さんさんと輝く太陽。血に汚れてもなお光を放つ月。
そしていまだに赤い色をした海。
しかし生命の存在はあった。自己の意思で戻って来た者があった。
その生命は時がたつにつれて海より這い出て、さらに這い出て、
その数は村を作る数となる。
さらに時がたつと、さらに這い出て町を作る数となり
やがて国を作る数となった。
すべての生命が這い出た訳ではない。生きる意思がある者のみが這い出て来たのだ。
それが国を作る数となる事。これはまことに喜ばしき事であった。
されどその生命の行動を縛る『法』がなかった。
その生命のあるべき行動を示す『律』がなかった。
『法』無き生命は本能でさまよい始め、『律』無き生命はあるべき目的を見失う。
自由を口にしつつも、勤労を美徳として縛られるのがその生命の姿であった。
故にそれの崩壊した世界の秩序は乱れた。
生きる為に奪い、生きる為に殺す者が存在し始めた。
弱き者は奪われ、襲われ、命を落とす。
されど秩序はじわりじわりと回復し、安定が取れた世界が出来てくる。
暗黒の時代は晴れ、貧しくとも安定した時代となった。
―――2020年。神の試練と呼ばれたサードインパクトより5年程後の出来事であった。
NERVは全ての情報を公開し、今では警察のような機関になっている。
SEELEは迫害を受けて自然消滅した。
時代は廻り、日常も廻る。
サードインパクト前とは確実に変わった時代がそこにはあった。
EVA短編読み切り物語 EOE 白き旅人 |
頬に受ける風を静かに感じながら歩く男性が一人。
つばも飾りもないシンプルな刀を持ち、白のコートを羽織う男性。年は20といった所だろう。
短く切った漆黒の髪。何かを超越したような輝きを見せる黒曜石の瞳。
背は180前後。線の薄い輪郭はどことなく中性的な物を思わせるが、
彼に漂うその雰囲気はどことなくたくましさを感じる。
旅の途中なのだろうか?
荷物が入っているであろうナップザックを背負い、舗装されていない道を歩いていた。
物理的な破壊はセカンドインパクトよりは無くても、それなりの破壊力があったサードインパクト。
爆心地である第三新東京市を中心に、かなりの広範囲が破壊されていた。
舗装されていた道路はボロボロになり、地下の水道管が壊れて水が噴出し、
漏電した電線が道路へと垂れ下がる。
そこに居を構えるにはキャンプのような方法しかない。
ちゃんとした家が建つのはかなり後となるだろう。
故に今彼が歩いている道路は『舗装されていない道』ではなく『舗装されていた道』という表現が正しい。
そんな中でも人という種の環境適応能力は他の生物に引けを取らないほど高く、
テントで出来た住居が固まり、一種の村を作っていた。
落ちていた食物、衣類、生活用品などを拾い集めて売っている者。
テントなどの住居を造る手伝いなどをして労働し、金を稼ぐ者。
より使いやすく、より安定したテントなどを作り売りさばく者。
最初の頃は紙で出来た金は生活の意味を成さず物々交換が主流であったが、
今は環境が整ってきている為に金銭が出回っている。
・・・・・・かつて戦争をしていた日本の闇市を想像してほしい。
あたりは活気にあふれ、人々は己が意思で手に入れた生をむさぼっていた。
そんな中、彼は適当な岩を見つけてその歩みを止める。
その岩に腰をおろし、荷物の中から魔法瓶の水筒を取り出して中に入っている水でその喉を潤した。
軽く汗をかいている時に飲む冷たい水は、生き返ったような爽快感をもたらす。
「・・・・・・・・ふう。」
一息ついて彼は空を仰いだ。徐々に気候が戻りつつあるが今は真夏。
生命の輝きを元気いっぱいに放つ太陽の光はとても眩しく、そして暑い。
所々に小さな雲が漂っている。今日は快晴だ。
「旅の途中?」
突然かけられた声に彼は振り向いた。
見るとそこには15前後の少年が立っている。
ラフな服を着こなし、少し大人びた少年という表現がしっくりくる。
「こんにちは。」
彼は声をかけてきた少年に挨拶した。
「こんにちは。」
その少年は微笑んでその挨拶を返す。
「・・・・・・・隣、座ってもいい?」
「ああ、もちろん。」
少年はそう言って彼の腰掛けている岩の隣に座った。
二人座っても結構余裕がある。
「悪いね。そっちの方が年上だから敬語を使うべきなんだろうけど、そう言うの苦手なんだ。」
「構わないよ。僕もそういうのは苦手だから。」
苦笑して返答する彼はどことなく無邪気に見える。
「さっきも聞いたけど・・・・・旅の途中?この時代結構多いけどそれは住居探しだからねえ・・・・
一人旅って言うのは結構珍しいよね。」
「そうだね。この旅には別に目的も終着点もないし、純粋な旅を楽しむ人は確かに珍しい。」
「へぇ〜・・・・・・当ての無い旅ってやつか。面白そうだなぁ・・・・・・・俺もやってみたいよ、そう言うの。」
少年の言葉に彼は少し微笑んだ。
「気楽なものさ。一人旅だから余計な気遣いなんてしなくていいし。
いろんな所を見て回るからそれなりに面白い。お腹が減ったら適当に労働して金を貰えばいいしね。」
「たくましく生きてるんだなぁ〜・・・・・・・あんた、いったいどこから来たんだ?」
「ん・・・・・・・第三新東京市。」
「第三!!?おもいっきり爆心地じゃないか。『這い出た』ら何も無かったろ?
