サードインパクトは起きた・・・
気づいたときには僕は赤い海に浮かんでいた・・・
サードインパクトの中、カヲル君や綾波と会ったこともおぼろげながら覚えていた・・・
母さんに会ったことも・・・
そして、僕の周りで一体何が起こっていたのか・・・
僕は全てを知ったよ・・・
何を願うのか・・・そう聞いてきたね・・・
だから願うよ・・・綾波・・・
もし叶えてくれるなら・・・僕にはやってみたいことがあるんだ・・・
綾波は僕が望んだ世界だといったね?
あのどこまでが自分で、どこから他人なのかわからない曖昧な世界。
どこまでも自分で、どこにも自分がいなくなっている脆弱な世界。
そんな世界を・・・
でもそれは違う。
あの世界は、僕が理想としたかった世界じゃない・・・
ただ僕はそんな世界に逃げたかっただけなんだよ・・・
だから・・・違うと思ったんだ・・・
現実の世界に還ってきたとき、世界には僕とアスカしかいなかったよ・・・
そのアスカも・・・数時間後には死んでしまった・・・
そして嫌になったんだ・・・なにもかもが・・・
生きていること自体が・・・
全てが・・・
世界は僕に優しくない・・・
でも、僕には自分で命を絶つ勇気も・・・舌を噛み切る勇気もなかった・・・
だから、僕は目の前にあった赤い海に体を沈めたんだ・・・
どこまでも沈んで逝きたいと願い・・・
全てからの逃避を・・・
そうしたらまたここへ来た・・・
全てが一つになった世界・・・
脆弱な世界・・・
また君に、綾波に会うことになったんだよ・・・
綾波・・・僕は願うよ・・・かなえてくれる?
今まで・・・僕はがんばったよ・・・エヴァに乗って・・・
何もかもを失っても・・・
ね?がんばったでしょ?
十分苦しんだでしょ?
でも、結局はこうなった・・・
結局・・・僕が何をしようともこうなったんじゃないか・・・
じゃあ・・・僕は何もしなくてもよかったじゃないか・・・
ね?そうでしょ?
だから・・・
僕は願うよ・・・
僕を過去へ・・・
そして・・・
・・・
・・・
・・・
それが僕の願いだよ・・・綾波・・・
そう・・・叶えてくれるんだ・・・
ありがとう・・・綾波・・・
もう一度・・・今度は混沌へ・・・
presented by ラグシード
「ここは・・・」
気がついた時には僕は夏の日差しの中で立っていた。
目の前には公衆電話がある。
どうやら僕が初めて第3新東京市へとやってきた時のようだ。
「戻ってきたんだ・・・本当に・・・」
懐かしい・・・
何もかもがここから始まったように感じるよ・・・
ん?
「綾波?」
道路の真中に綾波が立ってこちらをじっと見ていた。
なぜ綾波がそこにいるのか・・・
そんなことはどうでもいい・・・
ただ一言、もう一度言いたいんだ。
「綾波・・・ありがとう・・・」
僕がその言葉を言った後、綾波は陽炎のように溶けるように消えていった。
本当にありがとう・・・
これで僕は・・・
キーン
耳鳴りがした瞬間、ビルとビルの間、僕の頭の上を巡航ミサイルが飛んでいく。
ミサイルの先には・・・
第三使徒・・・サキエル・・・
山陰から後退する国連の戦闘機と共に第三使徒が現れる。
「使徒・・・サキエルだね・・・まだだよ・・・もう少し待っててね・・・君の出番はもう少し後だよ・・・」
そう呟いた瞬間、使徒に潰された戦闘機がこちらに向かって落ちてくる。
キキキー!!
ドーン!!
