僕とは違う存在。
でも、僕と同じ孤独な存在。
天使の名前を関する存在。
何かを求めて進む存在。
・・・・・・・感じる。
離れていても、感じる事ができる。
その強い存在感。孤独なココロ。
最後に『会話』した時の君の瞳。
その思いは声となって、しっかり僕の体に届いてた。
『自分達は相容れない。・・・・・・生きろ。』
・・・・・・なんでさ?
何で君は身を投げ出してまで僕を護ったのさ?
何で君は僕たちが相容れないなんて決めてるのさ?
何で君は人類の敵なんて決められてて、何で君はこの町へやって来たのさ?
あまりに『何で』が多くて、僕の頭はパンクしそうだ。
こんなに自分以外の何かに関心を持った事も初めてだ。
この町に来た途端、僕の思考回路はショートしかけて一体何がどうなってるかすらも解らない。
でも、これだけは解る。
君は僕に『生きろ』といってくれて、自分は死のうとしている事。
そして、僕の手に掛かってその死を迎えるのを望んでいると言う事。
そんな君は僕と同じ孤独のココロを持っていて、唯一僕の気持ちを解ってくれる存在。
そして・・・・・・・・僕の、友達。
初めて出来た、初めて信用しようと思った、僕の友達。
ねえ、本当に僕達は相容れる事が出来ないの?
僕はそんな事信じないよ。絶対に、信じる事なんて出来ないよ。
だから僕は君を説得して見せる。
共に生きようよ。これ以上、僕を1人にしないでよ。
・・・・・寂しいんだ。
孤独に慣れてしまったけれど、本当は寂しいんだ。
僕の気持ちを解ってくれる友達が欲しいんだ。
だから、たとえ相容れる事が出来なくても、僕はきっと君と解り合えて見せるよ。
たとえそれで人類全部滅びる事になっても、絶対に説得する。
それが初めて自分で考えて、決めた事だから。
イービル アイズ 第四章 ただ、それだけの簡単な事 |
エントリープラグのシートに、その身を深く静めるシンジ。
先ほどから感じていた『特異な感覚』。
まるで自分の中の奥深くに押し込められた何かが、ズルズルと這い出てくるような感覚。
シンジはその感覚に戸惑っていた。
(なんだろう・・・・・・この感覚。記憶・・・・・? これは、思い出せない記憶なのか?)
歯に何かが挟まったような感覚に、シンジは顔を歪めた。
『冷却終了。ケイジ内、全てドッキング位置。
初号機パイロット、エントリープラグ内に着きました。
初号機、起動シーケンスをスタートします。』
何処からか聞こえるオペレーターの報告。
それと同時に自分の座っているエントリープラグ内のモニターの文字が目まぐるしく変わっていく。
かすかに伝わる振動が、初号機起動シーケンスとやらの様子を教えてくれた。
(・・・・・・・・初号機パイロット・・・・・・・・ね。)
初号機パイロット。
所詮、自分は道具としか扱われていないのだ。
そんな考えを否応無しに引き出してくれる素晴らしい言葉。
自分は何の為に生まれ、生きて、今ここに来たのだろう?
・・・・・・・少なくとも、自分の中に道具として生きる『人生を諦めた自分』が存在している事は確かだ。
そして、その奥底に『何かを期待している自分』がいると言う事実にも気付いている。
ああ、そうだ。
あのネチネチとしたぬるま湯のような地獄に飽き飽きとしたんだっけ。
ここにくる事によって、少しは何かが変わるかなと思ってたんだっけ。
実際、変わった。
友達が、出来た。
人類の敵と呼ばれる友達が出来た。
僕はそれを救う為に今これに乗っているんだ。
・・・・・・・・・・人類?
そんな物は関係ない。
僕は何時だって孤独だった。
そして、彼も孤独だった。
そんな二人が互いの手を握る為に顔を合わせる。
これから起こる事は、『ただそれだけの事』なのだ。
何を案じる事があろうか?
―――『ただそれだけの事』なのだ。
何を案じる事があると言うのだ?
―――『ただそれだけの事』なのだ。
それなのに・・・・・・それなのに・・・・・・・・
一体この言い様の無い胸騒ぎは何なのだろう?
『プラグ固定終了。エントリープラグ注水開始。』
思考の海に沈んでいた時、ひときわ大きく聞こえたその声によって、シンジは現実に引き戻された。
同時に、足元からむせるような血の匂いがする液体が這い上がって来る。
(・・・・・・この機体が使ってた液体か?)
すると、その液体がこの中に漏れて来たのだろうか?