第三から結構離れてるここですらこのありさまだからなあ・・・・・・・・」
少年はあたりを見回した。あたり一面瓦礫の山という訳ではないが、
戦争でもやったかのような荒れようである。
彼は少年の問いには答えず、その荒れようを目を細めて見ていた。
その表情には何か悲しみのような物が見て取れる。
何か聞いてはまずい事だったと思ったのだろう、少年はさりげなく話題を変えた。
「そういえば、あんたのその手に持ってるやつって本物の刀だろ?剣術でもやってるのか?」
武器を持っていること自体には驚かない。暗黒時代と呼ばれた後である。
何かしら護身用の武器を持ち歩くのは一般的になっていた。
もっとも、銃や爆薬と言った物はもともと手に入りづらいのでそうは無いが。
しかしそれは刀も同様である。故に本物の刀は結構高値で取引されていた。
彼は手に持っている刀の鞘からその刀身を抜き放って掲げて見せる。
白銀に光るその輝きと、冷たい水で濡れているかのような美しさは、
素人の目から見てもかなりの業物だという事が理解できた。
「すげえ・・・・・・・・・」
思わず少年はため息を漏らす。
「凄いだろ?『白虎』って名づけた。旅の途中に趣味で作ったんだ。結構いい出来だと思わない?」
「これ、あんたが打ったのか!?」
驚愕の表情に染まる少年。見た目20前後の若い男性が、自分でも解るほど素晴らしい刀を打ったのだ。
それは驚くのも無理は無い。
「ま、旅なんかしてるといろんな技能が身につくものだよ。
流派に縛られずに道を極めようとすれば自由自在な発想が出来るから満足する結果も出る。
その結果はこれまでにまったく無かったものだってあるんだ。
極めることに貪欲になれば満足するレベルはさらに高くなるから
結果も工夫に工夫が重ねられてより素晴らしいものが出来る。
君もこの刀を素晴らしいと思っているのならそれだけ僕の達成欲が貪欲だったって事さ。」
そう言って彼は刀を鞘に収めた。
「ふ〜ん、なるほどねぇ〜・・・・・勉強になるよ。
しかし・・・・・・いくら旅をしてたって鍛冶の技能はつかないと思うけどなあ・・・・・・・・」
「細かいことは気にしない。言っただろ?ただの趣味だと。
その趣味にとことんこだわっただけの話だよ。」
「刀を打つのが趣味?」
「・・・・・・というより物を作るのが趣味、かな?
昔はチェロもやってたんだけど、インパクトで吹っ飛んじゃったからさ。
そこらに転がってる物で物を作る。結構面白いんだ、これが。
工夫次第でガラクタも宝の山となる。ガラクタに命を吹き込んで物を作る。ちょっとした神様気分さ。
何かを作るって事はいいことだよ。・・・・・・・・ま、これは受け売りなんだけど・・・ね。」
「そっか・・・・・・・俺も旅をしていろんな技能を身につけたらあんたみたいな刀が打てるかな?」
「大切なのは気持ちだと思うよ。そうすれば人間なんだって出来るものさ。」
少し空を見つめて、彼は意味ありげな表情をする。
「何だって・・・・・・・か。」
少年はそうつぶやいてその場で大きな伸びをした。
「いろいろ勉強になったよ、ありがとな。それじゃあ、俺そろそろ行くわ。
月並みだけど、あんたも旅頑張ってな。まあ目的も何も無いなら何を頑張るのかは用解らんけど。」
少年は苦笑しながら岩から反動をつけて立ち上がる。
「じゃあな。」
そう言って立ち去っていく少年に
「ちょいまち。」
彼は突然声をかけた。
振り返った少年の目には、彼が右手を前に出して手を広げている姿が映る。
「・・・・・・・・なんだよ。」
そういう少年の言葉に、彼は苦笑して答えた。
「・・・・・・・・・財布、返してもらおうか。」
少年の手には、彼から取ったのであろう財布が巧妙に隠されながら握られていた。
「・・・・・・・・ちぇ、俺のスリテク見破ったのおまえが始めてだぜ。
あんたなかなかやるなぁ・・・・・・・・でも・・・・・・足のほうはどうかな!?」
そう言って少年は突然踵を返した。
「あばよっ!」
そう言って全速力で走り出す少年。
・・・・・・・が、しかし10秒もたたないうちに服を掴まれてしまった。
「足のほうも、どうやら僕のほうが上だったみたいだね。」
彼はそう言ってアルカイックスマイル(口だけの笑み)を浮かべた。
