『超能力』と言う物がある。

 

離れた所にある物体を移動させることをサイコキネシスと言い、

人の考えを読み取ったり、会話したりする力をテレパシーと言う。

さらに一瞬にして別のところへ移動する力をテレポーテーションと言い、

物に残った意念を読み取る力をサイコメトリーと言う。

 

この他にもさまざまな超能力がある事はすでに周知の事実となっている。

貴方も、ただ今示した4つは全て知っているのではないだろうか?

しかし、世の中に出ているこの『超能力』の大半は、イカサマやペテンと言った物が多い。

テレビでやっている超能力者だとか言うのも、そのほとんどがイカサマ師であろう。

人々はそのような人たちのことを『手品師(マジシャン)』と呼ぶ。

 

しかし、『超能力』は確かに存在しているのだ。

かつてはこの力を持つために魔女と言われて殺されたり、忌み嫌われたりした時代があった。

多くの人々が持っている力だと言う事にも関わらず、その力に気付いていない故の結果である。

人は自分と違うものを忌み嫌う。

もし・・・・・・もし、貴方にもそんな力があったなら・・・・・・・

その力を持っていたゆえに忌み嫌われ、その力ゆえに人の心がわかってしまったら・・・・・・

 

 

―――果たして―――

 

 

 

―――貴方は人間の闇を見て正常でいられるだろうか?―――

 


イービル  アイズ
Evil Eyes

第壱章 魔眼を持つ少年


 

子供は残酷ではない。

ただ、思った事を外に吐き出すだけである。

大人は寛大ではない。

ただ、自己の意見を他人に押し付けあうだけである。

子供も、大人も、無知か博識かと言うだけであり、人間的な本質は何も変わらない。

人間の本質とはすなわち・・・・・異なる物を忌み嫌う事。

子供も、大人も人間的な本質は何も変わらない。

ただ、それに対する表面上の態度が違うだけである。

 

 

 

―――ソノ少年ニ 近付イテハ ナラナイ―――

 

それはその少年を知る者の常識だった。

故に、その少年は常時何時も孤独だった。

部屋を隔離され、顔を合わせる度に避けられ、その少年はずっと孤独だった。

その理由は少年の瞳。

人とは違う異形な瞳。

人には無い力を持つ瞳。

『魔眼』

それを知る者は皆そう呼んだ。

『悪魔の子』

その少年を知る者は皆そう呼んだ。

そして今日も少年は、隔離された勉強部屋という名の牢獄で、

孤独という名の極寒に膝を抱えて震えていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

続くのはただ沈黙のみ。

何も考えず、何も見ず、何も聞かず、何もしない。

心の壁を張り巡らし、他人を徹底的に拒絶する。

それが少年の処世術だった。

もはや自分の力に対する愚痴も出ない。

言っても無駄な事は泣きたいほどに理解しているのだから。

しかし、サングラスをかけている事から、心のどこかに淡い期待が存在する事が読み取れる。

もしかしたらこの眼の事を知らなければ、人は僕を拒絶しないんじゃないだろうか?

少年はその考えがばかばかしいという事を理解していながら、そう考えずにいられなかった。

人は1人では生きては行けない。多かれ少なかれ、人は互いに支えあっているのだから。

しかし・・・・・・よく学校の教師が説くこの説法も、この少年に関してはまったくの例外のようだ。

 

コンコン

 

ドアを叩く乾いた音。

少年はその音に反応するも、やはり体勢は崩さず無言でそちらを見た。

入って来ない事は解ってる。

何時も用件だけ言って立ち去るのだ。

食事も、ドアの前に置くだけ。

そんな生活が常識となっているゆえ、少年は人の姿を何ヶ月も見ていなかった。

学校も登校拒否している。

 

「・・・・・・・・シンジ君、貴方に手紙よ。ここ、置いておくからね。」

 