戦闘機の爆発が間近で起こる一瞬前に、僕の前に車が急ブレーキを駆けながら現れた。
「シンジ君、乗って!!」
ミサトさんだ・・・
ふふふ・・・
ひさしぶりですね・・・
全てを知ってしまえば何のことはない・・・
貴女はただ奇麗事を言うだけのただの偽善者・・・
でも、貴女を恨んではいませんよ・・・
貴女が僕を家族と思おうとしてくれたことはうれしかったですから・・・
結果的には、貴女の想いは行動が伴わず、ただの偽善になってしまいましたが・・・
まあ、初めから貴女がパイロットである僕を家族と思おうとすること自体がおかしいんですがね・・・
「シンジ君!!早く!!」
「ええ、わかってますよ・・・」
そして、僕を乗せたルノーは急速に使徒から離れていく。
「いやぁ、遅くなってゴメンねぇ。私は葛城ミサト、ミサトでいいわ。よろしくね、シンジ君」
「いえ、かまいませんよ」
そう、かまわないですよ。
あそこで僕が死んだら、ただ貴方たちが実感している姿を僕が見れなくなるだけですから・・・
貴方たちの浅はかさを・・・
ミサトさんの車に乗ってからその後のことは、僕の知っているとおりに全ての物事が運んでいった。
N2地雷の爆風に飛ばされ、その後バッテリーを取ったことも・・・
ミサトさんがネルフ内で迷うことも・・・
初号機につくまでの全てのことが・・・
少しはっきりと覚えていなくて不安だったけど、自分の記憶にある同じ行動を取れば僅かの違いは出てもほとんど同じ様に事は進んでいった。
楽しいね〜
そして・・・
初号機の下へとやってきた。
さあ、ここからだ・・・
カッ!!
初号機の置かれているゲージの照明がつく。
これら全てが僕を初号機に乗せるための演出なんだから・・・
からくりを知っていると、爆笑物だね・・・
「顔?巨大ロボット・・・」
とりあえず台本どうりに言っておこうかな・・・
「人の造りだした究極の汎用人型決戦兵器。人造人間エヴァンゲリオン。その初号機。建造は極秘裏に行われた。我々人類の最後の切り札」
全てのことが仕組まれていることだと知っていれば、これほど白々しいこともないね
とりあえず、流れのままに、だね
「これも父の仕事ですか・・・」
「そうだ。ひさしぶりだな、シンジ」
初号機の上に父さんがいたけど、これからそのいかつい顔に驚愕だけを張り付けることになるんだから・・・
そんな威圧感も、もう必要なくなるかもね・・・
「ふっ、出撃」
そして、父さんのこのセリフでこの茶番の山場。
脚本・・・碇ゲンドウ
演出・・・ネルフスタッフ
キャスト・・・碇シンジ、綾波レイ、碇ゲンドウ、葛木ミサト、赤木リツコ ちょい役で副指令
こんなところかな。
もっとも台本を知らずに演じているキャストも何人かいるけどね
さて、茶番の続きだ。
「出撃!? 零号機は凍結中でしょ? ……まさか、初号機を使うつもりなの?」
ミサトさん・・・そんな偽善振りを発揮しなくても・・・
どうせ誰かが、しょうがない、という免罪符を出せば態度をころっと変えてしまうんですから・・・
我慢しなきゃ笑い出しそうだよ。
「他に方法は無いわ」
役者だね〜リツコさん
「だってレイはまだ動かせないでしょ? パイロットがいないわ」
「さっき届いたわ」
「……マジなの?」
「碇シンジ君。あなたが乗るのよ」
そう言ってリツコさんは僕に視線を向けてきた。
「待って。レイでさえEVAとシンクロするのに7ヶ月も掛かったんでしょ?
今来たばかりのこの子にはとてもムリよ!」
「座っていればいいわ。それ以上は望みません」
「しかしっ!」
「今は使徒撃退が最優先事項です。その為には誰であれ、EVAと僅かでもシンクロ可能と思われる人間を乗せるしか方法はないわ。解っているはずよ。葛城一尉」
「……そうね」
ミサトさん・・・免罪符を手に入れたからといってそんな急に手のひらを返さないでよ。
結局リツコさんの言葉に納得してしまうなら、最初から何も言わなければいいのに。
こうなることは初めから予想がついていたんでしょうに・・・
さて、次は僕のセリフだ。
「父さん、この為に僕を呼んだの? これに乗せて“使徒”って奴と戦わせる為に?」
名演技だよ、役者だね〜僕は。
「そうだ」
平然と言ってのける父さんに、僕には溜息を吐くしかできないよ。
ただし、内心では爆笑寸前だけどね。
ふふふっ・・・
ここらで台本から外れようか。
どうゆう反応をしてくれるだろうか?
