「あれ?ミサトさん?」
司令室を出てきたシンジが廊下にいるミサトを見つける。
「あら、シンちゃん。司令との話はもう終わったの?」
「ええ、大体のところは」
「それじゃ、ちょっち付き合ってもらえる。
リツコが話をしたいそうだから」
「かまいませんよ。でも、ショウは?」
「俺ならここにいるぞ」
「!!」
何の前触れもなく後ろから声をかけるショウに驚くシンジ。
「い、いつからいたの?」
「さっきから」
「ミサトさん?」
「なにいってんの?ずっとシンちゃんの後ろにいたじゃない」
「きずかなかった?」
まだ自分の左胸をおさえているシンジに声をかける。
「うん。全然きずかなかったよ」
「まあ、いいや。それより行きましょう。ミサトさん」
「あら、病院でも思ったけどいきなりファーストネームなのね♪」
多少からかいの感じを含めて聞くミサトだが・・・
「迷惑ですか?」
超自然に切り返すショウ。
「別にそんなことないわよ。私もショウ君って呼んでるしね」
ミサトは内心からかいがいの無い子だなと思っている。
「それじゃ行きましょう」
エヴァンゲリオン〜Return
to the past〜
第3話〜新たなる一歩を〜
「リツコ〜連れてきたわよ」
ノックもなしにいきなり部屋に入るミサト。
「あなたは、いつもいつもノックぐらいしなさいと何回言ったら・・・・・・」
リツコはこめかみをおさている。
「まあまあいいじゃない」
かんじんの本人は全然気にしていないようだ。
「それじゃ、シンジ君。ちょっと質問させてもらっていいかしら?」
ミサトに何を言っても無駄だということを悟ったリツコはシンジに向き直る。
「僕に答えられることは何も無いですよ」
リツコの要求をあっさりと却下するシンジ。
「・・・・・・それはどういうことかしら?」
シンジを見る視線がだんだんときついものとなる。
「いえ、今は何も言えないということです。後から父さんのほうから言われると思いますよ」
「・・・・・・そう。わかったわ。それじゃ自己紹介をしとくわね」
納得いかなかったが司令の方から何らかの指示が出ているのでは手が出せないと思いショウの方に向き直る。
「はじめまして、私はここの技術開発部長をやってる赤木リツコよ。リツコでいいわ、よろしくねショウ君」
「よろしくお願いします、リツコさん。フォースチルドレン碇ショウです。」
「「碇?」」
「はい」
碇という性に驚くミサトとリツコ。
「シンちゃんと同じ苗字なんだ」
「シンジとは兄弟だから」
「「はっ?」」
「だから俺とシンジは兄弟なんですよ」
「で、でもシンちゃんに兄弟なんか・・・・・」
「くわしい事は司令に聞いてください」
言葉が途切れる。
「ま、まあ、あとから司令に確認しておくわ」
かなり納得いかないリツコだが司令に聞けばわかるということでこの場はあきらめることにした。
「そ、それじゃ、住居のほうで話があるようだから行きましょう」
「それじゃリツコさん。失礼します」
「ええ」
ミサトとシンジが部屋を出るがショウは部屋を出ようとしないでいる。
「何か用があるのかしら?ショウ君?」
ショウは真剣な表情で
「リツコさん・・・・・・・好きな人はいますか?」
「は?」
いきなりのショウの質問に呆けた顔になるリツコ。
「いきなりの質問ね。どうしてわた「答えてもらえませんか?」
リツコの言葉をさえぎりさらに問うショウ。
その表情はとても儚くまじめな表情だった。
「・・・・・・そうね、よくわからないわ。好きなのかどうかすらね」
リツコは自分のことを思い浮かべて悲しげな表情になる。
「・・・・・・もし、もしリツコさんが心から好きな人ができたのなら・・・・そのときは僕に一番最初に教えてくれませんか?」
ショウはやさしげな笑みを浮かべてリツコを見つめている。
その笑顔に少しの時間見とれてしまったリツコは少し頬を染めている。
「そうね。考えておくわ。・・・でもなぜそんなことを聞きたがるのかしら?」
「あなたには、幸せになってもらいたいからです」
ショウはそのときにとても子供らしい笑顔で笑った。
「それじゃ、失礼します」
そういうとショウは一礼をして部屋を出て行こうとする。
「え?あ、気をつけてね」
ネルフ本部でなにを気をつけるかわからないが、自然にそんな言葉が出てしまった。
「あの子・・・・・何者かしら?」
先ほどの自分に対する笑顔が気になるリツコ。
なぜ自分に対してそのような笑顔を作るのか?