ドアを叩いた主は早口でそう言うと、足早にその場を去って行った。

何時もの光景だが、今回は少しばかり勝手が違う。

 

―――自分に手紙が来ている―――

 

シンジと呼ばれた少年は、その手紙の存在に疑問を持ちながらドアに近付いた。

付近には誰もいない事を音で確認する。

姿を見せたら見せたで面倒な事になる。それだけの理由からだ。

それに、自分とて明らかに嫌悪の表情をされればいやな気分になる。

耳を扉に押し付けてみる。聞こえるのはセミの鳴き声のみだ。

この部屋に近付くものさえ、滅多にいない。

 

ドアを開けると、足元に白いごく普通の封筒がポンと置いてあった。

 

「・・・・・・・・・・・・?」

 

シンジは軽く首を傾げてその封筒を拾い上げる。

差出人の欄には『碇ゲンドウ』の名前があった。

『碇ゲンドウ』・・・・・・・シンジの父親だった。

 

「・・・・・・・・・!!!」

 

シンジはすぐさまドアを閉めて鍵をかけ、椅子に腰掛けペーパーナイフを探る。

机の一番上の引出しにそれはあった。

使用していないためにほこりをかぶっているそれを軽く拭いて、封筒の口にあてがいそっと引く。

ベリベリという音を立てながら、封筒はその口を開いた。

『一緒に暮らさないか?』

シンジはその類の内容を期待した。

 

この生活から・・・・・・逃れられるかもしれない。

そしてその封筒に入っていた手紙は、シンジの期待を別の意味でかなえる物だった。

 

『来い ゲンドウ』

 

メモ帳のようなものに書かれたそれは、簡潔と言えば簡潔だった。

しかし、その簡潔さが逆に自分と暮らそうという類の物ではない事が読み取れる。

 

解っていたのに・・・・・・一体何を期待していたんだろう・・・・

 

少年は自虐的に苦笑する。

その封筒には、手紙のほかにNERVと書かれた何かのカードと簡潔な地図、

『私が迎えに行くから待っててね♪』

と裏にかかれた悩殺的なポーズをとっている女性の写真が入っていた。

胸には矢印が引いてあり、『胸の谷間に注意!』と書かれている。

写真右下にはキスマークもついていた。

 

・・・・・・・・何だろう?この変な人は・・・・・・・・・

 

シンジはその写真の女性の瞳をじっと見詰めた。

目は口ほどに物を言う。

目を見ればどう言う人なのか、どんな事を考えているのか、シンジには色を見るように『観る』事が出来るのだ。

 

・・・・・・・・『拘り』『寂しさ』『親和』『遊び心』・・・・・・・そんな所かな?

 

とりあえず目立って見えた『心の色』を読み取る。

何か、重い過去のような物が見えたが写真だけでは解らない。

本当に『知る』には実際に合わなくてはならない。

シンジは、ふとそこまで考えた時に再び苦笑する。

 

・・・・・知ってどうする? どうせ僕の瞳を見れば皆忌み嫌う。僕には・・・・・・この人の事なんか関係ない。

 

シンジはその写真を封筒の中に入れ、それをポケットにねじ込んだ。

どっちにしろ、どうするかは決まってる。

シンジはある程度の荷物をバックに詰め込むと、メモ帳を破りシャープペンシルを走らせた。

 

『父さんに呼ばれたので、第3新東京市へ行ってきます。』

 

とりあえず・・・・・・・・久々に人の顔が見れるかな。

シンジはそんなことを考えながら、そのメモをドアに貼り付けた。

どうせ何が起こっても今より悪くなることは無い。

死ぬようなことがあっても別にいい。

とりあえず・・・・・・今の生活が何か少しでも変わるなら。

その先に一体何が待っているのか・・・・・・・シンジは非常に興味が沸いた。

とにかく、何も考えずにすむ生活が欲しい。

僕が化け物のような存在だと言う事を考えないですむ生活が。

それはある種の逃げだったのかも知れない。

しかし・・・・・シンジの心には、その逃げに対する渇望が確かにあった。

そしてシンジは悟るだろう。

その考えがいかに無知な事だったと言う事を。

今より最悪な状況が確かに存在すると言う事を。

逃げに対する渇望が、どれだけ愚かな事だったかと言う事を。

シンジは悟る事となる。

 