「・・・・・・・・はぁ、俺の負けだよ。」
そう言って少年は財布を差し出す。
「中身もだよ。」
さらに手を出す彼の姿に少年は諦めたのか、
いつのまにかポケットにねじ込まれていた金をすべて手渡した。
「・・・・ったく、惨敗だぜ・・・・・」
両手を上げて参ったの仕草をする少年の姿に、彼は思わず苦笑する。
「あんまり感心しないね。こんな鮮やかなスリテク、いったいどこで覚えたのさ。」
財布に受け取った金を入れて自分のポケットにねじ込みながら彼は少年に問い掛ける。
怒っている様にも、少年をどうにかしようとしている様にも見えない。
彼にとっては単なるじゃれつきで済まされるのだろう。
「・・・ま、生きるためさ。あんたが旅していろんな技能を身につけたように
俺も生きる為にこんな技能が自然に身についたって事だよ。」
そう言って少年は深い溜息をついた。
「・・・・・・・俺の名前は武藤(むとう)栄治(エイジ)ってんだ。あんた、名は?」
「・・・・・僕は・・・・・・・ジン。神楽(かぐら)迅(ジン)だよ。」
なぜか少し間を置いてから答える彼・・・・・・ジン。
「そっか、じゃあジンって呼ばせてもらうぜ。気をつけろよ、ジン。
ここら一帯はある団体が仕切ってるんだ。スリ、恐喝、強奪、殺し、何でもやってる裏の組織がな。
要するにヤクザさ。思いっきりタチが悪いけど。そんなご立派な刀を持ってたらまず目ぇつけられるぜ。
くれぐれも目立たないように気をつけろよ。それじゃあな。」
そう言って、今度こそ少年・・・・・・・・エイジは踵を返して走り去っていった。
「ふふっ・・・・・神楽ジンか。とっさに考えたにしてはいい名前かな?
しかし・・・・・・・ヤクザ・・・・・ねえ。物騒な物が出回ってるもんだな。」
ジンはそう言いながら、改めてぶらぶら歩き出した。
・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
買い物袋を抱え、道を歩いている。
彼はこれからの旅の為に食料などを買いだめしていた。
「・・・・・えーっと・・・・・・・もう買うものは無いかな・・・・・・?」
そう言って財布の中身をのぞくジン。
残り少ないがまだ幾らかの余裕があった。
「まだ大丈夫かな。金稼ぎは次の町に行ってからでOKか。
この町は物騒みたいな事も言ってたし・・・・・何かに巻き込まれないように早めに去るのが吉かな?」
一通り買ったものをナップザックに詰め込んで背負い町を出ようと歩き出したとき、
ジンは一人の少年が囲まれている光景を目にした。
その少年の顔に見覚えがある。
「あの子は・・・・・・・・エイジ君、だったかな?」
ジンは物陰に隠れて息を潜め、事の様子を見守ることにした。
「・・・・・・おい、今日の稼ぎはこれだけか?」
エイジを囲んでいる人間の一人が詰め寄る。少年ではなく、立派な大人だ。
「・・・・・・・・・ああ。」
エイジはその質問を肯定した。
「ふざけんなよ?最近おまえ稼ぎが悪いじゃねえか。ちゃんとやってんのか?
財布だけじゃなくて襲った奴の身ぐるみ全て剥いで来いと口を酸っぱくして言ったよな?」
「・・・・・・・・・・・・」
沈黙するエイジ。
「聞けば今日、おまえ刀を持ったやわそうな奴に近付いたみたいじゃねえか。
何で殴り倒して刀を奪ってこなかった?
このご時世刀はかなりの高値で売れることぐらい解ってんだろう?」
「・・・・・・・・・・」
「黙ってんじゃねえよ!おまえは長の息子だから生きていられんだぜ!?
それ相応の稼ぎぐらいしてこいや!!
何のためにお前みたいな子供にいろいろ教えてやったと思ってんだよ!!」
「・・・・・・・・・・・・」
エイジはそれでもなお沈黙を守っている。
「なんとか言えっつってんだよ!!!」
バギッ!!
ついにその男の拳がエイジの右頬に食い込んだ。
エイジは倒れながらその男を睨み付ける。
その右腕は震えながら硬く握られていた。
「・・・・・・・あ?なんだその目は?なんか文句があるのか?
どうやらもっと殴られないと気が済まねえみたいだな。おい、押さえてろ。」
その声を合図に、囲んでる男たちがエイジを立ち上がらせて脇を固める。
「いいか?お前は道具なんだよ!道具は黙っておとなしく言うこと聞いてりゃいいんだよ!!」
バギッ!!
