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こみっくパーティー Short Story #1
あやちゃんとでぇと 前編

 ペタッ
 最後のトーンを張り終わると、俺は大きく伸びをした。
「ふぅ〜。やっと上がったぁ」
 立ち上がると、膝の上に散らばっていたトーンくずが、ぱらぱらと落ちる。うーむ、落とさないように気を使っていたつもりなんだがなぁ。
 苦笑して、原稿をトントンと揃えると、テーブルの向かい側に視線を向ける。
 シュッシュッシュッシュッ
「……」
 彩は、いつもと同じように、真面目な顔でペンを走らせていた。
「彩、お茶にするか?」
 シュッシュッシュッシュッ
「……」
 反応がない。
 相変わらず、彩が原稿を書くときの集中力はすごい。俺なんかすぐに気が散って、気が付くとゲームパッドを手にして……って、それは違うか。
 どれどれ?
 邪魔にならないように注意しながら、彩の後ろに回り込んで、肩越しに原稿をのぞき込む。
 うぉ。
 相変わらず上手い。
 詠美とユニットを組んでいた間に身につけた技術と、彩本来の繊細な技術が見事に融合してるじゃないか……なんて、原稿一枚見ただけでわかるもんでもないけど。
 でも、あのときの本とは違って、彩本来の味っていうのかな、それが醸し出す、いつもの雰囲気が、その原稿からは感じとれた。
「……あ」
 不意に彩が顔を上げて、俺がのぞき込んでいるのに気が付いた。
「あの……」
「ああ、ごめん」
「いえ。あの……、その……、どうでしょう?」
 ためらいがちに、俺に尋ねる彩。
「どうって……、原稿?」
 聞き返すと、彩はこくりと頷いた。それから、俺に向き直る。
「まだ、だめでしょうか?」
 うーん。あのとき俺が言ったことがよっぽど効いてるみたいだ。馬鹿馬鹿俺の大馬鹿野郎っ。
「……あの、和樹さん?」
 俺が不意に自分の頭をぽかぽか叩き始めたので、彩はびっくりしたようだった。
「あ、いや。うん、いいと思うよ」
「本当ですか?」
「ああ」
 大きく頷くと、彩は安心したようににこっと笑った。
「ありがとう……」