 

 

「現在特別非常事態宣言が発令されている為、全ての通常回線は普通となっております・・・・・」

公衆電話から流れる事務的なアナウンスにシンジは溜息をついて受話器を下ろした。

 

・・・・・・・・・まさか都会のど真ん中まで来ても人の姿が見えないとは・・・・・・・・

 

特別非常事態宣言の事も気にかかったが、シンジは人に会えないと言う事自体に運命的な物を感じた。

しかし苦痛には感じない。すでにシンジは孤独を好む性格になっているのだから。

人間の集団欲を放棄するその性格は、シンジはある程度壊れてしまっていると言う証拠に繋がる。

本人も自分で解っているのだが、そっちの方が逆に都合がいいので直そうとはしない。

ただ、そんな自分に苦笑するだけだ。

 

そこは目的地の第三新東京市より手前にある箱根湯元駅だった。

モノレールに乗って目的地までの暇を持て余すために睡眠していたら、

この箱根湯本駅でいきなりモノレールが止まり立ち往生したという訳だ。

さてこれからどうしたものかとシンジはゆっくり腰をおろす。

シェルターへ非難せよとアナウンスは警告しているが、シェルターの場所などシンジは知らなかった。

もしかしたら、戦争でも起こって僕はそれに巻き込まれたんじゃあないか?

その考えは何時も死ぬ場所を考えていたシンジの表情を歪ませる。

 

・・・・・面白いじゃないか。魔眼を持つ悪魔の子供が戦争に巻き込まれて死亡と言うのもなかなか良い。

それじゃあその戦争を腰を据えて見物するとしよう。

 

駅の階段に腰掛けて、シンジは空を仰いだ。

真っ青な空に所々縮れた雲が飛び交っている。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

平和。まったくの平和。

空を飛び交う戦闘機や大地を這う戦車や町を吹っ飛ばすS2やICBM、水爆、原爆は何処だろう?

早く起これ、非常識。

かなり危険な考えが頭をよぎるが、それも自分が壊れていると言う事を確認しただけに過ぎない。

シンジにとってはそんな事より自分を死に追い込む非常識な事態が重要なのだ。

 

ドガアアアアアン!!

 

・・・・・・・来た。

シンジはその音がした方向を見つめる。

そこには空を飛び交うVTOL機のミサイル攻撃を受けてなお、意気揚々と歩く深緑の怪物だった。

 

何だよ・・・・・・・あれ・・・・・・

 

非常識なことは期待していたが、非常識すぎるこの事態にどう反応していいのか解らないシンジ。

まるで映画のワンシーンを見ている気分だろう。

水爆によって深緑の怪物が海の中から目を覚まし、

放射能の炎を撒き散らしながら飛び交う戦闘機を次々と叩き潰す長有名怪獣映画。

 

・・・・・・・・ゴ○ラか。ゴジ○なのか。

 

とりあえずその怪物を○ジラ2号と認識するシンジ。

その怪物は放射能の炎ではなく、腕から伸びる光の槍で戦闘機を貫いていた。

 

そのとき、中央にある仮面のようなものの二つの穴が、シンジの視線とかみ合う。

その怪物は払っていた戦闘機を無視して、シンジのほうをじっと見つめた。

 

・・・・・・・・目かどうかは解らない。

しかし、その仮面にある二つの穴からは、その怪物の感情がしっかりと見て取れた。

「孤独」「自暴」「目的」「拒絶」「悲観」「渇望」

 

・・・・・・・・・・・僕と・・・・・・・・同じ?

