物入れからハンカチを出して、久瀬の汗を拭っている。
「うぉぉっ、倉田先輩が久瀬なんかのっ! 俺も拭ってもらいたいっ!!」
「死になさい、脳味噌ぶちまけて」
 目がオレンジ色に染まり髪が不自然にふわぁっとなるモードになった香里が、そのまま北川を瞬殺するのを横目に、俺は佐祐理さんに訊ねた。
「で、こうして無事に卒業できたわけだ。佐祐理さんの隠し事、そろそろ教えてもらっても良いだろ?」
「あ、はい。久瀬さん、いいですか?」
「ええ、準備はすべて整ってるはずです。こちらです」
 そう言うと、久瀬は歩き出した。
 佐祐理さんは、その後を歩きながら、俺達を手招きした。
「それじゃ、行きましょうか、みなさん」
 俺達は顔を見合わせながらも、2人の後を追った。

「あら? ところで、あゆさんは?」
「あ、忘れてた」
「……うぐぅ、ひどいよ祐一くん……」

 水瀬家から駅に向かう道の途中に、それはあった。
「……はい、こちらですよ」
 そう言って階段を上がる佐祐理さん。
 狭い、鉄製の階段を大勢で上がると、その足音がやかましいくらいだったけど。
「ここですね、久瀬さん?」
「ええ。はい、これを」
 久瀬に手渡されたものを、佐祐理さんは舞に見せた。
「舞、これなんだと思う?」
「……鍵?」
「そうだよ」
 一つのリングにはまっていた2つの鍵。そのうちの一つをリングから外して、佐祐理さんは舞に渡した。
「はい、これが舞の。そして、こっちが佐祐理の」
「……?」
「ほら、舞。これ見て」
 佐祐理さんはそのドアの脇にかかっている表札を指した。

川澄 舞
倉田佐祐理

「……私と……佐祐理?」
「うん」
 佐祐理さんは笑顔で頷いた。
 舞は、震える手で鍵を鍵穴に差し込んで回した。
 カチッ
 ドアが開いた。
「ここが、今日から佐祐理と舞の家だよ」
 佐祐理さんは笑顔で言った。それから、舞の顔を覗き込んだ。
「ごめんね、今まで黙ってて。でも、びっくりさせようと思って……」
「……」
 そう。これが佐祐理さんの秘密だったわけだ。
 舞と一緒に暮らすための、アパートの一室。
 俺は、後ろから舞の肩を叩いてやった。
「よかったな、舞」
「……うくっ」
 舞は肩を震わせて、顔を上げた。
 その頬を涙が流れ落ちる。
「舞、もしかして嫌だった?」
「……っ」
 ぶんぶん、と、頬を流れる涙が雫になって飛び散る勢いで首を振る舞。
「……相当……嫌じゃない。……うくっ、……どうしてか、わからない……」
 そのまま俯く舞を、佐祐理さんはそっと抱き寄せた。
「いいんだよ、舞。嬉しいときだって、涙は出るんだから」
「……ぐしゅっ」
 鼻をすすり上げて、舞は顔を上げ、そして笑った。
 それは、あの時の、金色の草原にいた少女の笑顔だった。

「それじゃ、久瀬があのアパートを?」
 俺達は、百花屋に場所を移していた。
 袴姿から普通の服に着替えた佐祐理さんが、にこにこしながら言う。
「久瀬さんのお父様が、不動産屋さんをしてるんですよ。それで、佐祐理は久瀬さんに相談したんです」
「なるほど……」
 ちなみにその久瀬自身は、一応誘ってみたのだが、用事があるとかでそそくさと帰って行ってしまい、ここにはいない。
 佐祐理さんは、コーヒーを一口飲むと、カップを優雅にソーサーに戻した。
「佐祐理はとっても楽しかったんですよ。放課後に、久瀬さんにお手伝いしてもらいながら、いろんな物件を見て回ったりするのが。この家なら舞は喜んでくれるかな、この窓はどうかな、このドアはどうかなって、いろいろ考えながら……」
「……」
「とっても楽しくて、でも、だから舞にも祐一さん達にも逢ったら駄目だって思って……」
 佐祐理さんは、ため息をついた。
「佐祐理は頭が悪いですから、逢っておしゃべりしてたら絶対にしゃべっちゃうと思ったんですよ」
「うーん」
「……でも、二度としないで欲しい」
 こちらも着替えた舞が言った。散々泣いたせいか、まだその目は赤かった。
「ごめんね、舞。うん、舞がそう言うなら、もう佐祐理は舞に隠し事はしないよ」
 佐祐理さんはそう言って、舞にそっと身を寄せた。
 と、そこで、今までイチゴサンデーを食べていた名雪が、その手を休めて言った。
「祐一、まだ、あゆちゃんや真琴達の進級祝いもしてなかったよね」
「そういえば、あゆが落第するかも……って延期してそのままだったな」
「うぐぅ、ちゃんと進級出来たもん」
 膨れながらレモンスカッシュのストローをくわえるあゆの頭を撫でながら、俺は訊ねた。
「それじゃ、今度の日曜辺りにまとめてどーんとパーティーでもやるか?」
「うん、そうだね」
 頷く名雪。
 栞がバニラアイスを口に運びながら微笑んだ。
「嬉しいです、祐一さんが私のためにお祝いしてくれるなんて」
「ちがうわよう! 真琴のためだもんっ」
 ぶんぶんと手を振り回す真琴。
「ということは、2人は日曜でいいんだな?」
「はい、祐一さん」
「真琴もそれでいいわよう」
「あゆは?」
「うん、ボクも日曜でいいよ」
 頷くあゆ。
 俺は佐祐理さんと舞の方を見た。
「そちらのお二人さんは?」
「あははーっ、佐祐理達はいつでもいいですよ〜。ね、舞?」
「はちみつくまさん」
 こくんと頷く舞。
 俺は腕組みして頷いた。
「よし、決まりだな。で、どこでやろうか?」
「たまには、うちでいいんじゃないかな? お母さんも喜ぶし」
「そうだね。ボクもそれでいいと思うよ」
 あゆが頷く。
 特に反対意見も出なかったので、結局それで決まりとなった。

