安らぎの場所へ 〜I wanna return to the Eden〜




<プロローグ>


世界が闇に包まれてから、数時間が経過していた。

少年の傍に横たわる赤いプラグスーツの少女は、数時間も前にただの物体と化していた。

眼前に広がるLCLの海に、生気の無い瞳を向けている。

しかし、浜辺で膝を抱えるようにうずくまる碇シンジには、寄せて返す波の動きも認識できていない。


生きる意欲……


もし精神にも死という概念があるなら、今のシンジは死に直面している状態だろう。

少女は死んだ。

そして少年は独りとなった……

少年は、ひとり自分の内側に入り込んでしまっていた。

レイとカヲルとの邂逅、そしてあの赤い海の中で一時的に溶け合うことにより、シンジは様々なことを吸収し、そして人類補完計画を中心とする、自分の周りで起こったこと、皆が何を望んでいたのかをほぼ完全に理解するに至っていた。

そして・・・・・・自分が今どのような存在になっているのかも理解した。

今の自分にどんなことができるのかも・・・







少女が死んでから、シンジは赤い世界を歩き回った。

誰も居ないとわかっていても・・・

歩き回っている途中で、ふと割れた鏡を見つけた。

シンジは自分の姿が、銀髪で紅い目をしていることを初めて見た。

ATフィールド・・・心の壁も・・・展開することができた・・・








歩き回って・・・5時間経っても、目に付くのは瓦礫の山ばかり・・・

結局シンジは、引き寄せられるように赤い少女だった物の横たわる場所へと戻ってきていた・・・

赤い少女だった物の傍らで膝を抱え、焦点の合ってない目を眼前の赤い海へと向けている・・・


まるで彫像のように動かない・・・

そのまま何も変らず、2日分の時間が流れた・・・


紅い海からは誰も戻ってこない・・・

それはすなわち、この現実よりも赤い海の中で溶け合い、補完されていることを人類全体が望んでいるということを指し示している。

すべての人々は、眼の前の赤い海に融けて混じりあっている。

彼らは、人間としての外壁を取り払い、心と心で混じりあっていた。



シンジは思う・・・




   僕はあの誰も傷つけることがなく、誰にも傷つけられることの補完の世界を否定して戻ってきた。

   母さんは全ての生命には復元しようとする力があると・・・そう言っていた。

   でも・・・

   今ならわかる。

   人は戻ってはこない・・・

   紅茶にミルクを注いだのと同じだ・・・

   一度溶け合うと元に戻ることは不可能・・・

   たとえ復元しようとする力があっても・・・人がもう一度人として形をもつことはないだろう・・・

   溶け合うことにより、人が人であるためのアイデンティティーが無くなってしまうのだから・・・

   僕が戻ってこれたのは、アイデンティティーが消失する前に、もう一度自分の形を望んだから・・・だからもう一度人の形を持てた・・・

   でも、目の前の海に溶けている人々には、すでにアイデンティティーは消滅しているだろう・・・

   今一度、自らの形を望むこと自体が不可能なのだから・・・


だが、色々なことを知った今、確実な、そして厳然たる事実を一つ理解していた。


心から渇望していたものである・・・・・・


逃げ場、安らげる場所も、この世界にはもうどこにもないということに。

それはすなわち・・・・・


シンジにとって、たった独りになってしまったこととは、また違った・・・


もう一つの絶望・・・・・・








それからまた少し時間が経ち・・・・・・

今まで焦点の合っていない目で海を眺めていたシンジの目に光が戻った。

「そうだ・・・逃げる場所が無ければ・・・逃げる場所が在る所へ行けば良い・・・・・・」

この絶望することしかできない世界から逃げる。

「今の僕にはそれが可能な力がある・・・」

そうシンジが呟くと・・・・・・シンジの傍に黒い穴が現れ、消えていった。


赤い世界に残るのは・・・・・・


赤い少女だった物のみ・・・・・・













<後書き&戯言>

はじめまして、ラグシードどいいます。

エヴァの多くのSSに触発されて、何をトチ狂ったのか自分でもSSを書いてしまいました。

人に見せられるほどの物を書けているとは思えませんが、せっかく書いたので投稿してみようかと思いました。

ちなみに私は主人公最強主義でLRS好きです(この話では、これから少し反れます)

内容に触れるようなことは次回の後書き&戯言で書こうと思います。(次の話はすぐに出るので・・・)

まあ、つっこみどころ満載だろうとは思いますが、あえて気にしないでください(;^_^A


この作品を読む上での注意を一つ。

私はさまざまなエヴァのSSを読み、その影響でSSを書こうと思いました。

そうなると、自然とどなたかの作品の一場面に似てくる場所が出てくるかもしれません(ただでさえエヴァのSSは多く、さまざまな作品がありますし。さらに私に影響を与えた作品なんかも数多くありますから)。

そう思った人は・・・自分の内にそっと秘めておいてください(笑)

できるだけそういう風なのは無くしたいですがね・・・


最後に、このHPの管理人である舞さんに、この作品の相談に乗って頂きました。(なにせ初めてなもので・・・)

舞さん、ありがとうございますm(__)m


では、第一話 〜選択〜 で再開しましょう。

02/03/14

presented by ラグシード