そんな想いが沸いてくる。
あの不思議な始まりから2週間。
俺は今も夏樹ちゃんと電話を続けている。
ストレンジな日々。非現実的な現実。
俺はその現実に満足し、酔いしれ、心の底から幸せだと感じていた。
今日もノイズが鳴る。
彼女と会う。
幸せだ。もの凄く。
サマー・デイズ
〜非現実の終わり 現実の幸せ〜
「今度ね、転校するの♪どんな町か今から楽しみなんだぁ♪」
夏樹ちゃんの一言。
俺は電撃のようにビビッと来た。
47都道府県の一都市(しかも地味)に住んでいる俺。
もしかしたらここに来るかも、と。
「なぁ、夏樹ちゃん?その引越し先って何処だい?」
「まだ分からないの・・・・・・・・。私も早く知りたいんだけどなぁ・・・・・・・・」
クッ、まだ分からないのか・・・・・・・。
残念。ここに来て欲しいんだけど。
「今から一ヵ月後らしいの。直久君のいるところに行きたいなぁ」
・・・・・・・嬉しいこと言ってくれるじゃんか、夏樹ちゃん。俺は惚れ直したぜ!
「え・・・・・・・・・?惚れ直したって・・・・・・?」
・・・・・・・やヴぁい。そのまま口に出してたみたいだ・・・・・・・・。
こうなるともう止まらない。今まで溜まった激情を吐き出し、想いを吐露していく。
もうヤケだ、開き直れ俺。
「初めて話した時から惚れてたよ?一目惚れってやつさ」
「えっ??」
「可愛いな、って思った。話したら気も合うし、優しいし、凄く可憐で・・・・・・・」
うわ、我ながらクサいセリフ・・・・・・・・。夏樹ちゃんは耳まで真っ赤だ。
これは脈あり!?
「マジで大好きだよ。彼女になってほしい。今は会えなくても、金貯めて会いに行くよ」
「えっ?あの・・・・・えっと・・・・・・///」
か、可愛い!!!真っ赤になった顔も!!
「わ、私は・・・・・・・」
「私は、あなたのこと・・・・・・・・」
プツッ・・・・・・・。
「・・・・・・!!!」
なんてタイミングの悪い携帯なんだ!!
夏樹ちゃんが、言ってくれそうだったのに・・・・・・・。
例え駄目でも友達の関係は崩れない確信がある。
だからこその告白だった。半分自棄だったが。
「はぁ〜。お預け、かぁ・・・・・・・・・・・」
お預けをくらった犬の気分が理解できた気がする・・・・・・・。
「わん」
とかね・・・・・・・・。(阿呆か俺は・・・・・・)
電話が、来なくなった。あの日から、プッツリと。
あの電話は俺の唯一とも言える楽しみだった。
いつの間にか、夏樹ちゃんが心の隙間を埋めていたのだ。
現実のなかの非現実を拠り所にする。
これは、とても不安定なことだったんだろう。
でも、俺は夏樹ちゃんが好きだから。
忘れられないから。無理だった。
立ち直れない。そう思っていた。
どのくらいあのときから時間が経っただろう?
もう秋だ・・・・・・・・・・。
1ヶ月くらいだろうか?
「はぁ・・・・・・・・・。ユウウツだ・・・・・・・・」
あの不思議で俺には不可欠になっていた非現実。
あの日々が去って一ヶ月。抜け殻のようだった。
今日は、転校生が来るそうだ・・・・・・・。
・・・・・・・・どうでもいいけど。
HRが始まった。先生が転校生を教室へと招く。
口が臭い、目がしょぼい、眼鏡のセンスが悪いと評判の、ただのハゲ。
それ(担任教師)は、転校生の名前を呼んだ。
「夏樹さん、どうぞ」
へ・・・・・・・・?今なんつったオイ?
転校生の女の子・・・・・・・。
忘れもしない。髪は少し伸びたけど。
ガタッ、と音を立てて立ち上がってしまう俺。
「夏樹ちゃん・・・・・・・?」
ハッとした顔の夏樹ちゃん・・・・・。
本物だ。会いたかった・・・・・・・・。
「直久君・・・・・・?」
「そう、俺だよ。夏樹ちゃん。会いたかった・・・・・・・・」
涙で視界が滲む。やっと、会えた・・・・・・・。
「直久君、聞いてください。この前の返事です・・・・・・・・」
真っ赤になって言葉を紡ぐ夏樹ちゃん。
言い終わった頃俺も真っ赤になり、教室は口笛や祝福が飛び交っていた。
二人で恥ずかしげに微笑みあう。
「「大好き(だよ)」」
同時に呟き、更に紅くなってしまう。
不思議な夏が終わった瞬間。
俺のストレンジな夏はこの時、終わりを告げた。
この幸せな気持ち。
俺の幸福は、
ここにある・・・・・・・・・・・。
後編 END