 百花屋からの帰り道。
 舞と佐祐理さん、美坂姉妹とそれぞれ別れ、俺達は水瀬家へ向かってのんびりと歩いていた。
 なんとなく、話のネタも切れて、黙って歩く。
「あっ、そうだ」
 不意にあゆがぽんと手を叩くと、真琴に話しかけた。
「真琴ちゃん、家までボクと競争だよっ」
「えっ?」
「よーい、どんっ!」
 一人で駆け出すあゆ。
「あっ、待ちなさいようっ!」
 慌てて、その後を追いかけると、あっさり抜いていく真琴。
「へへーん。あゆあゆに負けるわけないわようっ」
 あゆはちらっと振り返って手を振り、そして真琴を追いかける。
「うぐぅっ、待てぇっ!」
「待たないわようっ!」
 俺は、苦笑した。
「あゆの奴、気を回しやがって……」
「ちょっと、あゆちゃん? 真琴? もう、みんなどうしたの? ……あっ」
 今にも2人を追いかけようとしていた名雪の腕を掴む。
「俺達は、ゆっくり帰ろうぜ」
「……そっか。うん、そうだね」
 頷いて、名雪は歩調を落とした。
 見上げると、目に痛いくらいオレンジ色に染まった空。
 不意に、隣を歩いていた名雪の姿が消えた。そして、背中に暖かな感触。
「祐一の背中、広いね」
 それを確認するまでも無かった。耳元で聞こえる声は、俺の大好きな声だったから。
「……名雪、土曜の午後は空いてるか?」
「うん、部活、お休みだから」
「それじゃさ……」
 俺は言葉を切って、首だけ振り返った。
「考えてみれば、初めてか……」
「え?」
「いや、二人でデートにでも行こうかと思って、さ」
「……そういうのは、ちゃんと誘ってくれないと、だめだよ」
 笑顔で答える名雪。
 俺は向き直った。
「行きたいところは、決まってるんだ」
「うん」
「土曜の午後なんだけど……」
「うん」
 一つ息を吸って、言う。

「プールに行こう」

「うんっ」

 名雪は、満面の笑みで、それに答えてくれた。

das Ende

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あとがき
 まずは、ここまでお付き合いくださいました皆さん、ありがとうございました。
 プール4、これにて完結です。
 多少なりとも暇つぶしになれば幸いです。

 ホントなら、色々とここに書くところなんでしょうけれど、今は書き上げたところでちょっと虚脱状態です。
 過放電状態なので、しばらくのんびりと充電させてください。

 プールに行こう4 Episode 45 01/2/18 Up 01/2/19 Update 01/3/6 Update 01/5/5 Update

・最終回記念特別アンケートです

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Episode 45の採点
(10段階評価で、10が最高です) 1 10

『プール4』全体を通しての採点
(10段階評価で、10が最高です) 1 10
『プール4』で一番美味しいところを持っていったヒロインは誰でしょうか?
『プール4』で一番割を食ってしまったヒロインは誰だと思いますか?
『最優秀助演女優賞』は誰に贈りますか?
『プール4』では、祐一は名雪と付き合ってますが、これについては……

『プール』シリーズで一番好きなのは、どのシリーズですか?

よろしければ感想をお願いします

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※今回のアンケート結果は、1ヶ月ほどでまとめて公表する予定です。