事前に入念に僕の人物像など、何から何まで調べ上げているだろうに、そのデータとは全く違う反応を僕が見せれば・・・
楽しいね〜
「本気・・・いや、正気なの父さん? 何の訓練もしていない僕を、見たこともないこれに乗せる?そして、いきなり実践で戦えと?悪いけど医者に診てもらう事を勧めるよ」
ん〜、僕ってこんなに毒舌を吐けたんだね。
ミサトさんもリツコさんも顔をしかめちゃってるよ。
「大体なんで僕なのさ?こういうのがあるんなら、そのためのパイロットがいるはずだろ?普通は訓練された軍人さんとかがしない?」
毒舌、絶好調。
ケイジに沈黙が広がる。
誰もが僕たちに注目している。
「他の人間には無理だからだ」
会話になっていそうでなってないよ、父さん。
「どういう事さ? 事情を説明してくれる?」
とりあえず至極真っ当なことを言ってみる。
「そんな時間は無い」
これだ。
もう限界。
「ぷくくっ…ははっ・・・あははは〜〜〜、ひ〜苦しい〜、もうこれ以上笑わせないで。ぷくくっ・・・あはははーーー」
今まで折角がまんして、笑わなかったのに・・・
そんな時間は無い、だって。
笑わしてくれるよ。
ミサトさんもリツコさんも、それに父さんまで呆然としてるよ。
そりゃそうか。
今までシリアスに会話が進んでいて、いきなり爆笑し始めたら誰だって呆然としちゃうか・・・
「シ、シンジ君?」
ひ〜、楽しいね〜
ミサトさん、そんな引かないでよ。
笑わせているのは貴方たちなんですから・・・
「いいよ。乗ってあげるよ。どうなってもいいっていうならね。でも、乗り方さえ知らないよ?」
まだ綾波が出てきてないけど、これ以上茶番に付き合わされるのはごめんだよ。
「・・・かまわん。座っているだけでいい…それ以上は望まん」
本当に・・・前はよくこんなことで乗ろうと思ったものだ・・・
まあ、座っているだけでいいという言質も取ったことだし・・・
「わかったよ。乗ってあげるよ・・・」
さあ、始まりの刻だ。
エントリープラグ内にLCLが満ちてくる。
本当はリリスの体液、もしくは生き血だったんだね〜
まあ、今更どうも思わないけどね。
全てが今更・・・
さて・・・シンクロスタートだ・・・
発令所に様々な報告が飛び交う中・・・
「リツコ・・・本当にいけるの?」
マヤの後ろ、リツコの隣りでエントリープラグ内のシンジの映像から視線を外し、不安そうにリツコに聞くミサト。
「さあ・・・ダメならレイを乗せるしかないわね」
「さあって、あんたね〜」
リツコの無責任ともいえる言葉に、ミサトは少し呆れてしまう。
「しょうがないわよ・・・」
「・・・そうね」
リツコの言いたいことを理解したのかミサトはそれ以上何も言わなかった。
「A10神経接続異常なし。初期コンタクト、全て異常なし」
「双方向回線開きます」
「シンクロ率、起動指数突破。エヴァ初号機起動します。シンクロ率尚も上昇・・・」
マヤの興奮気味の報告が発令所に響く。
「シンクロ率42.1%。ハーモニクス誤差、3パーセント以内」
「いけるわ」
マヤの報告を聞いて、リツコは思わず呟く。
そのリツコの言葉を聞いて、ミサトはすぐさま発令所の上部にいるゲンドウに許可を求める。
「碇指令、構いませんね?」
「使徒を倒さぬ限り我々に未来はない、やりたまえ」
そして、初号機は使徒の目の前に打ち出される。
すでに日が沈んだ第3新東京市のど真ん中の射出口が開き、エヴァが出てくる。
使徒の目の前だ…
僕の乗る初号機とサキエルが少し距離を置いて対峙している。
「いい?シンジ君、EVAは思考を読みとって動くわ、まず歩くこと考えて!!!」
エントリープラグ内にミサトの声が響く。
しかし、初号機は動かない。
いや、動かさないよ。
それに、使徒の真ん前に出す意味さえ僕にはわからないよ・・・
「どうしたの…歩いて!!!」
「リツコ!!!…使徒がもう直ぐそこに迫ってる!!!」
「シンジくん!!!」
ふふふっ♪
そろそろ…かな?