とにかく不快だ。
このむせるような血の匂いや生理的に受け付けない液体の色が不快だ。
「・・・・・・・僕を殺す気ですか? 別に構いはしませんが、こんな水漏れで溺れ死ぬのは勘弁願いたいですね。」
思わず手で口と鼻を塞ぐ。
しかし、何処にマイクがあるのかは解らないが、通信機から何か機嫌の悪そうな声が聞こえた。
『シンジ君。それは水漏れじゃないわ。
それはLCLといって、パイロットとEVAのシンクロを助け、さらに衝撃を吸収してくれる液体なの。
酸素も供給してくれるから、心配しないで肺に取り込みなさい。』
冗談じゃない!!
こんな液体をがぶ飲みしろと言うのか!?
しかも暑さの為に汗が染み付いた制服を着たまんま、
この血の匂いと気持ち悪い色のついた液体に頭まで漬かれと!?
余談だが、シンジは綺麗好きだった。
潔癖症と言えなくも無いほど汚れを嫌って、汚れに触れるのを嫌悪した。
人の悪ばかりを見ていた反動なのかもしれないが。
それに加えて、シンジは液体が嫌いだった。
海、プール、液体が大量に溜まる場所を非常に嫌悪していた。
もちろん、カナヅチだ。泳ぐ自分を想像しただけで悪寒が走る。
そちらの方の原因は掴めないが、とにかく嫌いだった。
当然、シートに体を固定されているので暴れる事も出来ない。
はたから見て表情が無いのはあまりにもショッキングな事について表現の術を知らない為だ。
心の中は沸騰している水のような激しさで大パニックに陥っている。
既に喉元まで迫るLCLを見つめながら、
ああ、ここで気絶できたらどんなに幸せだろう・・・・・・・とシンジは思った。
「うぷっ・・・・ごほっ・・・・うぐっ・・・・あぐっ・・・・!」
もはや涙目になって、顔を真っ青にしながらその液体を拒絶する。
しかし、それはかなう事は無くLCLは器官へと入り込み、肺へ流れて行った。
「げほっ、げほっ、げほっ・・・・・・・・ウプッ・・・・・・・・・」
・・・・・・・・ヤバイ。油断したら吐く!
胃の中全部吐き散らす!
ちくしょう、何て事だ!
いくら地獄の業火を待ち望んでても、こんな血の池地獄を耐えなければならないなんて!!
友達を説得するだけだってのに、こんな気持ちの悪い試練を受けなきゃならないなんて!!
いっそ殺せ、殺してくれ!!
なんとか自分の体液をLCLに溶け込ませまいと努力してみるが、
既に凄い量の鼻水と涙がLCLへと舞っていた。
目の表情はサングラスに隠れて見えない為、
そんな事は発令所にして見れば全然知る由も無かったが。
「・・・・・・・・気持ち悪い・・・・・・・・」
シンジの心をこれほどうまく代弁する言葉が他にあるだろうか?
『我慢しなさい! 男の子でしょう!!?』
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
そんなミサトに対し、いっぺんこの中に突き落としたいと心から願うシンジだった。
『主電源接続。全回路動力伝達。シンクロ・スタートします。』
―――ドクン―――
「・・・・・・・・・・え?」
突然、心臓が跳ねた。
頭の中に、何かが入り込んでくる・・・・・・・・・!?
―――ドクン―――
「碇君、今日は大切な実験の日だぞ? 何故ここに子供がいる?」
「あ、冬月先生、私が連れてきたんです。」
「君が? ・・・・・・・しかし・・・・・・・・」
「良いんです。この子には、明るい未来を見せてあげたいから。」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
―――ドクン―――
何だよ? この記憶は・・・・・!?
僕の、記憶なのか?
一体何なんだよ!
僕の目の前にあるもの・・・・・・・・・これはまるで・・・・・・・・・
そう、これはまるで・・・・・・・・・今僕が乗っている・・・・・・・・・・
―――ドクン―――
「シンクロ率、止まりません!!」
「いかん!! 実験中止、回路切断!!」
「ダメです、信号拒否! 受け付けません!!」
「シンクロ率・・・・・・・250・・・・・・・・300・・・・・・・・350・・・・・・・」
「400%突破!! 博士の自我境界線が・・・・・・・!!?」
「ユイ、ユイーーーーーーーーーー!!!!!」
―――ドクン―――
何だよこれ!!
何だよこれ!?
これって・・・・・・・・・母さん!!?
―――ドクン―――
誰かが僕の頭を覗いている。
誰かが僕の精神を見詰めている。
暖かい何かが僕の中に入ろうとしている。
ヤメロ・・・・・・不快だ!!
僕は『アンタ』を知っている!
心の中に入ってくる『アンタ』を知っている!
両手を広げて包み込もうとして来る『アンタ』の事を知っている!!
ヤメロ!! 迷惑なんだよ!! 不快なんだ!!