 2月のこみパが終わって、まぁ、なんだ、色々とあって仲直りした俺と彩は、再びユニットを組み直して3月の春こみに向けて原稿を描いていた。色々の内容? 聞くなよ、照れるじゃないか。
 俺の方はというと、たった今原稿が上がったところだ。これで、なんとか修羅場モード(大志曰く、締め切り1週間前になって必死になって原稿を書く状態らしい)に入ることもなくて済んだ。
 ……本当に仕上がってるよな? ページを確認したりして。……オッケイ。まさか表紙を描き忘れ……ってこともない。よしよし。
「それで、彩の方は、どうなの?」
 一休みすることにして、俺はコーヒーを淹れながら訊ねた。彩は自分が淹れると言ったんだが、そこはそれ、俺も元床屋志望のプライドがある。って、関係ないか。まぁ、今まで原稿描いていた彩にそんなことさせたくなかったってことだ。
「はい。あと……1枚で終わります」
 仕上がった1枚を脇にどけながら、答える彩。
「そっか。それじゃ……」
 時計を確認する。まだ夕方だな。
「今日中には上がるな」
「はい」
 嬉しそうな声だ。そっか、今日中に二人とも原稿が上がるか。
 そういえば、明日は……、やっぱり日曜だ。いかんな、こういう生活してると曜日に疎くなって。
 日曜……か。
 よし。
「それじゃさ、あ……」
 ピンポーン
 言いかけたところで、いきなりチャイムが鳴った。
「……」
 ピンポーン
 硬直している俺をよそに、チャイムが鳴る。彩が俺とドアを見比べながら、声をかけた。
「あ、あの……、和樹さん?」
「判ってる。誰だまったく……」
 俺はため息混じりに、玄関に出た。3度目のチャイムが鳴る前に、ドアを開ける。
「やぁ、まいぶらざぁ。元気にやってるようだな」
「……九品仏大志、貴様かぁ」
「そうとも」
 意味もなく胸を張ると、大志は三和土に視線を落とし、眼鏡の奧の瞳を細めた。
「ほぉ。相変わらず女にうつつを抜かしているようだな、まいふれんど」
 しまった。三和土には彩の靴がちょこんと置いてあったのだ。
 しかし、いきなり“ぶらざぁ”から“ふれんど”に格下げかい。
「別にうつつを抜かしてるわけじゃない」
 俺はむっとして腕組みした。
 と、不意に大志は笑みを漏らした。
「まぁ、そのようだな」
「は?」
 相変わらず話の脈絡がない奴だ。
 俺がきょとんとしていると、大志は人の家の玄関先で演説を始めた。
「以下に吾輩と言えども、過ちを犯すこともある。過ちを素直に認めないようでは、世界を握り覇王となろう者としての鼎の軽重が問われるというもの。というわけで、ここで素直に認めるとしよう。あのときは、吾輩の方が誤っていたようだ。人は切磋琢磨することにより、進歩するものだということを、吾輩ともあろう者が忘れていたようだ。そして、人は教えることにより、また自らも学ぶものだ、ということもな。よし、吾輩はそこにある長谷部彩も貴様と同じく我が野望の駒と数えることにしよう」
「は?」
 思わず聞き返す俺に構わず、大志は高笑いした。
「はっはっはっは。ではごきげんよう。くれぐれも原稿を落とさぬようにな」
「大きなお世話だ。とっくの昔にもう完成しとるわい!」
「ん〜〜、とっくの昔、だぁ? まいぶらざぁ、嘘はいかんな。ズボンにトーン屑が付いているということは、たった今まで作業していた証だぞ」
 げ、本当だ。
「はっはっはっは。それでは、さらばだ、まいぶらざぁあんどまいしすたぁ」
 慌ててジーンズを叩く俺を残して、大志はもうひとしきり笑うと、そう言い残して去っていった。
「……なんだったんだ、あいつは……」
 俺はドアを閉めると、振り向いた。そして、俺の方を見ていた彩に苦笑してみせた。
「まぁ、気にするなって。あいつがおかしいのは、いつものことだ」
「……」
 彩はふるふると首を振った。げ、気にしてるのか!?
 慌てて彩に駆け寄ると、俺はフォローし始めた。
「いや、あいつは元々ああいうものの言いようをする奴だから」
「……知ってます」
 そりゃそうだ。俺と彩はユニットを組んでいた間隣同士だったんだから、瑞希や大志とも面識はあるんだよな。
「あ、でも、それはだな……」
 口ごもる俺を見て、彩はくすっと笑った。
「嬉しいんです」
「いや、嬉しいのは山々だろうけど……。はい?」
 思わず聞き返す俺。
 彩は、こくんとうなずいた。
「九品仏さん、私のこと、認めてくれましたから」
「認めた?」
 首をひねる俺に、彩はもう一度微笑んだ。
「私も、駒に数えてくれるって……」
「そういや、そんなこと言ってたな」
 俺は思い返した。うーん、あれって、あいつなりの認め方なんだろうか?
 まぁ、今まで“あの女”扱いだったからなぁ。それに比べると進歩なのか。
「あ、いかん。コーヒー淹れてたんだ!」
 慌てて俺は台所に走った。
「あれ?」
「こっちです」
 彩が向こうで手招きしていた。テーブルには、湯気の立っているコーヒーカップが二つ。
「九品仏さんとお話しなさっている間に、淹れておきました」
「ごめん。ありがと」
 俺は手を合わせて、テーブルの前に座った。
 コーヒーの香りが、なんとなく静かな雰囲気を醸し出す。
 そうだ。
「なぁ、彩」
「はい」
「明日なんだけど……」
 トルルルル、トルルルル、トルルルル
 いきなり電話のベルが鳴り出した。こんな時にぃっ!
 俺は、彩にごめんと手を合わせて見せてから、受話器を取った。
「はい、千堂です」
「あ、和樹? どや、ちゃんとやっとるか?」
「なんだよ、由宇か」