「ねぇ…リツコさんこれ動かないよ?頭の中でいくらこれが動くイメージをしても、ぴくりともしないよ。欠陥品じゃない♪」
自分の体を動かすようなイメージではないから、動くわけ無いんだけどね。
「なっ、真面目にやりなさい!!!あそびじゃないのよ!!!」
僕の言葉にミサトさんが叫ぶ。
でもね、わかってるんですよ。これは遊びじゃないんですよ…こっちも命が掛かってるんでね?
使徒は目前、こちらからの動きがないのでまだ敵対者とは認識されてないのかな?
いや、こちらには気づいてるみたいだね。
そりゃそうか。
今まで自分が目指していた気配と、それによく似たリリスのコピーたる初号機の気配がいきなり目の前
に現れればね。
でも、こちらから何もしなければ向こうから何かしてくる気配もない。
こんなまがい物の気配よりも、やっぱり地下にいるリリス本体の気配を取るか。
「真面目ですよ?僕は何も嘘を付いてません。」
「なっ!!」
「シンジ君、自分の体を動かすようにイメージしてみて・・・」
さすがリツコさん。
ぎゃーぎゃー騒ぐだけのミサトさんと違って冷静ですね〜
とりあえず腕を動かしてみる。
「おっ、腕が動きましたよ」
まあ、当然だけどね
「次は歩くことを考えてちょうだい」
「嫌です」
「「なっ!!」」
リツコさんの言葉に僕はきっぱりと拒絶の言葉を伝える。
第一、使徒を倒すつもりなんて毛頭ないし・・・
「なっ…馬鹿言ってないで、使徒は待っちゃくれないのよ!!!」
「だから?」
「だからって、あんたね!!そこは戦場なのっ!!!戦わないなら消えなさい!!!そこにいるなら戦うべきよ!!!戦いなさい!!!あなただけの問題じゃないのよ!!!」
「座ってるだけでいい…そう言ったのはそちらだ」
僕はそちらの要求を呑んだだけ。
口約束であっても契約は成立する。
「シンジ・・・何を考えている?」
父さんが発令所で初めて口を開く。
僕の様子がおかしいことにやっと気づき始めたみたいだね。
「さてね」
でも、教えてあげないよ。
どうせすぐにわかることなんだから・・・
そして今までこちらを伺っていた使徒が、ジオフロントに下りようと光線を地面に向けて発射する。
「おや?使徒はこっちにはこないみたいですね?」
来たなら来たで考えてたんだけどね・・・
「シンジ君、戦いなさい!!」
ミサトさんの声ってこんなに耳障りだったかな?
「何故です?僕は元々戦う気なんてありませんでしたよ?ただ座っていればいればいいと言われて、それ以外には期待してないんでしょ?」
「シンジ君!!」
「シンジ・・・戦え・・・」
ミサトさんの叫びの後から父さんの声が聞こえる。
でもそれを無視する。
「僕が何を考えているのか・・・教えてあげるよ」
会話をしている間も使徒は下に向けて光線を断続的に発射している。
使徒がジオフロントに達するまで、まだ少し時間がかかりそうだね。
だからその間に、皆にきっかけを、真実という絶望を与えておかないとね・・・
「西暦2000年・・・南極でサードインパクトが起こる。隕石の落下によるものと情報操作されたが、事実は違う。南極で発見された第一使徒アダム。その調査、実験中に起こったものだった。葛木調査隊率いる葛木教授の下、アダムにコンタクトとろうとし、その接触実験中にアダムが覚醒。しかし覚醒しきる前に、アダムを幼態にまで還元しようとした。その過程で起こった現象が・・・セカンドインパクト」
発令所の誰もが言葉を失っている。
たしかに発令所の者達はセカンドインパクトの真実をある程度知っている。
が、それを知るはずのないシンジの口から出たことにより、しかも自分たちよりも下手をすると正確な真実を知っていることより、発令所のメンバーは驚きを隠せない。
「シンジ、どこでそれを知った?」
父さんが聞いてくるが、それに一瞥をしただけで続きを話す。
「しかし、接触実験が失敗に終わることを、セカンドインパクトが起こることを死海文書と呼ばれる物によって知っていた人たちがいた。ゼーレと呼ばれる人たちが・・・。その証拠に、その一員だったそこの碇ゲンドウは、インパクトの起こるちょうど前日に日本に帰国している、それまで行った実験の資料の全てを持ち帰って」