そんなことでショウという少年への好奇心が増大していくリツコ。
そんな時自分の机の電話が突然鳴り響く。
「はい、え?はい・・・・・わかりました」
「二人の住居は葛城一尉と同じコンフォート17になります」
「ほえ?」
黒服の意外な言葉に間抜けな声を出してしまうミサト。
「誰かの指示ですか?」
ショウが黒服にむかって問う。
「碇司令です」
「そうですか・・・・・僕は別のところのほうが」
「どうして?」
ショウの発言にミサトが食らいつく。
「いや、綾波が退院したらたぶんシンジと一緒に住むことになるでしょう?
二人のお邪魔をしてはいけないんでね」
「そんな、ショウ〜」
もじもじと下を向いているシンジ。
「おまえって誰もいないと大胆なのに、ほかの人がいると恥ずかしがるよな」
「よし、わかったわ!ショウ君は私のとこに来なさい。シンちゃんもレイが退院するまでは私のとこで暮すといいわ。ねっ、そうしなさい。」
ミサトが名案だといわんばかりに言う。
「だそうだけど・・・・シンジはどう?」
「僕はかまわないよ。」
「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらいます。ミサトさん」
「よーし決まった!今夜は歓迎会ね」
「じゃあそういうことなので」
ショウは黒服に向き直る。
「わかりました。司令にはそういうふうに伝えておきます」
「それじゃ、いきましょう!」
そういって歩き出すミサトについていくショウとシンジ。
本部からミサトにルノーで送ってもらっているショウとシンジ。
父親との和解もすみ、後は使徒を倒しゼーレの計画を阻止すればいいというのに二人の顔はさえなかった。
いや、むしろだんだん青くなってきている。
というのもミサトがむちゃくちゃなスピードで走っているからである。
第3使徒のときとは比べものにならないほどのスピードだった。
そのスピードのまま激しくスピンしながらコンビニに車を横付けする。
「・・・・・・ショウ・・・・・生きてる?・・・」
シンジは隣でダランとしているショウに呼びかけるが
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
返事は無い。ただの屍のようだ。
というのは冗談だが
「・・・・・・ああ・・・ばあちゃんが手招きしてる・・・・・・過去の思い出がよみがえってくる〜・・・・・」
走馬灯らしき物を見ているようだ。
「だらしないわねー、そんなことじゃ女の子にもてないわよ。せっかくもとはいいのにー」
言い返す気力もないショウ。
「ま、まあミサトさん。ショウは疲れてるようだし少し休ませてあげましょうよ」
「まっ、仕方ないか。それじゃシンちゃん行きましょう」
ダランとしているショウを車に残しシンジとミサトはコンビニへと入っていった。
「さあ、なんでも好きなの買っていいわよ!」
そう言いながらエビチュとつまみ、それとインスタント食品を大量に確保してゆく。
「・・・・・・インスタントばかりじゃ体に悪いですよ」
「あら、結構おいしいのよ。ほらほらシンちゃんも好きなの買っていいわよ」
ご機嫌なミサト。
「ミサトさん、僕が作りますよ。せっかくの歓迎会なんだからインスタントじゃ味気ないでしょ」
「えっ?シンちゃん料理作れるの?」
「はい」
そういうとシンジはインスタント食品を棚に戻し、材料を買い込む。
その際にごみ袋も忘れていない。
前回の経験から最初は部屋を掃除しなければならないということがわかっていたからである
大量のエビチュと食材を持って車に戻るとすでにショウは復活を遂げていた。
「あっ、ショウ大丈夫?」
「ああ、何とかね」
「やっと気がついたの?だらしないわねーあのくらいで」
原因を作った本人はあっけらかんとしている。
「あ、あの程度って・・・・・」
「まあ、いいわ。早く帰りましょう」