 

フラフラと怪物の方へ歩き出すシンジ。怪物もまた、シンジの方へ歩き出す。

そして両者の距離は100M程まで近付いた。

 

「・・・・・・・・・君も・・・・・・・孤独なの? 誰もいなくて・・・・誰にも認められなくて・・・・・・」

 

自然と開くその言葉に、その新緑の怪物の二つの穴が微かに光った。

 

「そっか・・・・・・僕と・・・・・・・同じなんだね・・・・・・? 僕と・・・・・・同じ・・・・・・・拒絶された存在・・・・・・」

 

自分と同じ存在がいる。

それだけで、涙が出てきた。

今まで無かったものを、手に入れたような気がする。

自然と手を差し伸べる。

今まで溜め込んだ思いを・・・・・・・・・僕は目に涙を浮かべて吐き出した。

 

「ねえ・・・・・・・僕と・・・・・・・友達になってよ。」

 

その存在は僕の差し出したその手に手を重ねてくれた。

そこに見える瞳の色は「共感」「歓喜」「感動」

きっと、僕の目もそんな色をしているだろう。

今まで手に入れられなかった物を・・・・・・・・手に入れたような気がした。

今まで見つけられなかった物を・・・・・・・・見つけられたような気がした。

今まであった冷たい物が・・・・・・・・無くなったような気がした。

思わず漏れる涙。

 

「・・・・・・・・・・・!!!!!?」

 

その存在は、突然声無き声を上げる。

そして何かから守るように、シンジの上へと覆い被さった。

そして回りに赤い壁が出現する。

 

「・・・・・・・・・・えっ!?」

 

―――瞬間―――

 

ドガアアアアアアアアンンン!!!!!!

 

まばゆい閃光が辺りを包む。

凄まじい爆発音が響き渡り、視界が真っ白に染まった。

 

そして・・・・・・後に残ったものは・・・・・・・・

 

焼け爛れた皮膚のまま自分を守るように覆い被さり

活動を停止した深緑の存在だった。

 

「ぼ・・・・・くを・・・・・・まもっ・・・・た・・・・・・?

 何で・・・・・・なんでこんなになってまで・・・・・・・何でだよ・・・・・・・答えてよ!!

 

自分に覆い被さるその存在の二つの穴が僅かに光る。

その光の示すものは・・・・・・・

 

―――私ト同ジ存在・・・・・・私ノ初メテノ友達・・・・・・・デモ私タチハ相容レナイ・・・・・・・生キロ―――

 

・・・・・・・・・その意思を示してから、その存在の瞳の光は途切れた。

 


 

〜Evil Eyes〜第壱章 魔眼を持つ少年をお届けします。

とりあえず、魔眼の一つ目の能力は『相手の瞳から感情の色を読み取る』事。

文中にも書きましたが、目は口ほどに物を言うそうです。

人の目を見るだけで、洞察力が優れている人はある程度その人の感情が読み取れます。

人の表情で機嫌、不機嫌、空気がなんとなく読み取れる・・・・・・・・貴方も経験がある事なのではないでしょうか?

シンジの魔眼とは、人間の見るという能力が以上に発達した物なのです。

さて・・・・・貴方がもしこんな能力を持っていて、

否応無しに人間の闇を見せられたら、貴方はどんな性格に育ちますか?

この話は、そんな能力を持った碇シンジと言う少年の心理描写を突き詰めることをコンセプトに企画しました。

もし・・・・・・もしこんな能力を持った人間がEVAの世界の運命に縛られたら・・・・・・・・

この人間は成長するのでしょうか? それとも拒絶するのでしょうか?

文章にまだ未熟さがあるゆえ描写がうまく出来ませんが、

この小説のシンジ君になりきってEVAの世界を駆け回り、

人の生きる意味、そして感情を悟られれば幸いです。

ひどい文章ですが、これからもどうか長い目で見守って頂けることを切に願っております。

それでは、感想お待ちしております。

以上、アンギルでした。