発令所のメンバーは呆然としている。
碇ゲンドウの知られざる秘密ってとこだね。
ふふふっ、皆呆然としているね〜
でも・・・まだまだだよ
「しかし、インパクトがただ単なる事故だったかというとそうでもない。アダムはS2機関を持っていた。スーパーソレノイド理論を提唱した葛城教授にとって、その理論を実証しているアダムはとても魅力的なものだった。ゼーレの言うがままに研究、実験を行った。葛城教授は好奇心、探究心という欲を出し、インパクトの引き金を自ら引いたんだ」
発令所は沈黙の中に驚きが満ちていた。
僕の言うことを信じれば、ミサトの父親がセカンドインパクトを起こしたということなのだから。
そして、僕は全てを知ったときミサトさんにぜひ言いたかった言葉を言う。
「ミサトさん。セカンドインパクトを起こした葛城教授の娘である貴方が、何故そこにいるんですか?」
「えっ?」
自分の知らなかった事実、それも自分の父がインパクトを起こしたという事実を聞き、呆然としていたミサトは、突然話を振られて驚いた。
そこへシンジが追い討ちをかけるように言う。
「葛城教授がセカンドインパクトを最小限に食い止めようとしたのは事実。しかし、インパクトの引き金を引いたのが葛城教授であることも事実。それは葛城教授が死んだのは言わば自業自得ということを示している。しかし、何故貴方が、インパクトにより苦しみ苦しんでいる世界中の人々に恨まれなければいけないような人間が、その場所に立っているんですか?あなたは父を殺した使徒への復讐の為にそこへ立っている。しかし貴方が父の敵として使徒を憎むのは筋違いではないですか?貴方の父が死んだのはただの自業自得ですよ。もう一度聞きます。何故そこにいるんですか?ミサトさん」
「・・・」
ミサトにはすでにシンジの言葉を疑うことはできなかった。
過去、何度か自分の父のことを調べてみたが、いつもすぐに情報を辿れなくなり、それほど多くの情報を手に入れることができなかった。
しかし、シンジの言葉は自分の持っている数少ない情報にぴったりと符合する。
シンジの言葉がミサトの心を貫く。
「ミサトさんが使徒に復讐心を持つのは筋違いですよ。もしミサトさんがそれでも復讐したいのであれば、使徒ではなくゼーレでしょう。ゼーレが葛城教授に実験させていたのだから。もしくは・・・ミサトさんの後ろにいる碇ゲンドウか・・・」
そう言い終わった瞬間、第三使徒サキエルは特殊装甲板を破り終わり、ジオフロントへと降下を始めた。
「それにネルフは使徒を倒す機関じゃありませんよ。ネルフの上位組織に位置する人類補完委員会は、ゼーレなんですから。ゼーレはサードインパクトを望んでいるんですよ。使徒を全て倒した後、永遠の命を手に入れるために、使徒のコピーであるエヴァを使い、自らの都合のいいサードインパクトを起こそうとしているんですよ」
誰もがシンジに聞き返そうとするが、それを遮りシンジは続ける。
「それに・・・ネルフの地下にあるのはアダムじゃありませんよ。あるのは・・・第二使徒リリスです」
「「「えっ?」」」
今まで地下にアダムがいると聞いていた発令所のメンバーが驚きの声を上げる。
「たとえ使徒がリリスと接触してもなにも起きませんよ。使徒はリリスをアダムと誤認しているにすぎませんから・・・それでは、がんばってくださいね。僕が何を考えているのか。それは・・・こういうことです」
「シンクロ率上昇していきます。そ、それとエントリープラグ内の映像途切れました。音声のみが入ります。せ、先輩!!シンクロ率上昇止まりません!!140%・・・180%・・・200%超えました!!」
「なんですって!!」
「240・・・290・・・360・・・」
「たかだか僕一人いなくなって滅ぶような世界なら、滅んでしまえばいい・・・」
シンクロ率が急激に上がっていく中、シンジの声が発令所に響き渡る。
そして・・・
ピー
甲高い機械音が響き渡る。
「・・・400%」