と、ミサトが運転席に乗り込もうとするが
「ミサトさん!!」
「な、なに?」
いきなり大声で叫んだショウにびっくりするミサト。
「俺に運転させて」
「はっ?」
ショウの口から出た言葉は唐突なものだった。
「運転ってショウ君、免許もってんの?」
「はい、アメリカでいろいろ取れましたから」
「そう?それじゃ、任せるわ」
「ありがとうございます!」
ショウはあの苦しみを味わなくていいと思うと心の中で号泣する。
「それじゃ、道はそのつど教えるわ」
そういうミサトの手にはすでにエビチュが握られていた。
「それじゃ、行きますよ」
「荷物はもう届いてると思うから」
そう言いミサトは部屋のドアをあける。
「実は私も先日この町に引っ越してきたばっかりでね。さっ、入って」
「「お邪魔します」」
玄関をくぐる二人。
「シンジ君、ショウ君。ここはあなた達の家なのよ」
シンジが何かを思い出したように
「た、ただいま」
「・・・・・・・ただいま」
「お帰りなさい」
にっこりと微笑むミサト。
(ただいまか・・・・・何ヶ月ぶりに言う言葉だろうな
このマンションに帰ってもいつのまにか何も言わなくなったよな
でも今度は・・・・・・・)
「まあ、ちょーち散らかってるけど。気にしないでね」
部屋の中はまさに都会のジャングルと化していた。
「こ、これが・・・・・ちょっち?」
持っていた食材などを床に落としてしまい呆然となるショウ。
「あ、ごめーん。食べ物冷蔵庫に入れといて」
「あ、はーい」
ミサトが着替えようと奥の部屋に行くときに携帯がなる
「あら?何かしら?はい、葛城ですが。・・・はい・・・えっ?・・・は、はい・・わかりました」
ミサトが携帯をきりシンジ達に向き直る。
「ごめーん、ネルフからお呼びがかかちゃってさ、すぐ戻ってくるから、それまで歓迎会はまってて」
「いいですよ、それまでに料理とかしておきますから」
「それじゃ、行ってくるわね」
そういうと部屋を飛び出していくミサト。
「・・・ショウ、まずかたずけない?」
いまだ呆然としているショウに遠慮がちに話し掛けるシンジ。
「・・・・そ・・そうだな・・・・片付けないとな・・・・」
ショックの大きいショウであったが何とか立ち直ったようだ。
2時間後・・・・・
掃除を終えた二人は居間でジュースを飲んでいる。
「や・・やっと終わった・・・・」
「結構時間かかったね」
「何なんだよこの部屋は?本当に人間が住んでた部屋か?」
「前もこんなものだったよ」
愚痴をこぼすショウに対し平然としているシンジ。
「でも、ショウって結構手際いいじゃないか。僕一人だったらこの倍はかかってたよ」
「ん?ああ、一人暮らしも長いしね。家事全般は得意だよ」
「ふーん、・・・・・・・ねえ、ショウの昔ってどんなのだったの?」
「・・・・・昔・・・・・ね・・・・」
深い意味はなく聞いたシンジだが、ショウは沈んだ表情になる。
「あ、言いたくなかったら別に・・・・その・・・・無理しなくても・・・」
「・・・・いつか話すときがくる・・・それまで待っててくれ」
「うん」
そんな会話の中ミサトが部屋に入ってきた。
「あ、お帰りなさいミサトさん」
ミサトは答えず俯いている。
「ミサトさん?」
シンジが顔を覗き込もうとする。
「ごめんなさい」
ミサトが二人に対していきなり謝罪の言葉を言う。
いきなりのことに戸惑う二人。
しばしの沈黙のあと
「・・・・なんでもないわよ!」
声を張り上げ沈んだ顔から一気に明るいいつものミサトの顔になる。
「いや、なんでもないって?」
「どうしたんですか?」
ショウとシンジはいきなりの変化についていけない。
「ほんとになんでもないのよ。さっ、歓迎会はじめましょう。
今日は気分がいいから私が作ちゃうわよん」
「え!!」
「へーほんとですか。たのしみだな」
「フフ、期待してて♪」
