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Sentimental Graffiti Short Story #7
みゆきちむにー
いささか唐突だが、高校を卒業した僕は美由紀と付き合うことになった。というわけで、僕と美由紀はらぶらぶである。
らぶらぶなのはいいけれど、僕は東京美由紀は金沢。というわけで、僕は金沢に出かけた。大神ぃ、海はいいなぁ〜。
「大神ってだれのことよ?」
この、僕の隣で腰に手を当ててる眼鏡っ娘が僕のラブリーな美由紀だ。おでこが広いのがチャームポイント。
「ちょ、ちょっと止めてよ、もう。髪を上げてないと、目に入ってうっとおしいだけなの! 別におでこが広いわけじゃないんだから」
さて、それでは僕と美由紀のらぶらぶな生活を……。
「止めなさいって、言ってるでしょ!」
おっと、マイスイートの美由紀ちゃんが怒ってるんだな。
「……ったく。いつからこうなっちゃったの?」
ため息を付く美由紀。うーん、憂いを含んだおでこもとってもプリティ。
「だから、おでこから離れなさい」
は〜い。
というわけで、僕と美由紀は、一緒に道を歩いている。
おお、まわりの道行く人たちが、みんな振り返って僕達を祝福しているじゃないか。
「違っがぁ〜〜う! 断じて違いますっ!」
美由紀ちゃんは怒鳴った。怖いんだな。でもマイラブリーだから怖くはないんだな。
「どうしたの?」
「あのね……。この手をまずは、どけなさいよっ」
「きゃぁ、美由紀ちゃんのエッチぃ」
わ、美由紀ちゃんが目を細くしている。これは本気で怒ったんだな。その怒りは天を突き山を割き、東尋坊は荒れて羽咋にUFOが漂着するんだな。
「馬鹿なこと言ってるんじゃないわよ!」
「美由紀ちゃん」
「何よ」
「怒ると血圧が上がるよ」
「誰のせいで上がってるのよっ!」
「血圧が上がると早死にしてしまうよ。美由紀ちゃんには128歳まで生きてもらわなくちゃいけないんだから」
「なによ、その妙に半端な数字は?」
「そしてギネスブックの長寿部門に……」
ぺしぺしぺしぺし
「痛い痛いって」
「んもう。ほら、さっさと行きましょう」
さっさと歩いてく美由紀ちゃん。お尻が大きいのは安産型なんだ……。おお、振り返ってこっちを睨んでる。
僕と美由紀ちゃんは、美術館にやって来た。
「これが、ミケランジェロのダビンチだね。うーん、すばらしい」
「何を訳の分かんない事言ってるのよ。それは加賀友禅じゃない」
僕がこの日のために1週間徹夜して考えたギャグをあっさりとかわされて、ちょっと僕は哀しくなってしまった。
「でも、綺麗な色ね。この色は油絵じゃ出せないもの……」
夢中になって、着物の間を回る美由紀ちゃん。
うーん、生娘コマ踊りをしてみたい。美由紀ちゃんやってくれないかなぁ?
「やりません」
「え?」
「エッチなこと考えてたんでしょ? 顔に出てるわよ。もう、ホントに……」
美由紀ちゃんは赤くなってる。ということはオーケーってことなんだな。
「あのね……」
美術館で芸術を鑑賞して、心を豊かにした後、僕と美由紀ちゃんは美由紀ちゃんの実家であるところの呉服屋さんにやってきた。
「ただいまぁ」
美由紀ちゃんがのれんを分けて声を掛けると、大泉の兄さんが顔を出した。
「あ、お嬢さま、お帰りなさい」
「ズミちゃん、おひさぁ」
僕が声を掛けると、大泉の兄さんは嫌そうな顔をして、美由紀ちゃんにヒソヒソ話しかけた。
「また連れてきたんですか?」
「ごめんなさい。どうしてもって言うから……」
「しょうがないなぁ。早く奥に連れていって下さいよ。今お客さんと商談をまとめているところなんですから」
「あ、そうなの? わかったわ」
うーん、面白くないぞ。ズミさんといえど、美由紀ちゃんとひそひそ話をするとはけしからん。
「ねぇ、そう思うよね?」
僕は、お店の隅で反物を眺めていた女の人に話しかけた。
「は?」
怪訝そうに振り返る女の人。ふぅん。
「お姉さん、和服は大事に使えば一生物、いや、それ以上に使えるんですよ。僕の姉さんも、お婆さんからもらったっていう着物を未だに大事に使ってるくらいですからねぇ」
「は、はぁ……」
「元々着物っていうのは、日本じゃ普段着だったんです。それが、明治以来の生活様式の洋風化に従って廃れていき、今では冠婚葬祭の時の正装に使われるだけになってます。あとは成人式と卒業式と初もうでの時だけですねぇ。お姉さんはずばり、何のための着物ですか?」
「え? あの、結婚するので……」
「結婚式といえば白無垢ってことですね。わざわざ呉服屋に来たって事は、神前結婚ですかな? それじゃ、お一人はよろしくない。将来のお相手にも見ていただかないといけませんよ」
「で、でも……」