「なんてこと・・・」
マヤの報告にリツコが絶望の声を上げた。
「い、碇・・・私にはシンジ君が意図的に過剰シンクロを行ったように見えたが・・・それに、何故シンジ君があのような真実を知っていたのだ・・・」
発令所の上部で冬月がゲンドウに聞く。
「・・・」
沈黙・・・
「お前のシナリオにはなかった出来事だったな・・・どうする気だ?これから・・・」
「・・・」
そしてまた沈黙・・・
全てのシナリオが破綻したことを、何も言わないゲンドウは物語っていた。
それを見た冬月は・・・
「・・・総員退避の勧告を出してくれ・・・」
そう発令所のメンバーに力なく命令を出した。
そして、総員退避が行われ、誰もいなくなったネルフ本部を潰し、サキエルはターミナルドグマへと侵入。
サキエルはリリスと接触するが、何も起こることはなかった。
そして、ジオフロントの地下の存在がアダムではないとわかったサキエルだが、遠くドイツに存在し、また幼態であり、しかも魂をタブリスへとサルベージされてしまったアダムの気配をサキエルは感知することはできなかった。
そして、サキエルは今まで目指していた存在であるリリスよりも弱弱しい気配だが、リリスに近しい気配を持つリリスより生まれしリリン、つまり人類へと目指し始める。
郡体であるリリン一人一人を・・・
そしてそれから世界は、サードインパクトという現象にではなく、人類自身に向けて進行する使徒そのものが人類に対して脅威となり、国連軍がN2兵器を使い倒そうとするが、一度N2地雷を受けて学習した使徒に対して全く効果が認められなかった。
しかし、それからドイツの弐号機がサキエルを倒し、その二週間後にシャムシェルを倒し、人類が持ちこたえる気配を見せるも、その弐号機も第五使徒ラミエルの加粒子砲の前に一瞬にして敗れる。
ゼーレも未だに独自にエヴァの建造をしておらず、影響力だけの存在であったために何もできなかった。
そして、人類にはなす術がなくなった・・・
しかし、人類が完全に滅びることはないだろう・・・
だが、これからいつまでも終わりのない使徒の恐怖が全人類を平等に襲う・・・
人類はなすすべもなく・・・使徒は人を目指しつづける・・・
世界は混沌の中へと沈んでいった・・・
<後書き&戯言>
ども、ラグシードです。
いきなりですが今回の作品は血迷ってます。
ついでに空回ってます。
本来ハッピーエンド主義ですが・・・なんなんでしょうね?これは・・・(自分で書いたんですが・・・)
シリーズ物の方が煮詰まっていて、実験的&気分転換にこんなものを作ってみました。
もう一つの方は、内容的にはプロットも一応できていて、どんどん書いていけるような状態なんですが・・・文章的な面、つまりテクニック面で煮詰まっています。
ここのHP管理者である舞さんに相談した結果、五話ほどまでプロットのような形ではできていたんですが、私の作品にはどうも情景描写が足りないらしく、またのっぺりとした単調な感じだということでもう一度書き直し&再考している最中です。
その書き直している過程で、自分のスタイルというものを見つけたかったんですが・・・迷子になっています(汗)。
無理に書こうとすれば、自分で違和感を感じてしまう作品になってしまいますし・・・
自分に文才の無いのがはっきりと実感できた瞬間でした・・・
というわけで、何も考えずに適当に書いてみればどうなるか?そして1人称では?という訳で、これができました。
どうだったでしょうか?(一応プロットとは言えないものの原形みたいなのはちゃんと作ったんですが・・・)
要は、シンジ一人いなくなって滅びるような世界ならいっそのこと滅んでしまえばいい、という感じですかね、この作品の根底は。
いろいろと問題点を指摘できる箇所があるとは思いますが、できれば気にしないでください。実験作ですから。
いちおう短編の形としてまとまったので投稿したんですが・・・
これからシリーズ物の続きに取り掛かります。
一応ある程度吹っ切れましたので・・・
02/05/25
presented by ラグシード