好き、嫌い。
《終わり》
好きなの?
嫌い。
嫌いなの?
好き。
どっちかに決めなくちゃいけないの?
そうしないといけないの?
このままじゃ……いけないの?
私は、このままでいい。
このままじゃ、いや。
どっちなの?
私、判らない。
判りたくない。
それが大人になるってことなの?
だったら、私、大人になんてなりたくない。
だったら、私、大人にならなくちゃいけない。
私は、どっち?
大人? 子供?
何が欲しいの?
何が欲しくないの?
私って、何?
ガバッ
「はぁ、はぁ、はぁ……」
飛び起きた私は、毛布を握りしめて、荒い息を付いていた。
また……。
ここに来てから、よく、夢を見る。
小樽であんなことがあって、私は和くんを思いっきり引っ叩いて、逃げて帰ってきた。
自分では、表に出さないようにしようって思ってたけど、やっぱりお父さんやお母さんにはわかっちゃったみたい。
あれから、和くんからは連絡はない。
私はずっと考えてた。でも判らなかった。
あれは、誰?
私に無理矢理キスしようとした和くん、とっても怖かった。
男なんてみんな同じなんだ。
だとしたら、どうして私……。
やっぱり、和くんだけは違うって思ってたのかな?
もうすぐ夜明けになる。
私は、パジャマを脱いだ。
あの時……。
馬から振り落とされた私をかばって、和くんは大怪我をしちゃった。
でも、和くんは私を責めたりしなかった。
タオルで体を拭く。
汗が一杯出てて、気持ち悪かった。
あの交換日記の最後のページに書いた私の気持ちは、嘘だったの?
そんなことない。絶対ない。私は……。
だったら、どうして?
どうして、和くんがキスしようとした時、拒んだの?
今の和くんと、あのときの和くんは違うから?
体を拭き終わってから、バッグの中から換えの下着を出す。
それを身に着けて、服を手に取る。
パチン、パチン
ボタンをゆっくりととめる。
嫌い、嫌い、嫌い。
好き、好き、好き。
どっちなの?
わからない。
体に、服を重ねる。
そうしないと、ここじゃ外に出られないから。
心に、壁を重ねる。
そうしないと、ここじゃ外に出られないから。
服を身に着けて、鏡を見る。
私の体は、もう見えない。
私の心も、もう見えないの?
キィッ
ドアがきしむ。
風が、私の髪をかき乱して、吹いていく。
私は、外に出た。
寒い。
海までは、歩いて5分。
……海? 海がどうしたっていうの?
行こう。海に行こう。
海に……。
そして、私は海に来た。
冬の海。真っ黒で重くうねってる。
命は海から産まれたって、パパは言ってた。
だったら、最初から命は、真っ黒なんじゃないのかな?
真っ黒で、こんな風にうねってるんじゃないのかな?
ザッパーン、ザッパーン
大きな波が、岸壁に立て続けに打ちつけられて、砕けて消える。
飛沫が、私の足許まで飛んでくる。
どれくらい、そうしていたんだろう?
好き、好き、好き。
波が打ち寄せる。
嫌い、嫌い、嫌い。
波が引いていく。
なんだ、そういうことだったんだ。
そして……。
「ほのかちゃん……」
彼は、来てくれた。