夜空を見上げると、星がいくつも瞬いています。
Good luck for your tomorrow
"When You Wish Upon A Star"
いくつも、いくつも。
そうしていると、私は落ち着けます。
だって。
星空は、あの人のところにつながっているから。
往人さん……。
あれから、いろんな事がありましたよ。
辛いことだって、苦しいことだって。
だけど、私は、ずっと笑っていられました。
あの時、みちると約束したとおりに。
往人さんは、もう逢えましたか……?
空の彼方で待っているという女の子に……。
「おお、遠野さんではないか。母上は元気にしておられるか?」
商店街を通りかかったとき、不意に声を掛けられました。
振り返ると、霧島先生がいたので、頭を下げます。
「こんにちわ」
「そうか、挨拶がまだだったな。うむ、こんにちわ。まぁ、お茶でもどうかな?」
「……」
私は、ちょっと考えました。
部活……は、暗くなるまで出来ません。
それまで一緒にいてくれる人は、……今は誰もいません。
……つい、思い出してしまって、胸がきゅっと痛みました。
でも、私は泣いたりしません。
いつでも笑ってる。それが約束ですから。
「……了解です」
「うむ。それでは来たまえ」
霧島先生は頷いて、診療所に向かって歩き出しました。
こぽこぽこぽ
「……さ、飲むといい。美味しいお茶だからな」
霧島先生の淹れてくれるお茶は、いつも美味しいです。
しばらく、二人で黙ってお茶を飲みました。
「……ときに、聞かれたくはないことかもしれないが……」
「……はい?」
顔を上げると、霧島先生は湯飲みに視線を落としたまま、私に尋ねました。
「君は、あの男と親しかったよな」
「あの男……?」
「うむ。国崎往人、と名乗っていたあの男だ」
「……ぽ」
「いや、照れなくてもよろしい」
「……残念」
「……」
ずずーっと一口お茶を飲んでから、霧島先生はもう一度口を開きました。
「あの男の姿を最近見ないので、ちょっと気になってな」
「……あの人は」
窓から外に視線を投げます。
今日もいい天気だけど、風はもう秋の風でした。
「もう、旅立ってしまいました」
「……そうか」
霧島先生はお茶を飲み干すと、湯飲みをとん、と机に置きました。
「さっき聞きかけていたが、母上の具合はどうかね?」
「はい。あれからは、もう……」
「それは重畳」
一つ息をついて、霧島先生も窓の外に目を向けました。
と、その時でした。
バタン
「たっだいまぁ〜っ」
ドアの開く音と、元気のいい女の子の声がしました。
「……?」
私の視線を受けて、霧島先生は苦笑しました。
「そういえば、ちゃんと紹介したことはなかったな。私の妹だ」
「……妹さん……」
私は、胸を押さえて呟きました。それに気付いて、霧島先生は微かに表情を変えます。
「……すまない」
「いえ、大丈夫ですよ」
首を振ります。
みちるとは、約束したんだもの。ずっと笑っているって。だから、大丈夫。
霧島先生は、そんな私の顔を見て、頷きました。
「……そうか。君も、強くなったようだな」
ドアの向こうから、声が聞こえてきます。
「あれっ? 見たこと無い靴があるっ! 大発見だぁっ!」
そして、診察室のドアが開いて、霧島先生の妹さんが、続いて女の子が駆け込んできました。
私は妹さんを抱き上げて、ご挨拶。
「ええと、改めまして。私は遠野美凪と申します。あなたが霧島先生の妹さんとは存じませんで、失礼しました」
「ぴこぴこぴこ〜っ」
「ああ、違う違う。こっちだこっち」
「ひゃっ、なになにっ!?」
霧島先生は、女の子の頭を掴んで私の前に突き出しました。
「……では、こちらは?」
抱き上げている霧島先生の妹さんじゃない子犬さんを見ると、ぱたぱたっと尻尾を振りました。
「ぴこぴこっ」
「この子は私の親友のポテトだよ」
その子はそう教えてくれてから、自分を指しました。
「それから私は霧島佳乃だよ」
「きりしま……かの……」
「そうだよ」
その笑顔を見て、私は思いました。
お友達になりたい。
でも、断られるかも知れない。それくらいなら……。
……だめです。そんなことじゃ、みちるにも往人さんにも笑われてしまいます。
ええと、どうすればいいでしょう?
