ザザーッ、ザザーッ
Good luck for your tomorrow
波が打ち寄せる。
浜辺を、歩く。
「待ってよっ」
後ろから声。
振り返ると、観鈴。
俺の前まで走ってくると、膝に手をついてはぁはぁと荒い息を付く。
「往人さん、どうしてそういうことするかなぁ……」
旅の途中、たまたま立ち寄っただけの田舎の町。
それなのに、どうして俺は、こんなに胸が締め付けられる気がするんだろう?
空を見上げる。
青からオレンジ色に移り変わろうとする空。
観鈴も、同じように空を見上げた。
「綺麗だね〜」
「……ああ、そうかもな」
さわさわっ
海風が、観鈴の長い髪と、俺の短い髪を揺らす。
「……なぁ、観鈴」
「何、往人さん?」
「……いや」
俺はその場に腰を下ろした。
「ズボンに砂が付いちゃうよ」
「そうだな」
「でも、私も座ろうっと」
そう言って、観鈴も腰を下ろす。
ザザーッ
ほんの数メートル先まで寄せては、また海に戻っていく波。
何度も何度も、繰り返し繰り返し。
「……ねぇ、往人さん」
「なんだ?」
「……翼が欲しいって思った」
「誰がだ?」
「観鈴ちん」
自分を指して、にぱっと笑う観鈴。
俺は黙って、その頭にげんこつを軽く当てた。
ごつん
「いたた……が、がお……」
もう一発。
ごつん
涙目になった観鈴が俺を睨む。
「何でもう二度も叩くかなぁ……」
「例の口癖を言ったら叩いてもいいことになってるからな」
「でも、一回目はまだ言ってなかったよ」
「それはな……。翼なんていらないからだよ」
「えっ?」
俺は、空に視線を戻した。
「もう、飛んでいく必要なんてないんだ」
何故か判らないけど、俺はそう言っていた。
「歩いていけば、いいんだからな」
「……あ、そうだね」
観鈴は、空を見上げた。
「でも、翼がないと、空には行けないよ」
「行かないといけないのか?」
「……わかんない」
「なら、行かなくてもいいんじゃないか」
不意に、涙がこぼれた。
わけもわからず、俺は自分の頬を撫でた。
観鈴が、そんな俺に気付いて顔をのぞき込む。
「往人さん、泣いてる?」
「……」
恥ずかしいと思って、俺は観鈴の大きな青い瞳からも、涙が流れているのを知った。
「お前も泣いてるじゃないか」
「あれっ?」
観鈴は、目を腕で拭った。でも、涙は後から後から溢れてくる。
「へ、へんだねっ。私泣きたくないのに……」
「観鈴……。多分、いいんだよ」
俺は、空を見上げた。
「もう、行かなくてもいいんだから」
自分で何を言ってるのかよく判らない。でも、俺はそう言っていた。
そして、
「うん、そうだね」
観鈴も頷いた。
俺達は、陽が落ちるまで、そこに並んで座っていた。
すっかり陽が暮れて、辺りが青い闇に包まれた。
俺は立ち上がると、ズボンをパンパンと叩いた。
「さて、帰るか?」
「うんっ」
俺が伸ばした手を、観鈴がしっかりと握る。
「帰りにジュース買ってもいいかな?」
「ああ。ただし、俺に飲ませるのはやめろ」
「……残念。美味しいのに……」
堤防を上がり、道に戻る。
俺達とすれ違うように、2人の子供が並んで駆けていく。
「……ありがとう」
えっ?
振り返ると、もう子供達の姿は見えなかった。
「……往人さん、どうしたの?」
俺が立ち止まったので、観鈴も立ち止まる。
「なんでもないさ」
そして、俺は前に向き直りながら、口の中で呟いていた。
「あばよ」
「えっ?」
「なんでもないって」
「あ〜、往人さんひどいな。私に隠し事なんて」
「男は隠し事が多いものなんだ」
「そうなんだ。にははっ、観鈴ちん、一つ賢くなりましたっ」
「……嘘だ」
「……どうしてそういう嘘付くかな……」
また涙目になって俺を見上げる観鈴。
俺はその頭にぽんと手を乗せた。
「悪い。お詫びに、今度祭りに連れて行ってやるから」
「お祭り? うん、約束だよっ。あ、でもお母さんとも約束してたなぁ〜」
首を傾げて悩み始める観鈴。
「往人さんとも行きたいし、お母さんとも行きたいし……。うーん、観鈴ちんピンチ……」
「ば〜か。そういう場合は3人で行けばいいんだ」
俺は、観鈴の頭をわしゃわしゃとかき回した。
「わわっ、やめてっ、髪が乱れるっ!」
悲鳴を上げて俺から身体を離すと、観鈴は左手で自分の髪を整える。
「うーっ、どうしてそういうことするかなぁ〜」
「多分、好きな娘はいじめたくなるんだろうな」
「えっ?」
「……」
「今、なんて言ったの? ね、もう一度言って欲しいな」
「言わねぇよ」
俺は明後日の方を見て、右手で頭を掻いた。
「……にははっ」
嬉しそうに笑う観鈴。
そうだな。この笑顔があれば……。
観鈴の右手と、俺の左手は、家に帰るまで、ずっと握り合っていた。
寄せる波が今 二人の素足を濡らす はしゃぐ君 静かな海 蒼い傷を 洗い流して 目覚める愛 切ない夜は いつも ひとりだったね わがままな愛をかばう 君の優しさに 甘えすぎていた 僕なのさ 痛みを憶えた心に もうひとつ 愛がめばえて 新しい陽が昇る 二人の夜明け I need your love 月は欠け 潮は満ちる 別れも出逢いも すべては Time and Tide |
砂に残した 二人の足跡を 消してゆく 波見つめて 悲しみの重さに やつれた君の肩を 抱きしめる 朝陽を背に受け 舞う鳥に 夢はもう 託さない 新しい日々がある 君がいるから I need your love 月は欠け 潮は満ちる 別れも出逢いも すべては Time and Tide I need your love 月は欠け 潮は満ちる 別れも出逢いも すべては Time and Tide |
"TIME AND TIDE"
Word and Music by TOSHIHIKO TAKAMIZAWA
あとがき
神尾さんちの観鈴ちんです。
まだ完全にキャラを掴んでない、ってこともありますんで、かなり散文詩的に、情景描写で終始してみました(笑)
そんなわけなんで、口調が違うとかこんなこといわねぇとかいうのがあれば教えてください。
今後ですが、とりあえずは、皆さんの感想待ちです。佳乃や美凪も書くかどうかはその後だ(笑)
とりあえず美凪SS "When You Wish Upon A Star"はタイトルのみ決まってますが(爆笑)
やっぱり、青空見上げただけで泣けてくるのはまずいよなぁ……(苦笑)
TIME AND TIDE 00/9/10 Up