再び殴られて唇を切るエイジ。
「・・・・・その辺で止めたら?大の大人が少年を説教するには少し行き過ぎの感があるとおもうけどね?」
ついに見てられなくなり、ジンはその場に歩み出ていた。
「・・・・・・・お前、何でここに・・・・・・・」
「買い物さ。まあここを通りかかったのは偶然だけどね。」
エイジの言葉にピースしながら答えるジン。
「だったら何で出てきた!気をつけろって言っただろ!お前、身包みはがされるぞ!!」
その叫びに、エイジを囲んでいた男たちがジンに歩み出た。
「くっくっく・・・・・その通りだぜ。まったく今日はついてる。カモがネギ背負ってやってきたんだからなぁ。
人間の臓器だって高値で売れる。その刀だって売っぱらえば幾らになるか、
考えただけでもよだれが出るぜ。貴様の命ごとすべて頂く。」
その言葉にジンはアルカイックスマイルを浮かべた。
「どうかな?僕は大人しくやられるような危ない趣味は持ち合わせていないのでね。
返り討ちに会うのはそっちかも知れないよ?」
そう言って左手に持っている刀に右手を添えて構えるジン。
「バーカ、お前こそ刀で対抗できると思ってんのか?俺たちのエモノはドスじゃねえ、チャカなんだよ!!」
そう言って男たちは懐の銃を抜き放ち、ジンに突きつけた。
「蜂の巣にしてやるぜ!!」
人の前で銃を突きつけ、馬鹿笑いを始める男たち。
「・・・・・・・・ったく、いつもこうだ。」
ジンは溜息をついて男たちをにらみ据えた。
「死ねぇ!!」
その叫びが木霊して銃のトリガーにかかった指が引き絞られる。
それと同時にジンの右足が深く踏み込まれ、一筋の閃光が走った!
斬!!
――― 一刹那。銃から出る独特の発砲音は響かず、
代わりにいつ抜刀したのか、白虎を抜き放っているジンの姿があった。
そして・・・・・・・・
「「「「うがああああああああ!!!」」」」
男たちが一斉に声を上げる。
トリガーにかかった指ごと、男たちの銃はスッパリと切り捨てられていた。
床には血とともに落ちた指と真っ二つになった銃が散らばっている。
「とっとと指持って逃げ帰るんだね。今ならまだ繋げられるよ?
それとも・・・・・その首も胴体から切り離してほしいかい?」
男たちに白虎を突きつけるジン。
「ひっ・・・・・・・畜生、覚えてやがれ!!!」
そう言ってエイジを囲んでいた男たちは自分の指を拾って一目散に逃げ出した。
「・・・・・・・・・ったく、お決まりな台詞・・・・・・・・」
ジンは溜息をついて、鞘に白虎を収めた。
「大丈夫かい?怪我は・・・・・・・・って見りゃ解るか。」
ジンはナップザックを下ろし、中から救急箱を取り出して、消毒液を手に取った。
「ほら、ちょっとしみるけど我慢して・・・・・・・」
そう警告した後、消毒液を脱脂綿に浸し、エイジの頬の傷に塗りつける。
「・・・・・・痛っ。」
エイジはしみる痛みに少し顔を歪めるも、黙って動かなかった。
「・・・・・・・・・よし、終わり。」
血のついた脱脂綿を簡易なごみ袋に入れてポンとエイジの方をたたくジン。
「・・・・・・・なんでだ?」
「ん?」
立ち上がってナップザックを背負ったと同時に、エイジが声を発した。
「・・・・・・・なんで助けたんだ?あんたには関係の無いことなのに・・・・・・・」
その言葉に、ジンは苦笑しつつエイジの隣に座り込んだ。
「さて・・・・・・なんでだろうね?自分でもよくわからないよ。」
そう言って空を仰ぐジン。
日はすでに沈みかけ、空を綺麗な茜色に染めている。
「・・・・・・・・なんでだ?」
再び質問するエイジの言葉。ジンは少し考えた後に、何か思いついたのかポンと手を打った。
「誰かを助けるのに、理由がいるかい?」
「却下。」
「・・・・・・・・・・手の届くところぐらいは」
「却下。」
「・・・・・・・せめて最後まで言わせ」
「大却下。」
「・・・・・・・F○\は面白いのに・・・・・」
「まじめに答えてくれ!」
ジンの度重なる寒いボケについに叫びだすエイジ。
そんなエイジの叫びに、ジンは溜息をついた。
「・・・・・・・・まあ、見てられなかったから・・・・・・かな?自分でも本当によく解らないんだけどね。
話は聞いてたよ。身包み残らず剥ぐように口をすっぱくして言われてたんだろ?