「相手さんの時間の都合が取れないんですか? それはいけませんよ。大事な恋人が大事な妻になる、たった一度のその装いを決めようっていうのにねぇ。いいでしょう、今日の所はお話だけ伺いましょう。後日、都合のいい日にまたお二人でいらっしゃって下さいな。ええ、日曜祭日はもとより、御連絡いただければ、夜でも構いませんよ。あっと、でも深夜は勘弁して下さいね」
「そうですか? ありがとうございます」
「さて、と。ズミさん、ズミさん」
僕は振り返って、美由紀ちゃんとズミさんが口をぽかんとあけて僕を見ているのに気付いた。
「何をぽかんぽかんと、気の抜けた殴り合いじゃあるまいし。お客さんに反物の説明をしてさしあげて下さいね。白無垢ですからね。そうそう、今日はあくまでも下見ですから、それを忘れないようにね」
「は、はぁ」
「さて、と。それじゃ美由紀ちゃん参りましょ」
僕は、まだぽかんとしている美由紀ちゃんを引っ張って、店の奥に入っていったのでありんす。
「はっ」
不意に美由紀ちゃんがキョロキョロと辺りを見回して、僕に尋ねた。
「ここ、どこ?」
「どこって、美由紀ちゃんのお部屋じゃないの?」
「え?」
言われて、もう一度辺りを見回してから、はたと気付く美由紀ちゃん。
「どうしてあなたが私の部屋の場所なんて知ってるのよ!?」
「僕は、美由紀ちゃんのことなら、何でも知ってるんだ」
「う、嘘」
「愛しい美由紀ちゃんのことで、僕が知らない事なんてないにきまってるじゃないか」
美由紀ちゃんは、目をぱちくりとさせてから、ぷっと吹き出した。
「嘘ばっかり」
「嘘なもんかい。おはようからお休みまで暮らしを見つめてるんだよ」
「これだもん」
美由紀ちゃんは肩をすくめた。
「一瞬でも信じそうになっちゃった自分が情けないわ」
「まぁ、それはそれとして、美由紀ちゃん」
「な、何よ?」
僕の声が真剣なのに気付いたのか、美由紀ちゃんは本能的に後ずさった。
その足がベッドに当たる。
「あ」
一瞬の隙を逃さず僕は頑張るんだな。
僕は言った。
「美由紀……」
「や、やめて……」
「裸エプロンは男のロマンだよ。そう思わないかい?」
美由紀ちゃんは一瞬で真っ赤になった。照れてるのかな?
「そ、そ、そんなの知るわけないでしょ!」
あ、怒ってるんだ。
「もう! どうしてこんなの好きになっちゃったのか自分でもわかんないわ!」
「愛に理屈はいらないのさ」
「愛してなんていないわ!」
怒鳴ると、美由紀ちゃんは疲れたみたいに、ぽてっとベッドに腰を落とした。ぽつりと呟く。
「愛して……なんて……いないわよ」
「それじゃ、嫌いなのかな?」
「……嫌いって、言ったら?」
美由紀ちゃんは顔を上げて訊ねた。僕は自信たっぷりに答える。
「嫌い嫌いも好きのうち」
「……やっぱり」
「マイハニー、物事を悲観的にとらえるのは、よくないよ」
「あなたは楽観的過ぎるのよ。はぁ……」
深々とため息をつく美由紀ちゃん。ああ、せつない。
「ねぇ、ハニー」
「うん……って、いつの間に隣に座ってるのよあなたはっ!」
小さな悲鳴を上げて飛び退こうとする美由紀ちゃん。そうはさせないぞ。ていっ。
「きゃぁ!」
ギシギシッ
「うーんスプリングがきしむ音っていまいち食欲をそそらないよね」
「そそるわけないでしょ! いいから私の上からどいてよぉ」
僕は美由紀ちゃんをベッドの上に組み敷いていた。二人とも息が荒い。
美由紀ちゃんの白いセーターに包まれた胸が、早いピッチで上下していた。汗ばんだ首筋に、後れ毛がまつわりついている。
「眼鏡」
「……は?」
「眼鏡かけたままだと、キスが上手くできないんだ。僕初心者だから」
「ちょ、ちょっと待ってよ! キスだなんて……あっ、ん……」
美由紀ちゃんの唇はとっても柔らかくてよろしい。
「……ふぅ。嘘つき」
唇を離すと、美由紀ちゃんはいきなりのたまった。
「何が初心者よ」
「修行を積んで、ビギナーは卒業したんだ」
そう言って、反論する隙も与えずに再び美由紀ちゃんの唇を堪能する。美味しい。
再び唇を離すと、美由紀ちゃんの目がとろんとしていた。
「んもう……。次は何をする気なの?」
「せっかくだから、俺はこの赤の扉を選ぶぜ!」
「きゃん、もうせっかちなんだからぁ……あ、やん……」
「こうして、越前はクリムゾンを手に入れた。だが、デスビノスの放ったモンスターが越前に襲いかかる」
「何言ってるのよ、もう」
鏡に向かって、ブラシで髪を解いていた美由紀ちゃんが、振り返る。
「たまには真面目にやってくれないの?」
「僕はいつだって真面目だよ」
僕はそう言って、美由紀ちゃんのおでこにキスをした。
「一緒にシャワー浴びようか?」
「……エッチなんだから、もう」
《終わり》
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