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俺とあゆは、スーパーを出ると、並んで夜道を歩いていた。
Fortsetzung folgt
「祐一くん」
「うん?」
不意にあゆが小さな声で呟いた。
「ボクね、嬉しいよ」
「胸が少しは大きくなったのか?」
「うぐぅ……。違う……ことはないけど……」
「本当か?」
「本当だもん!」
「どれどれ?」
むにぃ
「えっ? ……う、うぐぅぅぅっ!!」
ばきどごめしゃっ
そのまま、あゆ久々のデンプシーロールをくらって、俺はその場に轟沈した。
「祐一くんのえっちぃ!」
「うぐぅ……」
「うぐぅ、真似しないで……」
胸を押さえて真っ赤になったあゆが、うぐうぐ言いながら俺を睨んだ。
「さて、それじゃ帰るか」
「うぐぅ、何事もなかったかのようにさわやかに帰らないで」
「わかったわかった。で、どれくらい大きくなったんだ?」
「えっとね、はちじゅう……」
言いかけたところで、はっと気付いてぱっと自分の口をふさぐあゆ。
「い、言わないよっ」
「むぅ、残念」
「そうじゃなくって! ボクは、みんなが仲良くできて嬉しいって言いたかったんだよ」
「……ああ、そうだな」
俺は、あゆの髪をくしゃっと掻きまわしてやった。
「うぐぅ、くすぐったいよ」
そう言いながらも、あゆは嬉しそうに笑っていた。
家に着くと、秋子さんが出迎えてくれた。
「ずいぶんじっくりと吟味してきたのね」
「ええっと、まぁ」
「あんまり遅いから、みんなもう始めちゃってるわよ」
「ああ、それはそれで構わないですよ」
「はい、秋子さん。あげたてのコロッケ買ってきたよ」
「まぁ、ありがとう、あゆちゃん」
あゆからビニール袋を受け取って、秋子さんはキッチンに入っていった。
「二人とも早く手を洗って来なさいね」
「はぁい」
俺たちは声を合わせて返事をすると、洗面所に向かった。
「……というわけで、舞と佐祐理さんは仲直りできたみたいだぞ」
「よかったですね、祐一さん」
栞が笑顔で言った。
「これで、私と祐一さんの間には何の障害もなくなったんですねっ!」
「んなわけねぇだろ!」
「そんなこと言う人嫌いです」
「相沢くん……」
「香里、祐一を脅すなんてひどいよ」
イチゴの姿焼きを食べていた名雪が、俺を睨もうとした香里に、のんびりとした口調で言った。
香里は「はいはい」とため息をついた。
「わかったわよ、名雪」
「うん」
やっぱり親友同士っていうだけあって、微妙なニュアンスが判るらしい。
「お姉ぇちゃぁん……」
「我慢なさい」
「うーっ」
「栞ちゃん、がんばれっ」
「あゆさん、ありがとう」
手を取り合う貧乳コンビ。
「でも、ボクは名雪さんの味方だから。ごめんね」
「うーっ、あゆさんも嫌いですぅ」
「はい、あゆちゃんの買ってきてくれたコロッケですよ」
タイミング良く、秋子さんがほかほかと湯気の立つコロッケを皿一杯に盛って入ってきた。
「あっ、ほら栞ちゃん。ボクのコロッケわけてあげるよ」
「もらいますけど、嫌いですっ!」
「うぐぅ……」
そんな感じで夕食が滞りなく終わると、俺は自分の部屋に戻った。
ベッドに寝っ転がって、真琴の部屋から強奪してきた漫画雑誌を読んでいると、ノックの音がした。
「へぇい」
「祐一、いいかな?」
そう言いながら、名雪がドアを開けて部屋に入ってきた。
「名雪か。あゆと栞は?」
「お母さんに勉強を教えてもらってるよ」
そう言いながら、名雪は後ろ手にドアを閉めた。
パタン
「そ、そっか」
そう言いながら、ベッドから身体を起こした俺に、名雪がむしゃぶりついてきた。
再び、ベッドに押し倒される俺の身体が、ベッドのスプリングで跳ねた。
「でも、いいのか?」
そう言った俺の唇を塞いでから、名雪は頬を赤くして言った。
「大丈夫だよ。お母さんが、2人は引きとめておくから、今夜はがんばれって言ってくれたもの」
うーむ。恋人の母親公認というのは、それはそれで気恥ずかしいものだ。
それにしても……。
俺はにやりと笑った。
「しかし、名雪もエッチだなぁ」
「だって、昨日もあんなだったし……。それに、わたしだって女の子だもん」
そう言うと、名雪はもう一度俺にキスをした。
「大好きな男の子とは、エッチなことだってしたいよ」
「そっか。なら、俺も証明しないとな」
そう言いながら、俺はくるっと身体を入れ替えて、名雪を組み敷いた。
熱いひとときが終わりを告げた後、名雪は眠そうにあくびをしながら下着を身につけ始めた。
「あれ? ここで寝ていくんじゃないのか?」
俺が訊ねると、名雪は首を振った。
「お母さんが、今日は栞ちゃんもいるんだから、終わったら自分の部屋に戻りなさいって……」
「そっか。ま、しょうがないな」
俺は肩をすくめると、手伝ってやろうかと身体を起こして、名雪を見て呆れた。
「名雪、スカートを頭から被ってどうする?」
「……くー」
スカートの中からは、返事代わりに寝息が聞こえてきた。
「やれやれ」
俺はため息混じりに名雪の頭からスカートを引っこ抜いた。そして、身体を抱えあげると、ベッドに座らせて、スカートを履かせてやった。
「うにゅ、こそばいよ」
「履かせてやってるんだから、我慢しろ。ほら、腰あげて」
「うにぃ」
うなずいて腰を上げる名雪。俺はスカートをその腰まで上げて、ホックを留めてやると、今度はブラウスを手にとった。
そして気付く。
「……しまった、ブラウスはスカートよりも先に着せるべきだったか」
とりあえず、四苦八苦したあげくに、やっと名雪に服を着せてると、抱き上げて俺は部屋を出た。
廊下は明かりもついておらず薄暗い。
あれ?