でもエイジ君はそんな事しなかったよね。悪人になりきれてないんだ。
だからスリなんて好きでやってるんじゃないって思ったのさ。
嫌なことを無理やりやらされて、その為の教育を受ける思いはよく解ってるつもりだから。
僕にも、そういう事あったから・・・・・・他人のような気がしなかった。だから助けた・・・・んだと思う。」
ちょっと自信なさげに言うジンに、エイジは少し溜息をついた。
しばしの沈黙が流れた後に、エイジがふと口を開く。
「・・・・・・・・俺の父さん・・・・・・・」
「・・・ん?」
突然話し掛けたエイジに、ジンは少し反応するも、黙って聞く気になったのかすぐさま口を閉じる。
「俺の父さん、このへん仕切ってるヤクザの長なんだ・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「サードインパクトで戻ってきた俺の家族は父さんだけだった。
母さんは何時までたっても這い出てこなかったんだ。
・・・・・・・・・母さんがいなくなって、俺の父さんは変わったよ。
武器を集め、金を集め、人を集め、暗黒時代を笑いながら生きた。
父さんの組がやってない犯罪なんて一つも無かった。殺人、強奪なんでもアリさ。
俺はその組をさらに拡大するためにってスリのテクとかを叩き込まれたんだ。
・・・・・・5年前・・・・・・10歳のときから、俺は道具として育てられた。
だけど俺がやったのはスリだけだったよ。
傷つく痛みを知ってるから、他人にそんな思いはさせたくなかったんだ。
人のものをスッた後はいつも思いっきり罪悪感に襲われたよ。
・・・・・・・・・あのサードインパクトが俺の人生を変えたんだ・・・・・・・・
あのサードインパクトさえ起きなかったら・・・・・・・・」
そう言ってエイジは顔を伏せ、両足を抱えてすすり泣き始めた。
「・・・・・・・もう・・・・・スリなんてやりたくないよ・・・・・・あんたみたいに、自由気ままに生きてみたいよ。
気持ちがあればなんだって出来るってあんたは言ったけど、そんなの俺には嘘にしか聞こえない。
逃げてもすぐに捕まるし、歯向かったら殺されるような立場にいるんだ、俺は。」
声を押し殺してすすり泣くエイジ。
「・・・・・・・・・ごめん。」
「・・・・・え?」
突然謝ったジンにエイジは顔を上げた。
「・・・・・いや、なんでもないよ。とことん君は昔の僕に似ているね。道具のように使われる日々、か。
・・・・・・・・いや、僕のほうが幸せだったのかも知れないな・・・・・・・」
そう言ってジンは再び立ち上がる。
「・・・・・・・さて、行こうか?」
不意にエイジのほうへ振り返るジン。
「行くって・・・・・どこへだよ。」
ジンはその問いを聞いてアルカイックスマイルを浮かべた。
「殴りこみ・・・・・・もとい、頼み込み。君を自由にしてもらいに行くのさ。」
「・・・・・・・・は?」
エイジはしばらく呆然としていたが、やがてその意味がわかったのか、血相を変えて叫びだした。
「止めろ!あんたまで怪我する事になるんだぞ!?
見ず知らずの赤の他人にそこまでさせるなんてできねぇよ!」
「・・・・・・ふふ、優しいね、君は。でも少なくとも見ず知らず、では無いだろ?
それに、さっきの連中を追っ払った時点できっと僕も目をつけられてると思うし。」
「だけど!!」
さらに叫ぶエイジをジンは右手で制止する。
「変わらなきゃって思っているなら、あらゆる事を覚悟して全力で変わる努力をしなくてはいけないよ。
これは僕の経験上でも確かなことさ。立場が決まってしまっているならなおさらね。
エイジ、逃げちゃ駄目だよ。父親から・・・・・何よりも自分から。まあこれは受け売りなんだけどね。
逃げずに立ち向かわなければ何も変わらない。」
「・・・・・・・・・・・・・」
沈黙するエイジ。
「さあ、行くよ。自分を変えに・・・・・・・・ね。」
そう言ってジンが差し出す右手を、エイジは自然に掴んでいた。
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・
「たのも〜!!」
「お、おい!」
門の前に来るなり叫ぶジン。
「何?」
「いや、何って・・・・・・道場破りでもすんのかよお前は。」
「じゃあこういう場合ってどうすればいいの?いきなり入っていいのかな?」
「そりゃ・・・・・まあ・・・・・・・解らないけど・・・・・そうなんじゃないか?」
すっとぼけた質問をするジンの言葉に、エイジは思わず自信なさげに口篭もる。
「・・・・・・そうか、んじゃ早速。」
バギッ!!
ジンは言うが早いが、いきなり門を蹴り破った。
「・・・・・・・・・・・」
エイジは反応することすらかなわず、ジンの行動を口をあけて呆然と見ていた。
「なんだお前は!!」
門番数人が銃を抜いてジンに突きつける。
「殴り込みさ。」
あっけらかんと言うジンに門番はいきり立った。
「ふざけるんじゃねぇ!!」
「こいつ、うちのになめた真似してくれた奴だ!!白コートに刀、間違いねえ!!」
「ぶっ殺してやる!!」
その言葉が響くと同時に、一斉に銃声が鳴り響いた。
銃弾はジンの体をかすめるも、全て外れて・・・・・・・いや、全て”かわされて”いる。
「・・・・・・・危ないね。そういうおもちゃは人に向けちゃ行けないんだ・・・・・・ぞっ!!」
その台詞が響くと同時にジンは白虎を抜刀した。その太刀筋は二人の門番の首を正確に捉える。
そして声も無く、その門番は地に倒れた。
「なっ・・・・・・・貴様!!」
「安心しな、みね打ちだよ。そして・・・・・・きみもね。」
その言葉が終わると同時に、最後の門番が崩れ落ちた。
「・・・・・・・・あ・・・・・あ・・・・・」
その光景を見て呆然と立ち尽くすエイジ。
「人を傷つけたくないって気持ちはとても大切だよ。その気持ちを持っている君はとても凄いと思う。
だけどね・・・・・・・人には覚悟しなきゃいけない時だってあるんだ。君も、そのうち解るよ。
さて・・・・・・行こうか。」
そう言って走り出すジンに、エイジは少し呆然とするも
口を真一文字に結んで顔を上げジンに続いて走り出した。
・・・・・・・・ジンは『頼み込み』という表現を使った。
しかしやっていることは先ほどジン自身が言っていた『殴りこみ』と同じである。
飛び交う銃弾をあるいは弾き、あるいは交わし、
次々に襲ってくる連中をジンはエイジを守りつつ、どんどん気絶させていった。
そして一つの扉の前に立つ。
「・・・・・・・・・・ここ?」
ジンの問いかけにエイジはこくんと頷いた。
「それでは・・・・・・・・ていっ!」
バゴッ!