何を今更、平和面下げてノコノコと!!
『アンタ』のせいで、父さんは変わったんだ!!
『アンタ』がいなくなって、父さんは僕を捨てたんだ!!
何が明るい未来だよ!!
わかるんだぞ!!
僕の瞳は『アンタ』の心を知ってるんだぞ!!
自分が消える事を知っていたくせに・・・・・・・・
手を出した物がどれだけ非人道で禁忌か知っていたくせに・・・・・・・・!!
―――ドクン―――
―――キエロ!! 僕はアンタを拒絶する!!―――
―――ドクン―――!!
「・・・・・・・・・収まった・・・・・・・・・・・のか?」
流れ込んでくるイメージを拒絶し、跳ねる心臓がピタリとやんだ。
何時の間にか汗をかいていたが、
LCLを体内に入れていると言う事実はもはや記憶の彼方へと追い払われている。
残ったのは、自分の奥底に封じられていた禁断の記憶を開けたと言う事実だけ。
・・・・・・・・・・・・完璧に、思い出した。
あの時・・・・・・・・・僕はこの機体を見てたんだ・・・・・・・・・・
まだサングラスをしていなかった魔眼の瞳で・・・・・・・・・
してやったりと言うような表情をしながら消え行く『あいつ』の姿を・・・・・・・・
『・・・・・・・・ジ君・・・・・・・・ンジ君・・・・・・・・・シンジ君!!』
「・・・・・・・・!? は、はい。どうかしましたか?」
回りの音が解らないほど不覚集中していた。
故に、シンジはミサトの声の存在をたった今気付いたのだ。
慌てて何処にあるかいまだ解らない通信機に向けて声を返すが、ミサトの言葉は意味不明の物だった。
『シンジ君、ボーっとしてないで集中して頂戴。このままじゃ、初号機が動かないわ。』
「・・・・・・・・・・・・? あの・・・・・・・集中してましたよ?
これでも集中力には自信がありまして・・・・・・・・・それこそ回りの音が聞こえなくなるほどに。」
『それじゃあ、何でシンクロ率が0のままなのよ!?』
「・・・・・・・・シンクロ、率?」
ああ、なるほど。
シンジは即座にこのEVAの機構に見当をつけた。
つまり、この人造人間EVANGELION初号機とやらは、体の神経などを繋いでシンクロし、動かす物なのだ。
そう考えて、何で今まで気付かなかったのかと自分が滑稽に思う。
さっきから何度もシンクロという単語が使われている上に、
自分の座るエントリープラグのシートには、二つのレバーしか存在していないのだ。
まして、何の訓練も受けていない一中学生に動かせるような代物なのだ。
考えれば動くような物でないと元も子もない。
ならば、何故土壇場で僕を呼んだ父さんが僕なら動かせると決め付けてこの中に放り込んだのか。
シンクロ率0%だと、EVAは動く事が出来ないらしい。
父さんは自身マンマンで僕をここに放り込んだなら、必ず動くという事を知っていた筈だ。
しかし、結果は動かなかった。
この矛盾は一体何処から来る?
父さんが知っているEVAが動く根拠が根本から違う?
・・・・・・・・否。考えずとも解ってる。
僕が『アイツ』を心の底から拒否したからだ。
人の心に土足で入り込む気持ちの悪い『アイツ』の事を拒否したからだ。
・・・・・・・・・でも困ったな。
このままじゃあ、『彼』を説得出来ないじゃないか。
今更『アイツ』を受け入れろ何て、どだい無理な話だ。
ただでさえ、この気味悪いLCLの中にいるためにイライラしているって言うのに。
・・・・・・・・・待てよ?
何故EVAで無いと『彼』が倒せない?
何故、EVAならば『彼』を倒す事が出来るのだ?
「・・・・・・・・・少し、待ってください。もう一度、集中し直してみます。」
『お願いするわ。・・・・・・・・皆、シンクロ再スタート!!』
もし、EVAが『彼』のクローンだったら?
もし、EVAを操る為に人の心を中に入れなければならないんだとしたら?
もし、記憶の中にあった『自我境界線』の事がEVAとパイロットの自我の境界の事だとしたら?
ある筈だ・・・・・・・・『彼』とはまた違う、『彼』のような存在である初号機の心が!!
そうだったら、きっと初号機も孤独を知っているに違いない。
僕と同じ、異なる存在に違いない。
友達に・・・・・・・・友達に、なれるかも知れない!!
