・・・眠れない・・・

 

 こころの一部を何処かに置いて来たみたいで・・・

 

 ・・・落ち着かない・・・

 

 自分の居場所がここじゃないみたいで・・・

 

 寂しいよ・・・シンジ・・・

 


 JESU , The joy of man's desireing

 かいたひと:てらだたかしIL


  眠れない。

  さっきから視界に何度も入るベッドだけど、足がそこへ向かおうとしないの。

 

  不眠症なんて言葉じゃ足りない。

  だって・・・もう薬を使っても身体を休める事が出来ないのだから。

  窓の外に見える月が、そこに映る影のコントラストを浮かび上がらせている。

 

  午前三時。

  もう2時間も早く決意がついていたら、アタシはなんの躊躇いもなくシンジに電話してたと思う。

  今電話しても・・・きっと怒ったりしないでアタシの話を聴いてくれると思う。

  でも、それじゃ嫌なの。

  アタシの為に、そこまで無理させたくないんだもん。

 

  部屋の明かりがこんな時間になっても着いてるのなんて、近所ではここだけよね。

  最近では新聞配達の自転車の音を聞くのも習慣になってしまった。

  それで初めて、時間を知るの。

  時計は、部屋のものは全て外してしまったから。

  ・・・夜明けまであと何時間って、時計を見ながら待つほどの勇気はアタシにはないの。

 

  どうして・・・こんなにも胸が痛いの?

  どうして・・・こんなにも心が苦しいの?

  微笑みがこんなに辛いものだって・・・考えた事もなかったのに。

 

 

 

  ぷるるる ぷるるる ぷるるる ぷるるる

 

  へ?携帯?

  今頃・・・って、シンジ?

 

  

  「シンジ?」

  慌てて声をかけたアタシの耳に届いたのは、嘘ではなくてシンジの声。

  『アスカ?眠れないの?』

  「どうして・・・」

  アタシの声を遮る様にシンジの優しい声が被さってくる。

  『明かり、まだついてるでしょ?

  それにアスカの影だってさっきからベッドに向かおうとしてない。

  家、隣なんだよ?それくらい見えるんだからね』

  「でもシンジは・・・」

  どうしてこんな時間までおきてるの?

  その言葉をアタシは呑み込んだ。

 

  「シンジ・・・幸せって・・・どういうことかな・・・」

  アタシの主観では無限大に近いくらいの、でもきっと客観的にはほんの僅かな時間の後に、アタシはシンジにそんな事を尋ねていた。

  『幸せ?

  そうだね・・・当たり前の事を当たり前として受け入れられる日常がある事・・・かなぁ・・・

  難しいよね・・・』

  シンジの云う事はときどき凄く意味が深い。

  勉強ができるとか、そう云う問題じゃなくてきっと感性の問題。

  「アタシね、大人になったら・・・幸せになれるって・・・そう思ってたの。

  だから大人になろうって、ずっと頑張ってたの・・・」

  『うん・・・解るよ。

  アスカ・・・がんばってたもんね』

  もう記憶にないくらいの昔から一緒にいてくれるシンジのコトバ。

 

  アタシの知らない頃のアタシを知っているシンジ。

  シンジの知らない頃のシンジを知っているアタシ。

  それがアタシ達の関係。

 

  「でも・・・最近解らなくなっちゃった。

  アタシが追いかけて来たのは本当に幸せだったのかなって。

  幸せって、大人になる事じゃなくて実は子供のままでいる事なのかも知れないって。

  もう、アタシには絶対に手の届かないところに行っちゃったんじゃないかなって」

  ん・・・

  やだ・・・・・・どうして涙が・・・・・・

 

  『アスカ』

  シンジの優しい声が・・・

  『上着羽織ってさ、ちょっと外おいで。

  ちょこっと散歩、しよ?』

  ちょうどシンジに抱きしめられてる時みたいに・・・

  『ちょっとだけだから、さ』

  心に響いた。

 

  「うん・・・少し待ってて」

 

 

 

 

 

  さっき月を見てるときよりも大分角度が違って見える。

  余分な光が入らないで見える月は、いつも見る月と同じものとは思えないほど神秘的に煌めいていた。

 

  カーディガン1枚羽織ったアタシの手をとって、シンジは南に向かって歩き出した。

  さっきは電話回線越しだったシンジの声が、今は直接聴ける。

  それだけでも・・・アタシの心は違ったと思う。

 

  「アスカ・・・今、幸せ?」

  まっすぐ前を見たままで、シンジはアタシに問いかけた。

  「・・・解らない・・・」

  アタシの返事に少しだけ微笑むと、もう一度シンジは聞いた。

  「じゃぁ・・・不幸せ?」

  「それは・・・違うと思う」

  シンジは満足した様に頷いた。

  それから、アタシの方に向き直って歩みを止めた。

  「じゃぁさ、とりあえずアスカは今不幸せじゃないんだから、今の状態を幸せって決める」

  「決める・・・の?」

  「そう」

  シンジは当然の様に頷いた。

  「シンジが?」

  「そう」

  いつものシンジらしくない、しっかりした口調で繰り返した。

  「だからね、アスカ。

  今よりも幸せだなってアスカが思ったとき・・・その時はもちろん幸せなときだよ?」

  「・・・うん」

  アタシはとにかく頷いた。

  「今よりも・・・不幸せだなって思ったとき、そのときはホントに不幸せかも知れない」

  「うん・・・」

  アタシは少し悲しくなった。

  「でもね、それはホントは幸せなのかも知れないでしょう?」

  「え!?」

  「だって、結婚式の朝に卵焼き失敗しても、不幸だなァって落ち込むヒトはいないよね?」

  ちょこっとへんな例えかも知れないけど、アタシは頷いた。

 

  「だからね、アスカ。

  さっきも云ったけど、今のアスカは幸せなの。

  幸せって何?・・・今、アスカは何を考えてる?

  今のアスカには何がある?

  ・・・それが幸せってものだよ、きっとね」

 

  シンジの笑顔に、アタシは1も2もなく微笑んだ。

 

 

 

 

  そのまま、アタシ達は河原まで行く。

  ちっちゃい頃からシンジと遊んでた場所。

  コートを羽織ったシンジにアタシの腕を絡める様にして。

 

  流石にこの季節、カーディガン1枚じゃ寒かったみたい。

  アタシもコート着てくるべきだったなァって・・・思った頃に、急に暖かくなった。

  「シンジ?・・・アンタ何やってるのよ?」

  見ると、シンジがアタシの肩にコートをかけてくれていた。

  「女の子なんだから、身体は大切にしなくちゃダメだよ」

  そう云ってくれたシンジはかっこ良かったけど・・・このままじゃシンジが風邪ひいちゃう・・・

 

  アタシはもう1度シンジにコートを着せた。

  わけ解らない様な顔してるシンジに背を向けると、シンジのコートにもぐり込む。

  「シンジ、こうすれば二人ともあったかいわよ?」

  シンジは何も云わずに、ただアタシのお腹の前に手を廻して、ぎゅっと抱きしめてくれた。

 

 

 

  「シンジ・・・」

  「何、アスカ」

  「今アタシ、幸せだからね」

 

 

  おしまい


 あとがき?

 ども、初めまして?てらだです。

 結局短編が出来ましたねぇ・・・徹夜明けに朝日を見ながら(笑)

 短いし、展開も甘いし、テーマが不明だし・・・投稿しても良いのか少々不安(汗)

 きっと一緒のコートにくるまって、だっこされてるアスカが書きたかっただけです(爆)

 それでは、『とりあえず』連載も書く事をお約束して。

 てらだたかし