……そうだ。
私はぽんと手を打って、ポケットを探りました。
ごそごそごそごそごそ
「……発見」
「えっ?」
「……はい、進呈」
「わっ、なんだろっ!」
嬉しそうに封筒を開けると、佳乃さんは嬉しそうに霧島先生に駆け寄ります。
「やったぁ。お米券だよっ!」
「良かったな」
佳乃さんに声をかけてみます。ええと、まず自己紹介。
「あの……私は……」
「遠野美凪さん、だね」
……どうして私の名前を知っているのでしょうか?
あ、もしかしたら……。
「……エスパー?」
「違うよ〜。さっきポテトに名乗ってたの、聞いたんだよ」
「……」
自分で名乗る前に名前を知られてしまって、ちょっぴり悲しい。
「それじゃ、えーっと、遠野先輩は、お姉ちゃんのお茶友達3号に任命するっ」
任命されてしまったので、私はちょっと考えました。
とりあえず、霧島先生のお友達。一歩前進。えっへん。
もっと仲良しさんになるためには……。
いいことを思いつきました。
「佳乃さんにお聞きしたいのですが」
「いいよ、何でも聞いてっ」
ドンと胸を叩くその右手首には、黄色い大きな布が結んであります。
可愛い。
「えっと、星は好きですか?」
「星って、空にきらきらってしてるあの星? うん、嫌いじゃないよ」
「……採用決定」
「えっ? 何に?」
「天文部員。……私、実は部長さんだから」
「ほう。良かったな、佳乃」
「うんっ。やったね」
「私も嬉しい」
「ぴこぴこっ」
「おっ、ポテトも嬉しいって」
「よし、それじゃおやつにしようか」
「わーいっ!」
私はポケットを探って、見つけた封筒を渡します。
「……入部おめでとう賞」
「わっ、またお米券だよっ!」
「ぴこぴこっ」
霧島先生や佳乃さんずっとお話ししていているうちに、すっかり時間がたってしまったみたいで、霧島医院を出る頃には、空は茜色に染まっていました。
陽が落ちるのが早くなってきました。あの頃は、あんなに一日が長かったのに。
私は、一緒に玄関まで来た佳乃さんに頭を下げました。
「今日はありがとうございました、佳乃さん」
残念ながら、まだ私は霧島先生のお友達止まりみたいです。
「ちっちっち。違うよっ」
そう思ってちょっと悲しくなっていると、佳乃さんが指を振りました。
「友達はね、私のことはかのりんと呼ぶの。だから、遠野先輩も私のことはかのりんと呼んでね」
……あ。
お友達に、なれたんですね。
私はポケットをさぐりました。あ、ないです。
それじゃ鞄の中に……。
がさがさがさ
「……発見」
「えっ? なになに?」
「はい。かのりんとお友達になりました賞」
封筒を渡すと、佳乃さん……かのりんは笑顔で頷きました。
「ありがとっ!」
みちる、往人さん。私にも、お友達が出来たみたいです。
嬉しくなって歩き出すと、かのりんがぱたぱたっと駆け寄ってきました。
あ、お別れの挨拶をしてませんでした。挨拶はちゃんとしないといけないです。
「ええと、それじゃ、さよ……」
「それじゃ、遠野先輩を家まで送っちゃうぞ隊、しゅっぱーつ!」
私の隣まで来たかのりんが、元気良く右腕を突き上げました。
私は部活に行こうと思ってたのに、どうやら家に帰らないといけなくなってしまったみたいです。
「……わかりました。帰ります」
「……あっ、そういえば天文部だったっ!」
どうやら、かのりんは忘れていたようです。
でも、せっかくなので、私は首を振りました。
「今日はお休みです」
「えっ? そうなの?」
「部長権限です」
「あっ、そうか。遠野先輩、部長さんだったんだよね。すごいなぁ〜」
「……えっへん」
ちょっと嬉しいので胸を張ります。それから、かのりんにお願い。
「あの、名前」
「霧島佳乃」
「いえ……。名前」
「ポテト」
足下を走り回っているポテトさんを指さすかのりん。
「……名前」
「霧島聖」
後ろの霧島医院を指さすかのりん。
「……名前」
「遠野美凪」
私を指さすかのりん。
「はい」
「それじゃ行こっか、遠野先輩っ」
判ってもらえません。ちょっと悲しいです。
「……私とかのりんはお友達……」
「うん、もちろんだよ。あっ、そっか!」
かのりんがぽんと手を打つと、その手の動きに連れて、黄色いバンダナが揺れます。なんか可愛い。
「お友達だから、名前で呼んでほしいんだねっ! ごめんごめん、かのりんうっかりさん」
ぽこっと自分の頭を叩くかのりん。
私は嬉しくなって頷きました。
「正解。はい、商品」
「わっ、またお米券だっ!」
かのりんは、往人さんよりも喜んで受け取ってくれます。私もちょっぴり嬉しい。
「えっと、それじゃ美凪っ!」
ぽかっ
「こらこら、目上の人を呼び捨てにするのはよくないぞ。私はお前にそんな教育をした憶えはない」
いつの間にか診療所から出てきた霧島先生が、かのりんの頭を叩いていました。
「……霧島先生登場」
「うむ、私はおはようからおやすみまで佳乃の健やかな成長を見守っているからな」
「お姉ちゃん、いきなりは痛いよぉ……」
あ、かのりん涙目。