名雪の部屋のドアがわずかに開いていて、その隙間から明かりが漏れてるぞ。
しょうがないなぁ、名雪のやつ。電気を消し忘れたのか。
俺は、つま先をドアの隙間に引っ掛けて大きく開いて、名雪の部屋の中に入った。
そして、そこで固まった。
「……えっ?」
俺の目の前に、香里がいた。それも、パンティ1枚のみという、北川なら即座にガンパレードマーチを高らかに歌いながら突撃しそうな格好で、だ。
うぉ、名雪のよりも大きい。
「き、きゃぁぁぁぁっ!!!」
俺がそれを見て取るのと同時に、香里が大きな悲鳴を上げながら、胸を押さえてしゃがみこむのとは同時だった。
「あっ、相沢くんが、どうしてっ!?」
「香里こそ、どうして名雪の部屋でストリップをしてたんだ!?」
「誰が……」
香里が言いかけたとき、廊下のほうで声が聞こえた。
「お姉ぇちゃんの悲鳴ですっ!」
「香里さん、なにかあったんですか?」
「うぐぅ、ボク怖いよぉ……」
いかん。
俺は反射的に後ろを見て、ドアが既に閉まっているのに気付いた。
そういえば、足でドアを開けたときは、いつも返す足でくいっと引っ張って閉めるのが癖になっていた。そうしないと寒いから、という、いわば生活の知恵なのだが。
しかし、今の俺は自分で脱出経路を絶ったも同然だった。
どうしよう、と思う間もなく、そのドアからノックの音がする。
「お姉ちゃん、どうしたんですかっ!?」
お父さん、お母さん、ボクは今ドキドキするほど大ピンチです。
「お姉ちゃんっ!」
そのとき、香里が不意に口を開いた。
「大丈夫よ、栞。ちょっと転んだだけだから」
「本当ですか?」
「ええ、そうよ」
そう言いながら俺に目くばせする香里。
俺は、その意味を読みとってすばやく行動した。
「でも、そんな、転んだときにあげるような悲鳴じゃなかったですよ。開けますね」
カチャ
「あ、お姉ちゃん。一人ですか?」
「違うわよ。ほら、ベッドで名雪が寝てるし」
「あ、ほんとだ。名雪さん、ぐっすり寝てるみたいだよ」
「そうなのよ。あたしが部屋に入ったらぐっすり寝てたから、起こしたら悪いなぁって思って、電気を付けないで着替えようとしたんだけど、やっぱり無理だったみたい。あはは」
「もう、お姉ちゃんも意外とドジなんですから。でも、安心しました」
「ごめんね、栞。それに、あゆちゃんや秋子さんにまで心配かけてしまって、ごめんなさい」
「ううん、ボクはかまわないよ。ね、秋子さん」
「ええ。香里さんが怪我をしてないのなら……」
「あ、それは大丈夫です。それじゃ着替えてしまいますから」
「そうですね。いくらお姉ちゃんでも、いつまでも裸んぼさんじゃ、風邪を引いてしまいますよね」
「し、栞っ!」
「うふふ、それじゃごゆっくり、お姉ちゃん」
……パタン
ドアが閉まる音、そして複数の階段を降りる音がして、しばらくしてから、香里の声がした。
「もういいわよ」
「……助かった、香里」
そう言いながら、俺が名雪のベッドの下から這いだすと、ネグリジェ(残念ながら透けてはいなかった)に着替えた香里が、腕組みをして俺をじろりと睨んだ。
「さて、どういうことか説明してもらいましょうか?」
「そっちこそ、なんで名雪の部屋でスト……、もとい、服を脱いでいらっしゃったのでございましょうか?」
ストリップしてたんだ? と聞きかけたところで、目の色がオレンジ色になったので、慌てて言いなおす。
「さっき栞に説明した通りよ。もっとも、電気は消してなかったけどね。それで?」
「俺は、その、名雪が寝たからベッドに寝かそうと思って連れてきただけだぞっ」
「……ちょっと、聞いてもいいかしら? 名雪のブラウスのボタンが上から4つ目まで閉まってないのはどういうこと? それに、ブラのホックはちゃんと噛み合ってないみたいだし」
「……ええっと、それはそのですね、大宇宙の深遠なる事象の地平線の彼方を目指す男は皆また一歩野望に近づいたっ!」
「……なにを言ってるのよ」
香里はため息をついた。
「もういいわよ。はぁ、やっぱり思った通りだったみたいね。栞に隠せてよかったわ」
「……もしかして、俺を助けたわけじゃなくて、栞に隠したかっただけか?」
「ほかにどういう理由があるのよ?」
「……あ、いや……」
俺が口ごもっていると、香里はもう一度ため息をついた。
「それにしても、よりによって相沢くんに見られるとはねぇ……」
「悪かった。それについては謝る。すまん」
俺は、ここは素直にわびておくことにした。
「もういいわよ。もっとも、二度はないけどね」
香里はそう言うと立ち上がった。
「さて、変な汗かいちゃったから、もう一度シャワー浴びてくるわ」
「お供しようか?」
俺の申し出に、香里はにっこり笑って振り返った。
「そのまま死にたいならかまわないわよ」
俺が丁重に辞退したのは言うまでもない。
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あとがき
プールに行こう4 Episode 36 01/2/12 Up