 俺はため息をついた。途端にツッコミを入れられる。
「なんや、その態度は? まさか、原稿落としたとか言わへんやろな?」
「落とすか!」
「ま、そやろうな。なにせあんたには、頼もしい味方がついとるさかいなぁ〜。あ〜、うらやましいこっちゃ」
「な、なんだよ、そりゃ?」
「別にいまさら隠すことあらへんやん。彩ちゃんとより、戻したんやろ?」
 ……どうしてこいつはそんなことまで知ってるんだ? 恐るべし、おたくネットワーク。
「ええなぁ〜。恋する二人の合作同人誌、愛の結晶っちゅうやつやなぁ」
「あのな……」
「照れへんでもええやん。そや、春こみ終わったら、みんなでぱーっとやらへん? あんたと彩ちゃんの復縁を祝って、ぱぁ〜っと。な?」
「おいおい」
「なんや、そないに喜んでもろて、ウチは嬉しいわぁ」
「誰が喜んどるかぁ!」
 思わず関西弁が移ってしまった。
「まぁまぁ。ほな、彩ちゃんとちと代わってんか?」
「そりゃいいけど……」
 そう言ってから、はっとする。案の定、由宇は電話の向こうで笑い転げていた。
「あはははは、やっぱ、彩ちゃんそこにおるんやな? ひゅー、やるやんかぁ」
「違うっ!! 一緒に原稿仕上げてただけだっ!!」
「あ〜、いつから和樹はそんな放蕩息子になったんやろ。おかんは悲しいわぁ。しくしく」
「だれがおかんだっ! ったく。切るぞ」
「あ、待ちぃ! 彩ちゃんに代わってぇ、言うとるやろっ!」
「へいへい」
 ここで切ると、間髪入れずにリダイヤルされるのが目に見える。俺はため息混じりに彩に受話器を差し出した。
「彩、由宇からだけど」
「えっ?」
 律儀にコーヒーに手をつけずに待っていた彩が、急に呼ばれて顔を上げる。
「由宇さん?」
「ああ。辛味亭の猪名川由宇だよ」
「あ、はい、知ってます」
 彩は俺から受話器を受け取ると、話しかけた。
「はい、長谷部です。……あ、ご無沙汰しております。……いえ、そんな」
 ぽっと赤くなる。由宇の奴、何を言ったんだ?
「あ、はい。ええ、良くしていただいております。……そ、そんな。……」
 うぉ、今度は耳まで真っ赤になってるぞ。畜生、あいつぅ! 何を言ったんだ何をっ!
「……え、ええと、その、か、代わりますね!」
 そう言うと、彩は受話器を俺に押しつけると、そのまま手で顔を覆って俯いてしまった。
 俺は受話器に向かって怒鳴った。
「おいこらっ! 彩に何を言った!?」
「……」
 一拍置いて、怒鳴り返された。
「いきなり怒鳴るなアホっ! 耳がおかしゅうなるやんかっ! ……別に何も言っとらへんわ、あんたやあるまいし」
「俺が何を言ったってんだ、このっ……」
 さらに怒鳴り返そうとしたところで、服の裾がクイッと引っ張られた。そっちを見ると、彩がふるふると首を振っている。
 まぁ、ここは彩の顔に免じておくか。
「……ふぅ。まぁ、いい。で、用件は終わったのか?」
「そやな……。お、もうこないに長電話してしもたんか。そしたら、またな。原稿落さんよう気ぃつけや〜」
 プツッ
 畜生、由宇の奴、言いたいだけ言って切りやがって。……まぁ、あいつらしいな。
 俺は受話器を戻すと、苦笑した。それから、彩の様子をうかがう。
 まだちょっと顔が赤いけど、それでも俺の視線に気付いて、微笑み返してくれる。
 ほっ。別に気にはしてないようだ。
 よし。
「あのさ、明日……」
 言いかけて、ふと思い立ち、俺は電話のコードを抜いた。さらにドアを開けて、廊下の左右を見回す。人影無し。
 どうやら、これ以上は邪魔は入らないようだな。よし。
「あの……?」
 どうしました、と言いたげな彩に笑ってみせると、俺は訊ねた。
「あのさ、明日は暇?」
「明日ですか? ……はい。これが仕上がれば……、あとは……、予定ありませんから」
 彩はこくりと頷いた。
 よし。
「それじゃ、さ。どこかに一緒に出かけない?」
「一緒に、ですか? ……はい」
 彩は、嬉しそうに微笑んだ。
「行きます」
「オッケイ。さて、それじゃ彩の原稿もちゃちゃっと仕上げてもらわないとな。手伝おうか?」
 俺がそう言うと、彩はふるふると首を振った。
「いえ、そこまで……ご迷惑は、かけられませんから」
「よーし、それじゃ俺は明日のプランを練るから、彩は心おきなく原稿を仕上げてくれ」
「はいっ」
 大きく頷くと、彩はにこっと笑った。
「がんばります」

To be continued...

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あとがき
 というわけで、南(既に呼び捨て爆)クリアしたところでこみパSSです。
 練習代わりに1本書いてみました、ってところでしょうか。
 現在のところ、グッドエンドは千紗→彩→由宇→南ときました。ちなみにあとめめやろ数回に、詠美とアメリカへ2回ほど(苦笑)
 まあ、ぼちぼち参りましょうってところでしょうか。

 それにしても、どう見ても「Pia3」ですな(禁句笑)
 システムが悪いとか、シナリオが薄いとか、同人誌に興味がない人には地雷だとか、色々と言われますが、とりあえずはJRAのCMのキムタクのようににやっと笑って「こみパ、いいじゃない」と言っておきましょう(笑)

PS
 某ONE後継ソフト(笑)、なぜか今手元にあります。とりあえずプレイしてみました。結構思ったよりもいい感じなので……、これで悩みが増えてしまいました(苦笑)

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