私はよしよしとかのりんの頭を撫でてあげました。
「ああっ、それは私の役なのに……。ううっ」
なんだか霧島先生が泣きそうな顔をしています。
「えっと……それじゃ美凪さん、でいいかな?」
「……ぽ」
「……なぜそこで照れるのだ、遠野美凪」
「あはは〜っ。それじゃ改めて、美凪さんはなぎなぎかのりん2号っ。ちなみに1号は私っ」
そう言って、私の手をぎゅっと握るかのりん。
「……ぽぽっ」
「だから、なぜそこで照れるのだ……?」
「それじゃ、行こうっ!!」
繋いだ手を振りながら、かのりんが歩き出しました。
「あっ」
ぎゅっと引っ張られて、私はつんのめりかけました。危ないところで足を踏み出して、なんとかこらえます。
「……危機一髪」
「ごめんね、美凪さん」
「大丈夫」
前に足を踏み出せば、転ぶことはない。
かのりんのおかげで、新しいことがわかりました。
「それじゃ……かのりん、行きましょう」
「うんっ」
私たちは、歩き出しました。
「早く帰って来るのだぞ〜」
「ぴこぴこぴこ〜っ」
がしぃっ
「……ぴこっ?」
「……お前も、行かんかぁ〜っ!」
ぶぅん
「ぴこぉ〜〜〜っ」
声を上げながら飛んでくるポテトさん。
「わっ、お姉ちゃん大遠投」
「……大魔神?」
「それはちょっと違うと思うけど……。それじゃ行こっ!」
「ぴ、ぴこぉ……」
家路を辿る私。
隣には、私のお友達になったかのりんとポテト。
「……あのね。美凪さん」
「……?」
並んで歩いていたかのりんが、不意に立ち止まりました。
オレンジ色の空に向かって手を伸ばして、私の方に顔を向けます。
「魔法が使えたらなって、思ったことない?」
「……」
「あははっ、私何を言ってるんだろ。忘れてっ」
笑って頭を掻くかのりんに、私は微笑みました。
「きっと……」
「えっ?」
「……あ、ほら」
かのりんの頭越しに、私はそれを見つけました。
「一番星……」
「わっ、ほんとだ」
私たちは、しばらく足を止めて、その光を見つめていました。
もしも願いが叶うなら……。
往人さん。あなたの夢が叶いますように。
そして、いつか……。
同じ星を一緒に見ることができますように。
When you wish upon a star
makes no defferennce who are you
anything your heart desires will come to you
When you wish upon a star
makes no defferennce who are you
anything your heart desires will come to you
If your heart is in your dream
Noreqest is too extreme
When you wish upon a starasdreamers do
Fate is kind
She brings to thosewholove
thesweetfulfillment of
theirsecretlonging
Like a bolt out of the blue
fate steps in and sees you through
When you wish upon a star
your dream comes true
Fate is kind
She brings to thosewholove
thesweetfulfillment of
theirsecretlonging
Like a bolt out of the blue
fate steps in and sees you through
When you wish upon a star
your dream comes true
When you wish upon a star
your dream comes true
Word by Ned Washington
Music by Leigh Harline
あとがき
いつも世話になっている友人に「美凪SSと佐祐理SSのどっちがいい?」と聞いてみると、「どっちも」と言われました(笑)
というわけで、とりあえずは美凪SSです。っていうか、なぎなぎかのりんシリーズ1作目(笑)
読めば判るとおりの美凪トゥルーエンド後です。
……美凪SSはバッドエンド後も書いてみたいですけど。っていうかあれバッドエンドか?(苦笑)
まぁ、Airっていう作品は、男女の愛よりも家族愛の方が優先されるようですからねぇ(苦笑) 家族愛よりも男女の愛を貫いた結果がバッドというのがそれを象徴してるような気がしますわ。
私としては非常に扱いに困る作品と言えましょう。はい。
……次はかのりんか裏葉か、はたまたなぎなぎかのりんの続きか(笑) ま、リクエスト次第かな。
When You Wish Upon A Star 00/9/11 Up 00/9/13 Update