再び扉を蹴り飛ばすジン。
中にはいたのはその様子を呆然と見ていた数人の護衛と、
机の上で静かに腕を組んでいる髭メガネの中年であった。
「(・・・・・おいおい、ここまで同じだと何か運命的なものを感じるぞ・・・・・・・)」
なぜかそんな事を考えながら思いっきり顔を引きつらせるジン。
「何だ貴様は!!外の連中はどうした!!」
護衛の一人がジンに銃を向ける。
「・・・・・・ん?ああ、外の連中?駄目だよ?もうちょっとしっかり休みを上げないと。
皆さん最近寝てないんだってさ。全員お昼寝してたよ。」
「・・・・・・・鬼だ、あんた・・・・・・」
エイジはジンの答えに顔を引きつらせる。
「エイジ!貴様なに馴れ合っている!!とっととそいつを殺せ!!」
少し後ずさりながら護衛の一人が声を上げる。
虚勢を張っていてもやはり声は震えていた。
「俺は・・・・・・もうあんたらの言いなりにはなんねえ。スリだってもうたくさんだ!」
エイジはそう言って机に腕を組んで座る髭メガネを睨み付けた。
「・・・・・・ふん、道具が何を言っている。
歯向かったらどうなるか解っているんだろう?エイジ・・・・早くそいつを殺せ。」
威圧感たっぷりに机に座っている中年・・・・・エイジの父親が口を開く。
「俺は道具じゃない!!どうなっても何をされようとも俺はあんたの指図は受けない!!」
そんな重圧にも、エイジは震えずに叫んだ。
「・・・・・・・・・父親の命令が聞けないのか?」
「お前なんか・・・・・父さんじゃない!!俺の父さんは5年前にサードインパクトでいなくなったんだ!!
お前なんか父さんじゃない!!」
エイジの叫びが部屋に木霊する。
肩で荒い息をしながら、エイジはキッと己が父親を見据えた。
「・・・・・・・そうか。ならばお前は用済みだ。役に立たぬ道具は必要ない。・・・・・殺せ。」
その合図とともに護衛たちの銃口がエイジに一斉に向けられる・・・・・・が、
その銃声は響くことなく、その所有者は静かに地に倒れた。
「・・・・・僕の事、忘れられるのは困るんだよね。」
そう言ってジンはいつのまにか抜身になっていた白虎を鞘に収めた。
パチンという高い音がなって白虎が完全に鞘の中へその刃を隠す。
「・・・・・なんだと!?」
目を見開いて呆然とするエイジの父親。
「・・・・・・・さて、残るは貴方だけですよ?さっきNERVを呼んでおいたので、
おとなしくとっ捕まって留置所でまずい飯でも食べててください。
・・・・・・・・ほら、噂をすれば影、NERVの車が来ましたよ?」
そう言って窓から外を見るジン。
その視線の先には5台ほどの黒塗りの車が止まっていた。
「・・・・・・・・さっきって、何時の間に?」
「企業秘密さ。」
のんきな会話をしているエイジとジンの前では、真っ白に燃え尽きているエイジの父親がいた。
「我が子を道具にしようとした罰ですよ。
いくら奥さんが帰ってこないことにショックを受けたからと言って、何やっても良いという事ではない。
己が罪をよく悔い改めることです。」
ジンはそう言って踵を返した。
そのとたんに扉からNERVの制服を着た女性とその部下であろう人間が入ってくる。
「NERVです、全員大人しくして下さい。武藤(むとう)玄道(ゲンドウ)、あなたを逮捕します!!」
そう言って凛々しく手帳を見せる女NERV職員さん。
「やあ、遅かったですね、マヤさん。」
ジンは突然その女性に片手を上げて挨拶した。
「・・・えっ?・・・・・・あ、ああ!!?」
突然ジンのほうを向いて驚愕の声を上げる女職員・・・・・マヤ。
「貴方・・・いなくなったと思ったらこんな所にいたなんて!?」
「積もる話はまた後で。今は仕事・・・・・でしょ?」
そう言ってジンは真っ白に燃え尽きている中年を親指で指し示す。
「・・・・・・・・知り合いか?」
「まあね。・・・・・・・しかし父親の名前がゲンドウとは・・・・・・偶然とは恐ろしい・・・・・・」
マヤがテキパキとゲンドウに手錠をかけて連行している中、ジンはこめかみを抑えて溜息をついた。
「あんたの父親もゲンドウって言うのか?」
「ああ、もう死んじゃったけどね。性格も態度もちょうどあんな感じだったよ。」
「・・・・・・・・・ほんとに偶然とは恐ろしいな。」
「もしかして神の試練の際に僕の父親の性格が入り込んじゃったのかな?・・・・・なんちゃって。」
「・・・・・・・・・いや、父さんはもともとああだったから。」
「・・・・・・・大変なんだねえ、君も。」
「・・・・・・・あんたもな。」
「「・・・・・・・・・はあ・・・・・・・・・」」
二人は大きな溜息をついた。
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・
「・・・・・・・・・まったく。皆心配してたのよ?