根拠は無かった。
しかし、直感的にそれを理解していた。
始まるシンクロ。
再びよってくるアイツをアカンベー付きで蹴落とした後に、
更なる初号機の深みへと、精神をどんどん潜らせていく。
何の事は無い。人の瞳から心を覗くのと同じ容量だ。
視線を合わせた相手の心の色へ自分の精神を近づけていく感じ。
自分の精神を相手と同調させていく感じ。
深く、深くと潜れば、相手の心や記憶、感情を深く知る事ができる。
今やっているこの行為がシンクロなら、
きっと僕が魔眼を使うときも相手とのシンクロなんだろう。
そんな事を考えながら・・・・・・・・・深遠なる闇へ向かって深く、深く・・・・・・・・
すると、孤独感や虚無があたりを漂い始めた。
僕にとっては、この孤独や虚無が心地よい。
初号機が自分と同じ存在だという事を教えてくれるから。
そして、その孤独や虚無が最も濃い黒き光の中に・・・・・・・・・『彼』はいた。
―――ドクン―――
再び、心臓が跳ねる。
しかし、これは先ほどの嫌悪からじゃなかった。
自分と同じ存在に接触できる・・・・・・・・喜び。
―――ドクン―――
ねえ、君も感じているかい? この喜びを。
長く引き裂かれていた友と出会ったような、この甘美な誘いにも似た大いなる喜びを。
この感情が解らない?
でも、不快じゃない?
じゃあ、きっと僕と同じ。
嬉しいんだよ。
何に対してか解らない?
僕は君に出会えたことが嬉しいよ。
僕は君と話せる事が嬉しいよ。
僕は君とこうしていられる事が嬉しいよ。
君も、僕と同じ気持ちだともっと嬉しいかな。
外にいる存在?
うん、君も感じるんだ。
僕たちと、同じ存在なんだ。
僕を、友達って言ってくれたんだ。
だから、『彼』は僕の友達だよ。
だけどね。
彼は僕の事を相容れない存在だって言うんだ。
それなのに、僕に対して生きろって言うんだ。
僕の手に掛かって、その命を閉じる事を望んでいるんだ。
殺しはしないよ。
相容れるために、説得するんだ。
たとえ皆が認めなくたって構わない。必ず説得して、今度は友達から親友になるんだ。
ねえ、力を貸して欲しい。
『彼』を助ける為に、力を貸して欲しい。
そして叶うなら・・・・・・・・
―――ボクノ、トモダチニナッテヨ―――
―――ドクン―――!!
『シンクロ率・・・・・・・・100%!!?』
通信から声が聞こえる。
シンクロ率100%・・・・・・・・
きっと、僕にとって・・・・・・・・いや、僕たちにとって、その数字は不思議な事でも何でもない。
僕は彼と友達になりたかった。
彼は、そんな僕と友達になってくれた。
―――そう、『ただそれだけの事』なのだ。
「・・・・・・・・こっちは準備OKです。初号機は、動くんですか?」
・・・・・・・そう言えば、君の名前『初号機さん』で良いのかい?
『彼』にしてもそうだけど、呼び方決めてないと色々不便だよね?
・・・・・・・・・え? そうでもない? 別にどう呼んでくれたって構わないの?
・・・・・あ、そうか。『呼ぶべき名前』が無いんだね。
それじゃあさ。僕が君の名前、つけていいかい?
創世記って言う聖書でね。
第二の人類の祖となったアダムとエバの子供がいるんだ。
その長子の名前が・・・・・・・『カイン』
ね? 君にピッタリだと思わない?
・・・・・・ありがとう。
気に入ってくれたんだね。
・・・・・・・・え? 『彼』の名前?
うーん・・・・・・・やっぱり『アベル』になるのかなぁ?
まあ、その時に考えよう。
今はどうやって説得しようか考えようよ。
『・・・・・・・・・・ちっ・・・・・・・・・・・こうしてても仕方ないわ。動くなら、動くで良いでしょう?
EVANGELION、発進準備スタート!!』
・・・・・・・・・ほら、いよいよ逢えるよ。『彼』にね。
大丈夫。きっとうまく行くさ。
説得するってだけだよ。
そう。『それだけの事』なんだから。
―――さあ、行こう、カイン。
果てしない大空の下で待っている、僕たちの親友に逢いに行こう!!
『彼』もきっと待っててくれる。
僕たちが行くのを、きっと待っていてくれてると思うから。
何か、今回シンジの描写が多くなってるような気がします。
いや、その通りなんですけど。
さて、使徒との説得シーンだと思ったら、先に初号機とお友達になっちゃいましたね。
小説書いてると、先がどうなるか解らないから不思議です。
・・・・・・何? ただ振り回されているだけ?
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
アナタキライデス(爆)
さて、今度こそ次は説得シーンになる事でしょう。
感想メールを送ってくださると、執筆ペースが割合速くなります(笑)
それでは、感想待ってますのでよろしくです。
以上、アンギルでした。