作る気満々のミサトに、作ってもらう気満々ショウ。
この二人の間に入ることはシンジにはできなかった。
「おまたせ〜♪」
ミサトが持ってきたのは鍋いっぱいに入っているいかにもおいしそうなカレーであった。
「へーおいしそうですね」
ショウは鍋の中を覗き込み素直な感想を言った。
一方シンジも内心ほっとしていた。
ミサトがまともな食事を作ったのはマナが家にきた時の一回のみ。
そのときに食べたカレーは決してまずいものではなく普通のカレーだった。
そのときのことを思い出したのかシンジは今回もまともなカレーだと思い込んでしまった。
・・・・まさに、思い込んでしまった・・・・・
「ささ、さめないうちに召し上がれ」
全員の目の前に置かれたカレー。
見るからにおいしそうだった。
・・・・見た目はすごく・・・・・
「「いっただきまーす」」
二人とも掃除で疲れていた。そして、今、目の前に置かれているのはおいしそうなカレー
食べ盛りの彼らががっついて食っても仕方のないことだった。
その日コンフォート17に救護班がやってきたという。
カレーを食べた二人は重度の食中毒と断定されシンジは1週間、ショウは3日の入院を必要とした。
とある病室・・・・
「シンジ君、大丈夫?」
レイがシンジの顔を覗き込む。
「う、うん。だいぶいいよ」
「よかった」
レイはシンジの胸元に頬をグリグリと押し付ける。
「レ、レイ!そんなことすると胸があたるって!」
「いや?」
目に涙を浮かべ上目遣いで見てくるレイ。
当然のことながらこれにシンジがさかられることはなく。
「いやじゃないよ!本当に」
「ありがと」
シンジはレイの抱き寄せる。
「僕はレイが好きだよ。本当に」
「うん。私も」
「レイ」
「シンジ君」
見詰め合う二人の距離はかなりの速さで縮まっていく。
「んん・・・・」
ちなみにレイとシンジは入院中である。
今は同じベットで寝ている。
某髭司令の手回しで同じ病室になったとかならないとか。
別の病室では・・・・
「けっ!二度とミサトさんの料理は食わないぞ」
ショウがすねていた。
いきなり病室のドアが開く。
「あんたか。見舞いにでも来てくれたの?」
ドアの前にはゲンドウが立っている。
「ぼーと立ってないで座ったらどうだ」
ゲンドウはベットの横のいすに腰掛ける。
「ミサトさん達に話したみたいだな」
「ああ」
「結構派手にやられたみたいだな」
「ああ」
見るとゲンドウの顔には大きいもみじ跡と青タンができていた。
「まあ、そのくらいでよかったんじゃないか」
「ああ」
さっきから同じことしか言わないゲンドウを見つめるショウ。
「なあ、なにかい「この前」
ショウの言葉を区切って言い出すゲンドウ。
「この前、おまえがシンジの記憶の一部を見せたとき・・・」
「見せたとき?」
「・・・・ほんのわずかだが、おまえの記憶も流れてきた」
「!!!」
ゲンドウの言葉に驚きを隠せないショウ。
長い沈黙のあとゲンドウが切り出す。
「おまえは「やめろ!!」
何か言おうとしたゲンドウの言葉を区切る。
「・・・やめてくれ・・・・・」
俯くショウ。
前髪で顔が隠れているため表情は見えない。
再び沈黙が訪れる。
「冬月副指令は知ってるのか?」
「・・・・いや、どうやら流れてきたのは私だけらしい」
「そうか、おまえとのつながりが思ったより強かったらしいな」
「どうするつもりだ?」
「戦うさ」
「いいのか?」
「・・・・それが望んだ道だから」
「・・・・すまなかった」
「謝んなくていいよ。俺が決めたんだから」
「そうか」
そういうとゲンドウは部屋を出て行こうと立ち上がる。
「このことは、誰にも・・・・」
ショウが出て行こうとしたゲンドウに声をかける。
「わかった」
ゲンドウは静かに部屋を後にした。
「・・・・・・つながりか・・・・・」
ショウは窓の外の景色に目を向けた。