4年前に『旅に出ます、探さないで下さい。』なんて手紙を置いて消えちゃって・・・・・・
アスカをなだめるのにどれだけの時間を費やしたと思ってるのよ。
先輩がいないからMAGIだってそんなに使えないし、
サードインパクトでカメラとかおじゃんになっちゃうし・・・・・
作動してたらすぐに見つけ出してたのに。」
事件処理が終わって一息つき、ジンとエイジとマヤはさっきまでゲンドウがいた部屋で駄弁っていた。
「だって、旅に出るっ話したら絶対に許してくれないでしょう?」
「あたりまえよ!自分の立場解ってる?
全て終わった後とは言え、貴方は暗殺されてもおかしくない位置にいるのよ?」
「あ、あの・・・・・・・」
二人の会話をさえぎって、エイジがおずおずと手を上げた。
「何?えっと・・・・・・エイジ君、だった?」
「あ、ああ。さっき出たアスカって・・・・・
もしかしてNERVのセカンド・チルドレン、惣流・アスカ・ラングレーの事か?」
サードインパクト後、NERVはほとんどの情報を一般公開したので、
チルドレンのことは当然知れ渡り、憧れの的となっていた。
「ええ、そうよ。NERVが誇るセカンド・チルドレン。
まあEVAは凍結されちゃってるから、今は私と同じ警察みたいなことやってるけど。」
「すげえ!!そんな奴と知り合いなんて!!しかも暗殺されてもおかしくない立場にいるんだろ?
ジンっていったい何者なんだ?」
「・・・・・・・・・ジン?」
エイジの発言にマヤは首をかしげた。
「へ?・・・・・・・・・だから・・・・・・・神楽ジンだよ。」
そう言ってエイジはジンを右手で指し示す。
「い、いけないんだぞ、人を指差しちゃ。」
ジンはそう言って誤魔化すが、二人の視線にガッチリがんじがらめにされていた。
「・・・・・・・どういうこと?ジンって。」
マヤがジンをじっとにらみつけた。
「ワタッシ、ニホンゴ ワッカリッマセ〜ン。」
滝のような汗を流しながら、何故かカタコトで話すジン。
「・・・・・・・・・偽名だったのか?」
「ホワ〜イ?ナンノコトダカ ワタチニハ ゼンゼン ワッカリッマセ〜ン。」
なおもしらばっくれるジンに、マヤは盛大な溜息をついた。
「その人はね。対使徒戦において大活躍したサード・チルドレン碇シンジよ。」
しばしの沈黙。そして・・・・・・・・・
「えええええええええ〜〜!!?」
エイジの声が部屋中に木霊した。
「サード・チルドレン碇シンジっていったら皆知ってる英雄じゃないか!!どうして今まで黙ってたんだよ!」
そう詰め寄りながらどこからかサインペンと色紙を取り出すエイジ。
「う・・・・・・うるさいなあ。そうなるのがめんどくさかったんだよ。・・・・・・・・・サイン書かないぞ。」
耳を抑えて溜息をつくジン・・・・・・・・シンジ。
ジンはシンジの言葉を聞いて、軽くし舌打ちしながら色紙とサインペンを下げた。
「まったく、変わったわね、シンジ君。なんて言うか・・・・・・明るく、たくましくなった。」
マヤはそう言って懐かしそうな目つきでシンジを見る。
「人間は変わるものですよ。人生を大きく変えるような事があったら特に・・・・・・ね。」
「・・・・・・・そうね、そうかもしれない。」
マヤはそう言って何気なく窓の外を見る。
辺りはすっかり暗くなり、血に濡れた月と星が空に輝いていた。
「天下の英雄、碇シンジ・・・・・か。使徒だって、立派な生き物だった。
英雄って言うのは、それをどれだけ殺したかでつけられる称号。僕はそんな称号欲しくは無かった。
あの町に留まっていたら、何時までも英雄という殺しの称号が付きまとう。そして自由も奪われる。
だから僕は旅に出たんですよ。おかげで自分の可能性も見つけられたし、
生きることも楽しいと思えるようになりました。僕はNERVには戻りません。このまま旅を続けますよ。」
「・・・・・・・皆、待ってるのよ?貴方が帰るのを。」
「今生の別れと言う訳じゃない。縁があったらマヤさんみたいに会える日だってあるでしょう。
僕は神楽ジンとして生きます。」
その言葉にマヤは深い溜息をついた。
「・・・・・・説得は出来そうに無いわね。良いわ、皆には今日会ったことは黙ってておく。
今まで自由を奪っていたのは私たちだったから・・・・・・そのお返し。」
マヤはそう言って微笑んだ。
「・・・・・・・なあ、シンジ・・・・・・いやジン。」
エイジがゆっくり口を開く。
「・・・・・・・ん?」
「・・・・・・・・・ごめんな、英雄だなんて言っちまって。」
「ふふっ、別に良いよ。」
エイジの言葉に、シンジは笑顔で答えた。
「・・・・・・・そうそうすっかり忘れてた。エイジ君の処置はどうなるんですか?」
命令されていたとは言え、エイジは窃盗を働いた者である。
その言葉を聞いて、エイジの肩がビクッと跳ね上がった。
「数え切れないほどの窃盗を働いているものねえ・・・・・・・・・半年間の少年院行き。」
「・・・・・・・そうか・・・・・・」
すでに諦めたように声を出すエイジ。そんなエイジの姿を見て、マヤは優しく微笑んだ。
「・・・・・・・・・・が普通なんだけど、今回は特例ね。無理やり命令されていたんですもの。
武藤玄道氏に虐待罪を上乗せして君は無罪方面よ。」
いたずらっぽく笑うマヤの顔に、エイジの表情は明るくなった。
「しかし、今回の一件でこの組は結果的に消滅したことになる。結果的に君は一人になった訳だ。
・・・・・・・・これからどうするつもり?」
その問いにエイジは少し微笑みながら口を開く。
「・・・・・・・旅に出るつもりだよ。思いっきり羽を伸ばして、自由に生きたいんだ。」
「・・・・・・・そっか・・・・・・・・よかったら、いっしょについて来る?」
シンジ・・・・・・いや、ジンの言葉にエイジは目を見開いた。
「・・・・いいのか?」
「ああ、旅は道ずれ世は情けってね。一人で旅をするより二人のほうが楽しそうだからね。」
「・・・・・・・ありがとう、これからよろしくな。」
「こちらこそ。」
二人はそう言って握手を交わした。
「・・・・・・・・・さて、そうと決まれば膳は急げ。荷物が整い次第出発しよう!
マヤさんもそろそろ戻らないとやばいんじゃないですか?」
「えっ?」
シンジの問いかけに腕時計をみるマヤ。
「ああ!!?もうこんな時間!!早く戻って報告書かないと始末書まで書かされるっ!!」
マヤはそう言って急いで立ち上がる。
「それじゃあここらでおいとまするから。シンジ君・・・・・・・・いや、ジン君ね。
縁があったら、また会いましょう。それじゃあね。」
そう言い残し、マヤはいそいそと扉から出て行った。
「・・・・・・・なんか、おっちょこちょいって表現がよく会う人だなあ・・・・・・・・」
マヤの出て行った扉を見つめ、思わずつぶやくエイジ。
「ふふっ、僕らも支度をしたらすぐに出るよ。とっとと準備を済ませてしまおう。」
「そんなに急ぐ旅か?」
エイジの問いかけにジンは明るく笑顔を作った。
「ああ、どうせ旅するならいろんな所を回りたいじゃないか。人生一つじゃとても足りないだろう?」
「・・・・・・・はは、そうだな。それじゃあ急いで旅支度をしなきゃ。」
そう言って扉を駆け足で出て行くエイジ。
ジンもそれに続き、駆け足でその部屋を後にした。
全てを白紙にして、新たな人生を旅をして歩む。
英雄と言われていたシンジは神楽ジンとして。
道具として扱われていたエイジは鎖より解き放たれた人間として。
旅人はその一歩を踏み出した。
幾多の時を歩み、二人はその先に何を見るのか?
用意された道ではなく、その導より解き放たれて、己が道無き道を歩む。
人の生は長く生きることが目的にあらず。己が生を全う(まっとう)すれば短くとも悔いは無し。
たとえ、その先に待つものが吉であろうと凶であろうと、この二人の旅人は満足するに違いない。
なぜならそれが自分で見つけた人生なのだから。
―――ひとまず今は・・・・・・二人の白き旅人に祝福のあらんことを!
初めまして、アンギルです。
とりあえず家のHPで書いた読み切りを投稿してみました。
復帰おめでとう記念って所でしょうか?
これは始めて書いた読みきりです。
うまく出来ているかは不安ですが・・・・・・・・・
題名の「白き旅人」には、「今までの人生を消して、真っ白になった状態から新たな道を歩む者」
という意味合いを持たせてあります。
こんな小説でも感想送って頂けるとうれしいです。
以上、アンギルでした。